第78節 頭痛の朝食と別人?、キャンピング用品
「さ・・・流石にやりすぎたか・・・」
朝起きると異常なまでに頭痛が走った。 原因は分かっている。 昨日寝る前まで必死こいてやっていたミッションと、そのミッションを含めて今まで貯めに貯め込んだポイントを使っていたことによる、長時間、電脳世界に入っていたがための脳の処理不足によるものだ。 あ、頭痛え・・・
「とにかく頭痛薬飲もう・・・」
みんなと一緒に買いに行った頭痛薬を服用した。 もちろん即効性ではないので、まだ痛むが。
なんとか歩ける程度になって食堂に重い足取りでつく。
電子生徒手帳を使って朝ごはんを貰う。
「おはようさん。 あら、調子悪そうね?」
「ええ、ちょっと昨日夜更かししてしまって。」
「あら、それは大変ね。 でも丁度いいかもしれないわね。 はい今日の朝ごはんよ。」
そういって渡してくれたトレーの上にはトーストにヨーグルト、更に何かのペーストが乗ってあった。
「このパンはね、パンに使われる植物の種の上澄み部分だけを削って作った小麦粉を使っているの。 そのペーストはアーモンドペーストだからパンにつけて食べてね。 飲み物もサーハー豆を炒ったものを粉にしてあるからお湯と一緒に溶かして飲んでね。」
へぇ、至れり尽くせりだな。 パンは元の世界の全粒粉パンというものだろう。 サーハーの方はコップに出すと黒い粉が出てきて、お湯で溶かすと懐かしい香り・・・まあコーヒーなんだけどね。 文字を上下にしただけってなんか安直。 これに砂糖と牛乳(一応こっちの世界ではこれを出す動物の名前からママーレと呼ばれているのだが。)を入れて朝食の完成。 頭痛の朝には最適な朝ごはんである。
朝ごはんを景気良く食べて準備して出発・・・しようと思ったがまだ時間が早いので少し考えておこう。
なにが彼女の脅威になるか、なにがイバラを感じさせたのか、どこまで守ればいいのか。 イバラの言ったことは他人から見れば「勘」だとか「戯言」だとか言われかねない話だ。 だがそれでもイバラの忠告を真剣に受け止めたのは
「イバラも人との関わりを持とうとしているな。」
持とうとしているというよりも、正しくは失っていた人生を取り戻そうとしているに過ぎない。 だから人一倍に人のことを気にしてしまうのだろう。 アンドロイドとしての性能かそれともイバラになにか見えたのだろうか?
「護身用のナイフとかってこの世界に売ってんのか?」
そもそも戦いが電脳世界にあるわけだからそんな必要がないのかもしれない。 いや逆にそういうことが出来る世界になったから護身用くらいはあるかもしれない。
「買い物付き合うついでに俺の買い物も付き合って貰おうかな?」
その辺りも探してみるか。
そんなことを考えていたら出掛けようと思っていた時間になった。 着替えて寮を出ようとするときにたまたま通ったのか俺が出るのを察知したのかイバラがそこにいたので、
「行ってくるよ、イバラ。」
そうイバラに声をかける。
「気をつけてね、飛空。」
イバラも心配そうに声をかける。 イバラの予知が当たらないようにこちらも注意をしていこう。
寮から歩くこと15分。 苔川駅ロータリーに着いた俺は長楽がいないかを探す。 うーんそれらしい人は居ないな。 少し待つか・・・ しかしなんというか駅周辺は人が少ないのかな?
ツンツン
いや、この辺りは特に買い物が出来る場所が充実してるはずだから
ツンツン
人が少ないなんてことはないはず
ツンツン
・・・・・・・人が待ちながら考え事をしている時に肩やら顔やら脇腹やらをツンツンしないでくれるかな?
そう思って睨みを聞かせながらその人物に目をやると、
「あ、やっと気づいてくれましたね? 考え込むと周りが見えなくなるってホントだったんだ。」
そう言ってきたのは深めの黄色い帽子に前にポケットの付いた黒のパーカーに青色のハーフパンツとどこか少年の様な出で立ちをしていた子がそのにいたのだが、驚いたのはそこではなく、
「え? 長楽さん?」
「そうだよ? 驚いたでしょ?」
そう笑顔を見せる。 いや驚くも何も、学校の時と雰囲気どころか全くの別人に見えるんだが・・・
「もしかして双子の妹とかか? だとしたらどんだけ双子に愛されるんだ俺。」
「違うよ? 私は本物の長楽 文香。 学校の転校生だよ。」
ま、そんな現実逃避許して貰えるとは思ってなかったけど。
「それにしても随分学校での性格と違うんだな。 オンオフを切り替えているのか? それとも二重人格?」
「二重人格扱いは酷いなぁ。 ホントの性格の私はこっち、学校での方はちょっとだけ演技入ってる。 油断してるとこっちになっちゃうけど。」
「普段からそっちでいればいいのに、なんでそうしないのさ?」
「こっちの性格だと面倒な輩が集まってくることが多くって、それをある程度回避するためのあの性格なんだけど。」
「逆に寄ってこないか? ほら、カモられるかもしれないだろ?」
「それも不安要素ではあったけど、1人でいるわけじゃないから問題解決!」
Vサインを決める長楽、なんだか笑顔が眩しい。
「ま、学校の方でその性格に移すなら少しずつの方がいいかもな。 いきなり変わったら、何かあったのかと疑われるからな。」
「忠告ありがとう。 飛空君的には私は、どっちの性格がいい?」
学校では「さん」だったのに今は「君」づけですか。 ギャップがありすぎてなぁ。
「まあ驚きはしたけど、それがどうしたって話だな。 学校での長楽も今の長楽も同じ長楽 文香な訳ならどっちも好きだって話さ。」
「そう言われるのは・・・なんか・・・初めて・・・だね。 うん。初めて。」
長楽が若干縮こまってしまったが、まあ問題ないだろう。
「さてと、長楽の意外な一面を知ったところで、買い物に行きますか。 どこに行くとかは決まってるのか?」
「あ、そうね! 私今回スポーツ用品店に行きたいの!」
「スポーツ用品店か。 なんかスポーツでもやってるの? それともやってた?」
「ううん。 私が用があるのはキャンピング用品。」
「キャンピング用品? 山登りとかでもするのか?」
「違うわ。 キャンピング用に使う食器とかで食事をするのが好きでね。 それで欲しいのよ。」
キャンピング用の食器か。 たしか鉄製だったり木製だったりするよな? それなら俺もついでに自転車とか見ておこうかな?
目的地が決まったので早速向かおうとした時
「・・・・!?」
「どしたの?」
「・・・いや、気のせいだと思う。」
今の感覚はなんだ? 一瞬だけ誰かに見られたような感覚があった。 イバラが言っていた「長楽についている危険な気配」なのだろうか? 分からないが警戒はしておこう。
着いたのはいつも通りのショッピングセンター、そして前に輝己と来たスポーツ用品店に足を踏み入れる。
「へぇ、こんな奥にあるんだ。 キャンピング用品用のコーナー。」
「私はここの用品好きなのよね。 私、ちょっと見てくるね。」
そういって奥に消えていく長楽。 俺もなにか欲しいものがないかな? 適当に用品店の中を見ていく。 うーん。ダンベルにプロテクター、ゴーグルまである。 電脳世界であれだけ着替えることが出来るのに現実でもしたいのかと思うくらい色んなものがあるが、そうじゃないんだよな。 あ、プロテイン見たいなの見つけた。 輝己に買っていってやろうかな?
「・・・・・・・ん?」
目に止まったのは射撃時の様な雰囲気の場所だった。
部屋に入ると直ぐにモデルガンが目に入った。
「いらっしゃい。 銃に興味があるのかい?」
カウンターらしき場所から1人の男性が声を掛けてくる。 ミリタリージャケットを着ていたので、どうやら本物に近い作りをしているらしい。
「このモデルガンは・・・」
「サバイバルゲーム用だよ。 電脳世界に常に入っていると偏頭痛が起きるって人がやっぱり少なからずいてね。 後はアナログ式で戦ってみたいって人も密かにいるからこうして展開しているんだ。」
ほうほう。サバゲーが廃れてる訳では無い、 むしろ熱を取り戻そうとしているのか。 これは好都合だ。 せっかくなので、ハンドガンのモデルガンを借りて、照準を合わせて引き金を引く。 モデルガンとはいえ、やはり電脳世界での銃と現実での銃の感覚が違うな。 ちゃんと狙っていたつもりだったが、反動で少し照準がズレた。
「筋がいいね。 もしかして曜務学園か級頼学院の生徒?」
「ええ。 そうですが。」
「なるほどね。 その筋の良さも納得がいくよ。」
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、こういったモデルガンを取り扱っているお店ってどこかにないですかね?」
専門店のような場所でこんなことを聞くのもめちゃくちゃ失礼だと思う。 だってライバル店を聞くようなものだし。
「そうだねぇ。 ここからなら一つだけミリタリーショップがあるよ。 名前は「I SET」って場所だよ。 場所を教えるね。」
地図を出してもらって、ここからそう遠くない場所を教えてくれた。
「ありがとうございます。 しかし良かったのですか? せっかくのお客さんに別の店を教えちゃって?」
「曜務学園や級頼学院の生徒ではここよりもいい場所だからね。 そこの生徒だと言えば、店主は怖いけど優しくしてくれるさ。」
そういって店員は笑い返す。 その店員さんにお礼をいってその場を後にする。
「あ、飛空君。 もうどこ行ってたのさ。」
「ごめんごめん。 ちょっと寄りたい場所が出来たからさ。 そっちは?」
「うん。 色々と買えたよ。 こっちは終わったようなものだからそっちの買い物に付き合うわ。」
そういってスポーツ用品店を後にする。 さーてどんなものが見れるだろうかな。
 




