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異世界で、エース達と我が道を。  作者: RedHawk8492
第6章 ランク:E
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3話 あやしい御指名

【視点:3人称】

メシとムチが際立ったピクニックが終了し、やや疲れが残る翌日。一行は朝食をとっており、普段と変わりない朝を迎えていた。


とはいえ、全く変わりないかと言えば、違うという回答が正解になる。先日ホークがふるまった料理を学ぼうとこの宿の店主含めて数人が弟子入りしており、彼が気まぐれに教えた料理のノウハウが、朝食にも顔を覗かせているのだ。

俗にいう「ひと手間」程度の内容なのだが、それが1品につき2回3回となると話は別だ。大雑把な舌を持つむさ苦しい男一行は気づかなかったものの、食に関心の深いハクやヴォルグ夫妻は、その些細な違いに気づいていた。


理由はどうあれ、食事がおいしくなるに越したことはない。彼女は、舌鼓をうつ一行の横で改善点を模索しているホークを横目見ると軽く微笑み、食事を再開するのであった。



食事も終了し、ホークが予定を発表する。本日は疲れを取る意味で午前中が休暇、午後に簡単な依頼を受ける手筈となっていた。

しかし、その予定は一部が変更となる。席を立とうとしたタイミングで、店主が会話を挟んできた。



「タスクフォース8492の皆様、失礼します。冒険者ギルドより、ご伝言と言いますかお願いを預かっております。」



突然の申し出に、一行は「なんだ?」と言いたげな表情で互いを見た。それも数秒で解除され、落ち着いたタイミングでホークが問いを飛ばす。



「何だろうか。」

「内容は私も聞いていないのですが、ギルド長から直々の依頼があるとのことで、本日、冒険者ギルドにいらして欲しいとの依頼です。」



短期間ではあったものの、今までにないパターンである。罠の一種かと疑ったホークだが、今のところこの街においてはそのような気配は見られない。念のために偵察衛星やUAVで見張っているのだが、こちらの偵察結果も同様である。

そして、疑ってかかれば何事も進まないのは当然だ。そのため彼は、その懸念レベルを大幅に下げることにした。



「了解した。時間の指定はあるか?」

「日が沈まない内ならば問題ないとのことです。ご希望ありましたら、私から伝えますが。」

「それでは、昼食後に向かうとしよう。」

「承知しました、必ず伝えます。お休みのところ、失礼しました。」



部屋に戻ったホーク一行だが、マクミランたちは万が一に備えて装備の再点検を行っている。白昼ということで数人が短射程のP320やPDWを持つなど、あらゆる状況に対応できるよう工夫を行っていた。

最悪は、ヴォルグ夫妻の魔法で間髪入れずに吹き飛ばすことも念を押している。「敵対する前提かよ」とツッコミを入れたいホークだが、彼自身が初手から疑っていたために口にすることはできなかった。



「気合の入れように応えるために、昼食は外で取るか。盛られても嫌だしね。立ち食いがけっこう美味しかったから、悪くないと思う。」

「歓迎です、マスター。」

「はは、本格的ですね総帥。ですが我々も歓迎です、そうしましょう。おい、誰か伝えてきてくれ。」

「ハッ。」

「ちょっといいか。内容だが、外で食べるとだけにしておけ。内容までは言わなくていいだろう。」

「了解です大尉。」



結果としては無駄骨となるものの念を入れた策をめぐらせ、時刻は昼過ぎ。久々ジャンキーな料理だったために、新鮮さがあったせいか一部がやや食べ過ぎたものの、戦闘態勢は万全だ。

とはいえ露骨に警戒すると感づかれる恐れがあるので、目線による周囲警戒程度に留めている。ホークがアーク溶接と表現したような、露骨な気配は論外だ。





「お疲れ様です。タスクフォース8492の皆様、お待ちしておりました。」



例によって院長回診よろしく冒険者ギルドにやってきたタスクフォース8492一行だが、今回は彼等が呼びつけられた形だ。出迎えという理由で、ラールキャトルを持ち帰った時のように、ズラリと職員が並んでいる。

機嫌取りなのか扉の前で美人の受付嬢が世辞を述べているが、しかし、集団中に一人。ホークたちが見たことのない初老の人物がおり、全員が疑問符を抱いていた。


目立たないようにしているつもりなのだろうが、レベルを低くした衣服のコーディネートに慣れていないためか、小さいながらも宝石付きの指輪をするなど、パッと見でも若干ながら違和感がある。せっかくのお世辞も、話半分となってしまっていた。

その言葉も終わった時、こんどは一人の男が一歩前に出る。以前にギルド長と名乗っていた人物であり、この建物の最高責任者に位置する人物だ。



「さすがだ、気づいたようだな。今回呼びつけてしまったのは、そのお方からの依頼を遂行してほしいからだ。」



その言葉で、小太りの男性が前に出る。相変わらず誰も言葉を発しないタスクフォース8492を無表情で観察しているが、実のところは、内心おっかなびっくりの状態だ。


通常ならば誰かしら一言ぐらい口を開きそうなものだが、ホーク一行は静寂を保っている。このあたりは、リーダーによる規律の高さがなしえる技である。

最初に口を開くとすれば、そのホーク以外にあり得ない。現に8492の何名かは、彼がまだ答えないのかと何度か目で追い確認していた。



「はじめまして、タスクフォース8492の皆さん。私はリンガ。2つとなりにある、ティナという町の長です。」

「ご存知の通り、我々は冒険者パーティー、タスクフォース8492だ。私はリーダーのホーク、依頼を出したいと聞いている。諸事情により丁寧な言葉を使えないが、その点は譲れないために理解して欲しい。」



ホークの言う丁寧な言葉を使えない点を了承しろ、という要望にも、町長は動じない。冒険者の中には「宿を用意しろ」「移動馬車を用意しろ」などの注文を付ける者がチラホラ居るために、その一種と捉えているのだ。



「承知しました。依頼というのは、この街からの物資輸送の警護です。以前あなた方が討伐したラールキャトルを筆頭とした物資を私の町に輸送し、こちらからも、ティーダの街に物資を輸送したいのです。輸送には馬車を用意しました、お使いください。」



町長の説明は、内容だけ聞けば当たり障りがない。近隣の町も盗賊被害により肉類の確保に苦しんでおり、住民にも鬱憤が溜まっている。このあたりは、以前に肉屋の住民が説明した内容とも一致していた。

そして、賊の標的に成り得るとの説明を受ける。とはいえホワイトウルフが居れば、大抵の相手には大丈夫だろうというのが彼等の判断だ。中身が伝説級の生命だとは、微塵にも思っていない。



「実情は理解した。しかし、依頼内容である輸送物資の中身は住民の生命線だ。Eランクの我々よりも、値は張るが高ランクの冒険者に依頼するのが筋と考えるが。」

「正直なところ、盗賊対策に手を焼いていて、あまりお金を使えないのが現実でしてな。Eランクながらラールキャトルを討伐しホワイトウルフを手懐けるタスクフォース8492に、ぜひともお願いしたいのです。」



ようはコストパフォーマンスに優れるという理由でタスクフォース8492を選んでいる、という言い分だ。しかし、何故だかホークは腑に落ちていない様子である。



「ホーク殿、お願いできないか。ティナの町はそこそこ大きくて、正直なところ我々も恩恵が大きいのだ。多少はギルドからの謝礼も出せる、近所付き合いと思って受けてほしい。」

「……意図と要望に関しては理解した。依頼内容と資金の内訳を聞こう、判断はそれからだ。」



そうは思うもののギルド長直々のお願いということもあり、ホークは依頼内容を聞いて引き受けた。直前に全員に確認をとるも、反対者はゼロである。

しかし1つ条件をつけており、馬車の運用及び荷物の運輸に関しては、タスクフォース8492単独のみで判断、運用を行うこととした。冒険者に依頼した際にありがちな特殊条件としては追い金が発生するものではないので、町長もギルド長も承諾している。


出発は明日の夜明けということで、一行は宿へと戻ってきた。



「ふぅー。なんだかんだで、ここが落ち着くな。対集団の話は気遣いが必要だから面倒だ。」

「同意しますけれど、なーんか腑に落ちない様子でしたね、総帥。わざとでしょうけれど、ちょっと露骨でしたよ。」

「しゃーないじゃん。ハクはディムースたちと同じレベルでも察せるだろうけど、リュックとかにも伝えないといけないからね。ま、おかげで読み取ってくれたみたいだけど。」



多少勢いをつけてソファにもたれたホークに、いつもの調子のディムースが声をかける。先ほどとは打って変わって気の抜けた声で返事をするホークは、皆がよく知る彼の姿だ。



「ええ、助かりました総帥様。何事かとは理解できませんでしたが、警戒しろという意図は受け取れました。」

「いきなり悪いね。ただまぁ、いくらかオカシなところがあったんで、なーんか裏があるんじゃないかと勘繰っちゃったのよ。ほら、自分弱いからさ。何かあったら皆に守ってもらうしかないのよね。」

「マスターに何か起こってからでは遅いです。ご安心ください、お話の際の警戒体制も皆さんと協議済みです。万全ですよ。」

「ありがとうハク。マクミランやディムースたちもだろ?毎回悪いね。」

「とんでもございません総帥、それが務めですので。な?」

「「「イエッサ。」」」

「わ、私たちも頑張ります!ね、兄さん!」

「はいっ。」

「我々は公の場で喋れないのがつらいところですね……。」

「居たら和むしモフれるから問題なし!」

「最近覚えた言葉ですが我々はモフるためだったのですか!?」

「一理ある。」

「大尉殿!?」

「いつのまに殿呼びになってるんだ。」

「あ、これも最近覚えた言葉でございます。」



冗談を交えつつ信頼関係を再確認して和む場面だが、相変わらず自分は弱いと断言する軍の長に、マールとリールは不思議がる。この世界の情報を詳しく知る彼女たちだからこそ、このようなトップの姿は異端に映るのだ。

それでも、今の彼女たちが仕える人物であることに変わりはない。ダンジョンにおいて見せつけられた圧倒的な実力からは想像できない2桁人数のオッサン+若者2人+α5名の団欒を、穏やかに見守るのであった。



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