第88節 双六と自分の想い、結論
「飛空、次飛空の番だよ?」
「え? あ、あぁすまん。」
今俺達は大人数用の双六をしている。 普通の双六と違い、スタートがそれぞれ違う所にあって中央にあるひとつのゴールに向かってコマを進めていくものだ。 ちなみにスタート位置はサイコロとジャンケンによる公平なジャッジの元決められたものだ。
俺の番になったらしいので、握っている10面サイコロを振る。 出目は4。 うわ、忌み数になった。 えっとここから4ならここのマスだな。
「えっと、「あなたの悩み事を1つ打ち明ける。 打ち明けた後にその悩み事を解決出来たプレイヤーがいた場合、そのプレイヤーと共に2マス進む。」」
そんな指令だった。 今現在進行形で悩んでる事があるのだが、これはここで打ち明ける事じゃないな。
「どうも最近体の調子が悪いんだ。 しっかりと寝てるし、電脳世界でだけど、それなりに運動もしてる。 なにが原因だろうか?」
「寝る姿勢とかやろうな。 お前さん、うつ伏せになって寝とるやろ? 血流が悪くなるで? 今夜から仰向けに寝るよう意識しな。」
納得が出来たので、輝己と共に2マス進む。
「それじゃあ次は私ね。」
そう言って紅梨が10面サイコロを振る。 出目は6。 その先は・・・
「自分の恥ずかしい話を暴露する。 ・・・あー そうねぇ。」
そう言って紅梨が考え込んでいる間に俺も考える。 今週だけでも6人。 交流会の話をした後に告白をしてきた夭沙と夏祭りに告白をしてきた青坂を入れれば8人。 そう8人の女子から告白を受けてどうすればいいか迷っている。 本当の悩みはそれなのだが、今その女子とゲームをしていて、他の男子に話しずらい悩みである。
「飛空さん? 飛空さん。」
「え? もう俺の番?」
終始そんな感じでゲームをしていたので、どんな内容でゲームをしていたか、覚えていない。
「どうしたの飛空? 最近上の空じゃないか? らしくもない。」
部屋に戻って海呂からの第一声がそれだった。
「確かにさっきのは今までのお前じゃ有り得んかったで。」
「どこかで気が抜けちゃった? それとも夏休みのボケがまだ残ってる?」
啓人への答えは「どちらでもない」なのだが、答えを出すことも出来ない。
「うーん。 あの感じ、さっきのお題のお悩みは違うみたいやな? 即席でないにしろ、不安は拭いきれとらんで?」
「・・・お前らには話してもいいか。」
そういって悩んでいる本当の理由を話す。 もちろん驚かれたが話し終わるとみな真剣に考えていた。
「飛空、君は難しい問題を常に持ってるね。」
「でもこれは僕らがなんとか出来る話じゃないよ。 海呂」
「せやなぁ。 そもそもお前さんはどう思っとんねん? 実際問題。」
「それを考えてるんだよ。 正しい答えがないだけに辛いんだ。」
「なら一度自分で自分の彼女達の思うところでも頭の中で浮かべてみたら? そうすれば答えは出てくるかもよ?」
「そういうものかな?」
「そういうものさ。 おっと、もうこんな時間だ。 今日はもう寝ようか。」
啓人の一言にみな自分のベットに行く。そして横になり、先程啓人が言っていた事をやってみる。
告白されたのは8人。 紅梨、白羽、鮎、夭沙、イバラ、青坂、エレア、文香。
紅梨は強気だけどどこか繊細な部分がある。 戦いの時は紅梨がいてくれたおかげでスムーズに進む。 繊細なだけに扱いは注意した方がいいが、それも彼女の良さだろう。
一方妹の白羽は姉と反対でどこかたどたどしい所はあるが、心はとても優しい。 彼女は人との付き合いが上手なので、直ぐに誰とでも仲良くしてる。 寄り添っている感じではあるが安心感を覚える。
鮎は最初こそ驚いたが、大人な感じに見える。 見せようとしてるだけで実際は年相応なのだが、彼女の魅力のひとつとして見てみてると、愛おしくも思えてくる。
夭沙は大人しめに見えて実は結構大胆で、そんな仕草にドキッとさせられることも度々あった。 彼女なりに俺に気を引こうとしているのだろう。 そんな大胆な所も夭沙の魅力の一つだ。
イバラはどこか危ない部分もあるが、マイペースでそれでいてしっかりと今はみんなの役に立ちたいと願っている。 そんなイバラを影で応援している自分がいる。
青坂は白羽以上に引っ込み思案で、あまり表に出さなかった彼女が自らの意思で行動出来るようになったことを俺のおかげだと言ってくれた。 その事に誇りを持っている。
エレアは青坂と逆で、好奇心旺盛だ。 それが危なっかしくもあるが、エレアを止めれるものは誰もいない。 ちゃんと見ていてあげれる人物が近くにいないとな。
文香は最初はどこか暗いイメージがあったが、プライベートではその真逆な事に驚いたが彼女は気持ちの切り替えがすぐに出来る人間だと、彼女のように気持ちをすぐに切り替えれる人間になりたいと憧れたものだ。
みんなどこかで自分にないものを持っている。 だから彼女達が羨ましくもあり、魅力的で・・・・・・
「・・・・・・あれ? なんでこんなにみんなの事知ってんだ?」
常に学校にいない青坂は例外にしても、全員必ずいたわけでも一緒にいたわけでもない。 なのにこんなにみんなのことをそう思ってるのは何故だ?
「・・・・・・・・・・あぁ。 なんだ。 そんなの簡単な話じゃないか。」
俺もみんなのことが好きだから内面的な所も見ちゃってるんだな。 ならもう迷う必要なんてない。 だけど、こんな答えになっちゃって、みんなに申し訳ないかな? でも訳を言ってくれれば分かってくれるかな? 自分の気持ちが変わってしまう前にこの事を伝えたい。
「どうするか決まったみたいだね。」
急に声がしたので誰かと思ったら海呂が下のベット脇から顔を覗かせていた。
「・・・・なんだよ。 聞いてたのかよ。」
「まあね。 口出ししない方がかえって考えやすいかなって思ってさ。」
その声に啓人も反応して会話をしてくる。
「ったく性格悪いなお前ら。 友人の悩みを黙って聞いてるなんてよ。」
「お前さんは他人の意見を聞くよりも他人に意見を言う人間やからな。 自問自答しとる方がお前さんらしいわ。」
さらには輝己までそんな事を言い始めるものだから、ほんとに性格悪いと改めて思った。
「まあ、お前らの建前はなんとなく分かったよ。 で? 本音は?」
「君が誰かを差し置いて1人を選ぶのか見守ってた。」
「君が女の子達に対してどう思ってるか見てみたかった。」
「お前さんが悶々と考えてるところを面白がっとった。」
おい。 人の悩んでるのをいい事に傍観してんじゃないよ。
「でも飛空が決めたことだよ? それには自信を持たなきゃ。」
「せやで? ガッカリさせたくないんやろ?」
「大丈夫だよ。 僕らも応援するからさ。」
「それは建前か? 本音か?」
「どう思うかは君次第だよ?」
酷い話だ。 まあ心強い味方が増えて嬉しいがな。
そんな話をした次の日。 放課後にみんなに集まってもらった。いない青坂は携帯から画面越しで通話をしながらとなる。
「それで? みんなを集めてどうするつもり? 」
紅梨がそう聞いてくる。今は誰もいない食堂で俺達8人で机を囲む。 携帯は俺が持っている。
「しかもこんな所に呼び出して、このメンバーでって明らかにあの話よね。」
「そうですね。 と言うよりもこんなに告白されてた事にはビックリです。」
山本姉妹がそう言ってくる。 ほっといてくれ。 俺だってこんなことになるとは思ってなかったんだからさ。
「飛空はモテるのぉ。 」
エレアはニコニコしている。 うーん。 こんなに女子がいるのに対して怒らない辺りがエレアらしいのか?
『私は・・・こちらからで・・・申し訳ありません。 皆さんに・・・直接会うことが・・・出来なくて。』
青坂が申し訳なさそうに謝る。 学校が違うからしょうがないと言えばしょうがないんだがな。
「それで、話とは、なんですか?」
白羽がそう話を切り出してくる。 おっとそうだ。 話さないといかんな。 そう思って俺は手を組んで肘を机に置く。
「みんなに集まってもらったのは他でもない。 私の中での話の結論が出たからそれを言おうと思ってたんだ。」
「何やってんのよ?」
うん。 ごめん。 悪ノリしたわ。 ちょっとやってみたかっんでな。
「まあ、話って言うのは他でもないんだ。 集まってもらったみんなの告白を受けてずっと考えてたんだけど。 その答えを出すことが出来てね。」
その言葉にみんなの視線が集まる。 正直たじろいてしまうがここまで決めておいてもう後戻りはしない。 覚悟は決まってるんだ。
「俺は、誰かを特別扱いしない。 みんなの想いを一心に受けとめる。 だから俺からも言わせてくれ。」
その後に深呼吸をして、
「こんな俺ですが、俺と、付き合って下さい。」
そう言って頭を下げた。




