8話 コンタクト
こうなった以上、自分が今逃げては長として務まらない。フォーカス6-1にドラゴンを誘導させると、自分が到着してから2分ほどで、上空へとやってくる。間近で見ると、本当に大きい。着陸時に軽く地鳴りが発生し、重量物であることを認識させられた。
予定通りに隊員が軽く言葉を交わし、問題のないことが確認できた。こちらは対空レーダーのログを見ればこのドラゴンの出身地も突き止められる、報復という阻止力には有利な条件が襲っている。
そのことを理解できたのかは不明だが、隊員は自分の方に顔を向けた。こうなったら自分の仕事だ、あまり気乗りしないがおとなしく出て行こう。
すると、ドラゴンは予想外の行動を見せる。その大きな頭を、地面の高さまで下げてきた。
「―――島の主よ、着地許可に感謝する。」
開口一番、ドラゴンはそう話した。向こうが頭を下げた状態で、なお自分よりも頭の位置が高いが、体格差があるので仕方ない。
低く渋い声のトーン的には雄?男?だろう。一般的な人間を基準とすると、かなり渋い声で初老という言葉がピッタリだ。ドラゴンという体格のためかドスのある声だが、偉そうではない。体感だが、礼儀は、しっかりしている。口調からは、相手の敷地に入れてもらったことに対する、しっかりとした礼儀が感じ取れた。
「この島の基地を管理しているホークと言う、呼び名は問わない。こちらは何と呼べば良い?」
「そうじゃな……我はエンシェントドラゴンと呼ばれておるが、こちらも呼び名の種類は構わない。亜人の一種、竜人じゃ。」
「エンシェントドラゴンだと?」
エンシェントドラゴン。一般的なファンタジーでは、出現頻度が高い名前のドラゴン。大抵が聖属性で、ドラゴンの中でもランクが高い。自分が知っているのは、その程度だ。
「うむ、我のクラスは神龍じゃ。最上位種である古代神龍の、1つ下の地位になる。」
エンシェントの名前に劣らず、やはりドラゴンの中でも高ランク。予想の範囲だが、そうなるとレベルもかなり高そうだ。手を出すつもりもないし出されたら不利なので、もう少し会話を続けてみよう。
「で?最上位に近いドラゴンが、有象無象が住む小島に何の用だ。」
向こうから一方的にやってきているため、こちらの気や口調は強く保っておく。敬語も無しだ。
「この島の連中を有象無象とは面白い。御仁、この島に居る戦力が、いかなる程か理解しているか?」
「高かろうが低かろうが、どうでもいい。自分等は契約遂行のために、地盤を整えている最中だ。」
「ほう、契約とな?」
「おっと、内容は教えられんぞ。」
「是非もあるまい。しかしそれは、勇者の暗殺ではないか?」
―――む、言い当てられた。まさか勇者の差金か?すぐに攻撃隊に指示を……。
そう思いついた瞬間、エンシェントドラゴンは言葉を続けてくる。
「実は、我の依頼も同じなのじゃ。」
「は?」
……うーん、そうきますか。全くの予想外だ。何故、ドラゴンが討伐依頼を頼んでくる?チート勇者相手でも、このドラゴンなら勝てるんじゃないか?あの女神が言うには、即死やダメージ無効などの、ぶっとんだチートは与えていない。種族補正で同等の域に上り詰めたのだろうこのドラゴンなら、遅れを取ることはないはずだ。
それとも自分が過剰評価してしまっているだけで、エンシェントの名が付くドラゴンですら手も足も出ないと言うことか。そういうことならば、他族しかも人間である自分に依頼するのも道理となるか……。
とりあえずこのドラゴンが強いか弱いかは置いておくとして、このドラゴンには先日のオーク狩りがバレている。これは本当に予想外だ、どうするか。
「かーっ。いくら監視網を敷いたとはいえ、あの出撃は迂闊だったか……。」
とりあえず、後悔した様子の軽い表情を見せておく。とにかく今は相手の情報がないから反応が見たいし、可能ならば情報が欲しい。
「仕方なかろう、我の眷属は目と耳が良い。この大陸で、監視を逃れることは不可能じゃ。」
「そりゃドーモ。空を支配するドラゴン様には逆らえん、ってことか。」
「謙遜するでない、オークキング8体の群れを一撃で葬り去ったのじゃ。あれほどの事を行えるのは、ドラゴン族でも極一部。ましてや」
「物理攻撃で排除できるとなると、この世界には存在しない。勇者相手に挑んだものの、お得意のブレスは魔法扱いで相性が悪い。って具合かな?」
監視されていたことへの仕返しに、相手が言いたいことを当ててみる。完全に予想の域の発言だし、いやらしい言い回しだが、どう出るかな?
「黙ってるってことは、図星かな?」
「……然り。お主、勇者の弱点に気づいておったのか?」
「今まで何度か、能力的には勇者と同じレベルの奴が挑んでるのに、返り討ちに合ってたからね。」
「そうじゃな。元奴隷の女を連れた一行が多かったが、どれも返り討ちに合って全滅しておった。」
「女、ねぇ……。」
「おや、興味がなかったか?」
興味の問題ではない。別に「女は戦場に出るな」とかいう差別をするつもりはないし、そんな感情は全く無い。女性だって、強い人は居るからね。ハーレムとやらを否定するつもりもない。男ならば抱いても不思議ではない欲望だし、自分も多少なりとは持っている。
ただまぁ、現状この世界で、そんなことしてる男ってのは、どうも印象が……ねぇ?
平時なら理解できるかもしれないが、絶賛暗殺任務中であるわけだし。この世界では珍しい黒髪もしくは黒目の輩が、んなコトしてたら目立つだろ、と。黒髪黒目じゃなくても目立つし、マークされて先手撃たれて対策されるのがオチじゃん。
って内容を彼に説明すると、ふむふむと納得していた。
パーティーメンバーのハーレム具合はさておき、女神が言っていたとおり、今まで討伐に向かった奴らは返り討ちにあっていた。情報からするに全滅らしい。
ここで一度、自分が女神さん部屋で出した答えをエンシェントに解説しよう。自分が異世界人であることや、女神さん部屋のことは言わないが。
この世界の攻撃は、物理・魔法・状態異常の3種類に分類される。
手っ取り早く火力を出せるのは物理だ。筋力を上げて、切れ味の良い剣を持って、殴れば……じゃなかった、斬れば良い。もちろん、相手の鎧によっては弾かれる可能性も高くなる。
次に魔法。高レベルの魔法となると、セオリー通りの最大火力は物理とは比較にならないはず。遠距離から攻撃することもでき、相手の弱点属性を付くこともできる。問題はMP消費ぐらいか。
最後に状態異常。暗殺となると、よくある「薬を盛る」と言うやつだ。これも致死量を与えれば殺すことは可能だが、盛らなければ始まらないし、相手が飲まなければ空振りに終わる。
この3種類の中で、後者2つには天敵が居る。それが、「抵抗」というやつだ。女神も言っていたが、勇者は抵抗を持っている。そんな条件の敵を殺すには、レベルを上げて物理で殴る以外に道は無い。自分が、女神の世界で出した結論だ。
ただし、相手は曲がりなりにも「勇者」。国宝級だとか伝説級だとかの、現地調達したチート的な防具も持っているだろう。その防御を突破するには、それ以上の火力をぶつけるか、ゲームではあり得ない「防具の隙間」を攻撃する必要がある。
自分達I.S.A.F.8492隊員の現代兵器による攻撃は、条件を満たしているというわけだ。
カッコつけて言ってるけれど、「8492の連中と一緒に異世界を満喫したい」って願望の方が強かったのは事実デース。
「ってことで、ご理解頂けたかな?自分が目指しているのは、あくまで契約の遂行。目立つ行動は話にならない。美少女を誑かせてるその手の人は多いけど、その女がこの世界の住人ならば、勇者相手には通じない。その女が核弾頭級のチート野郎だってなら話は別だ。美人なら猶更に魅力的、是非ともご紹介願いたいね。なんせこの身は弱小でして。そいつが近接防衛ができるなら大歓迎だ。」
「……あいわかった。理屈も通っている上に実力も明白じゃ、期待させてもらおう。」
当然ながら、勇者は魔法的な防御も使ってくるだろうが、そこは魔法が使えない故の強さがあるので問題なし。自分達の仲間及び兵器は魔法が関与する物すべてを無効化するため、単純な物理対物理の勝負になるのだ。
説明に対して答えると、エンシェントドラゴンは、少しだけ頭を下げた。とはいえ、物理的に地面に設置しており、これ以上は下がりそうに無いが。
「ところで、なんでドラゴンが討伐依頼を?理由ぐらいは聞かせてよ。」
「我の眷属の1つに、リザードマンという種族がおってな。勇者により被害を受けている。ホーク殿の時間が良ければ、もう少し詳しい情報を提供できるが。」
「あー、ちょっと待ってくれ。神龍程度の力があるなら人型になるか小型になれるか?敵の情報となると重要度が桁違いだ。この基地の参謀と一緒に、話がしたい。」
「あいわかった。人型になれる、少し待たれよ。」
光が彼を包み込み、190cm程の、彫りの深い初老の人間になった。やっぱり男性で……白髪オールバック!
ものすご~くダンディ~。