6話 たまには羽を休めよう
【視点:3人称】
祝:エスコン7、発売本当におめでとうございます!
PC版は来月ですね、VRこないかな~
ホークたちが運送任務を始める前日、彼の予想が的中した日の昼過ぎ。
佐渡島(仮名)と第二拠点を結ぶ直線上を飛行するのは、フォーカス隊のオスプレイ6機と護衛のF-35C戦闘機5機による編隊だ。夕陽にジョブチェンジしようとしている太陽を横目に見ながら、一行は第二拠点へと向かっている。
「どうも、落ち着かないな。」
「なんだ突然。」
「どうした?」
オスプレイの後部座席で呟いたのは、ガルム0。反応する二人は、メビウス13と空軍大元帥のエドワードだ。実際の搭乗員はイエロー隊やグリフィス中隊など他にも居るものの、反応したのは二人だけである。
ガルム曰く自分が操縦していないのに空を飛んでいるのは違和感があると言いたかったようだが、これは他人の車に乗った時と同じ感覚だろう。ステアリングを握るのが当然だった者にとっては、ナビシートに座るだけで違和感が芽生える人もいる。
「わからんでもないが仕方ないだろう、モルガンでは着艦できまい。」
そもそも彼がオスプレイに乗っている大きな理由は、これである。着艦フックを備えないADFX-01モルガンでは文字通り空母に降りることができないために、仕方がないのだ。着艦できないとなると、戦闘機で第二拠点へ行くことは不可能である。以前に木から落ちた際に来た時も、同様の理由によりオスプレイで出向いている。彼等もオスプレイの操縦はできるのだが、今回はオモテナシを受ける立場であるために操縦席には座っていない。
一方でメビウスが使っているCFA-44のオリジナルには着艦フックが装備されているだが、彼も同機の後部座席、ガルムの隣に座っていた。なぜ彼も機内に居るのかというと、軽量かつ9mmパラですら貫通しかねない紙装甲が好きな彼の要望により、彼が乗るCFA-44は改造の一環でフックが取り外されていたのだ。着艦能力は無くなったものの、機体はさらに軽量に仕上がっている。
「空地無しのすし詰めではあるまいし、第二拠点にも戦闘機用の短距離滑走路でも作ったらどうだ?エドワードなら、メイトリクスあたりにも話を通しやすいだろう。」
「私もそれは考えたのだが、駐機場や整備所がスペースをとるために保留になっている。拠点としては今のところ佐渡島(仮名)があれば問題は無いうえに、艦隊のライトニングを使えば十分対応できている。総帥曰く、最強の切り札が集う巣は限界まで隠しておくもの、らしいぞ。」
それなりに反論しようと思っていた二人だが、その言葉を言われると満足感が高まり返す言葉もなくなってしまう。「航空隊から何か言われたら言っといて」と、ホークがエドワードに託していた一文、こうかは ばつぐんだ。
とはいえ、二人の姿は既に現認されてしまっている。ホークが隠したいのは二人の所在であり、つまるところが佐渡島(仮名)に拠点を構える航空隊の存在だ。艦載機も戦闘機であるために「鳥だ」と言えば信憑性があるうえに、大陸つながりにある第二拠点は、遅かれ早かれ見つかってしまうと腹をくくっている。
「で、エドワード。そんな総帥が居ないってのに、一体なんの祝賀会なんだ?」
そう、オスプレイの編隊に乗って皆が向かう目的はコレである。第二拠点で開催される、手作り感満載の祝賀会に参加するためだ。
しかしながら質問の通り、招集がかかっただけで内容までは聞いていない。大元帥であるエドワードからの招集ということで顔を出している二人だが、基本として仏頂面で感情の浮き沈みが乏しいために、このような場は極端に不向きなのだ。
「発端はメイトリクスとトージョーらしいが、総帥率いる冒険者パーティーがランクアップした記念らしい。言われてみれば本人どころか関係者全員が不在だが、毎月やっているハイエルフとの懇親会も含まれているのではないか?」
なるほどね。と二人は納得し、陸海軍らしいなと愚痴を呟く。人数が少ない空軍ではこのような催しは滅多に開催されないために、たまにはいいかと、輝きながらもやや白波残る海原を眺めるのであった。
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「ココも、随分と様変わりしたな。」
着陸寸前に空から第二拠点を見たガルムは、思ったことをポツリと呟く。言われて窓を見るメビウスだが、確かに以前と比べて様々な建物が見受けられる。同様に、生活エリアの活気もなかなかのものだ。少しずつの進歩ではあるが、町の様相を呈し初めている。
戦略上では軍事拠点という立ち位置は変わらないものの、生活エリアには食事を楽しめる店がメインに、その他娯楽エリアが幅を利かせていた。店を担当する隊員が居る時のみ開店となる場合が多いようだが、その点は仕方のないことだろう。
ヨーロッパよろしく建物がせめぎ合う様子もなく、屋外のカフェエリアも充実している。テイクアウト可能ならば、ホークの想定通りに公園で楽しむのも一興だろう。
そんな時間を楽しむのはI.S.A.F.8492の隊員だけではなく、ハイエルフや狐族も同様だ。やや慣れていない様子は見受けられるが、打ち解けているテーブルでは肘をつくなどしてリラックスしている。
飲み物に関してはコーヒーから緑茶まで選り好みしないらしく、毎度のごとく違うものを注文する傾向があるようだ。とはいえセオリー通りな部分もあり、女性には甘いものが人気となっている。男性ハイエルフは隊員のススメでブラックコーヒーに挑戦しているようだが、今のところ微糖で落ち着いている者が大半だ。
一部のハイエルフは麺類の加工製造やパンの作り方を学んでおり、そのうち店員側として職に就くことになるだろう。彼等独自のセンスが、想わぬところで開花するかもしれない。変化とは、突然としてやってくるものだ。
そんなことを考えるエース二人は、開始時刻までは海軍本部で講義を行うのが仕事である。会場は満員御礼で関係のない陸軍まで出張ってきており、鍛え上げられた身体を押し込んでスペースの争奪戦が開催されていた。
とはいえ生徒の彼等も準エース級以上であり、本業ではないガルムが船に関する基礎的なことを講義しても釈迦に説法だ。そのため彼が話す内容は、航空機から見た攻撃方法、それに対する対策である。対エース級への有効な攻撃方法など実践的な内容であり、補助講義役のメビウスも口をはさめないほどに熱弁を行っていた。
「ガルム少佐、今の点に関して質問宜しいでしょうか。」
「なんだ。」
「その攻撃パターンですと、艦隊側は各個にCIWSを用いれば対処しやすいと考えます。超音速域からミサイルを近距離発射してくる航空機に対応はしておりませんが、それでもCIWSならば比較的高い命中率を誇ります。そうなりますと、航空機側に何か手はあるのでしょうか。」
「その場合は艦艇からのミサイル発射タイミングを狙って突っ込むことが大半だ。ミサイルが至近距離にある場合、CIWSは使えないだろう?」
本来ならば味方相手でも自分の手の内は秘匿しておきたいものだが、I.S.A.F.8492のエースに限ってはブラックボックスなど存在しない。聞かれれば素直に答えるのが彼等流であり、以前ハクに質問を受けたシューター1-1が素直に回答したのも、この流儀が根底である。
「わ、分かってはいましたが、ミサイルは避ける前提ですか……。」
「スペック面でも最近の電子戦防御システムは優秀だからな、信管の作動を潰すぐらいは朝飯前だ。あとはパイロットが持つ腕次第だが……そんなことをする輩の腕が、三流であるはずがない。今後はマッハ4.0の対艦ミサイルも実戦配備されるらしいからな。敵となった場合を想定し、どのみち対策は立てねばならない。」
それは、どのような。講義を受けている全員が彼に問いたかった内容を、質問者は口にした。
全員が、どのような回答が飛んでくるのかと身構えている。とんでもないことを言われるのではないかと心配している一部の隊員には、脂汗を滲ませる者まで居る始末だ。ガルム先生の言うことが有効と分かっていても、できるかどうかとなると全くの別問題なのだ。
しかし、この場で一番の脂汗を流しているのはメビウスである。付き合いの長い彼は、ガルムがどのような回答をするかを粗方予測できてしまうのだ。
落ち着き払った態度からは、微塵も想像できない。残念ながら内容は、大抵が脳筋なのである。
「近接攻撃にしろ超音速域ミサイルにしろ、実行してくるのは戦闘機。となれば、空の連中に任せてしまえ。」
やっぱりか。とメビウスはため息をついてしまう。海軍大元帥のトージョーは平常を保っているものの、この発言は、ほとんどの者に対して「戦力外通告」と受け取られていた。
「ガルム少佐、流石に今のお言葉は」
「では問うが、君は素手でミサイルを落とせるのか?」
「なっ!?」
「いや無理だろう」と、全員の意見が心の中で一致する。当たり前のことだ。何故かしら同時に「オメガなら頑張ればできるんじゃないか?」と考えてしまうのだが、彼の扱いが可哀そうになるので、何故かしら同時に全員が心の中からその考えを抹消していた。
その一方で、彼の発言が何を意味するのかと、生徒一行は脳内で考えを巡らせる。昔から仲の良いI.S.A.F.8492だけにガルムともあろう人物が海軍に喧嘩を仕掛けるはずもなく、何か意図があるように受け取っていた。
「ならば道具を使うしかないが、現在の艦隊に当該任務をこなせる装備は存在しない。問題を無視すれば艦が沈むと言うのなら、何かしらの運用でカバーするしかないだろう。」
ガルムの言うことは、至極当然の内容だ。無粋だと考えても思ったことは隠さず話す、彼の性格が表れている。
しかしそれは、決して悪口ではない。全てを海軍で背負わずに、使えるものは遠慮せずに全てを使えという言い回しだ。もちろん「使えるモノ」というは、陸軍や空軍の戦力も当てはまる。最近は各個での任務が多かったために、I.S.A.F.8492の本質を再確認する意図も、この講義には含まれていた。
「艦隊に戦力が無い、と言っているのではない。マッハ4.0で飛んでくるミサイルやエース級の対艦攻撃に対し、100%有効な迎撃手法を備えていないと言っているだけだ。無論、君が言うような迎撃行動は最終手段として有効だが、安全マージンを大きくとるホークの考えとは程遠い。」
その言葉に、トージョーは深く頷いた。その動作でガルムと目が合い、空母を指揮する老兵は問いを投げる。
「ならば我々に必要なことは、1秒でも早く艦載機を空に上げることだろう。ところで我が艦には空軍のラーズグリーズやウォーウルフが艦載されていることが多い、彼等に責任が伸し掛かるが如何様か。」
「その通りだ。防衛できなかった艦が悪いのではない。早急に空へと上げてもらっておきながらミサイルや戦闘機を艦隊まで近づけた、俺達航空隊の責任だ。」
実はこの内容は、1週間ほど前に開催された空軍での会議にて決まった内容だ。足の速さもさることながらエース級の部隊と比較しても実力に優れる彼等が、率先してI.S.A.F.8492を守って行こうと決まったことである。ミサイルの迎撃能力で言えば、機銃でもってマッハ6.0オーバーのミサイルをも打ち抜くことができるツワモノが多数いる程だ。
戦略面だけではなく、メンタル面においても、彼等が空に居るということは非常に大きい。陸軍海軍からしてみれば、文字通りの非常に心強い内容だ。
「……時間か。ともかく危機に対しては、全軍が一致団結し乗り切ることを再認識したい。戦術に関して心配があるならば、躊躇なく大元帥クラスに投げてくれ。清聴ありがとう、講義は以上だ。」
「「「ハッ!」」」
責任の発言が出たタイミングでブザーが鳴り、終了時間となる。予定内容をすべて話し終えたガルムは空軍一行と共に、陸軍の護衛を受けて今夜の予定地点へ移動するのであった。