14話 常識外な二人
暑くなったり涼しくなったり忙しいですね。体調管理にはお気を付けください
その二人は、全てが違う。似ているとすれば双方共に目と耳と鼻があり、生物学的に人間であることぐらいだろう。
戦闘スタイルもさることながら、戦いに対する概念からパーティーメンバーに対する考えもまるで違う。違いを現すかのように片やタクティカルナイフとP320を交差させて構えた仁王立ち、片や怒り心頭の表情を見せていた。
ホークは相変らずの無言であり、先ほどの攻撃が自分の手によるものだとは明言していない。殺気を向けるニックと本心ではアースドラゴンを一撃で葬った攻撃に怯える奴隷一行は、本能的に攻撃者を判断した。
一方のホーク達も、相手が置かれた状況を把握する。ホークの言葉通りに奴隷の数が数名消えており、偵察班の携帯端末にも付近に判定は存在しない。その状況に憤りを感じ、姉妹は真っ先に口を開いた。
「ひどい!奴隷は法律で弾除けになることを禁じられて―――」
「いや、マールとリール。奴隷というのは、基よりそう言う類のモノだ。」
「えっ?」
「マクミランさん……?」
一般的な感情を表現した姉妹に対し、マクミランが事実を語る。口調は落ち着いており、親が子に諭すようにも見て取れた。
彼が言うように、奴隷と言う存在は弾避けとして使われることも珍しくない。いくら「法律」という御託で奴隷について人権を与えたところで人目に付かなければ証拠もなく、そうなれば本来の犯罪者を処罰することも叶わない。
通常ならば奴隷の主の証となるアクセサリーが違反を見抜き、罰則であるデバフ系の魔法を発動させる。しかし権力者や実力者となればそのデバフを無効化してしまう程の道具や能力を揃えているために、結果として「抜け道」が生まれている状態だ。
この抜け道をどうにかしなければならないのが役人の仕事だが、相手が相手だけに非常に面倒かつ難関極まりないこともまた事実。結果として誰も手を出そうとはしないのだが、これは役人というジョブの十八番だろう。
「以前、ホークがやたら奴隷を嫌うことを気にしていたな。理由はこれと似ている。君たちがよく知る司令官が求めているのはあくまでも純粋な仲間であって、盾ではない。」
この時マクミランはホークのことを呼び捨てたのだが、完全に素の様子である。ガルムとメビウスを含めてI.S.A.F.8492結成当初から付き合いの長い4人は、当初はこのように呼び合っていたのだ。パイロット二名は未だに変わっていないが、このあたりは個人の価値観の違いとなっている。
土煙が収まらない中、数秒の問答でこの内容をやり取りした3人と聞き入っていた8492のメンバーは、なるほどと納得した。
「ま。奴隷だと実際に盾として使い捨ててしまいそうってのが、総帥の本音らしいがな。どうだディムース、栄えある第一号になってみないか。」
「ひどくないっすか!?」
「盾にすらならんでしょ、C4バギーでも運転してもらいましょう。」
「ええ……。」
重くなった空気を振り払うようにディムースを犠牲にしたマクミランとノリに加わった隊員は、率先して視線を戻す。そして予想通り、目の前で見せられる陽気な空気に対してニックの怒りは更に増していた。
「……邪魔をしましたね、総帥。ところで、未だお任せすれば宜しいので?」
「ああ。すまんなマクミラン、どうやら私も子供のようだ。」
ニックの脇に展開する奴隷とティルの町で聞いた情報を照らし合わせれば、奴の狙いが己の妻であることは一目瞭然。彼女を実際に捕まえられるかは別として、彼も曲りなりに一人の男だ。
その事実を知って、「はいそうですか」と静かに居られるはずがない。彼にしては珍しく個人的な殺気を纏っており、今すぐにでも跳びかかって喉元にタクティカルナイフを突き付けられない己の身体能力の無さを嘆いていた。
倒すべき敵は、またもや不吉な笑みを浮かべている。脳筋気味ではあるものの、彼も考えは持っている。先ほどのような大爆発は近接距離では使えないために、この位置ならば先程の仕込みを使う好機と考えていた。
そして、先ほどマクミランが見せた銃撃も通用しないと確信する。その秘密兵器はアースドラゴン程とはいかないものの、銃弾すらも貫通しない防御力を持っているのだ。
ニックがソレを使った瞬間、偵察班から報告が入る。時速で言えば40㎞程で高度も200m程であるものの、十数体のアンノウンが空から接近中との情報である。
大きさは人の2倍程度であり、グローバルホークの映像からマールとリールはゴーレムと判断した。古代兵器の1つ、フライゴーレムと呼ばれる亜種であり、文字通り空を飛ぶことのできる、魔術が作り上げた人工兵器である。
ゴーレムの能力は作成者の腕によって左右するも、どうやら時速40㎞となると非常に高性能とのことだ。しかしそれでも、姉妹にとっては理解できないことがある。
「な、何故テイマーなのにゴーレムを……まさか!?」
テイマーのはずのニックだが、使役している魔物が不明であった理由がコレである。早い話がテイマーとサマナーのハイブリッドであり、普段はゴーレムを使役して戦っていたのであった。
そして厄介なことに、ゴーレムを見る限りはサマナーとしても高ランクの実力となる。群れを成して接近中のゴーレムが弱いはずがなく、近接戦闘となれば、ハク以外の人物では太刀打ちができないだろう。
とはいえホークからすれば、相手が何だろうが同じ話だ。目の前の人間は自分達に攻撃を向けており、彼はそれを排除する立場にある。
「ゴーレムか……セオリー通りですと銃では通じませんよ総帥、ここは」
「案ずるな。」
久々にAT教団の出番かと思ったディムースの言葉を遮ったと同時にホークの横に現れる、黄金の波紋。彼がこの世界に来た時唯一手にした能力、無尽蔵と言える収納力を誇る異次元収納ボックスだ。対勇者用の能力として女神が与えた、単にだだっ広い倉庫である。
ジャベリンでも出てくるのかと考えた彼だが、いつまでたっても中身出てくる気配が無い。それよりも、波紋の大きさが今までに見ない程に巨大だということに気が付いた。
それは周囲も同じであり、この緊迫した状況下で一体何を出すのか、誰にも想像がついていない。
その考察も、数秒程。直後に地面と平行に展開されたその空間からせり出してきた高さ5mほどの人工物を見て、スナイパーコンビの表情が凍り付いた。
「「C、CIWS!?」」
《ちょっ、ちょっと待て!映像確認したか、ガルム!!》
《見てはいるが冗談だろ!?ファランクスだと、CIWSユニットが!?》
それを見たマクミランとディムース、メビウスとガルムは目を見開き、思わず声を上げてしまう。モニタに映し出されマクミランとディムースが目視したのは、ホークの横の空間に浮かぶファランクス20mm近接防空ユニット、通称CIWS。
形式名としてはファランクス:Block1B BaseLine2に分類され、毎分4500発という高レートで20x102mmの弾丸を発射する。ユニットの射撃範囲は垂直軸射撃-25~+85°、左右はそれぞれ150°までをカバーする、公式有効射程距離約1500mの6砲身バルカン砲だ。
一部の国ではゴールキーパーやシーガードと呼ばれている近距離迎撃装置(CIWS)の一種であり、その性能はお墨付き。これら2つと比較して射程や威力は劣るものの、ユニットサイズや重量(比較-3トン)が極端に小さく搭載を容易とするのがファランクスの特徴だ。
とあるシステムでは、輸送トラックの亜種に乗せて簡易対空砲として運用している実績もある。とはいえ流石に歩兵用の携帯兵器とは程遠く、ましてや一個人が運用できるものではない。比較的計量と言ってもトン単位である上に、電力に関する問題はハードルが高いのだ。
それらも、数秒前まで彼等が持っていた古い知識。今現在は目の前に例外が現れたために、I.S.A.F.8492といえど一行は驚きを隠せない。
《ファランクスだ間違いない!ホークのやつ、まさか宝物庫にユニットごと収納しているのか!?格納できるにしたって、どうやって制御すると言うのだ!》
《いや、理には敵っているぞガルム!ファランクスは本来、艦隊の最終防衛ユニットとして機能する。故に火器管制やデータリンクなしでも単独で動作可能だ。電源と、対生物への照準システムさえあればな。》
《ま、まさかホークがこの前、セントリーガンを持っていたのと戦闘機用の試作型EPUを持って行った理由って……。》
《兵器作成部門が開発した新型のEPUなら、冷却システムを含めたファランクスの動作には十分だ。セントリーガンのIRシステムを流用すれば、作動距離は大幅に短くなるが対人へのロックオンも可能だろう。》
《ちょ、ちょっと待ってくださいメビウス少佐!ってことは……。》
《ああ。対物近代兵器を自由に運搬し攻撃可能とかいうフザケた人間が、ただ一人だが確実に存在してるってことだ!》
乗船時に似たような武器が船についていたことを思い出したハクは、アレが対人用兵器でないことを理解した。I.S.A.F.8492の一行も便利だとは理解していた宝物庫だが、まさかこのような運用を想定していたとは夢にも思わない。
ちなみに、セントリーのシステムを流用したと考えているメビウスだが、今回ホークが出したものはオリジナルの対空レーダーが搭載されている代物だ。宝物庫の中には両方が格納されており、時と場合によって使い分ける運用となる。
タスクフォース8492のメンバーですらドン引きする武器を取り出したホークは、相変らずの構えと姿勢だ。先ほどの一撃を知る奴隷一行は、次は何が来るのかと脅えながらもニックを守るために固まり、迎撃の態勢を整える。
とはいえ、ホークの狙いはあくまでフライゴーレムだ。オリジナルもそうだが、ファランクスの役割は防衛であって攻撃ではない。
古代神竜の次、戦闘の第三幕。古代兵器と現代兵器の攻防が、今まさに開始されようとしていた。