3話 vs機竜…?
何気にI.S.A.F.8492では大事となっていたAIM-120Dの一斉発射演習が終了した翌日。天候は相変わらず良好で、所々に微かな雲が残るのみだ。
汚れなど皆無と言える空気と海は、加工された写真のような光景を醸し出している。空と同じく穏やかな海原に映り込む空の景色は、まるで鏡そのものと言っても過言ではない。そこに点在する佐渡島(仮名)は、今日も変わらぬ姿を見せていた。
《ガルム0、離陸を許可します。離陸後は高度9000mまで急上昇してください、上空の風は穏やかです。メビウス13、続いて離陸してください。》
鏡の中に浮かぶ小さな何もない島に響き渡る、ジェットエンジンが奏でる大騒音。耳を弄する程の音量も4方が海のために木霊することなく、その音は彼方へと消えてゆく。ハンガーから出てきた2つの機体が続けて離陸を行い、南西へと進路を取った。
とはいえ、その2機の所属が問題である。この世界においては時々編隊を組んでいる二人だが、本来はよほどの相手の場合にしか行われない組み合わせだ。
そんな編隊が空に上がれば、食堂で離陸の様子を見ていた皆は騒ぎ出すものである。いったい何事が起こったのかと席を立ち、その後ろ姿を追っていった。
「おい、今の見たか?」
「ああ、どうしたってんだ?何事だ、化け物変態コンビが離陸していったぞ。おい、スクランブルか?」
「いや、出てないな。整備士連中も静かなもんだ、違うだろう。」
「そういや今朝、演習があるって連絡は回ってきたぞ。それじゃないか?」
「ガルムとメビウスの演習かよ!?見れないってのか?カメラまわってねぇのか?」
色々な意味でザワつく一行だが、とりあえずはスクランブルで無いと知って一安心の状況だ。そのために、冗談や小言も盛り上がっている。相変わらずどちらが強いのかという話題と、実戦投入されていない第6世代航空機の話題で持ちきりだ。
そんな状況も知らない二人は、予想に反して真剣そのものだ。相変わらず無言であるもののワケ有りか、実戦さながらの気配を醸し出している。ガルムはやや真北へと進路を変えると、メビウスもそれに続いた。
《こちら空中管制機イーグルアイ、これより演習を開始する。進路0-1-0、高度と速度は任せる。現在索敵中だ、指示を待て。》
そのタイミングで、AWACSから飛行指令が飛んでくる。今回の担当はイーグルアイで、淡々とした指令が特徴だ。ガルムとメビウスの扱いにも慣れており二人としても淡々とした指示を好むために、互いに相性が良い組み合わせとなっている。
今回の演習では索敵も視野に入れられているらしく、イーグルアイも詳しい内容は聞いていない。例の編隊を探し出し、撃墜するまでが内容だ。シーカーではなく実弾を用い、実際に命中させるという本格的な演習である。
直接的な腕前は測りにくい職種だがカスタマイズされたE-767の探知能力は凄まじく、加えてイーグルアイが持つ腕前もエース級だ。そのために、今回の目標も瞬く間に探知されてしまう。
E-767特有の外観で胴体上部に装着される厚さ1.83m、直径9.14mのロートドームと呼ばれる円盤型の物体に搭載されているAN/APY-2レーダーは、低高度を飛ぶ編隊を見逃さない。すぐさま位置を特定すると、空対空の攻撃機に対して指示を飛ばした。
《警告、警告。BRAA3-5-0、距離1万に敵機確認。高度3000m、『機竜』の編隊だ。ウェポンズ・フリー、交戦を許可する。》
その言葉を聞いた途端、2機の機動にスイッチが入る。それぞれ左右にバンクを行い、高度15000メートルから加速しつつ降下を行った。
通常ならば1番機が実行動作を宣言し2番機が確認を行う場面でも互いに何も伝えることは無いのだが、それぞれが互いをカバーできる機動で進路を取る。互いの実力を完全に知っているからこそできる阿吽の呼吸であり、まず先に仕掛けたのはガルム0だ。
《ガルムゼロ、Fox2.》
淡々と状況を管制するイーグルアイは、いつもの調子で無線を飛ばす。過去に幾度となく行ってきた、日課のような状況だ。
彼が面倒を見る鳥達のなかでも、その鳥は最上位。ミサイルや爆弾、機銃に関しても文句なしの命中精度を持っている。何度か本当に人間なのかを疑いたくなるような状況もあったものの、空を代表する超一流のエース級だ。
そんな条件が重なれば、彼の仕事はあと1つ。命中を確認して、再び管制を行うだけである。
《っ!?ミサイル、目標に命中せず!どうしたガルム、何が起こった!》
それ故に、眼前の機械達。そしてレーダー上に繰り広げられる状況が、理解できない。経験豊富なイーグルアイをもっても、過去に例のない結果だった。
あのガルムがミサイルを外したなど、意図しなければ有り得ない。それほどまでに、得ている信頼度と持ち合わせている実力は相当に積み重なった代物だ。
《……演習だ、黙り込むのも辞めにしよう。メビウス、見えたか?》
《ああ。WW2時代の機動速度にシューターが乗るアパッチ以上の旋回性能、それに加えて機体上方ドーム方向に射出可能な超単距離レーザー兵器。機銃らしきものも見えた、カタログスペックだけでも厄介だな。最高速は乏しいようだが加速もソコソコだ、最強クラスのUAVだぞ。》
《な、なんだと!?》
《同感だ。これがホントに機竜だってなら俺達でも危ういぞ、兵器開発部の連中は化け物揃いか。》
ため息をつくガルムだが、予想以上のオーバースペックに呆れると同時に技術部門の恐ろしさを身にしみて感じていた。これが二人自ら望んだ演習とはいえ、実は彼等は、機竜の機動力を知らされてはいなかったのだ。
どこぞの芸人宜しく「ヤバイよヤバイよ」程度には話を聞いていたものの、ここまでくると話が違うレベルに達している。兵器開発の責任者曰く「計測結果に基づいた戦闘能力に数割ほど上乗せした内容です」とのことなのだが、このようなUAVが出来上がってしまった原因がここにある。
機竜と戦闘機の違いは多々あれど、基本として空を飛び戦う道具な点は共通だ。決定的に違うところは、パイロットの立ち位置である。戦闘機のパイロットは操縦と兵器選択、攻撃指示を戦闘機に対して出すのだが、機竜のパイロットは直接攻撃を行うのだ。
開発部隊はこの点を大きく捉えたために、UAVの性能が跳ね上がることとなっている。つまるところ最強のパターンとなると、ハクと同レベルの奴が機竜に乗っている可能性もある、ということだ。
以前に彼女がM2重機関銃の弾丸を防いでいた時のデータもあるためにミサイルも迎撃できるのではないかと考えられ、迎撃性能に関しては非常に大きなマージンを取って設定されている。それを再現するための、レーザー防衛装置というわけだ。彼女の耐G性能も非常に高いことも知られているために、その点も反映されている。
そして最終的に、その性能は2割増しで実装されている。実のところ本物の機竜の試験飛行は向こうのトップエースが行っており限界機動だったのだが、彼等は念を入れて対策を行っているのだ。
AIM-9Xが不発ならばとメビウスはAIM-120Dにて攻撃するも、結果は同じである。ミサイルの接近中に探知され、レーザー兵器で撃墜されるだけの結果が残っていた。
《どうだイーグルアイ。上から見ていて、アムラームは通じそうか?》
《イーグルアイよりメビウス。敵は強力な近接対空兵器を装備している、ミサイル系列が通用しない。》
イーグルアイが報告したように、機竜の防御範囲はすさまじいものがある。実際に機竜に乗る魔導士を想定されて設置された単距離レーザー防空装置は、効果範囲は短いながらも半径100mのドーム状において絶大な効果を発揮する。
現にマッハ4.0で迫る8492開発部隊渾身のAIM-9Xですら、自身から80mの距離にて撃墜するという凄まじい防空性能だ。もちろん現実の翼竜騎士がこんなことをできるわけはなく、開発部の思考ベースが近代兵器基準であるのとハクの反応を知っているために、このような仕様となっていた。
《見聞きするほどに厄介だな。ガルム、ドッグファイトの正攻法では通じんだろう。セオリー通りに行くならば、長距離攻撃で対応するしかない。》
《かと言ってアムラームによる攻撃は通じない。やるならば、ヘッドオンからのUGB投擲かMPBMと言ったところか。》
《イーグルアイよりガルム、どうする気だ!近接戦闘では圧倒的に不利だぞ、考え直せ!》
《……試してみるか?》
近接戦闘に否定的なメビウスとイーグルアイだが、ガルムは思わせぶりな口を開く。そのまま機体を鋭くバンクさせ、瞬く間に機竜の集団へ向けて接近した。
AoA最強と名高いエースが、超高性能UAVへと挑みかかる。あえて不利なドッグファイト領域で勝負を挑むことに疑問の浮かぶイーグルアイだが、彼の知るエースは、いかなる不利な状況をも覆し勝利を得る。
故にそれを信じ、己の仕事をこなすまで。この場に居る者全員が演習であることを忘れ、本番さながらの集中力を見せていた。
《Galm zero, engage.》
AWACSの交戦開始報告とともに、前代未聞となるドッグファイトの火ぶたは切って落とされた。
https://twitter.com/RHawk8492
冷やし中華……の時期には早いですがツイッターはじめました!
宜しければ相手してやってくださいm(_ _)m