2話 論者積み
VR環境にて、PJがオメガ11によるイジェクトの洗礼を受けている頃。佐渡島(仮名)と第二拠点との中間地点では、実機による演習が行われようとしていた。こちらも珍しく8492恒例の実弾を使うことは無く、シーカーでの撃墜判定を行う手筈となっている。
とはいえ、こちらの演習には大義名分が存在している。以前に一部の隊員が機種転換を行ったことを筆頭に、I.S.A.F.8492の空軍においては飽和攻撃を受けた際に対する攻撃能力が重要視されていた。メビウスが乗るCFA-44のADMMが装着できれば都合が良いのだが、特殊なミサイルランチャーを使用するだけに流用できない点が課題となっている。
解決策として兵装マシマシのF-15(2040C)に習い、F-22の主翼下部ハードポイントにもミサイルランチャーを搭載したりと、試行錯誤が積み重ねられていた。今回はあくまでシーカーでの理論上ながらも、それらの成果を試す機会となっている。
主翼下部に搭載するミサイルランチャーは、空軍内部では「ウェポンベイ」と呼ばれている。開閉式のカバーを開けるとLAU-88ランチャーの4連装バージョンのようなものにAIM-120DやAIM-9Xが装着されており、F-22の下部ウェポンベイが開くのと似た動作を行いミサイルを射出する。当初はカバーごと開く設計だったものの、空気抵抗と重量の軽減を図るためにこのように変更されていた。
このウェポンベイは汎用性が高く、少ない改造での搭載が可能となっている。とはいえミサイル4発+ランチャー+射出装置などで重量はかさむために、どんな機体でも可能とはいかないのが玉に瑕だ。
I.S.A.F.8492空軍ではF-15、F-22、F-35がテスト対象として選定され、非搭載時と比較しての動力のロス具合がテストされていた。その項目も無事に終わり、あとはDASなどのシステムがうまく機能するかを残すのみとなっている。
この項目だけは、実際にミサイルを発射してテストを行う。発射される数を考えれば百億の資金で足りるのかと冷や汗が流れるような点もあるが、総仕上げというのは実際に行うのがセオリーである。
ところで、今回の演習には空中管制機も参加している。こちらは定期的な管制演習も兼ね備えており、佐渡島(仮名)管制塔やCICと引っ切り無しに無線交信を行っていた。
《佐渡島(仮名)CICよりゴーストアイ。演習は最終フェーズに移行、実弾を用いて迎撃演習を開始する。》
《こちらゴーストアイ、了解した。》
《それでは開始する。演習活動中に、こちらの対空レーダーが敵影の接近を捉えた。座標を送信する、直ちに迎撃のための管制をとってくれ。迎撃地点Kill Box One Alpha、頼んだぞ。》
戦闘機乗りには一人一人コールサインというものがあるが、AWACSは一人で飛ばしているわけではない。あくまでE-767という飛行機の機内で管制業務を行う人物が戦闘機やCICとやり取りを行っているだけで、実際の機内には交代乗員やパイロットを含め20人程度が乗務している。
AoAにおいては、この辺りの乗務員もプレイヤーが決定できるシステムとなっている。管制業務を行う彼が憧れているAWACS、「SKY EYE」は英語音声だったことと個人の趣味もあり、ゴーストアイのクルーは全員が英語で統一されていた。
「Who's closer to Kill Box One Alpha?」
KB-1-αに最も近いのは誰だ?
「Well...Send the Arthur, Blue, Gryphus sir.」
えー……アーサー隊、ブルー隊(フォード1艦載機)、グリフィス隊です。
「Okay,send the 3 teams over to Kill Box One Alpha. This will be a danger close-fire mission.」
わかった、3部隊をKB-1-αに送り込む。非常に激しいミッションになるぞ。
「Yes sir.Wait until they're all inside at the kill box.」
了解しました。全部隊がKBゾーン(KB-1-α)に入るまで待ってください。
「Copy that.Switch the 3 teams to Kill Box One Alpha, enemies coming 10000 feet.」
了解。3部隊をKB-1-αに向かわせろ、目標は高度3000メートルだ。
乗組員の報告を受け、管制官は全部隊をKill Box One Alphaへと向かわせる。高度は5千、1万、2万と段階を踏んでおり、目標地点では全部隊が3000mの標的に向けてミサイルを発射する算段だ。
ゴーストアイの誘導を受け、各々の飛行隊は進路を決定し集合しつつある。高度こそ違うものの全員が無線圏内であり、隊長機が盛んに情報を交換していた。
しかし偶然にも、今回の3部隊は軒並み揃って「陽気」である。洒落たジョークが時折挟まれ、HAHAHAと笑い声が混じっている。調子に関しては似通っているために、部隊間の意識も悪くない。
《さて、各機お喋りは仕舞いだ。そろそろ交戦ポイントに入る。》
《見えてきたな。方位0-1-0、距離68000、高度2800から3000だ。》
レーダーに映る、高度2500を飛ぶ翼竜の大編隊。その上空500mには機竜の編隊が続いており、数だけならば軽く4桁に迫る勢いだ。戦闘機ではないもののAoA基準でもビックリな物量作戦に、何故だかエースたちの目は輝いている。
《物量作戦もいいところだ、大勢でオイデだぜ。》
《グリフィス1から各機、玄関でお出迎えだ。ミサイルの配給を忘れるなよ。》
《こちらはボーイが勢ぞろいってわけか。ジェントルマンがこんなに集まるとは、壮観だな。》
《中々皮肉が効くじゃないかブルー隊。行くぞ、丁重に出迎えるぞ。》
《了解ですグリフィス1、全機落としてやりましょう。》
AWACSが捉えた攻撃目標はDASを介して連携され、各機に搭載されている対空攻撃レーダーに表示される。攻撃用意を行った機体のAIM-120Dは、各々が自動で目標をロックするようシステムで調整される。
そのために、パイロットがマニュアルで目標を設定するような作業は必要ない。突然と攻撃態勢が発令されても瞬時に対応できるよう、合理的なシステムが構築されていた。
《Good to~ne good to~ne. Fox3~Fox3♪.》
発射、発射。フォックス3、フォックス3。
これらのシステムが構築されていたがために「パイロットは何もすることがない」と暇を持て余したグリフィス1が陽気に呟いたFox3の合図を皮切りに、AIM-120Dの群れが一斉に飛び立っていく。ミサイル特有の雲のような軌跡を残し、目標地点へと突き進んでいった。
各々の戦闘機から放たれたAIM-120Dは、最低でも10の数。同時発射とはいかないものの間髪入れずに次々と飛び立つミサイルは、それぞれの目標を見失うことは無い。しばらくするとレーダー上から反応が次々と消え始め、敵の反応で真っ赤だった長距離レーダーが静かになってきた。
結果としては演習と試験発射は成功で、3つ飛行隊で1個飛行士団に匹敵する大規模な飽和攻撃を可能としている。対価としてステルス性能は投げ捨てているものの、ロングレンジなためにさほど影響はないだろう。
その後はAIM-120Dの射出後に下部ウェポンベイにあるGBUにて空対地攻撃を実行したりと、マルチロールファイターらしいことを実施している。パイロットの腕前と兵器の性能が相まって、1つの漏れもなく全てに撃墜判定が出されていた。
《こちらトージョー、作戦海域に到達した。これより近接防空からの長距離攻撃演習を開始する。》
《ゴーストアイより第一機動艦隊、了解した。全機、海軍との合同迎撃演習だ。近接空域での防衛作戦を実施せよ。》
演習の対象に第一機動艦隊が合流し、艦隊に飽和攻撃を仕掛ける敵機竜を想定して迎撃演習が行われている。AIM-9やシースパローが飛び交いCIWSを含む凄まじい弾幕が展開されるものの一度もフレンドリーファイアが起こらないのは、日ごろの合同訓練とエース級ゆえの腕前の賜物だ。
《今までに見たことのない光景だ。観客が居ないのが残念だ、これだけの見世物を。》
《基地で映像でも見てるんじゃないですか?そういや、兵器開発の連中が「機竜」のホントの機械バージョンを作っているらしいですよ。》
《ホントか?おい、誰かほかに情報持ってるか?》
《ああ、それ自分も聞きましたよ。明日だか明後日か、試験飛行をやるみたいですね。》
《ゴーストアイよりグリフィス各機、私語は慎め。》
呑気な会話をしてゴーストアイに怒られるグリフィス中隊だが、まさかその「機竜」がとんでもない化け物に仕上がっているとは、想定にしていない。俗にいうオーバースペックな代物なのだが、度が過ぎたレベルにあるのが問題である。開発部隊も、そのまま「化け物」と呼んでいる程だ。
職人気質にホークの心配性が乗り移ったためにこのような化け物に仕上がったのだが、これは後々はUAVにも応用できる技術のために、せっかくだから最高の物を作ってしまおうというのが現在の方針なのだ。先ほどグリフィス中隊の一人が試験飛行と言ったものの、実際は演習が行われる想定で居る。
しかし、そんな化け物を生み出した彼等にも想定外はある。
彼等も別の意味で「バケモノ」と認知しピラミッドの頂点に君臨するパイロットは、I.S.A.F.8492の身内でも計り知れないほどの実力を備えているのだ。
AWACSの会話シーンは、某映画のパロディーです。個人的に一番好きなシーンだったり・・・(笑)