第71節 砂埋めとバーベキュー、投影花火
長く感じた1週間の海水浴も今日の夜にて最後になる。
今はお昼だが砂浜で砂風呂状態になっている横でカセットコンロやら食材やらが準備されているのが見える。 最後にBBQをするとの事で木崎一家含めて関係者一同大変そうだ。 ちなみに何人かが(俺も含めて)手伝いを申し込んだのだがあいにくとみんな同じように手伝いはしなくていいと返されてしまった。 なので夕方になるまで結局こうして遊んでいるわけで、俺の場合は疲れているところを砂にこうして埋められている現状な訳だ。
「うーん。 こんなにゆったりとしていいものなのだろうか。 うちに帰れてないから課題も進んでないんだよなぁ。 いい加減銃の感覚が恋しくなってきた。」
「なに言ってんのよ。 自宅に帰って早々に課題を取り組んで、ほとんど終わってるんでしょ? ならいいじゃないのこうやって楽しんでも。」
そう近づいてきた紅梨がそういう。 いやそれでも銃の感覚は・・・そう思って紅梨の方を見るとちょうど水着の食い込みを直してる仕草を見てしまって立っている紅梨を下から見ている感じになってしまって俺は少し気まずくなった。
「どうしたのよ。 目線なんか逸らして。」
「なんでもないよ。 それよりも紅梨は行かないのか?」
「今は休憩中よ。 それよりもあんた、埋められてるのになんで平然とした顔してるのよ。」
「別にこれくらい普通じゃないか? 顔だけだして身体を埋められるよりは。」
そんな打首みたいな状態俺でも嫌だわ。
「まああんたがそれでいいならいいんだけど。」
訳が分からないみたいなイントネーションで返されてしまった。
失敬なこれでもこの砂の中って意外と快適だったりするんだぞ?
「それにしてもみんなよく遊べるなぁ。 まあ遊んでない人もいるけど、俺はあそこまでの元気はもう残ってないや。」
「あんたはそれでいいと思うわ。 誰か止める役がいないと収集つかなくなりそうだもの。」
それならもっと適任がいる気がするんだがな。 そんなことを思っていると紅梨は俺の隣にチョコン座る。
「ま、まああんたが暇にならないように、私が一緒にいてあげるわよ。」
「そいつはありがたい。 ずっと寝転がってるだけじゃつまらなくてな。」
「・・・・この天然・・・」
最後になにかボソリと紅梨は呟いたようだが、よく聞こえなかった。
紅梨と他愛ない話をした後、鈍った身体を動かして、もう一度疲れた頃には空が橙色になっていた。
「皆さん! バーベキューの準備が出来ましたので、どうぞこちらにお越しください!」
その声がかけられるとみんな会場へと向かう。
「いやぁ、身体を動かした後に食べる肉は最高の至福やで!」
「輝己君はなんでも美味しく食べるじゃないか。」
「堂本もその筋力を保つために沢山食べるんだろう?」
「最後の締めくくりにはいいじゃねぇか! なあ飛空!」
宮巻にガッと肩を掴めれたので「そうだな。」と短く返しておく。 まだ疲れが取れきれてない状態でそれは応える。
「今日もいっぱい動いたからお腹ペコペコ。」
「ほとんど休んでないんじゃない? 睦美。 夜まで遊んでるんですもの。」
「・・・今日は・・・さすがに・・・食べた方がいい・・・よね?」
「青坂さん。 女の子だけど食べれる時は食べないと駄目よ? 深江からの約束。」
女子のみなさんも今日は気にしないようだ。
「みんな、1週間ほんとに楽しかったわ。 ここのみんなからのお礼として最後まで楽しんでいってね!」
「おおお!!」
木崎さんの掛け声とともにコンロに向かうもの、飲み物を取る物に分かれ、それぞれ色んなものをとっていった。 俺もお茶を持ってBBQ串を手に取ってテーブルへと座る。
「前、いいかい?」
そう言ってきた了平にどうぞと促して、席に座らせる。
「この1週間はほんとに楽しかったよ。 多分飛空と会ってなかったらこうはなってなかったんじゃないかな?」
「大袈裟だろ。 まあでもそうかもな。」
「また今度君とは戦いたいと思ってるからね。 今度は僕が勝つよ。」
「おっと、勝った気でいるなよ? 俺だって負ける気はないんだぜ?」
了平と睨み合いを効かせていると、突如笑いが込み上げてきて、俺も了平も笑ってしまう。 こいつとは良きライバルになりそうだ。
「おやおや、昨日の敵は今日の友とは聞くけれど、ここまでとはね。」
「増本先輩、了平、楽しそうでしょ?」
その声に顔を上げると、白ご飯を片手に増本さんと芥川が来ていた。
「そうね。 最近の彼、すごくワクワクしてるもの。 生徒会に入った時はそんなこと無かったのに。」
「まあそれも飛空さんの存在あってのことでしょう。」
「ふふん。 凄いでしょ? うちの飛空君は相手の潜在能力を引き出せる力を持っているのよ。」
「デタラメを言ってやるな志摩川、津雲にそんなものはないんだから。」
芥川と増本さんの会話に割って入って来たのは焼かれた肉が山盛り持った皿を持って歩く志摩川先輩と、コップに入った飲み物を飲んでいる幸坂先輩だった。
「どうも先輩方々、なんか少しやけました?」
「どう? 褐色肌も悪くないでしょ?」
それ俺に質問することですか? そんなことを思ってしまってフッと笑ってしまった。
その後色々と食べて少しお腹に溜まってきたので、海から来る夜風に当たっていた。
「あ、いたいた。 もう急に居なくならないでよ。」
「柊さん。」
柊がこちらに向かって歩いてくる。 手にはコップを持っている。
「ちょっとした報告があるから探したのよ?」
「報告?」
「例のロボット、外に出せるように調整が終わったのよ。 それを伝えたくて。」
「あぁ、いよいよ外に出してもらえるように許可が出たのか。」
「正確には許可事態は降りてたの。 発表はする予定だったから。ただあの図体のままだと持ち運びが実質不可能だっただけなのよ。」
たしかにロボットを外に出すってだけでも目立つ上にかさばってしまうよな。
「それでどうした訳?」
「簡単なことよ。 パーツごとに分解すればいいだけの話だったのよ。 これでパーツ分荷物は多くなるけど持ち運びは実現出来たわ。」
なるほどね。多分関節部のパーツごとに分けたんだろう。 話さなくてもそれぐらいは想像出来る。
「まあこれで持ち運びの問題も解決出来たから・・・」
そういって柊がこちらに来る。 暗くて気が付かなかったが近づかれて改めて見ると、頬が若干赤い。 暗闇に慣れた目で見てみると目尻がトロンとしている。 そして鼻に来るツンとした匂い・・・
「柊さん。 もしかして酒入ってる?」
「飛空君にはどう見える?」
その返し方からして入ってるな? この世界での成人年齢は分からないが、間違えて飲んだのか、はたまた自主的に飲んだのか。
「ふふっ。 今はみんなバーベキューに夢中。 こうしているのは2人だけ。 なんだか運命感じますねぇ。」
「運命は感じないし、そもそも探しに来たんだろ? 偶然じゃなくない?」
「もう雰囲気をそうやって壊す。 面白くないぞぉ、飛空ぁ。」
やばいな、呂律が回ってきてないぞ。 しかし1人ではどうすることも。
「全く、何をしてるのかと思ったら。 ほら戻るよ。」
そう言ってきたのは木崎さんだった。 柊の襟首を掴んでつかつかと戻っていく。
「あ、そうだ。 ロボットの持ち運び、いつにしようか?」
「そうねぇ、早くて明後日はどうかしら? こっちもここの片付けがあるから明日は出来ないから。」
そういってそのまま柊を連れてバーベキューへと参加する。 まああれで良かったのだろう。 あのままの柊ではまともに話すことも出来ないかも知れなかったからな。
「さあ皆さん、花火も楽しんでいって下さい。 もっとも本物ではないですが、それでも充分楽しめるかと思います。」
そういって「ドンッ ドンッ」と花火が打ち上がり、空に花が咲く。 真下を見ると投影する機械があるのであれから立体投影として花火を見せているのだろう。
「夏ももう終わりかなぁ。」
「そうですね。 長かった夏休みも、もう少しで、終わりますし。」
独り言を言ってるといつの間にか隣に白羽がいた。
「俺はもうひとつ、仕事があるんだけどな。」
「矢萩学院の人達の、実験、ですよね?」
「うん。 聞こえてた?」
「2人だけ、離れていたので。」
気になって見に来たのね。 まあ危なかったからあそこで木崎さんが来てくれなかったらどうなっていたことやら。
「まあ学校が始まっても、こうやって集まろうと思えば集まれるんじゃないかな。」
「もう新学期の事、考えてるんですか?」
「うん。 新しい武器も支給されるし、多分一学期ではやらなかったことをやるんだとふんでるんだよね。 いやぁ楽しみなんだよ。 今までの戦い方からスタイルを変えていくのがなにより」
「飛空さん。」
その声に横を見ると白羽の顔が間近にあってビックリしてしまった。
「またそうやって、みんなを置いてけぼりにするような、発言をするんですね。」
白羽が少し怒っているのは暗いなりに表情で分かった。 楽しみなのは確かだが、それは先の話だった事を忘れそうになる。
「だから、そんな事ばかり、言っちゃう飛空さんの口を、閉じちゃいます。」
「閉じるって」
どうやって?と言おうとした時に口元に柔らかいものが当たった。
正体はすぐに分かった。 白羽が自分の唇を俺の唇に当てているのだ。 お互いにとてもぎこちないキスを交わした。 お互いが離れた時に俺は唇を触った。 白羽の香りが鼻腔を少し通る。
「こ、これで、今日は、もう話しちゃ、駄目です!!」
そういって白羽は勢いよくみんなの元へと行く。
そんな姿を唇を押さえながら見ていると、大きな花火の音が聞こえたので振り返ると、多分最後の花火だろう。 1番大きい花火を間近で見れた。
「最後にふさわしい締めくくりって感じかな?」
そんなことを口にしていて、長く感じた1週間の海水浴は幕を閉じました。
ってね。




