4話 言いがかり?
【視点:3人称】
新年あけましておめでとうございます。今年もご愛読のほど、宜しくお願い致します。
「それにしても、露骨なオモテナシでしたね。」
「そんなもんだろマクミラン。表が無いってことは、裏があるってことだ。あ、ちょっと待てソレだと裏しかないか。つまり表ってことだな。」
「表裏のゲシュタルト崩壊。」
「マスター……。」
珍しいホークのノリツッコミに反応したディムースだが、残念そうに呟かれたハクの言葉により、それ以上のボケが続かなかった。明後日の方向を向いており、俺の発言には何も言わないでくれと言いたげな状態である。
お三方が何を言っているのかワカラナイという表情のハクに対して、ホークはスマンスマンと苦笑い。言い出しっぺのホークも表なのか裏なのかが分からなくなってきていたので、これ以上話を伸ばすつもりも無いようだ。
そもそも、マクミランの言葉の本質はそこではない。あからさまにオモテナシと皮肉っているのだが、どうやら彼も、ホークと同じように違和感を覚えていたようだ。
逆に言えば、具体的に違和感を覚えていたのは2名だけのようである。「依頼内容も理由も筋が通っているために、おかしなところはないだろう。」というのが大半の見解だ。
「それにしても総帥様、どのようにして違和感に繋がったのでしょうか?」
「んー?聞いててツマラナイ、気難しい話だよ?」
それでも。と兄妹.姉妹は志願してくるので、ホークは顎に手を当てて少しの間だけ上を見る。
彼が言ったように気難しく、のーみそこねこね的な内容にしかならない話題だ。それでも要望を受けているので、考えをまとめている仕草なのだが、何かあるのかと全員の視線がそれに釣られた。
「親方、空から女の子が!」
「上にあるのは天井、そして降ってくるのはマクミランのゲンコツ。」
「ッベー、マジヤッベー。」
一行は、またしても奇麗にボケを流されてマクミランに怒られるディムースと雰囲気を楽しんでいる。その肩に重荷は無く、学校の休み時間に談笑する仲の良い友達のような雰囲気だ。
それでも、答えをもらっていないリーシャは不完全燃焼である。それに気づく一方で、あまりこのような空気を壊したくないホークは、しばらくしてから言葉を発した。
「そろそろ話を戻そうか、自分が腑に落ちない点に関してだね。依頼の内容にも関することだ、ちょっと真面目に聞いて欲しい。」
その一言で静かな湖面の如く変貌する。このあたりの切り替えは、普段の統率による賜物だ。
「せっかくだし質問形式で行こうかな。さっき賊が襲ってくる可能性が高いって聞いたと思うけど、いつ襲ってくるだろうか考えてみて欲しい。」
「総帥様。通常ですと、重要な荷物を満載している往路でしょうか。」
「その通りだリュック。でも、批判してるわけじゃないけど、それぐらいなら誰だって考えが付く。あと盗賊側だって、1日中、ましてや2日も3日も目当ての馬車相手に隠れ続けるのは合理的じゃない。自分たちが魔物に襲われる危険もある。」
「た、確かに。」
「総帥様、盗賊側もその程度は把握している、ということですね!」
小さな身体と手をビシッと伸ばして答えたリールの反応に、周囲の顔が穏やかになる。回りくどい言い方をしたホークだが、それが前提におきたかった内容だ。
彼は頷き、話を続ける。
「はは、堅苦しくなっちゃうのは自分の悪い癖だな。簡単に言うと、ティナの町の町長と盗賊が仕組んでいて、こっちの荷物を奪いに来るんじゃないかって想像してるんだ。」
「えっ!?あの町長が敵だと仰るのですか!?」
文字通り簡単に放たれた突然の発言に、兄妹姉妹を筆頭に驚きの表情が広がってゆく。夫が感じていた違和感をなんとなく察していたハクも、流石にこの推察は読み取れなかったようだ。
まったくもって、意味不明の推察である。あの会話と回答の一体どこに、この内容につながる場面があったというのか、ほとんどが理解できていない。
そしてそれぞれの脳内には、質問したい内容や異議申し立てを行いたい内容が次々と浮かんでくる。そんなことを見越していたのか、ホークは回答をつづけた。
「ここ最近の盗賊出現頻度が多いわりには死体ですら捕まっていないとなると、相当に大きな規模と情報収集能力だ。ギルドを挙げて運搬となる自分たちの情報も、当然ながら流れているはず。」
「た、確かに。」
「さて、色々気になるだろうけど次の質問だ。気づいてたっぽいマクミランに質問だけど、どんなところに違和感を覚えたのかな?」
「最初に疑ったのは総帥からの危険信号がきっかけですが、よくよく考えてみれば我々の冒険者のランクと運搬手順に違和感があります。最も最適な方法は、ティナの町で高ランクの冒険者を雇い譲渡物資を搬送。帰路にこちらから食料を乗せて帰れば、首尾よく纏まります。予定通りの取引ができないならば数を減らすなどして、残りは持って帰ればよい。いずれにせよ、わざわざこの街でEランクの自分たちを雇うことはないでしょう。」
「マスター、大尉、意見申し上げます。ティナの町が必要としている物は食料です。もし大尉の方法で物資を奪われ食料の輸送すら不可能となれば、ティナの町は危機に面してしまいます。」
「でしたら猶更ですよハクさん。なぜ護衛に金をかけないのか、理解できない。ましてやこの地域は、盗賊により多数の被害に遭っている。」
その点においては、ハクの疑問が沸くのも当然である。マクミランが言った内容を疑ってしまえば、相手の言葉全てを疑わなければ始まらない。
十人十色という言葉があるが、思考に関しては最も当てはまる四字熟語だ。各々が考えている点を出し合い、ホークの前で議論が沸騰している。
とはいえ、その湯を沸かし始めたのも、他ならぬホーク自身。つまり決定権のある彼らのリーダーであり、この論議そのものに疑問を抱いてしまう者も居る。魔物であるヴォルグとハクレンが、その筆頭だ。
「ハク様。失礼ながら、主様の推察にご意見されるのでしょうか。」
「いや、ハクの発言は当然だよハクレン。自分の推察ってのは現段階では妄想だ、それに対する疑問点や異議も沸くと思う。こういう議論は仲間の思考や行動傾向を直感的に把握できるから、大事な場だよ。」
「なるほど、承知しました。」
ハクレンの発言で一時中断された場だが、審判の判定は試合続行。ホークを見たハクは再びマクミランのほうに顔を向け、論議が再開された。
「大尉、意見申し上げます。お金に関してですが、彼らはヴォルグとハクレンの存在を知っています。Bランクに匹敵する魔物2名と私たちが同じ価格で雇えるならば、其方が良いと判断したのでしょう。」
「お金に関してだけど、内容を聞くときに支払金の内訳を教えてもらってる。その時に相場を聞いておいたんだけど、自分たち一行を雇うのとCランク3人って、あんまり相場が変わらないのよね。マクミランは近くに居たから聞こえてたのか。」
「ええ、そうですね。」
「なるほど、人数差により肉薄するのですか。」
むむむ、と彼女は考え込み、それならば大尉の意見も一理あると言いたげな表情だ。ホークと同じように手を顎に当て、やや下を向いて考え込んでいる。
「あとは服装と体型ですかね。豊富な皮下脂肪に似合わなすぎる貧相な服装。極めつけはガマガエルみたいなあの顔、悪人の王道中の王道ですよ。」
「こらこらディムース、顔は関係ないだろ。」
「はは、失礼しました。それにしてもAとかBとか、ランク付けが好きですね。強さなんて、相性でいくらでも変わるでしょうに。」
「ランクってのは、制度的にも資格みたいなものじゃないかな。持ってりゃ偉いって点も似てるし、そんなかんじに認識してからは意外とシックリきてるのよね。」
「……納得できてしまいます、さすが総帥。」
ボケ担当の任が解かれて比較的真面目な呟きを発するディムースだが、そこはホークのキレのある回答が炸裂している。ようは同じ穴の狢ということだが、全ての疑問が解決する、まさに的確な回答となっていた。
「情報が多すぎて、始まる前から頭が痛くなってきますね……。」
自分の考えのどこが間違っていたのかと一生懸命に考えていたリュックだが、思考回路が追い付いていない。頭を抱えるも、依然として考えはまとまらないままだ。
「総帥様。失礼ながら申し上げますが、これでは言いがかりと言われても仕方ないかと思います。悪い言葉を使えば、逆にこの街の策略かもしれません。総帥様も仰っておりましたが、その2点から先ほどの推察を行うのは、発想が過ぎるのでは……。」
言いにくそうに言葉を出すリーシャだが、夫妻や姉妹の意見も大筋は同じである。話が飛躍しすぎており、妄想と呼んでも過言のないレベルだ。
しかし、その点は先ほどホークが述べた「戦いはすでに始まっている」という言い回しが答えを出していたのだ。お金の問題というのは当然ホークも認識しているものの、何かしらの確信があるからこそ彼はあのような言い回しを行い、隊員もそれに気づいていたのである。
「その通り。疑問が浮かんだなら、その疑問点を消すことができる発想が必要になる。マクミランも言ったけど、非効率な雇用は帰路に渡す物資を奪還するため。と考えれば、さっきも言ったように、最初に沸いた疑問が全て納得できてしまう。過去の被害からするに、この街にくる物資が狙われていることも事実だ。」
「はい。ですが……。」
「仕方ないさ、生き物ってのは証拠を見ない限りは信用できないものなんだ。言っただろ?偵察だって立派な戦闘だ、ここからは事実が必要になる。さてソコでモニタと睨めっこしてる二人、状況はどうかな。」
「ドンピシャですよ、流石でございます。郊外にて、先ほどの町長と3人の不明人物が密談しております。ブラー1-2-5、距離950.木陰から覗ける程度のために詳しくは判別できませんが、ドクロマークのバンダナとは、露骨ですね。」
偵察衛星を捜査していた兵士からの報告に、兄妹と姉妹は驚いた表情で互いの目を見た。正直なところ、内心では心配しすぎだと笑っていたホークの想像が、的中という形で現れたためである。
「了解、脅されているのかまでは把握できんが仕方ないか。今夜は忙しくなるぞ、交代で不明人物を追ってくれ。偵察に関する指示はディムースに一任する。」
「「「イエッサ。」」」
「自分は偵察用グローバルホークの追加要請をしてくる。今日の依頼は中止だ。各自、準備を進めつつ依頼に備えて休んでくれ。」
その言葉により、パーティーメンバーは各々の部屋に戻っていく。マクミランとディムースの班は合同で準備を行っており、互いの攻撃レンジをカバーできる武器選択を模索している。対集団戦用に向け、アサルトライフル中心の装備を予定していた。
ディムースの隊の一部はグローバルホークを操縦しており、不明人物の監視と自分たちの周囲の偵察を継続していた。現状の後者は特に問題なく、怪しい影も無いとの報告がホークに伝えられた。
ここまでは、彼もよく見る通常通りの流れである。しかし今回は、1つだけ珍しい箇所が存在した。
問答場面ということもあり、会話が多くなりました。