第87節 小さき告白者と増える告白者、複雑な心境
夜に桃野姉妹の告白を受けて次の日。 朝ごはんを食べにみんなで食堂に向かうとエレアと遭遇した。
「飛空、海呂、輝己、啓人 おはようなのだ。」
「おはようエレア。 今日も元気だな。」
「朝の挨拶は自分の戒めとして、自分から発する事にしてるのでの。 それで周りも元気になれば良いと思っておる。」
小さいながらに考えておられる。 13歳とは思えんな。
「飛空も色んな視野で見ると良いぞ。 新たな世界が見えるかもしれぬからの。」
「もしかしてエレアがこの国に来た理由って・・・」
「わらわが行きたいと言ったからだぞ。 お父様もお許しが出たので満足なのだ。」
啓人の疑問にエレアが答える。 その好奇心が俺にももう少しあればなぁ。 探究心はあるものの、それを行動に移す好奇心はない。 石橋は叩いて渡るタイプだからな。
そんなこんなで朝ごはんを食べ終えて食器を返していると、エレアが袖を引っ張ってきて、耳元でこう囁いた。
「午前の授業が終わったら学校の正門に来てくれぬか?」
そう言ってエレアは去っていった。 あそこになにかあったっけ? 俺は首を傾げた。
今日の授業も歴史に纏わるものだった。 と言っても元の世界のように過去の偉人がどうのこうのではない。 もちろんその場合もあるが、今回は現代の状態になるまでに何があったのか、つまりは公民的な話をしていた。 歴史は得意ではないがこっちの世界の歴史を知るのは好きだ。
そんな時代の流れを知った授業も終わり、海呂たちと一旦別れて、正面玄関に来た。 文香が帰ってくる時特に気にしていなかったが、葉が黄色に色付いていた。 こっちにもイチョウがあったんだ。 そんな事を考えていると緑髪の少女が1人立っていることに気づく。 誰を隠そうエレアだ。
「来てくれたな飛空。 わらわは嬉しいぞ。」
「呼んだんだからとりあえずは行くさ。 それでどうした?」
「わらわはの飛空、国に戻れば一国の王女として、皆に崇拝される。 しかしわらわはそんな民を見たくない。 裕福も貧困も関係ない、そんな国にしたいと思っておる。」
理想は高いがやはりそれをするには難題が多いのだろう。
「それにまだお父様は決めてはおらんが、わらわにも婚約の話が持ち込まれると思う。 だかわらわはお父様にも話した。 「いくら政略結婚とはいえ、好きにもなれない相手とは結婚したくない」とな。」
政略結婚で結婚して幸せにして貰えるならいいが、そうでないならやりたくはないのだろうな。 ほんとにこの子は13歳なんだろうか?
「そこでわらわは考えた。 こちらで許嫁を作ってしまえばお父様も簡単には政略結婚の話にはならないのでないか?との。」
「え? なんでその話を俺に・・・ まさかエレアが考えてる許嫁の相手って・・・」
「わらわは最初に飛空と買い物した時に思ったのだ。 家族以外でわらわのことを対等に見てくれる存在なのではないかとの。 先程も言ったがわらわは王女、崇拝されるのは嬉しいのだが、わらわはそんなに図の高い人ではない。 同年代の友人と呼べる者もおらんしの。 だから傍に置くならお主のような者がよいのだ。」
そう言われるとは思っていなかったので、どう返したらいいのか分からなくなってきた。 だがエレアの透き通った緑色の目は真っ直ぐで、本気なのは明らかだった。
「エレアの気持ちは分かった。 だけど、今色々と葛藤しているから、ちゃんと答えが出てから伝えようと思う。」
「分かったぞ。 わらわのはあくまでも提案なのでな。 決めるのはお主じゃ。 良い答えを待っておるぞ。」
そういって飛び込んで来たところをキャッチして左頬にキスをされる。 ちゃんと考えてあげないとな。
そんな事もあったが、午後の実践練習もなんとか終えることが出来た。ただ今までのような調子の良さではなかったが。
生徒会室で昨日やれなかった業務を淡々とこなして、昨日の分も挽回出来たかなと思いながら生徒会室を出ようとすると、誰かに袖を引っ張られた。 振り返るといつの間にか1番後ろにいた夭沙がいた。
「・・・この後時間があれば、プライベートルームに来てください。」
あれ? この袖を引っ張られる感じといい、プライベートルームに呼ばれることといい、どこか似たような光景を知ってるぞ? デジャヴ?
言われた通り、プライベートルームに入る。 昨日と違うのはそこにあったのは水色のドアがあったという事だ。 開けると夭沙がそこに待っていた。
「どうしたんですか?」
「・・・いや1人なのかなって思ってさ。」
「姉は少し遅れてきます。 と言っても数分の違いになりそうですが。」
その言葉通り、2、3分もしない内に鮎が部屋に入ってきた。 鮎もどこか覚悟を決めた様子があった。
「まあ、ここまでくれば鈍い飛空さんでも気づくと思いますよ。」
いつから俺はニブチン判定されてんだ? いや多分間違ってないんだろうなって思ってしまうだけになんにも言えない。
「なんか色んな子達に先を越されすぎてこんなタイミングで言うのも我ながらおかしいとは思うのよ? うん。 でも言ってないのが自分だけっていうのも嫌なのよ。」
鮎らしくない長文かつ脈絡のない話をし始める。 ここまで来ると流石にこの後どんな展開になるか想像出来る。 この状況何回目だ。
「・・・全く、ほんとに色男なんだから・・・ どんだけ女子を落とす気なのよ。第一自分の好きな相手にライバルが多すぎるのよ。」
いや、それに関しては俺に言われても困るんだが。 なんかこう、他のみんなと違って鮎はさりげなく言ったのが告白のようだ。 指摘すると面倒そうだったので敢えて何も言わないことにする。
「これで、告白出来たって事かな? お姉ちゃんも。」
「・・・そういうことにしておいて。」
拗ねたように顔を赤くする鮎。 姉妹揃って照れどころは同じようだ。
「それで? あんたどうやってこれに収拾つけるつもり?」
そう。 俺は現時点にて8人 (イバラは人ではないが細かい事は関係ない。)に告白されている。 しかしこの場合どうすれば正しい答えなのか分からない。 いや、自分の中で整理が出来ていないだけなのだが、それでも自分なりに答えを出したい。
「これはみんなにも言ったんだけど、時間が欲しい。 もちろんそれなりの答えは出すつもりだ。」
「・・・そうね。 色んな所から言われてるものね。 どうするかはあなた次第なんだから、ゆっくり考えてよ。 ちゃんとした答え出してよ?」
そう言って山本姉妹と別れる。
戻ってきて、海呂達がいるのを確認して、ため息をつく。
「どうしたのさ。 疲れ切った顔をして?」
「んー? まあちょっとな。」
「とりあえず飯行こうや。 腹減ったで。」
「輝己はいつもそうだよね。」
「やかましいで。」
そういいながら食堂に向かう。 その行き先で桃野姉妹と山本姉妹と会う。
「おう、みなはんもご飯の時間かいな?」
「まあ、そんな所ね。 この後やることも無いしね。」
「あ、そうだ! 皆さんこの後時間ってありますか?」
「僕らもこの後は何も予定は無いよ。」
「それなら大人数用のボードゲームが見つかったんですけど、一緒にやりませんか?」
「へぇ、僕らで良かったら参加するよ。」
「面白そうね。 あ、ならエレアと文香も誘わない? 人数は多い方がいいでしょ?」
「いいわね。 ご飯を食べ終わったら誘ってみましょ?」
そう言ってみんな食堂に入っていく。 みんな揃うのか・・・どんな気分でその場にいればいいんだ。 俺は。
「飛空? みんなの所に行かないの?」
その声に振り返るとイバラが立っていた。
「ねぇイバラ。 俺はどうすればいいのかな?」
その答えにイバラは首を傾げる。
「今まで通りの飛空でいいと思うよ? 飛空が誰と付き合うことになっても変わらない。 ありのままの飛空でいいんだよ。 だって私はそんな飛空を好きになったんだから、変わったらむしろ嫌いになっちゃうかもよ?」
確かにそれはそうなのだが、それと誰かと付き合うって話は別なんじゃないか? とにかく答えはそんなに先延ばしに出来ないぞ?
ここまで悩まされるのは戦いの場以外では初めてだぞ。




