7話 第一異世界生命
《警戒、警戒!方位3-5-0、高度4000フィートより大型のunknown1つが接近中!距離120km、本島への到達まで30分!総員、第一種警戒態勢発令!これは演習ではない!繰り返す、これは演習ではない!》
爆撃効果を調べるために遺体の一部を回収し、オークが緑色じゃなかったことに驚いてから2日後のことだ。
今日も経験を積むためにマクミランと近接戦闘のトレーニングを行い、区切りがいいところで、今日は終了。彼曰く、急いでも良くないとのことだ。シャワーで汗を流し、アルファ歩兵連隊の皆と意見交換をしていた時だった。
突如として司令室から発令された警戒態勢、内容は先の言葉通りである。何者かが、この佐渡島(仮名)に接近している、だと……!?
「総帥は司令室へ退避を!タンゴ歩兵中隊、刺し違えてでも守り抜け!!」
「「「「「アイ・サー!!」」」」」
ディムース少将の言葉でタンゴ歩兵中隊30人に連れられ、建物内部で一番安全と思わしき司令室へと避難する。正直なところ襲撃は予想外だが、こんな時にしっかりしなければ総帥として失格だ。到着するなり勤務兵が敬礼で出迎えてくるが、すぐに座らせて作業に戻らせる。
……ぶっちゃけ、脅威よりも各隊員の殺気の方が圧倒的に怖い。味方だよね!?
いかん、気を保って考えろ。恐らく、管制塔は迎撃機をスクランブルさせているはず。任せておけば、脅威を排除してくれるだろう。
……待てよ、そう考えるのは時期尚早かもしれない。先程の報告では120km地点で到達予測時間が30分だった。つまり、アンノウンの現在速度は240km/hということになる。
大きさ的に、人間ではないのは明らかだ。大型と言っていたが、そうなると短距離向けのジェット機以上のサイズとなる。航空機にしては速度が遅すぎるから航空機とも考えにくいし、単騎という点で、この島への進軍とは考えにくい。
あ、自信過剰なワンマンアーミーの特攻かな。そして先ほど航空機にしては遅いと思ったけどレシプロならあり得る動きだし、最悪はこちらからの総攻撃になることを予想しておこう。
しかし自分の直感としては、攻撃しない方が良いと言ってるんだよなぁ……。ともかく、迎撃部隊は今どこだろうか。
《ホークより空軍管制塔、スクランブルした部隊はどこだ?》
《ハッ、アーサー隊1~10の10機編成です。接敵まで残り2分、無線をリンクします。》
F-22A戦闘機20機で構成されるアーサー大隊か、エース級の部隊だ。腕もさることながら大隊となると互いのカバーが容易だ、丁度いい。
《ホークよりアーサー1、聞こえるか。》
《こちらアーサー1、無線感度良好です。アンノウンはレーダーに捉えています、進路変わらず接近中です。》
《了解、接敵時は一度すれ違い様子を見て欲しい。戯言に聞こえるかもしれんが殺気を飛ばしてくれ、この世界の奴ならば通じるかもしれん。》
《殺気ですか……了解しました、やってみます。》
アーサー隊と無線交信を行っている間にも、状況は変わる。E-767のイーグルアイと無人偵察機のグローバルホークが離陸していき、慌しさが増していく。自分が指示を出さなくても各部隊の指揮系統はしっかりと機能しており、各所は瞬く間に準備を終えていく。
……さり気無くM82を抱えて屋上にいるマクミランよ。狙撃するつもりかい?パイロットを打ち抜いたところで機体が島に落下したら、意味無いからな?
そうこうしているうちに数分の時間が経ったらしく、アーサー隊から報告が飛んできた。
《こちらアーサー隊。全機、対空攻撃レーダー作動、距離72km地点でヘッドオンする。AIM-9を目標にロックオン、会敵10秒前、視認距離―――えっ、ドラゴン!?》
その言葉を聞いた全員が、「ハ?」という言葉がピッタリな顔になったはずだ。
ここは異世界だ。ドラゴンなり龍なりワイバーンなり、その手の生き物は居るだろう。だが正直、ドラゴンがこの島に来る理由が分からない。何もない島だし、元より移住者の痕跡も皆無だった。
《ほ、報告です。ドラゴンが両手……えっと、前足?を上げて、空中で停止しました。》
追いつかない思考に追い打ちをかけるかのように、とんでもない状況が報告される。何か考えられるかと周囲に聞いてみるも、やはり全員が理解不能の回答だ。そうこうしているうちに到着したのであろう無人偵察機から映像が受信され、状況がモニタに表示された。
そこには、灰色のドラゴンが映し出されていた。通過する機体を比較すると胴体は全長20m、羽を広げると50mは有るだろうか。とっているポーズは、先ほど報告のあったホールドアップ状態である。手なのか前足なのか分からないが、体の割りに短いので見てくれはカワイイ。
ともかくホールドアップを知っているということは、知能のあるドラゴンだろう。先手でソレを見せたということは、本当に戦う意図がないのか……?
いや、油断させて襲い掛かる可能性もゼロではない。ここは生きていた時の世界ではない。僅かな甘さが、命取りに直結する。
《先方の意図は汲むが承諾できかねる、意図が不明な上に此方としても理由が無い。オスプレイ1機と拡声器を持った隊員を向かわせる、アーサー隊は周囲を飛行し待機しろ。》
《了解。……右手の平を向け、押し付けたら頷きました、人間の動作は分かるのですね。》
なるほど、いい情報だ。アーサー1に指示を出しつつ、新たな情報がないか注意深くモニタしていく。戦闘機部隊を挑発するような行動も見せず、おとなしく、空中で高度を維持しながら待機している。やはり知能は高そうだ。一体何が目的だろうか、ただの暇つぶしか?
そうこう考えているうちに、先ほど離陸したのだろうオスプレイ1機と護衛機のストライク隊の10機編隊が上空を通過していく。大型のドラゴンに対して空対空ミサイルでは威力不足の可能性があるため、対地用の2,000ポンド爆弾を積むストライクの出番というわけだ。
……なんだか空対空爆撃がデフォルトになっているけど、感覚がおかしくなってるな。ホント、8492のエース連中はヘンタイ(的な腕前の奴)しかいない。
「総帥、対空攻撃を用意しましょう……対空ミサイルの一発ぐらいなら誤射と言えます!」
……何言ってんだコイツ。タンゴ歩兵中隊も賛成してるし、こっちはこっちで血の気が多いな。一発だけでも誤射だよディムース君。各部隊にも釘を刺しておこう。
「理由はどうあれ、勇者に関係がない上で敵対しないならば攻撃しない。逆ならば全力で叩き落す。行動理由ができるとすれば、それで十分だろう?」
「そうですね……はい、承知しました。」
《フォーカス6-1乗員より総帥。ドラゴンが「話をさせてくれ」と喋っています。》
到着したフォーカス6-1から連絡が来たか、そのパターンか。意図はどうあれ、喋れるならば話は早い。が、一度はこちらから石を投げておこう。それを受け、向こうがどう対応するのかも気になる。
《現段階では信用できないし会う理由もない。断ると伝えてくれ。》
《……伝えました。……えっ?……えーっと、敵対して、あんな痛そうな攻撃を受けるつもりはない。話があるだけだ、空地への着陸を許して欲しい、と……。》
……なるほどね。今のところ敵意は無いし、一度は話を聞いてみるか。
「あんな痛そうな攻撃」というのは、ガルムとメビウスの2機が行ったGBU-39による超音速空対地爆撃だろう。この世界に来て本土で行った攻撃らしい攻撃は、それしかない。
幸い、奥の手である2,000ポンド爆弾のGBU-24や5,000ポンド爆弾のGBU-28の威力は、未だ誰にも見せていない。使わなくてよかったかな。
《ホークより空軍基地管制塔に指令。ライダー隊(AC-130)及びハンマー隊(A-10)に離陸指示を出してくれ。》
《承知しました。既に離陸準備は終えております、1分後には全機離陸可能です。》
うおっ、すでに準備済みとは流石だ。恐らく、エドワードあたりが離陸待機状態にさせていたのだろう。本当に仕事が早い部下達だ。杞憂だったな。
自分は建物から出て、タンゴ歩兵中隊と別れて草原へと歩いていく。ここならば周囲に何も無く、ドンパチしても影響は無い。
自分は草陰に隠れており、初手の対応は隊員が行う手筈だ。接近直後の奇襲攻撃が無く問題が確認されれば、自分が応対することとなる。
気づけば上空に大型の機影4機がゆっくりと飛び、プロペラ機特有の重低音が響き渡っている。機体はAC-130Jゴーストライダー。何か動きがあれば、左脇腹から出ている105mm砲が雄たけびを上げるというわけだ。あいつらならば、針の穴に105㎜を通すかの如くピンポイントで着弾させるだろう。
目を凝らせば、A-10Cを操るハンマー隊5機も、いつでも攻撃できるように、各機が連携して飛んでいる。既にM1戦車部隊も出撃しており、邪魔にならない位置からこちらに砲身を向けているのが把握できた。はてさて、いくつの120㎜砲が向けられているのやら。
無線交信からするに、地対空ミサイルを積んだ機動車両やM270自走ロケット砲(227mmロケット弾12連装発射機)もスタンバイが完了したらしい。1周年のお祭り戦争以来の待機具合だ、隊員の本気度が伺える。万が一の際は、絶対に逃がさない体制ということか。
……まったく。味方だというのに、生きた心地がしないな。
第7話で次々と部隊名が出てきました。このあとの話でも、しっかりと登場させます!たぶん。