18話 隣町にて小休止
【視点:3人称】
往路とは違う道を進むホークたちは、途中で2回ほど魔物と交戦することとなる。盗賊を始末した時の血に誘われて、付近の活動が活発になっているのだ。
しかしながら現れたのはDランク程度であり、障害にすらなりはしない。グローバルホークによる1㎞四方の早期警戒とフェンリル王夫妻の近接警戒の布陣は隙が無く、非常に余裕をもって事態の処理に当たれていた。
夕方になるにつれて空に陰りが見え始め、視界が消える時間も早くなることが予測されていた。そのために馬にやや無理をさせて隣町への道を急いでおり、なんとか日が沈む直前に門の前へと到着することとなった。
予測通りに物資の検閲が行われたものの、ホークの予想通り何もなく無事に終了している。盗賊の仲間内の可能性があったティナの町とは違うものの念のためにタスクフォース000を同行させており、ネコババされる心配も皆無となっていた。
ちなみにヴォルグとハクレンの2名に向けられる目が恐怖と驚きだけだったのは、セオリー通りである。
冒険者ギルドに馬と物資を預けると、一行は礼にて迎えられる。どうやらホーク達がハントしたラーフキャトルの一部がこの町にも届いており、タスクフォース8492の名は知れているようだ。
宿までの道を案内した職員と別れると、それぞれの部屋へと招かれる。この町も2-3日前まではティーダの町への移動ラッシュの通り道となっており、臨時の宿が使用できる状況であった。そのために、藁こそ無いがヴォルグ夫妻の部屋も問題ない。
「わっ、ほんとに降ってきた。」
時刻としては、20時に差し掛かったころ。タスクフォース8492一行が宿にて遅めの食事を取っていると、雨音が木製の屋根を叩きつける音が瞬時に大きくなって部屋に響いた。思わず未来予知ならぬ天気予報の感想を口に出してしまったリールは、ハッとして手で押さえた。拍子に口のソースが手についてしまい軽く戦場になるも、周囲からすれば和やかな光景である。
雨に関しては勢いがあったのは最初の1時間程度で、それを境に雨脚は弱まった。しかし小雨とは程遠く降り続いていることに変わりはないようで、道行く人も全くいなくなっている状態である。
翌日の路面状況としては、おおむねホークの予測通りである。踏み固められた街中はさほど問題がないものの、隣町へ続く道は非常にぬかるんでいる。人が歩く分には問題はなさそうだが、馬車となると走行は不可能だろう。
出社時間となった太陽が大地を乾燥させているものの、午前中いっぱいは怪しい気配がある。タスクフォース8492は、予定通りに午後の出発予定となっていた。そのために起床時間も遅く設定されており、体力の回復もバッチリである。
「んー、どうするかな。距離的には確実に野宿を挟むのよね。それぐらいならここでもう一泊して、1日で済ませちゃった方がいいよなぁ……。」
「難しいところですね、マスター。」
とはいえ、いつか目は覚めるものである。なんだかんだで夜が明けてすぐ起床したホークはハクと向き合って自室の椅子に腰かけており、共に机に肘をついてダラけている。二人の間に地図を広げながらコーンポタージュを嗜みつつ、どうしたものかと口に手を当てて悩んでいた。
「ちなみにですが、どのあたりでの一泊となるのでしょう?」
「この町からティーダの町までは、ウェイポイントが4つ設定されているんだ。ここと、ここと、ここ。最後にティーダの町で計4つ。その3つ目、チャーリーだね。」
「むっ、かなり距離がございますね……。」
地図を指さし、ホークはハクの質問に回答した。地図上で見ても明らかに離れた距離にあるため、彼女も本日中に到着することは諦めた表情を見せていた。
「もう一泊となると、また卵焼き味付け戦争が起こるのか。」
「醤油です!」
「塩―――って、決着つかないからやめとこうか。」
「……おっしゃる通りで。」
二人して笑いながら、のんびりとした時間が過ぎてゆく。本人に尋ねると「くだらない話」と一蹴されるような内容だが、このような話は仲を深めるために必要な内容だ。
時刻的には8時が設定されていた集合時間に、誰一人遅れることなく到着した。「そういえば」と思い出したホークが就寝前に小型の懐中時計を各々に配っており、これにより「夜明けに集合」などのアバウトな内容を回避できている。就寝前に配って起床後には回収しているためにリュックたちも扱いやすいシステムになっている。
例によってマールとリールは動作原理などに興味津々だったものの分解するわけにもいかず、一晩経っても持ち上げて上下左右から眺めていた。回収するまで続いたそんな光景もまた、穏やかな光景を示す日常となっている。
ホークが出発の延期とその理由を告げると、全員が同意の返答を行った。朝食と同時にホークが店主に確認を取るも、一泊の延長程度は問題が無いようである。
せっかくなので何か依頼がないかと冒険者ギルドへ足を運ぶと、簡易的な採取依頼が表示されていた。Fランク向けながらも実績を積めるものであり、さほど時間を要しない内容だった。「ついで」に行う内容としては、ピッタリである。
本日の予定は採取依頼ついでに周囲の散策と、状況が合えば互いの演習にしようということで、昼前に行動が開始された。一行は門をくぐり、町の南にある採取予定地点へと足を向ける。地面はほぼ乾いており人が歩く分には問題がなく、明日の運送に差支えは無いだろう。
その採取もすぐに終わり、ティーダの町でも行っていたマクミラン一行vsハクの演習が開始されている。リーシャも変わらず射撃の練習で、今回はホークもP320で同じ訓練を行っていた。
馬車上でのやり取りがあった後日なのだが、二人にオカシな空気は見られない。互いにエースの背中を追うために、内容こそ違えど一心不乱に射撃の訓練を行っている。
ちなみにホークの射撃能力で言えば、距離30mにおいてP320ならばヘソより上の命中率は100%。どこぞのヘッショ100%を叩き出すビューティーフォーの人からすれば見劣りするが、近距離戦闘においては十分に実戦で使える力を持っている。
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各々の演習も終わり、昼食も取ってそよ風を浴びていた頃。偵察班のUAVに、ホーク達の元へと走ってくる少年3名の姿が捕らえられた。全く知らない相手であり、迫ってくる理由も思いついていない。
こうなると、ホークは非常に悩ましい決断に迫られる。子供相手に警戒配備や戦闘配備を行うか、はたまた子供ということで無視するか。難しいものの対極の選択を迫られることを考え付いた一行は、彼の選択を待っていた。
「方位0-2-0よりアンノウン集団が接近中。総員、戦闘配備。ただし最初は、相手に静止するよう呼びかける。」
出されたのは、パーティーメンバーを守り生き残るための選択。相手の年齢・性別・種族・階級の全ては関係ない。自分たちが知らない相手が迫ってくるならば、戦う覚悟でもって出迎える。
戦闘態勢で出迎えられたことに困惑した幼さが残る少年たちの問いに、ホークはこのように回答していた。そのために、少年一行は自己紹介を行うこととなる。
パーティー名、クローケン。英語にも該当する語句は無く何の意味があるのかはホーク達も不明だが、13~15歳の少年はそう名乗った。
ホーク達が今居るティルの町を拠点とするEランク冒険者パーティーであり、年齢のために魔物や盗賊との戦いは禁じられている。それでもEランクなのは、幼少のころから続けてきた採取活動をギルドが評価したためだ。
その他の活動としては、この町にやってきた冒険者の案内などだ。活気の中にも幼さが残り愛嬌も良いために、一部の女性冒険者の間では定期的にティルの町へ訪れる者が居る程である。
また、子供にランクアップという大きなご褒美を与えればやる気が生まれることも事実である。その裏に無鉄砲という危うさが伴うことを理解しているかまではホークの知ったところではないが、とりあえず判明したことが1つある。
「そうなると、我々の先輩か。」
「そうだ!!」
えっへんと胸を張る3人は、文字通り鼻高々。とはいえ嫌みの類は一切なく何かしら指示をしてくるわけでも無いために、タスクフォース8492の面々は「若いねぇ」と感じており和やかな空気である。
そのうちの誰かが「先輩、決まりとか教えてくださいっす!」なんてノリノリの言葉を返すと、3人は更に鼻高々。むさくるしいオッサン相手に中学生ぐらいの少年が講義を始めてしまっているのだが、あのような発言が出たことには理由がある。
日が浅いために、冒険者に関する情報をホークが必要としていると、隊員の一人が察したためだ。ホーク本人が発言するわけにもいかないために、遊びのノリでボールを投げたのである。
現に文字通り子供を相手にするように接する隊員の話から外れている彼は戦闘中の目付きそのもので話を聞いており、重要な内容を聞き落とさないよう神経を集中させていた。そんな表情を見て「相変わらずですね」と内心思って視線を交わす女性陣だが、こういう行為が彼の強さの元なのだとも再認識していた。
結果からすれば特に重要な情報もなく、タスクフォース8492のリーダーを問われてホークが答えていた。彼の予想通りに「え、この人?」的なオーラが出たものの、それもすぐさま消滅している。
そのなかでジョブの話が出ていたのだが、魔物を使役して戦うテイマーと答えたホークの回答で、なぜか少年一行の目が光っていた。
「すげぇ、珍しいっすね。なぁ、俺らが知る中で2番目に強いテイマーなんじゃないか?」
「そうだな、間違いないと思う。」
「うん、そうだそうだ。って言っても、有名なテイマーが一人しか居ないんだけど。」
3人はワイワイと盛り上がっているのだが、ここでホークのセンサーが反応する。ホワイトウルフを連れている彼より強い人物がいるということだが、どのような冒険者なのか問いを投げていた。
「えーっと……そうだ、ニックっていうExランクの冒険者!めったに依頼を行わないのとちょっと変わっているらしいんだけど、とにかく強いって噂っすね!」
「ほぅ、特徴は?」
「体格的にはホークさんより少し大きいぐらいかな。金髪で容姿も良くて金持ちで女も連れていて、もう男の欲しいもの全部持っちゃってるって感じっす!あ、でも連れている魔物は不明ですね。」
なるほどねと呟くホークだが、今のところ接点がないためにアウトオブ眼中の様子である。話ついでにテイマーの認知度について聞いてみたものの、やはりジョブとしての絶対数が少ない上に弱い部類というのが一般世間の認識であり、ニック以外には有名な人物も居なかったようだ。結果として、ホワイトウルフを連れるホークが彼等の中でナンバー2という立ち位置になっている。
そのまま他愛もない話で交流を含めると少年チームの採取クエストを手伝い、一行は冒険者ギルドへと戻るのであった。