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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第6章 ランク:E
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14話 鷹の爪の上

【視点:3人称】

ティーダの町の時と同じく、日が昇り始める少し前。明るさ的には夜よりも圧倒的に光があり、通常の行動ならばナイトビジョン装備無しでも全く問題のない程度だ。タスクフォース8492は少しだけ寒気が残る中、院長回診よろしく冒険者ギルドへと到着する。

本来この時間帯には冒険者ギルドは開かれていないのだが、本日は特別となっている。この度において重要な取引をしているタスクフォース8492が日の出と共に出発するために、数名の職員で臨時開業している状態だ。


職員から物資の説明を受けるホーク達だが、今回は職員の他に別の人物がいる。決して身なりが綺麗とはいえない、30代と思わしき男二人だ。目線的にも明らかに一行を見下しており、説明中のギルド職員も、一波乱起こらないかと不安にしていた。

そして、その不安は的中してしまう。説明が終了して物資のところに移動する際、二人組がホークにつっかかってきたのである。マールとリールが心配していた、Eランクでありながら活躍している点に対する妬みの一種だ。


もちろんホークもこの程度のことは想定にしており、一応最初は論理にて。手を出してくれば問答無用でねじ伏せる想定でおり、ハクやリュック達も近接戦闘に備えてスタンバイしていた。


しかしながら、結果としては不要に終わる。二人組がつっかかってきて十数秒後、3人の似たような男がドカドカと入ってきて、二人組を威圧しはじめたのだ。二人組は3人を知っているのか終始おとなしく、背中を突き飛ばされると逃げるようにして出て行った。

事が済んでからギルド職員が説明した内容は、3人組はC~Dランクの冒険者。正規にパーティーを組んではいないが、いつもトリオで活動しているとのことだ。別にホークが訪ねていないにも拘わらず説明を始めるあたり、冒険者を統括するギルドの一員として、先ほどの二人の対応を詫びているのだろう。



「……それでは、東門出口にて馬車を受け取った時より依頼内容を開始する。」



一連のやり取りを見聞きしていたホークは、感情のない表情で呟くと背を向ける。道中で同じことが起こらないかと心配したギルド職員は、思わず背中に声をかけた。



「あ、あの、このあとしばらくして隣国からの馬車が出ますので、ご一緒されてはどうでしょう……?」

「いらねぇいらねぇ。俺達が居れば大丈夫だって。」



受付嬢の肩を叩き、トリオはホーク達の後をついていく。木製ドアの軋む音が静かな室内に木霊し、彼等の姿と共に朝焼けが始まる中へと消えていった。


直接的な戦闘になっても人畜無害なトリオは、相変わらず一行の後ろにつけている。冒険者ギルドの外に居たヴォルグ夫妻が合流して以降は一定の距離を取り、馬小屋のエリアへとやってきた。

流石に太陽が顔を出そうとしている時間だけあって、職員の数も本当に最小限となっている。ちょうど馬車が繋がれたタイミングであり、いつでも出発できる状態となっていた。


馬車を受け取ると、職員たちは職場へと戻っていく。「荷物を渡したら相手の責任」とはホークも言っていた内容だが、朝が早いこともあって職員の対応も中々に味気ないものである。「ホワイトウルフがいるんだから大丈夫だろう」などのイージーな感情も、そのような態度を取らせている要因の1つだ。

特に何も注意事項は無く、ホーク達は来た時と同じ東門を潜っていく。見送る門兵は昨夜とは別人の様子だが、その時の出来事を知っているのか規律ある態度でタスクフォース8492を送り出した。


門から出て間もないために馬車に乗ることは無く、全員が徒歩で歩みを進めている。問題のトリオは相変わらず、金魚の糞の如く後方についていた。

トリオのうちのリーダー格が思い出したかのように大げさに声を発したのは、それから十数秒したタイミング。門兵には僅かにしか聞き取れない段階である。



「あ、いっけね。すまん、俺達はちょっと用事済ませてから行くわ。馬を使って追いつくから、先に行っててくれ。」

「了解した。」



ホークの回答を聞くと、3名はそそくさと街中へ消えていく。用事も何も店すら開いていない時間なのだが、自分たちがおかしな言動をしているとは気づいていないようである。



「……やれやれ、ワザトやってんじゃないかってぐらいに露骨だな。なんでギルドが朝っぱらからやってるのを知っているかも疑問だが、自分達が辿る道も聞かずによくやるよ。奴等、昨日からマークしてた連中かな?」

「イエッサ、あからさまに交代で見張っていましたね。今回の接触も探りの一環でしょう。さっきの2名と合流するようですね、本当やれやれです。」



去っていく後ろ姿を目で追う一行だが、互いの会話は呑気な口調そのものだ。行っていることが本当ならばタスクフォースの行動パターンが露呈しているために即急に対策を打たねばならない状況であるが、全員がホークの思考に信頼を置いているために、そのような不安は口に出さない。

しかし、信頼と興味は話が別。いったいどのような考えでいるのか気になって仕方ない一行は、興味ありげにホークの顔へ目線を向けていた。彼もそれに気づき、歩きながら内容を話し始める。



「往路の監視がなかったことを考慮すると、当初の予想通り帰路で襲うことを考えているはずだ。恐らく、我々が隣町を経由すると考えている。そうなれば道は一本だ、奇襲の作戦も練りやすい。ウェイポイント・アルファが隣町へ行くかどうかの岐路だけど、そこまでも一本道だから監視は緩いんじゃないかな。無いかもしれないし。」

「総帥様、ウェイポイント・アルファまでに奇襲が来ることは無いのでしょうか?」



ふと気になり、リーシャが心配した内容を質問した。斜め前本横で馬を操っていたマールは、以前にホークに教えていた歩兵戦術を思い出し回答し、耳と尻尾がピンと立っていた。

わかりやすい表現に思わず吹き出しそうになったホークは、マールの心境を読み取っている。「わかったみたいだね」と一言入れた上で、マールに答えを求めていた。



「で、では失礼して。リーシャ様、今からしばらくは林が続きますが、ティナの町に近すぎるために伏兵が斥候に探知される恐れがあります。林はすぐに終わり、ウェイポイント・アルファまでは草原です。ここでは伏兵を隠せませんので、ホワイトウルフが居る相手に奇襲は難しいでしょう。」

「正解、見事な想定だ。」

「総帥様、何か考慮すべき点は他にございますか?」



ディムースたちも拍手で祝福するも、当の本人は貪欲である。己の功績に酔うことなく、その道のエースに問いを投げていた。



「うーん、そうだね。今って風が右斜め前から吹いてると思うけど、これって草原に出た時、森から吹いてくる風になるのよね。そうなるとホワイトウルフに臭いを探知されちゃうから、猶更伏兵の確率は低いかな。魔法とかでにおいを消せたらその限りじゃないだろうけど、道が分岐した先の2か所に見張りやすい場所があるから、そこで見張ってるんじゃないかな。」



この言葉を聞き、「そういえば」とハッとしているのは偵察兵だ。動物相手では風向きが重要になることは百も承知だが、ホークが言った内容までは考えが回っていなかったようである。

そして彼から「多分ココかココ。分岐点はこの付近の丘から見てるんじゃないかな」という位置を伝えられ、歩兵スキャンを実行する。すると指定された位置に、潜伏している人型の反応が存在した。偵察結果をホークに伝えるとヴォルグに跨り、地図とのにらめっこが開始された。


時間にして分帰路から30分先に敵の斥候が居るために、その先での奇襲場所を想定しているのである。結果として3時間ほどの林の中が怪しいとの結論になり、彼はすぐさま指示を飛ばすこととなった。

そう決断して周囲を見るも、神妙な顔をしているのは自身の奥様。指示を飛ばすタイミングの前だったために、彼はその心内を問うことにした。



「ん?なんかあった、ハク?」

「……ひじょーうにお言葉と言いますか不謹慎な発言になるのですが、綿密な作戦を練ったにも拘わらず手のひらで踊らされている敵の心境を考えると、前衛職としては同情できてしまうと言いますか……。」

「あ、ハクさんそれ大丈夫ですよ。俺達いつも思ってますから。」



珍しく逆ハの字眉になりかねない抜けた表情で発言したハクだが、すかさずディムースから掩護が入る。そのあとに彼の部下にも視線を向けているが、全員が面白がって頷いていた。とはいえ、本心であることにも違いは無い。



「ちなみにですが、総帥が盗賊だったらどうしていたのですか?」



偵察兵から湧き出る、誰もが思ってはいたものの聞けなかった内容。これを聞けるとすれば、ハクかマクミランぐらいのものだろう。言ってから「しまった」と内心感じて後悔しかけた兵士だが、ホークの表情は気楽なものである。



「んー、自分だったらギルドの職員を買収か家族でも拉致って脅すかな。Fランク時代から甚だ不可解だったんだけどギルドと冒険者で物の受け渡しに関して書類の1つもないから、ギルドとしては渡したって言っちゃえばそれまででしょ。直接パーティーを相手にすることなんてないさ。そんでもって、Eランクパーティーと冒険者ギルド職員、世間がどっちを信用するかは分かりやすいよね?」



サラっと放たれるえげつない作戦に、一部のメンツは冷汗を流していた。言われてみれば成功率が非常に高い内容のために、笑うに笑えない状況なのである。実際に使われる場合は書類と言うよりは割符的なシステムなのだが、どちらにせよホークが言った内容は変わらない。

ギルドと冒険者がある程度の「信頼関係」で結ばれているがゆえの弱点を突いた、彼らしい作戦でもある。言われて改めて「書類の1枚ぐらい書いてもらうべきかな」と考えるホークだが、話が脱線していたことを思い出した。お気楽な空気も、その一言でスイッチすることとなる。



「いかんいかん。さて、作戦を説明するよ。」

「「「ハッ。」」」

「進路は敵の思惑通り、隣町を経由するルートでいこう。ウェイポイント・アルファ以降は一本道だけど、ウェイポイント・ブラボー以降を3~4箇所程度で再設定してくれ。襲撃予定ポイントはウェイポイント・キングとし、各ポイントの到着時間もだ。」

「イエッサ。」

「行動としては、敵の観測予定地点通過後に後ろから来る隣国の馬車をやりすごす。ようは替え玉だね。馬車が襲われたら加勢して、襲われなかったら慌てたころに奇襲をかけてやろうと思う。」



詳細な内容は現地が近づいてから、ということで内容は打ち切られた。全員が馬車に乗り込み、マクミランたちは装備や弾薬の確認などを行っている。偵察兵は相変らずモニタと睨めっこだが、今のところは平和そのものだ。往路から続く時折ホークが馬車から降りて地面をつよく踏む動作は不明なものの、何か理由あってのことだろうと全員がスルーしている。


そして時間は流れ、問題のウェイポイント・アルファへと到着する。一度馬車から降りたホーク一行が地図を確認する動作をして予定の道へと馬車を進めると、前哨戦が開始されるのであった。

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