表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第7章 Faceless Soldiers
146/205

16話 格の違い

戦いの描写はヒジョーに難易度が高いですね…。

未だ見ぬ姿を、見せてくれ。



シンプルながら奥の深い言葉を受けて姿を現す、片手剣よりは太く、両手剣よりは細いクリスタルのような一本の剣。柄は彼女の右手に収まっており、それを握る手に力が込められた。

そして彼女の目が座り、魔法を感じないはずのホークやマクミランですら、鳥肌が立つ寒気を覚える。七人に向かって進んでいく彼女の歩みはジャイロが搭載されているかの如くブレておらず、体の芯が一定となっている。それを感じたマクミランとディムースは、思わず感銘の声を漏らした。


本人はややコンプレックスに感じるもホークが「凛々しい」と褒める目つきも、微睡む時に見せる柔らかな視線もそこには無い。眉間には力が入り目は細められ、睨んでいるかのような表情だ。


やがて、とある距離で立ち止まった。構えを見せるわけでも無く剣先は地面へと向けられており、先ほどマクミランが見せた状況の再現とも言える。

その目は誰も捉えておらず、眼前の空間に向けられている。特定の人物だけではなく奇襲も警戒しているようにも見えるのだが、見様によってはアウトオブ眼中のナメプとも取れる状況だ。


状況の受け取り方は、人それぞれ。例を挙げるならば、見えてはいないもののホークは前者で、ニックは後者だ。そして沸点の低い彼が、そんな状況を黙って見過ごせるはずがない。


出されたのは、攻撃命令。彼が従える奴隷の中で1-2を争う剣士の一人が、ハクの右側へと瞬間的に走りこむと右薙ぎの攻撃を行った。

それが、もう一対。更に片方が、無防備となっている逆サイドから、同じ速さの剣撃を叩き込む。


まるでアニメを見ているかのような、ホーク達が知る人間の身体能力を遥かに超えた攻撃だ。これに反応できるのはマクミランぐらいのものであり、ホークの目には敵が瞬間的にワープしたかのように映っている。

音速に近い移動速度と、体重は軽いとはいえ筋力と太刀筋の速度は屈強な男も顔面真っ青の代物だ。ランク詐欺で実はExランクとなる二人の奴隷は、命令により加減無しで、同じくExランクに該当する白い服の女に襲い掛かる。



しかし、現段階で彼女たちは知る由もない。Exランクとは最上位の集団を指すランクであるがため、該当する実力の上限は青天井なのだ。



「っ―――!?」

「なっ―――!?」



同等の速度、同等のタイミングで叩き込まれた一撃は、一振りの剣により全く同時のタイミングで弾かれた。それだけではなく、逆に数メートルほど弾き飛ばされたのは二人の方である。それを見ていたタスクフォース8492一行は、相手の二人が放った一撃が、ダンジョンで相手したミノタウロスよりも強力だと言うことは衝撃波で感じ取った。

涼しい顔で攻撃を流した彼女は、相変わらず動じていない。一撃で行われた今の攻防は、力量を測るためにわざと受けたようにも見て取れる。それでもその心境は油断には程遠く、実力差を完全に把握したうえでの行動だ。少しでもホークが何かの情報を得ることができるならばと、あえて戦闘を引き延ばしている。



「ハク、配慮は不要だ。」



金属音が収まった直後の、僅か数秒。偶然にもできた物静かな空間に響く、彼の声。

遠慮ではなく、配慮。彼女の行動が自分のためと理解しているからこその、言葉の選び用だ。彼女も言葉選びの意味を理解しており、この一文が届いた瞬間、彼女の中における戦闘目的が切り替わった。


気配から状況が変わったことを判断できた奴隷二人だが、それも瞬きの時間程度だけ。言葉を聞いて相手が僅かに目を細めたかと思えば、次の瞬間には斬撃の暴風雨が繰り出されており、自分達を目掛けて襲い掛かる。

雨に打たれるわけにもいかず甲高い金属の音が鳴り響かせるも、防戦一方なのは二人いるはずの奴隷側である。数の差を活かして回り込みや距離を取ろうにも、それだけは行ってはいけないと、己の直感が警告を鳴らしている。


この攻撃は、一人になった瞬間に被弾し確実に命を奪い取る。二人を同時に相手にしているからこそ受け止めることができているのであり、本来はそれほどの威力と密度を備えたモノなのだ。他の奴隷たちは援護に回りたいものの、近接戦闘では不利なことと誤射の危険があるために実行できずにいる。


かつては力任せだった部分が顔を覗かせていたのだが、今の彼女は新たな剣術を取得している。マクミランが応用術の塊と褒めちぎった腕前が、「柔」の技を、攻撃と立ち回りにも応用しているのだ。


結果として刃を滑らせるラインは以前と比べて大きく変化し、効率の悪かった部分が大きく削ぎ落されている。それでいて相変わらず、放たれる速度は人間の目では追えないほどの代物だ。

水色の宝石のような刃先が奔り、対峙する二人ですら線の残像を追うのが精一杯。それでも命が繋がっている現状は、ほぼ直感に頼っていると言っても過言ではない状況だ。


横薙ぎが中心で構成されている相手の攻撃に、戻りの隙など在りはしない。エモノのリーチは同じ程度であり数は2倍と数字上では有利であるはずなのに、目の前の嵐を相手にして、二人は攻めるビジョンが全くもって思い浮かばない。



「み、見えん……。」

「流石にキツイな……。」



味方であるために呑気なディムースやマクミラン達だが、ニックはニックで呆然と立ち尽くしている。理由は単純で、このような攻撃などまるで経験が無いからだ。

百歩譲って彼が知る歴戦の剣士を3-4名揃えて、ようやく到達できるような斬撃の嵐である。よくよく考えればそれを二人で受けている奴隷側の実力もすさまじいのだが、その斬撃を一人で放っている彼女は、さらに上を行っているということだ。


過去に彼女を相手をしたことがあるのは魔物と呼ばれる連中だけであり、その際に全力を出す必要は無い。フーガ国には戦闘記録という書類の形で結果が残ってはいるものの、誰も全力の姿を知らないのだ。

全力を知る唯一の例外としてシルビア王国に居た勇者が挙げられるが、このようなものを記録する類の人物ではない。そして相性が最悪だったために彼女もすぐに無力化されてしまっていたため、フーガ国側も記録としては残っておらず、生存者の関係で目撃者も皆無だ。



しかし、今は全力を出せる上に、遠慮は不要である。地形の心配をしなくて良いこともあり、彼女が持てる全ての技を出して、自身の夫に示している。

正直なところ斬撃が全く見えていないホークだが、それでも視線は片時も逸らさない。彼自身のために戦ってくれている妻の姿を、この世界最強の剣士と言われるエースの姿を、決して忘れることの無いよう黒い眼に焼き付けている。



「ミラ、カノン!!」



主のために戦うのは、奴隷側も同じである。

続けざまに加勢する3人目、しかし彼女の動きは揺るがない。魔導士らしき人物は数秒の詠唱を行い、それに気づいたホークがヴォルグに顔を向けるも、彼は首を左右に振って答える。まるで、手を出す必要はないと言いたげな表情だ。



「そんなっ……!」



その結果は、すぐに表れる。魔導士が全力で放ったはずの一撃も、相手にはかすり傷すら伺えない。戦車や装甲車が搭載するハードキルAPSがRPGを相手に作動した時のように、直前で魔法弾が弾け飛んだのだ。

その一撃は、ダメージはともかく戦術としても悪手である。無効化したとはいえ魔法攻撃の威力を知った被弾者は、己の主に対して攻撃が向かぬよう、攻撃優先順位を大きく変更した。


順位の変更を行った瞬間。行えるとしても1度限りの攻撃程度しかない時間だが、ハクに僅かな隙ができた。集中する対象が変わったためであり、無意識に発生したものである。防戦一方だった二人にとって、見逃せるはずもない隙だ。

物理的な位置関係の制約で攻撃できるのは片方のみだが、絶好と言えるタイミングだった。ハクは攻撃後の隙を無くすために、一本足に体重を乗せようとしていたのだ。逆足は宙にあり、意識がそれていることも手伝って、踏み込んでから力が作用するまでには時間がかかる。



「ッァ!」



奴隷の一人は回転の力をそのまま斬撃の速さに変え、足首の高さへ斬撃を繰り出していく。偶然にも死角に近い位置から放たれた横薙ぎは、ハクの剣をもってすら対応が不可能な程の高速だった。


しかし当然、その程度で勝負が終わるはずがない。彼女は力を込めた片足に更に力を加え、突然と跳躍を行った。



「ハアッ!!」



重くはないものの体重と回転エネルギーが乗せられた、縦方向への回転切り。加えて両手でもって振り下ろされる一撃の威力は、それを受ける彼女達でも容易に想像することができた。

咄嗟に己の剣で防ごうとするも、下段への横薙ぎの直後のために万全の体制が作れない。縦方向の斬撃に対し、両手で柄を持ちながら剣を横に差し込み受けることに成功したものの、「てこの原理」が作用してしまう。


長剣の先端付近に振り下ろされた一撃により、受けた剣の先は元の位置を保てない。支点がある腕の方に弾かれてしまい、防ぐはずの斬撃は、そのまま無防備な肩に襲い掛かった。



「「ミラァ!!」」



その手は根元から切り落とされ、つられ身体も地面へと横たわる。光景を目撃した奴隷の一人は咄嗟に短剣を構え飛び出し、着地後にできた彼女の隙に一撃報わんと刃先を突き立てる。

速さだけならば、先ほどの二人より明らかに格上だ。身軽な身体を活かして前方へと飛び上がり、勢いをつけて襲い掛かる。相手の剣は振り降ろされた直後であり、態勢は非常に有利な状況だ。


しかし残念ながら、彼女は1つ大事なことを忘れている。空を舞えるのは、翼を持つ者以外にあり得ない。人の身で跳躍したならば、文字通り身動きが取れない状況に陥るのだ。


降り下ろしの反動を使った逆袈裟の一撃が、彼女の身体を切り裂いた。身軽な戦闘スタイル故に防具も軽さ重視だったために、ハクの一撃を防ぐには程遠い。

そして彼女はその力を利用してバク転を行い、理想的な間合いを取る。結果としてこれが功を奏し、先程の増援の更に後方、ニックの横から敵アーチャーが矢を放とうと構える姿を確認した。



「うわああああっ!?」



相手の女が、こちらを見たと把握した瞬間。周囲の空間に氷柱のようなものが発生し、それによりできた空間にニックは閉じ込められた。慌てふためき左右を見るも、残りの奴隷は氷柱の「中」に居り、文字通りの氷漬けだ。相手の魔法使いの気が逸れたために通じた魔法なのだが、これと似たものをホーク達は知っている。

この魔法は、かつてヴォルグがハイエルフを相手に披露したものと同類である。違いと言えば影響範囲が半径10m程と、ヴォルグのものと比較して非常に狭いことだろう。


とはいえ、それにも列記とした理由がある。影響範囲こそヴォルグの技とは大きく違えど、そもそも彼女は攻撃に関する上級魔法の類を使用できない。

つまりこの魔法は、彼女にとっての基礎魔法。それでも威力に関しては同レベルに匹敵する理由は、古代神龍という種族故。その魔力の高さと適応度合いは、この世界においても計り知れないレベルにある。



「―――寝ていろ。」



あとにも先にも、この戦闘において彼女が口にした文章はこれだけである。不要な殺生は控えたかった彼女の優しさ故に今までは見逃していたものの、ホークを狙える遠距離の敵に対して思わず本音が漏れてしまった状況だ。



「カハッ……!」



直後、胸に剣を突き立てられたのは、残った一人の奴隷剣士。ホークが次に瞬いたとき、勝敗は決していた。


決して元の姿を損なわぬよう、かつ痛みを感じぬよう。鎧の上から確実に心の蔵を貫き、敗北は一撃でもって決定されていた。倒れる死体すらも優しく受け止め、これほどの腕前を持ちながら、女性としても戦士としても真っ当な男に拾われなかった未練に少しだけ同情している。この辺りに見える「情」は、彼女と彼において決定的に違う部分だろう。

しかしそんな感情も、遺体を地に置き手で瞼を閉じた瞬間に切り替わる。血振りを行い、彼女は残った男を睨みつけながら対峙した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ