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別世界で俺は体感バーチャルTPSの才能がとてもあるらしい。  作者: 風祭 風利
第9章 新学期に漂う不穏な空気
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第84節 夜の急襲と対峙、終息

 夜、今は雨が降っている。 だが今の自分には関係の無い話。 今日のターゲットはここの病室にいる。 本来1度襲ったターゲットは2度襲うことはしないことにしていたのたが、今回は例外だった。 ターゲット以外の第三者に存在を知られてしまったからだ。

 だから今回は例外としている。


 そうこうしているうちに目的の病室に着いた。


 鍵は当然かかっていたが、なんの心配もない。 人差し指の先に高熱になるように施された特殊熱材と僅かな鉄を使えばゆっくりと溶けて、鍵に手が届く。


 鍵が下ろせたので中に侵入していく。


 目標に近づき、ゆっくりとお腹近くに刃の先端を付け、そして


「なるほど、それがお前が「ブラッド」と言われる由縁か。」


 急に声がしたので声のした方をむく。 雷の光とともに現れたのはここにはもう来ないはずの人物、自分のことを被害者以外で唯一知る人物がドアの入口の前で腕組みをして立っていたのだ。


「あ、一応言っておくけど、そこに長楽さんは居ないぜ? それはお前をおびき出すためのダミーだから。」


 そう言われてバッと布団を開ける。 すると目の前にあったのは抱き枕のようなものだけだった。


「そもそも何故汝がいる?」

「あ、無理してキャラ作らなくていいから、疲れるだろ? それにいる理由か。 それぐらいなら教えてやるよ。」


 そういって彼はここまでの経緯を話した。


 ――――――――――――――――


「どうしたんですか?志狼先輩。 電脳世界で話がしたいなんて。」


 週末の初めの日の朝、志狼先輩のメールからここにログインした。


「話をする前に確認したい。 この電脳世界を含めて、君の周りに誰もいないと断言出来るかい?」

「え?」


 電脳世界、つまり現実世界でも周りに人がいないと言うことだろう。 誰かに盗み聞きされないようにだろう。


「・・・・・・ルームメイトはみんな帰りました。 寮の部屋にいるのは俺一人です。」

「・・・そうか。 なら君に話しておくことはただ一つだ。 今夜奴は彼女の寝込みを襲う。」

「!!」


 奴・・・「ブラッド」の事だ。 奴は例の予告状を送って以来これと言った動きを見せなかったが、いよいよ痺れを切らしたのだろうか?


「いや、このまま明日を迎えれば彼女は退院をする。 そうなると奴も狙いにくくなる。 だから機会を逃さない今をと考えたのだろう。」

「それは憶測の話ですか?」

「今回のはあながち憶測でものは言ってない。 奴の動向を辿れば、ね。」


「ん? でもそれってもしかしなくても警察の秘密事項では? それを一般市民の俺に教えていいんですか?」

「君の場合は重要参考人だからね。 と言うよりも君もこの件に関しては僕が1枚噛ませたんだ。」

「・・・ん?」


 イマイチ言っていることにピントが合わない。 どういうことだ?


「簡単に言えば、今回のこの捕まえるビッグチャンスに君も参加するって事だよ。」

「・・・つまり奴を捕まえるのに俺も介入するってことですか?」

「正確には君は奴を留めておいて欲しいんだ。 まあ簡単な言い方をすると、囮と降伏交渉を君が請け負うと言った具合だ。」


 なにも簡単じゃないし、1番重要な役割を担うって事に俺は少し疑問を感じるが、そこで突っ込んでも仕方ない。


「一応警察の方にも言ってあることが一つだけあってね。」

「なんです?」

「君の温情が許すのは、相手が大人しく無条件降伏をした場合だ。 抵抗したり、暴れたりしたら、無傷とはいかないってね。」


 ―――――――――――――――


「全くあの人も俺の事がよく分かってらっしゃる。」


 そんな事を語った後に呟く。


「まあという訳で、君を無条件降伏させるための交渉人として立たされてるんだ。 とりあえず君にどんな条件を付ければ降伏してくれる?」

「あの女を傷を付けさせることだ。 なに、ほんのちょっとで構わん。それで我は身を引こう。」

「自分の置かれてる立場を弁えての交渉か? それ。」


 そこで「はい、分かりました。」と言うわけが無いと分かっているだろう。


「ふん。 そんなこと出来ないのは知っている。 そもそもそれでは無条件降伏にならないだろう。」


 おっと気が付いたか。 そう、条件付きの交渉など無条件降伏させるためにやることではない。 ここまでバレなかった奴だ。 そこまで馬鹿ではないのは知っていた。


「ではお前はどうする? そのまま交渉決裂で強行手段に出るか?」

「さっきも話しただろ? 俺が温情なのはお前が抵抗をするまでだって。 もちろん逃がすつもりは無いから多少手荒な真似はするかもな。」


 やつと窓との距離は俺が走れば寸止め出来る距離にある。 それに下にはもう警察が配備されている。 逃げ道のある袋のネズミ状態だ。


「それで交渉ついでに聞きたいんだけどさ。 なんで人を傷つけ回ったんだよ。 しかも脈絡のない人間ばかりさ。」

「確かにそいつらには脈絡はないさ。 俺がターゲットとしてるのはそいつらの周りにいる奴らさ。」

「なんで被害者でもない人がそこに出てくるんだ?」

「そいつらはな。 俗に言う「お調子者」なんだよ。 会社で成功を成し遂げた。 家族が増えた。 そんな人の有頂天からの恐怖を見せてやりたかったんだよ。」


 狂ってるとは言わない。人間どこで精神が崩れるかなんて本人にも分からないのだから。


「でも直接傷つけるんじゃ「あぁ、あの時は調子が良かったのにな。 まあ不運の波が来たのだろう。」って思うだけ。 だったら関わってきた人間の中でもっとも近い人間を傷つければ自分だけじゃなくて、他人も不幸になるのだと、そう心に植え付ける事が出来るってね。」

「随分と人の心理ってやつを知っているな。」

「心情は察してくれないかな?」


 正直止めれればいいので心情はあまり分からないが、どうやら環境の問題だろう。


「まあ、問題はそこじゃないよな。 で、もういちど聞きたいんだけど、無条件降伏する気は、ないんだな?」

「無いって認識で構わないよ。」

「なら無理矢理捕まえることになるけれど、手荒な真似になるが抵抗しなければこっちとしても有難い。」

「そう簡単にはいかないけどね!」


 そういって「ブラッド」は窓側ではなくドア側に疾走していた。

 しかしドアに鍵がかかっているので、すぐには出られない。 もちろんその隙を見逃さない。 逃げた奴を後ろから羽交い締めにする。


「それでどうするの? このまま僕を連れていくのかい?」

「羽交い締めにしてんだ。 そのまま動けるわけないだろ?」


 なんで動きを固めてる相手を逃がすような行為しなければならんのじゃ。


「それで拘束したつもり? 僕にはこれもあるっていうのに!」

 そういって持っていたナイフで俺の頬に傷をつける。

「っ!」


 その緩んだ隙を見て、「ブラッド」は俺の拘束から離れる。


「・・・これは抵抗したって事で認識していいな?」


 そういって俺はモデルガンをホルスターから出す。


「それで僕を撃つのかい?」

「正直使いたくはなかったんだがな。 抵抗するなら仕方ないよな?」


 そういって銃を構えながら徐々に近づいていく。


「モデルガンなんか構えても怖くないよ。 それに本物が入ってないのは知って」


「ドンッ」


 俺は上に向かって銃の引き金を引く。 天井には弾痕が残っている。


「モデルガンでも本物の弾は詰めて打てる。」


 そういって再度「ブラッド」に銃口を向ける。


「そ、そんなの脅しだ、僕は怖くないぞ。」


 ゆっくりと「ブラッド」に近づいていく。


「怖くない、ぞ。」


「ブラッド」に近づいていく。


「怖く・・・」


「ブラッド」のこめかみに銃を突きつける。 もう「ブラッド」は声も上げられなくなっていた。


「大人しく降伏してくれるか?」


 そういうと「ブラッド」は大きく一つ頷きをした。


「よし、任務完了。 あ、ちなみに弾丸が入ってたのはあの1発だけだから。」


「ブラッド」はその言葉に大きく目を見開いた。


「・・・・・なんで?」

「俺は交渉人、手荒な真似はしないで君を無条件降伏させるのが仕事。」

「そうじゃなくて!」


 今度は「ブラッド」が声をあげる番だった。


「あれだけの事をやった大罪人だよ? なんであの一言だけで信用するのさ。」

「俺は君が、言うほど悪人には見えなくてな。 だから少年院で君が改心してきたら、もう一度会おう。」


 先程の銃声で駆けつけた警察官が入ってきて、「ブラッド」は大人しく捕まる。 その姿を見ていたら「ブラッド」が急に立ち止って振り返り、


「改心したら、絶対に戻ってくるから。 それまで待っていてよ!」

「・・・ああ、必ず戻ってこいよ。」


 そういって「ブラッド」は病室を後にする。


 こうして世間の話題と恐怖を振りまいた愉快犯「ブラッド」の事件はこうして幕を閉じた。

これで「ブラッド」事件は終息です。 ひとつのネタとして事件を組み込むのにかなり考えさせられました。

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