20話 ただいまティーダの町
【視点:3人称】
今日もまた、夜明け前の時間に一行の目が覚める。集合予定場所に集ったタイミングで、司令官が指示を出している。
今日もまた、彼等は依頼と言う名の任務を遂行する。休憩を除くと3日目を迎えるタイミングであり、残るは出発した町へと戻るだけだ。
天候はやや曇りながらも、昨日からの太陽光により地面の乾燥具合は良好だ。気温差による飽和水蒸気量の関係で極微量の湿り気はあるものの走行に支障は無く、これも日が昇ればすぐに乾くだろう。
食事と睡眠に関しても必要量は取れており、パーティーメンバーにストレスの色も見受けられない。これが最後だと思いながらも、油断することなくホークの話を聞いていた。
「昨夜に話したことと同じだね、内容は以上だ。冒険者ギルドへの移動を開始する。総員、警戒配備。」
「「「ハッ。」」」
追手を撃退した上に最後の工程であれど、彼等が気を抜くことはあり得ない。各々が役割をこなし、ギルドに預けた馬車を受け取り中身の確認を行った。その後、門を潜ることとなる。
「おや?」
思わずディムースが声を出したのだが、朝日を背にクローケンの面々が門兵と並んで立っていた。どうやら、ホーク一行を見送りに来てくれたようである。各々が道に沿って並ぶと背筋を伸ばし、拙いながらも緊張感ある姿勢で並んでいた。
思わぬエールを受けたタスクフォース8492のメンバーは、背中を見つめる彼等に恥じないようにと一層に増して気合を入れる。各自の役割をしっかりとこなし、太陽に向かって歩き始める。こうしてタスクフォース8492は、ティルの町を後にするのであった。
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一行は途中で休憩を挟み、ティーダの町から5㎞地点に到達したのは昼過ぎである。往路と違って途中の街に立ち寄っているために距離的には余裕があるが、荷物が多いことと緊急時に備えて馬に負担をかけないため、ホークの指示により若干のスローペースで運搬されていた。
そんな旅路も、もうしばらくで仕舞いとなる。今先ほど最後のウェイポイントに到達した馬車は道が良くなるにつれてやや速度を上げ、残り40分程度の距離を進んでいた。
町に近づくにつれ路面の整備状況が良くなり、UAVにて距離を把握しつつも町が近づいていることを実感する。サスペンションやダンパーがない馬車だけに、体感度合いの違いは一層のこと顕著となっていた。
「おや。総帥、2時方向距離700に知った顔が。ティーダの町の冒険者、シビックさんですね。戦闘中です、拝見しますか?」
「そうだね、Cランクの戦い方は見てみたい。」
過去実績に基づき現在のパーティーメンバーに対して勝手にランクを付けるならば、両極端な話となる。ホークのようなEランク程度、ハイエルフ兄妹はハク曰くAランク、残りExランクの3分割だ。
このために、D~Bランクの戦いがホークにとっては未知のものとなっている。なんだかんだで道中の共同戦闘も皆無だったために、覗き見と言う形になるが情報収集したいのが実情だ。
空からモニタ越しに見た彼の戦闘スタイルは、偶然にもリュックと似ている。シビックはリュックと違って非常に小さな盾を使っているものの、攻撃方法は細長い剣によるものだ。戦闘スタイルもパワータイプではなく、リュック同様にテクニックと呼べる分類である。
相手はシビックと同等ランクのオークであり、見た目における対格差では不利である。しかし剣を使って敵の攻撃を受け流し、受け流しの際の力を使って剣筋の速度を高めて攻撃している。狙いも攻撃の通りにくい胴体ではなく隙だらけの手を狙っており、骨を断つまではいかずとも肉を切って致命傷を与えていた。
同時に襲い掛かってくるゴブリンの2匹が厄介であるものの、立ち位置を工夫することで小楯を持つ左側に寄せている。そのために単独でも攻撃と防御を同時にこなせており、危うい点は見受けられない。
Aランク相当のリュックと違う点は、一撃の速さと身のこなしだ。シビックが一撃を入れている間に、リュックならば3~4回は攻撃できている。一撃単位で見れば驚くほど威力の差は無いのだが、回数の差は歴然である。
そのような感じでホークの左肩の位置に顔を置いて解説するのは、近接戦闘のプロフェッショナルであるハクだ。彼女の説明に小さく頷きながら同意しているリュックは、内心嬉しそうな空気を振りまいている。やや冷たい目で見つめる妹の視線は、視界に入らないようだ。
「似たようなタイプのBランクなら2回攻撃できるんだろうな」と別の考察に耽るホーク達と共に、一行は観察を続けるのであった。
戦闘観察も終了すると、ホークは別の話題を取り出した。これから戻るティーダの町における、ハクの立ち回りだ。
彼女は元王族かつ剣を用いた近接戦闘においては最強、かつ元勇者に挑んだ軍団と色々と名高いために、良くも悪くも有名である。姿は知らないものの特徴的な容姿の特徴を知っている人物も多いために、各国の使者などが集まっている町では正体がバレる可能性もある。ホールフ救出後のタスクフォース8492は表立った活動を行っていないため、今のところは問題ない。
彼女を知る者の中には他人の空似と判断する人物も居るだろうが、ホークとしては「近いうちにバレるんじゃないか」というのが本音となっている。その時はトンズラと以前は考えていたものの、今となっては彼女も元王族であることを嫌がっていないようであるし、ケースバイケースでいくと説明を行っていた。
そもそもにおいて、今回の状況はイレギュラーに近い状態が連続している。ホールフ救出の件がまさか戦闘機の戦果となり、結果として「鳥が出た」と話題になったことは完全にホークの想定外な案件だ。噂とは恐ろしいものであり、全員がこれを実感している。
「ですが総帥、ハクさんが王族と知っていたら、流石に突っかかって来ないんじゃないですか?」
「下手したらフーガ国と戦争勃発だろうから鉄砲玉みたいな奴が突っかかってくることは想定してないけど、その時は防衛力の大義名分執行して武力行使で。繰り返すけど、あくまでバレた時、ね。」
「了解です。」
ホークはその他必要な情報を馬車を操るリールの後ろで集めながら、何かしらの考えを練っている。彼女と会話を行い、時たま手を口に当てる動作をして悩む彼の熱を、馬車の走行風と合わさった微風が冷ましている。
このような空気を作られては、ハクやマクミランと言えどホークに口を開くのは無粋である。一行はそんな彼を邪魔しないよう、静かに各々の対応を協議するのであった。
そんな彼等を乗せた馬車はティーダの町西門200mほどに近づき、やがて門兵が馬車の接近に気づいた。馬車の横を歩くヴォルグ夫妻は、特定のパーティーメンバーの特徴となっている。是非はさておき平和な町を象徴するかのように町人と話をしながら警備をしていた門兵は、町人を帰すと仲間の一人を連絡に行かせて対処することとなった。
距離的に、既に80mと言ったところ。すっかり町の有名人になった彼等を出迎えるということで、門兵は待ちきれずに声を発してしまう。
「間違いないタスクフォース8492だ、帰ってきた!お~い!」
「お茶ウーワ ウーヮ ゥーヮ……。」
相変わらずこの世界の住人に分からないネタを呟くディムースに対し、ホークの手刀とマクミランのエルボーが同時に炸裂している。手刀の影響で身体の位置がズレたのか、強めに放たれたエルボーが「良い具合」に決まっているようだ。戦闘服着用とはいえ、痛いものは痛い。人体急所とはそういうものだ。
KOされたディムースを放置してホークたち一行も馬車から降り、周囲を警戒しながら門へと近づいていく。彼曰くドッグタグを門兵に見せ、一行はティーダの町へと戻ってきた。
昼過ぎということで人は疎らであり、例の翼竜騎士達も「霧の盗賊団が捕らえられた」という極秘情報に釣られて納屋へと足を運んでいる。それを知らない他の国の使者に関してもEランク冒険者パーティーには興味がなく、噂を聞いても「ふーん」程度に流している始末だ。
念のためにハクだけは馬車の中に隠れているために、彼女に関しても問題ない。一行は寄り道することなく、真っ直ぐと冒険者ギルドに到着した。
ギルドで報酬を受け取ると、馬ともここでお別れである。何気に待遇が良かったために今となっては惜しい感情が芽生えてしまう2頭は、馬らしく正面を向きつつ、右側を去り行く集団の後ろ姿を目で追うのであった。
左目では、もう1つの対象。馬車に残されていることを忘れられている、ネタに走る約一名の残骸を眺めながら。
ランクE冒険者の旅路でした、これにて6章終了です。次章、戦闘パートが多々入る予定です。