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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第7章 Faceless Soldiers
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4話 化け物Vsバケモノ

異世界要素はどこへやら

5機で編隊を組むUAV、機竜へと急接近したガルムは、そのまま敵機を引き連れてドッグファイトを開始した。互いに機関砲もミサイルも使用せず、単なるケツの取り合いが開始された程度である。

一定の速度まで加速したガルムが機竜を引き連れ、軽く機体を旋回させる。最速とまで行かずとも、ある程度の速度からの旋回を見せれば、敵機の速度ではついてこれない。


だが単純に引き離されて終わるわけもなく、周りの機体が連携して補っている。AIにより制御される無人機はこのあたりの判断力に長けており、モルガンが旋回した先に別の機竜が現れて、彼目掛けて前進してきたのだ。

彼は手早くバレルロールを行い真正面から向かってくる特攻部隊をブレイクしたが、その後方に捻り込んで続く敵からの攻撃は一定のマニューバでは回避できない。そのままバレルロールの延長で機体を捻り込みながら、ヘッドオンがてら放たれるレーザー砲の射線を回避する。

敵である機竜の編隊は、数に物を言わせて誰かが後方につくか前方から突撃し、ガルムに攻撃させる間を与えないようにしている。単純ではあるが、非常に効率的な攻撃だ。


しかし効率が良いとはいえ、戦場で常に同じルールが通用するわけではない。対象がAoA最強パイロットの彼である以上、なおのこと、並みの作戦ごときは通用しないのだ。


彼は突然、後続との距離が開いている状態でオーバーシュートの動きを行う。機首を上げると同時に、機体の速度を急減速させた。この状況においてセオリーと呼べるマニューバではなく、AIも何を目的としたマニューバなのか全くもって理解できない。

そのまま飛んでいれば、激突してしまう事だけは分かったはずだ。AI一行は機体をロールさせ高度を落とし、衝突を回避しようと実行する。


ところが、ガルムが行った行動はオーバーシュートではなかったのだ。彼はそのままオーバーシュートの機動を延長し、機首を後方、機竜たちが降下中の方向に向けたのである。



《ガルムゼロ、Fox3!しかし……。》



イーグルアイが確認したのは、その状態で斜め方向上空に放たれるAIM-120D。中距離空対空ミサイルの完成系と言っても過言ではない強力な兵装が、機竜を目掛けて襲い掛かった。


しかしイーグルアイの語尾に力が無いように、放たれたミサイルに勢いは無い。エース級のパイロットでもコクピットに汚物をぶちまける勢いで放たれたオーバーシュート機動の残価はたっぷりと残っており、射出方向とは後方へ向かう慣性力はすさまじい。

いくらロケットモーターのために空気流入が不要とはいえ、この借金を抱えている状況で反対方向への推進力を作るのは無茶そのものである。射出方向への加速までには時間を要しており、相対速度の兼ね合いで敵機に避ける余裕を与えてしまう。


現に敵機の全てが、そのミサイルを回避した。ガルムはそのまま木の葉落としにつなげて、機体を反転させ下方に捻り込み反転するスプリットSの要領で敵機の下方後へ機体を捻り込むも、低速領域であるため、彼が超絶機動と評価する機竜は木の葉落としに食らいつく。

4つの機竜は純正のスプリットSでもって、2組に前後して追撃に入る。この領域における機動力は、機竜がガルムのマニューバを圧倒していた。速度は互角であるものの、切れ込み具合はワンランク違っていた。


しかし、状況把握となれば話は別。もちろんそれは、ファーストコンタクトにおいてガルムもイーグルアイも理解している内容だ。そして彼が持つ腕前と思考は、常に最適な選択を実行する。


行うのは、その位置からのハイレートクライムだ。スプリットSの終了後にADFX-01のエンジンに鞭を入れ、空気流量不足で失速しないギリギリのスロットル位置を維持して加速している。

それは、失速状態からの加速とは到底思えない。第六世代戦闘機の実力とその限界を完全に把握しているガルムの腕でもって、速度計の数値を、回転しているスロットマシーンのごとく上昇させている。


残り数秒の間だけとはいえ、それでも状況は依然として機竜有利だ。既にガルムの機体はレーザー砲の射程圏内にあり、距離、速度共に許容内。あとは、直線となる攻撃射線の問題だけである。

それも、1つのマニューバで解決する内容だ。ハイレートクライムで駆け上がるガルムだが、ジェットエンジンに流れ込む空気流量の関係で、これ以上の角度で上昇を行うことは不可能だ。無人機のAIもそれを見抜いており、己の攻撃プログラムに組み込んでいく。


目の前で逃げる者が行うであろう機動は、2つに1つ。このままの角度を維持して距離を取るか、角度を緩め速度を取るか。その中間もあり得るが、至極予測しやすい状況にある。

そして、どちらにも対応できるようAIは判断する。下方からエルロンによるロールを行って機体の上下を入れ替え、ガルムの逃げ道を完全に潰したうえで射線を確保した。




瞬間。二人のAIに目があったならば、見開いていただろう。眼前の機体がスライスバックの機動に入ったかと思えば、ガルムの機体があるやや横に、なんと自分自身に頭を向け落下中のミサイルが映り込んだのである。

直前にミサイルのロックオンアラートによる緊急回避のプログラムが実行されるも、避ける猶予はありえない。コンマ1秒待たずして、先程放たれた2発のAIM-120Dが直撃した。




前方を追いかけていた2機が爆散し、後方の2機は回避機動を取る。しかし緊急回避した結果としてスライスバックの機動を終えたモルガンの機首に対し、己の機体の腹を見せることとなる。

つまりガルムから見れば、絶好の攻撃位置。初速に優れるAIM-9Xが2つ射出され、無防備な腹に直撃。その存在を、海面へと叩き伏せた。


4つの機竜を撃墜した彼は海面めがけて急加速を行い、そのままハイレートクライムで超音速のまま空を駆け上がる。結果として状況は、数の違いを除いて会敵時に戻された。



《……メ、メビウス……なんだ、今の攻撃は……。あのアムラームは、一体どこから……。》

《……見るのは初めてか、俺も落とされた技だ。あれほどの偏差攻撃、奴以外で目にかかれるものではない。》



空中管制機であるはずのイーグルアイが管制を忘れ、敬語を忘れてメビウスが驚くのも無理は無い。がけっぷちに立たされていたガルムは、機竜と同じ方向に飛行中だったからである。そしてアムラームは、その下方、雲の上からマッハ4.0で飛んできた。

つまり彼が居たのは、ミサイルを放ったところで、機竜には絶対に当たらない位置なのだ。しかしその後、機竜の2機が、ミサイルで撃墜されたことも事実である。



通常では考えられない方角からの、ミサイルによる偏差攻撃。対超級のエースパイロットでの戦闘でのみ使われる、ガルムしか実行できないマニューバの1つだ。

ロックした瞬間の状況から有り得ない方向にアムラームを射出するのだが、通常では考えられないことをする。先程のように、撃ったところで当たる確率が非常に低い場合が多いのだ。


その際、射出直後のアムラームが旋回軌道になるよう、射出角度とタイミングを調節している。当然、目標は1秒経たずにの探知範囲外に出てしまうため、ミサイルが持つレーダーによる追尾は中止となる。

しかし、追尾が中止になった所で、直線軌道に戻るわけではない。そのためアムラームは、大雑把に言えば「半円を描く機動」を見せる。


射出したミサイルの速度が遅ければ遅いほど、旋回に要する距離も短くなる。前方への慣性が大きく残る状況で後方へと射出した大きな理由は、この旋回半径の調整にあった。

その後に彼が見せる機動も、単独で見れば全てが普通に起こりうることである。跡が無い状況を打開するために必死に回避機動をとっているように見えるため、トドメを刺すために意識が完全に逸れているのだ。


その状況から導き出される答えは、ただ1つ。後ろに撃ったミサイルはハズレてどこかへ飛んで行ってしまった、と認識してしまい、問題は処理されたと判断してしまうのだ。中距離~長距離用ミサイルをゼロ距離の近接戦闘で機体後方に「命中しないよう」ぶっぱなすという、全てにおいて前代未聞の戦闘方法なのだから無理もない。


こうなればガルムが行うべき仕事は、攻撃を回避しつつ敵機を迷走中のAIM-120Dの軌道上へと誘い出すこと。敵機のパイロットは逃げ惑うガルムを目の前に、まさかそのようなことが起こっているとは微塵にも思わず、公衆トイレへ誘われるがままにホイホイとついて行ってしまう。

加えて誘われた先は、図ったようにアクティブ・レーダーの範囲内。するとアムラームの伝家の宝刀であるセミアクティブ追跡制御が作動し、対象に向かって残りの距離を進行、直撃する。



敵からすれば、直前までミサイルアラートも鳴ることがない。加えてガルムが眼前に居る状況ですら(真横などから)ミサイルが直撃するため、何が起きたのか把握できない。

避けるすべは、被弾者が持つ第六感と応用技量以外にありえない。そんなものは、AIという人工頭脳には存在しない項目だ。



《演習とは言え、あえて近接戦闘にて圧倒するか。ガルムらしいな。Slash.》



残りの2機に対し、メビウスは特殊兵装を使用する。事前にEMLが有効と判断していた彼は、瞬時に照準を合わせ攻撃を行った。

彼の機体制御能力でもってすれば、コクピット上から1ドット程度にしか映らない対象にも命中させることが可能である。ミサイルとは比較にならない速度で放たれた無誘導・直線機動の弾丸は、レーザー兵器の防御システムを反応させる隙を与えない。


一撃のもとに、機竜の機体が四散する。AIはなぜ撃墜されたのか考える暇もなく、己を動かすプログラムを眠らせたのであった。



《使いやすそうだな、EMLは。》

《まったくだが、お前も物好きすぎるぞ。MPBMで纏めて落とせたろうに、イーグルアイの戯言に付き合うとはな。》

《なに、手癖が悪くてな。機銃を使っても良かったんだが……脳無しが相手とはいえ、中々に楽しめたぞ。》



酸素マスクの下で口元を歪め放たれた言葉で、イーグルアイの背筋に冷や汗が走る。この会話を聞いていたAWACSに乗る他の兵士も同様で、己の軍に居り「鬼」と呼ばれるバケモノの恐ろしさを再認識した格好だ。

あれほどまでの3次元機動を行う無人機複数相手にドッグファイトをしかけつつ、前代未聞の必殺技で勝利をかっさらう1つのエース級有人機。そして、そんな機動をする相手を一撃でもって長距離から仕留める、もう1つのエース。


互いの戦闘方法は真逆なれど、結果としては高性能UAVすらをも圧倒する戦果を見せている。このような2名が敵でないことに内心安堵しつつ、ガルムが行った離れ業の戦果記録をどうやって残そうかと、頭を抱えるのであった。

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