第94節 1週間前と調整、独り占め
文化祭もいよいよ開催まで1週間と迫った。 俺達の幽霊屋敷はなんだかんだでそれなりのクオリティを出すことが出来た。
とは言えこの幽霊屋敷の部屋を密かに制作していたおかげでもある。 俺を始めとした、海呂、紅梨、白羽、文香、仲町の6人と、ちょこちょこ手伝いに来てくれた数人のクラスメイトでこの幽霊屋敷の構造は完成したのだ。
「結局、委員長も副委員長もなにも言ってこなかったね。」
仲町がそう呟く。 こちら側を一切見ていないだろうなとは感じてはいたが、まさか話しかけにすら来ないとは。
「いいのよ。 どうせ今頃になって言われても、もう取り返しつかないし。 今更変えようったって無理なものは無理だって言えばいいのよ。」
紅梨がそう仲町を宥める。 向こうが勝手に手放した事だ。 こっちも適当にやらせてもらった。 文句は言わせない。
「でも凄いね。 ここまでの事を1人で考えてたんでしょ?」
文香が仲町にそう質問をする。 すると仲町は照れ臭くなったのか頬をかきはじめた。
「じ、実はさ。 あの合同練習の後、寅居さんと話が弾んじゃって。 それで彼女もこういう建物の構造には興味があるって聞いたから、せっかくだしと思ってアイデアを出し合ってたんだ。」
「ほほぅ。 つまり誰にも邪魔されずに、二人きりで話し合っていたと。」
その話を聞いてなんだかニヤけてきてしまった。 そう話すと仲町は頬を赤く染めて、
「そ、そういう事なの、かな? 僕なんかじゃ釣り合わないんじゃ、ないかな?」
「どう思われてるかは向こう次第だよ。 せっかく好印象なんだから、大事にしていこうよ。」
仲町の話に海呂が応援をしてくれるようだ。 俺達も彼を見守っていこう。
「それに、ちょうどいい例が近くに居るしね。」
海呂の言葉に仲町は「え?」と疑問を感じ、俺は「え?」と嫌悪感を覚えた。
「え? 味波君それはどういう・・・」
「海呂でいいよ。 どういう意味かと言われるとそのままの意味って言った方がいいかな?」
「おい海呂、別にそれを教えるのは今じゃなくても・・・」
「むしろ今言わないでいつ言うつもりなのさ。 それに仲町君は口の軽いようには見えないしね。」
うぐっ、と言葉を詰まらせる。 仲良くなる以上はそのへんも配慮してもらうように取り繕って貰わなければならない。 仲町とはそれなりに付き合いが出来そうだから隠してもしょうがないとは思ってはいるが・・・
「・・・はぁ。 分かったよ・・・ 実は俺には彼女がいるんだよ。」
「・・・うん? それのどこが隠し事なんだい? 君みたいに優秀な人なら彼女くらい居ても・・・」
「まあまあ話は最後まで聞いて。 彼が話すのを躊躇ったのは彼女がいることじゃないんだよ。 彼には彼女が現状で8人いるってことを躊躇ったの。」
「8人!?」
仲町が目を見開いて驚く。 無理もない。 友達になった奴が彼女がいるってだけで恨まれる対象なのに、それが8人いるとなればもはやなにを言えばいいのか分からなくなるだろう。
「だからその彼女が8人いるってことを口外しない事とそうならないように協力して欲しいって事なんだ。」
海呂は軽々しくそう言った。 目の前の女子3人は俺となるべく目を合わせないようにしている。 顔は赤いが。
「・・・そうか・・・大変だね。 津雲君も。」
「同情ありがとよ。 まあそういう事だから息苦しくなるかもしれないけれど、よろしく頼むわ。」
「うん。 なるべくは協力する。 出来ない時はごめんね。」
ほんとに良い奴だな仲町は。
文化祭が始まるまでの1週間は教室を出し物にするクラスは基本使えない。 なので、その期間中は座学がない代わりに電脳世界での作業がメインになる。 あるものは武器特性を見極めるため。 あるものは射撃性能を上げるため。 またあるものは自分の手に馴染むように改良するため。 とにかく、戦いにおける最善手の為に必死なのだ。 中には電脳世界での買い物をするもの、これは女子が多いがサボるものも少なくはない。
「ったく、こんな状況下でよくあんな浮かれれるな。 というか戦いの時にしか着れないのに、ようやるわ。」
自分の武器の1つの遠隔機関銃のバーニアに調整をかけている俺はそんな女子の姿を見て呆れていた。 買い物に行った女子グループはおしゃべりが大好きな集団で、教室の端にいる癖にやたら声が高いものだから耳に響く。
「ああいう時に、大人しくしてくれないと、困ります。」
あのグループに関して腹を立てているのは俺だけではない。 隣で同じく武器の調整をしている白羽もあのグループが固まる場所の所に席があるので、とてもじゃないが落ち着いてなにかを出来ないらしい。 しかもあのグループに一度絡まれて以来、とことん嫌いになったらしい。
「ま、あれで単位でも落としたら鼻で笑ってやろうぜ。 そんな事してるから落ちたんだって。」
「そうですね。」
そう会話を閉じると2人して黙々と調整をする。
「そう言えば良かったのか?」
あまりにも沈黙が気まずくなったので、話を切り出す。
「なにが、ですか?」
「いや、今紅梨は星球武器の精度を上げるために射的練習に行ったけど、様子を見ておかなくてもさって。」
「紅梨ちゃんは、1人でやる方が、気が楽で、いいそうなんです。」
確かに人の目を気にしながらやるのは気が散ってしょうがないもんな。 それは俺も同じだから分かる。
「それに、今は、飛空さんと、2人で、いたいんです。」
そう言って顔を真っ赤にして俯く白羽。 なぜだかその仕草を微笑ましいと思ってしまっている。 これはもはやアカンのではないかと。
「・・・隣・・・いいです・・・か?」
真っ赤になりながらもそう質問してくる白羽。 そんな真っ赤な顔で上目遣いされたら断れないじゃないか。
そう思って俺は左手をわざと自由にさせる。 そこに寄り添うように白羽が近付いてくる。
「・・・えへへ・・・今は、飛空さんを、独り占め、です。」
そういう言い方されるとこっちまでドキドキしてしまう。 白羽の甘い匂いに包まれながらも調整は忘れない。 しかし気を抜くと持っていかれそうになるので、自我は保ったままだ。
「文化祭、楽しみ、ですね。」
「ああ。 楽しみだよ。 凄く。」
なんというか、会話が続かない。 なにか良いものが浮かんでこない。 ど、どうしよう。
「あー! 白羽ずるいわよ! 飛空を独り占めなんて!」
その声に振り返ると紅梨が汗だくになりながら、こっちに向かってきていた。
「見つかっちゃい、ましたね。」
白羽は詫びることなく笑っていた。 まあプライベートルームでもなんでもないので、バレるのは当たり前と言えば当たり前なのだが。
「うぅ・・・私もやりたいけど・・・今は汗かいちゃってるからあまり近づけない・・・。」
俺はそんなの気にしないんだが、向こうが気にするのだ。 女子の想いは複雑だ。
いつの間に気づいたのだろうか、仲町がそっとこっちに寄ってきた。
「やぁ、進み具合はどうだい?」
意識させないようにだろう、何気ない会話からササッと誘導しようとしている。
「ま、ぼちぼちってところかな? 前にバーニアでは苦労させられたからな。 今度はもう少しゆっくり動けると思うぜ。」
「でもそれだと機動力落ちない? 動きながら相手にロックオンして誘導させるのが目的でしょ?」
「それもあるけど、乗り手がグロッキーになっちまったら意味がないだろ? だったら多少は機動力が落ちても安定させた方がいいのさ。」
「そういうものかしら?」
そういうものなのさ。 次の戦いはもう少し冷静にならないとと思う節もあるしな。
「それじゃ、ちょっくら性能を確かめに行きますかな?」
「ならあたしが一緒に行くわ。 相手がいた方がやりやすいでしょ?」
「助かるぜ紅梨。 それじゃ行くか。」
そう言って射的場に行く。 紅梨が先に行ったのを確認した後。
「ありがとうな。 自然な感じにしてくれて。」
「ああでもしないと、紅梨ちゃん、変に気を使っちゃう、から、これでいいん、です。」
「ゆっくり2人で武器の性能を試してきなよ。」
その言葉にフッと笑ってしまった。 いい友人と彼女を持ったものだよ。 早くしないと紅梨に怒られちゃうな。 そう思い、足早に射的場に向かうのだった。
次回で投稿100回目になるので番外編を書きます。 題材は「飛空と付き合い始めた女子達」で書いていきます。 お楽しみに




