10話 どこまで行くの
お陰様で100部到達となりました、ご愛読ありがとうございます。
【視点:3人称】
「さて主様、ハク様も話題を変えたいようですので戦利品です。」
ホークをからかって返り討ちにあったハクを助けるべくヴォルグは口を開いたのだが、余計な一言により彼女から手刀を貰っていた。ちなみにこの手刀は、ホークがディムースに行っていた行為の真似である。そして大げさに痛がるヴォルグだが、これはご存知ディムースの真似事だ。
代わりに前へと出たマールは、ミノタウロスが倒れた位置にしゃがみ込む。何かが落ちているようで、拾うような動作を行っていた。
とはいえ、ホーク達からでは死角となっており確認することはできていない。
そして、トテテテという擬音が似合いそうな走り方で一行へと駆け出した。小さめの身体と幼さが残る顔つきだけあって、「あらかわいい」との感想を抱いた人物がほとんどである。
数名ほどが本能的に両手で抱え上げそうになるが、ホークの咳払いで我に戻る。下心が無いために危険度は無いものの、実行されたならば姉妹は驚いてしまうだろう。ホークの咳払いは、それを警戒してのことだ。
「総帥様、戦利品をお持ちしました。」
なんで自分?と疑問を浮かべるホークだが、彼女曰くパーティーのリーダーが一括管理するのがセオリーらしい。どうやらパーティー内部においてドロップ品を奪い合う事象が稀に発生するため、このルールが基本になっているとのことだ。
なるほどと理解したホークが受け取ったのは、牙らしきものとポーションだ。とはいえ彼にとっては全く価値の分からないものであり、とりあえず宝物庫に仕舞うことにしたのである。
「戦利品は、帰ってから鑑定しよう。さて、一応問題の4階に来たわけだが……ミノタウロスは消えちゃったし、どう見てもこの階層はここで終わりだよね。」
「総帥様、意見申し上げます。一応あちらに下層への道がありますが、このダンジョンは正常ではありません。住民の罠にかかっている可能性もあります、引き返すことを提案します。」
念のためにと折り返すことを提案したマールだが、残念ながらその言い回しは逆効果。戦闘狂にとって「未知」とは、いかなるテーマパークよりも楽しいアトラクションの宝庫なのだ。
「そう言われると、行きたくなるってのが……ねぇ、大尉。」
「その通りだディムース。人間ってのは、やめろと言われるほど……」
「いけませんマスター、制止してください!彼等は正常な思考ではありません!」
「ハクが一番浮ついてるじゃないか、だったら耳の羽のピコピコを抑えてみなさい。」
直球でツッコミを入れるホークと思わず手で羽を抑えるハクのやり取りで、場が笑いに包まれた。口では真っ当なことを言っているものの、彼には心の声が筒抜けである。
「ま、マール、リール、心配の必要はありません!私やマクミラン大尉が全て片付けます、マスターご指示を!」
「「「総帥!」」」
目を輝かせ、気分は修学旅行前夜の小学生。おやつと言う名の弾丸と傘代わりの美しいソードを持ち、出発準備は完了だ。引率のハク先生も、すっかり空気に飲まれているどころか一角を成している。
「どうせ止まる気ないだろ、オスキニドーゾ。」
「「「イエッサァァ!!」」」
「お任せください!」
「兄妹と姉妹に夫妻!奴等がああなったら止まらんぞ、逸れるなよ!」
「へっ!?」
「なっ!?」
「ワオッ!?」
いつのまに取りだしたのかP320とタクティカルナイフを構え、ホークも先陣に続いて駆け出した。目の前の敵には眼中すらなく、あくまで後方からの奇襲を警戒したクリアリングを行っている。
一方で、前線で暴れる000とアルファの隊員は絶賛無双中だ。無線ですら会話をしていないのだが完璧な連携とヘッドショットにより出てくる魔物を片っ端から片づけており、一部の隊員はドロップアイテムを拾っている。
明らかに多数の場合や防御力の高そうな敵の場合は、ハクの出番となっている。一足飛びで50mほどを詰めると水を割るように相手をなぎ倒し、取りこぼしをマクミランやディムースが銃撃している格好だ。
それを見て一番絶句しているのは、マールとリールの姉妹である。どういうわけか出てくる魔物は全てA~SランクでありExランク冒険者の居るパーティーでも危険な状況なのだが、仲間である彼らの殲滅速度は1フロア5分程度と前代未聞となっている。Exランクの冒険者パーティーですら、ここまで迅速ではないというのが彼女たちが持つ情報であるからだ。
驚きを隠せない間にも、一行は次々とフロアを突破。体力の乏しい姉妹は流石に走り疲れたと感じた時、再び広い部屋へと辿り着いた。
「あれ、今回は明るいな。」
率直な感想を述べるディムースに続き、2-3秒後に全員が到着する。何も居ないのかと再び足を進ませたとき、突如として50m先に何かが落ちてきた。
「ほ、骨の蜘蛛!?そんな!!」
「ボーンスパイダーですね、S級以上でしょう。足についた鎌による、範囲攻撃にご注意ください。」
「へー、見るからにアンデットだね。ランクだけど、Exって可能性もあるのかな。」
「そうですね、コイツはExと判定しても問題なさそうです。」
姉妹は条件反射で数歩後ずさるも、その他のメンツは呑気なものである。魔物の情報について会話を続けており、マクミランとディムースに至っては骨に当たったらどうなるかなどを真剣に協議していた。
とはいえ、それを見ていて一番気にくわないのは格好良く降り立ったボーンスパイダーである。相手に絶望を与えようと姿を現したというのに、脅えているのは2名だけ。楽には殺すまいと、舌なめずりと同じ行動を行っていた。
「なぁヴォルグ。あの肋骨、ウネウネ動かす必要あるのか?」
「舌なめずりのようなものですよ、完全に格下に見てますね。」
「なるほどね、上品じゃないな。」
「そ、そそそそそ総帥様!?Exランクのアンデットです、立っていては全滅ですよ!?」
マールにまくしたてられるホークとヴォルグだが、溜息を付いてまるで慌てていない。ホークとしては指揮官であるためにポーカーフェイスをしていることもあるが、双方共に理由は明白だ。
「まぁ、そこに天敵がいるので。」
「天敵!?」
その瞬間、タイミングよくハクが魔力を発生させる。ボーンスパイダーもExとなれば魔力の種類と威力が分かるのか、明らかに戦意が消え去っていた。
そう、彼女はホワイトドラゴンであり属性は聖属性。そして古代神龍だけあって、そのランクはEx。つまりアンデット属性のボーンスパイダーにとって、数少ない完全な天敵なのだ。
ホーク曰く「どういうものかよくわからない」聖属性魔法が展開され、あとは攻撃の合図を待つだけだ。光がボーンスパイダーを包み込み、既に身動きは取れないようである。
ちなみに彼の名誉のために付け加えるならば、今回の戦闘は相手が悪すぎる。部屋の入口数メートル手前で既にハクとヴォルグ夫妻の気配探知につかまっており、奇襲などという行為は通用しないからだ。
つまり、どの道を辿ろうと結果は同じ。タスクフォース8492が相手になった時点で、既に積んでいたワケである。
オレ、消えるの?的な顔でホークを見るボーンスパイダーに、サヨナラ~と手を振る御一行。こうして、悪しき魂は浄化されたのであった。
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「あ、あああありえない……ボーンスパイダーを一方的どころか一撃だなんて……。」
目の前で繰り広げられた……と言うよりは流れ作業の結果を見て、姉妹は完全に脅えてしまっている。ハクとホークは慰めているものの、復帰には時間がかかりそうだ。
傍から見れば非常に危ない光景なのだが、慰めているのが彼女であるために間一髪でセーフだろう。性別と容姿によって結果が分かれるというのは、なんとも残酷な話である。
「総帥、今回の戦利品です。道中の物も含め、一度全てお渡しします。」
「了解、預かるよ。ところで、この部屋で終わりっぽい?」
「その件ですが、エコーで調べてもこの先がありません。なので、残りはあの発光物体だけのようです。」
そう言って視線を向ける隊員の先には、深い青色に輝く発光物体。大きさは一般成人の頭より一回り小さいほどで、台座のようなものに軽く固定されているように見て取れる。
原理や理由は不明だが明るい洞窟内部において、一目で輝きが把握できる程のものである。その前に立ったホークに対し、復活したマールが後ろから解説を行った。
「総帥様、それが魔石と呼ばれるものです。ダンジョンの核を成しており、ダンジョンの活発さや危険度は、魔石の大きさで表されます。」
「なるほど。ところでこれは、大きいって認識で良いのかな?」
「私達の知識においては未知のものです。もはや、国宝級と呼んでも差し支えないかと……。これほどの大きさとなると、通常の用途では勿体無くて金額も需要も思いつきません。」
「未知のもので用途も思い浮かばないなら、買い取るにしても金額が付かないんじゃ?」
「あっ、それも有り得ます。ですが大抵は、どこかの国が言い値で買い取るでしょうね。金額に関しても想像ができませんが、一生お金に困らないことは揺ぎ無いでしょう。」
ふーんと言いながら小石を見るかのごとく魔石を眺めるホークだが、リールは不思議な表情で彼を見ていた。魔石の規模はさておき、彼の反応は、ダンジョン攻略と言う偉業を達成した人間には見えないからである。
「総帥様は不思議なお方です。普通の男でしたら興奮した後に売り払って金や女と自由を謳歌するのですが、その様な欲は皆無なのですね。」
「なんでさ。自分はそんな野蛮な種類の人間じゃないよ、ディムースじゃあるまいし。」
「ハハッ、ひっでぇや。」
さらっと貶されるディムースだが、他の隊員に同意されるという追い打ちを食らい完全にショゲてしまっている。ホークの発言が完全なる冗談だと分かっていても悲しいものは悲しいのだが、残念ながら同情してくれる仲間は居なかった。
該当人物のホークは、手を伸ばして宝玉に触れる。するとロックが外れるかのように台座が動き、深い青色に輝く発光物体を持ち上げることができた。石の類かと思っていたホークは、片手で持ち上げられる重さに拍子抜けしていた。
それを一行に向け見せるも、大きさの実感が沸かないために全員揃って「へー、これが。」程度の反応だ。ハクによって緩く行われたラスボス討伐からの実感の沸かない魔石への流れで、ダンジョン制圧の興奮が完全に消え去ってしまっている。
「さてマール。魔石を取り外したけど、これでいいんだね?」
「はい。これで、このダンジョンはしばらく安泰でしょう。期間は分かりませんが、そのあいだは制圧が保たれます。」
「だ、そうだ。ホークより全隊員、このダンジョンはタスクフォース8492が制圧した、勝利は我々の手にある!」
真顔が似合いそうな空気を嫌って放たれたこの発言は、総帥たる所以の効果がある。その一言で全員のテンションはすこぶる高いものとなり、一室は興奮に包まれた。
それを見て、発言者の彼もご満悦である。ランクはFのままとはいえ、これはタスクフォース8492最初のダンジョン攻略なのだ。上に向けて拳を振り上げると、全員が静かにそれに続いた。
しかし総帥たる所以の1つ、余計なところまで考えが回ってしまうのもホークである。振り上げたこぶしの先に、本当の目標を思い出した。
「……あっ。お肉、忘れてない?」
「「「あっ。」」」