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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第6章 ランク:E
125/205

15話 テンプレの中の狙撃主

【視点:3人称】

「さて、作戦の大筋を説明する。」



再び馬車に乗り込んで歩みが進められたタイミングで、ホークが概要を説明した。わざと歩みを遅らせて後続の馬車を接近させ、襲撃が予測される森に入ったところでルート変更。馬車を隠して丘を登り、狙撃ポイントに就く手筈となっている。

後続の馬車とは、ギルド職員が説明していた隣国からの馬車である。それほどの距離をかけて地方の町へ来るならば護衛もしっかりしているだろうから簡単には倒されない、とホークは判断していた。加えて、油断により相手側の偵察が「ガバガバ」なことも作戦実行の判断材料としている。


現にホークたちがポイント・アルファを通過してから徐々に襲撃部隊が集まっているが、道中への見張りは皆無である。この世界では地方ほど道そのものの整備が乏しく、道路以外となると荒れ放題の野山を駆け抜けなければならない。そのために、偵察という行動は非常にコストのかかる行為だ。アサシンのような隠密者でも、傍から見れば軽々とやってのけるのだが相当な苦労を背負っているのが実情となっている。

今回の盗賊にもそのセオリーが影響を与えており、一本道だからということで彼等は道中の偵察を配置していない。獲物の前には馬車が居なかったこともあり、最初に訪れる者が獲物と判断していたのだ。獲物は2台連なる馬車なだけに、判別も容易であると考えている。



「報告します。後方馬車、距離4000まで接近。我々の付近距離2000にアンノウン無し、道中にも敵影は見当たりません。」

「了解。総員、作戦開始だ。」



不安に思う馬にフェンリル王二名が睨みをきかせ、林の中へと進んでいく。もちろん馬車故に進路は限定され速度は微速前進もいいところであり、元居た道では後続の馬車が先に進む格好となった。

ホーク達は丘へ登る手前50m程に馬車を置き、フェンリル王2名を護衛につけた。歩兵一行が小高い丘に上ってから2分程が経過して後ろの馬車が襲撃予定ポイントに差し掛かるのは、緻密な計算の成す技である。


しかしながら、この位置からでの目視は全くの不可能である。距離にして600mもある上に地上からの視点では高さ10m程の木々が視界を邪魔をするため、無理もない話だ。

それでも現場では自然と状況は作られることになり、困惑の中で睨み合いが開始されている。偵察部隊もUAVにて、そんな状況を確認していた。



「総帥、予定進路の前方600mで動きあり。いかにも盗賊ですという集団が、馬車の前に立ち塞がっております。」

「状況からするに自分たちを追い抜いた馬車だろうね、敵の数は?」

「UAVで確認できるのは18名、高低差は50m下方。総帥、MAVによる詳細な偵察を提案します。」

「最良だろう、気付かれぬよう実行してくれ。」

「了解、MAVを展開します。おい。」

「OK、離陸スタンバイ。」



MAVと呼ばれるのは、MicroAirVehicleと呼ばれるUAVだ。8492が使用しているMAVは大きさだけでは1段下のNAV(NanoAirVehicle)に匹敵するのだが、NAVは定義上で最大離陸重量が10グラム以下となっており、カメラ以外は何も搭載できない。実質的に、ドローンと呼ばれるものに制御システムを搭載したものがこの類だ。

ディムースの班が展開したMAVには、IRセンサーを筆頭に歩兵スキャンに特化したシステムが積まれている。そのため動作音がやや大きいものの、50mも離れれば全く聞こえない程度の音量で、物理サイズも小さいために発見される確率は非常に低い。


偵察部隊はモニタとにらめっこを行うものの、MAVの離陸後は1分も経たずに結果が出たようだ。熱源反応も含めた偵察結果は敵数18名で、うち2名が木々に隠れている。被害者は4名であり、馬車の中に数名が隠れているようだ。

位置情報が携帯端末に表示され、タスクフォース8492の全員が、盗賊、及びソレと対峙している集団の位置を把握した。そして偵察部隊はカメラをズームし、映像をホークに確認させる。



「ホント見るからに盗賊ですって格好だな……露骨な骸骨マークのバンダナ、ティーダの街で奴と話をしていた連中もしくは仲間か。って話が逸れた。マールとリール、今は明るいけれど奴等は分かる?」

「失礼します。……胸のあたりを鮮明にできますか?……これは霧の盗賊団!?え、Aランクの人員が複数居ると言われている強力な盗賊団です!」

「ええ、私もその盗賊と判断します。」



中腰のホークの両脇から画面を覗き込んだ姉妹の意見は一致しており、まさかの相手に開口していた。同時に「なんでこの人たちの相手って毎回Aランク以上なの」と疑問も浮かぶが、それどころの話ではないために脳内でもみ消した。

チラっと自身の主を横目見るも、相変わらずの涼しげな表情で焦りは無い。通常ならば慌てふためくか激を飛ばすのが司令官のセオリーであるため、このような反応を見せる人物は、彼女達のデータに存在していない。


故に、その人物がどのような反応を見せるか興味津々の眼差しで見つめている。ハクもそれに気づいているものの、ヨコシマな目線ではないのとホークの集中力を削がないために口を出さないで居た。



「……なるほど。団の規模は?」

「不明です。本拠地はシルビア王国の東側と言われておりますが、どの国も詳しい情報を掴めておりません。判明しているのは、賊の死体から得た紋様のみ。霧と言う呼び名は、そこからきております。」

「付け加えます総帥様。霧の盗賊団というのは俗称であり、本当の団体名すら分かりません。」

「ステルスが主体か、面倒だな。」

「総帥、対象及びこちらの付近に潜伏反応はありません。」



偵察兵は、自分自身を横目見たホークが必要としていると思われる項目をすぐさま伝える。この点は、ホークが常に求めている、上から下へ流れる阿吽の呼吸が成す業だ。



「総帥様、敵の名は不明ですが実力は確かです。攻撃には、細心の注意をお願いします。」

「理解したリール。ところで……私達が居る現在地点からの攻撃で、奴等がこちらに気づく可能性は?」



一体、何を言い出すのか。目標との距離は、600mもある。もちろん目視などは不可能であり、こうして相手の様子を知ることができているのはI.S.A.F.8492が持っている摩訶不思議な装備の恩恵だ。

当然、気づかないのは当たり前のことだと姉妹は思う。とはいえ、それでも質問は質問である。それが己が仕える人物から発信されている以上、当たり前のことでも答えるほかに道は無い。



「いっ、いえ、離れすぎています。古代魔法に近い、屈指の高レベルの探知魔法でも捕らえることは不可能だと思います。」

「そうか。ならば、こちらからの攻撃には気づかないか。」

「攻撃!?この距離からですか!?」



リールは思わず声を大きくするも、姉のマールの手によって物理的に口を塞がれる。興奮中に口をふさがれたために息苦しく腕の中でモゴモゴと動く様子は、まるでゲージから脱走中に捕らえられた小動物のような状態だ。

集中力が増しており口調と表情が厳しくなっていたホークや周囲一行も、このやりとりで表情が緩む。「そろそろ解放してあげて」とホークが言うと、リールは深く呼吸した。



「さて、気合を改めて。ダンジョンでゴブリンを相手していた時は至近距離だったからね、確かに方法を知らないか。ではI.S.A.F.8492のエース二人に、神業に匹敵する狙撃を見せてもらおう。長距離戦闘配備、マクミランとディムースは攻撃位置に付け。」



「了解」とだけ返事を行い、二名はそれぞれの獲物のコッキング動作を行った。通常の兵士ならば狙撃地点で腹這いになり、銃身の先に脚を取り付け地面に設置し、重量や衝撃を地面に逃がすことがセオリーだ。しかし彼等は、そんなことは行わない。

5-10mほど移動してスコープを覗き込むと、僅かに腰を屈め狙撃体制を整える。二人は似たような体制となり、置物のごとく精密さで銃口を固定している。総帥であるホーク直々の命令だけあって、普段はお気楽なディムースも目の色を変えており、表情は真剣そのものだ。


互いの愛銃は、M82A3とM14EBR-RI。それぞれ1kmクラスの狙撃を余裕でこなせる、長距離攻撃向けのカスタマイズが施されたセミオート式のスナイパーライフルだ。万単位の人数が居るタスクフォース8492において、それぞれ一人しか採用していない銃器でもある。

その理由は至極単純であり、「その銃が好きだから」という一点に集約される。現に他の狙撃部隊は実績の高いHK416・417後続のG28を派生させたG28Eをベースとして更にカスタマイズされたM110Aを採用しており、アタッチメントこそ個性はあれど基本としてはM110Aで統一されている。どうやらHK417も今後はG28にするかの議論が上がっているようだが、現段階では検討中の話である。


もちろん、大半のスペックにおいてはM110AがM14EBRを上回る。流石にM82となると土俵が違うため比較対象にはならないが、もちろんM82以上のスペックを持つ対物ライフルも存在する。


しかしどれだけカタログスペックが良かったとしても、これらを扱うモノは生命だ。全くの同一知能を持つコンピュータならば話は別だが、「性能を発揮できるかどうか」という内容には信頼度が付きまとう。

相手はモノだが、長年使用し続けた故に癖や長所短所を完璧に把握できている、己の愛銃に対する信頼度合い。加えて、そんな相棒の実力を発揮するために共に鍛え上げた自身の腕前。絶え間ない努力に裏付けされた、絶対的な自信だ。


陸でも空でも海でも言える話だが、この2つが合わさる時、常識は通用しなくなる。鬼に金棒とはよく言う話だが、鬼がM82を持ったところで豚に真珠となるだろう。

手に馴染まない武器というのは、ここ一番の舞台において信頼を乗せきれない。金棒だからこそ鬼が持つことで、神業と呼ばれるような内容ですら平然とやってのける鬼神に仕上がるわけだ。



鬼神の二人に添うようにして観測手が測定を行い、結果をそれぞれに伝達する。それぞれの愛銃が相棒ならば、観測手は右腕的な存在だ。

その情報を基に極微量の調整は行われたものの、それは即ち、この距離ならば観測手無しで調整可能ということだ。この二人ならば、600mも至近距離の分類なのである。他の隊員やリュック達は偵察映像を覗き込み、盗賊の集団を注視している。


木々のざわめきの中に立つ、2つの像。実際には人間であり生命活動も行っているのだが、やや腰を屈めているにも拘わらず彫刻と見間違うかのような安定性を見せており、己の主からの攻撃指示を待っている。



「攻撃内容を指示させてもらおう。目標は敵盗賊集団、ヘッドショットで確実に仕留めろ。騎士達が情報を聞き出すために弱そうな奴を一人残せ、逃げ出すならば足を掠めろ。手当て程度で生き残るならば、怪我の状態は構わん。」

「了解。聞いたなディムース、お前は左後ろからやれ。」

「了解です。大尉は、右後ろからですね。」

「その通りだ。距離621、風向き・射線共に問題無し。総帥、いつでも行けます。」

「一応ながら正当防衛としよう、しかし後手に回れば厄介だ。MAVで得ている均衡度合ならば、剣を抜いてもしばらく睨みあうだろう。盗賊の抜刀確認後、直ちに撃て。」



ティナの町の時とは違って銃弾を使うものの、ここは天下の大自然真っ只中。当該対立者を除けば彼等の周囲に人影もなく、死体は魔物の類が片付けるために問題ない。懸念事項がすべて取り除かれた状態で、それぞれの銃身に装填された弾丸は発射の時を待っていた。


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