第57節 終了と暴徒、終わった後に
「全てを終えて結果が今っ! まさに! 今回の優勝校は提案校である! 曜務電脳統合学園に! 決まったーー!!!」
その高花先輩の号令に、皆が「わーーーーっ!!」と声援が飛び交う。 とはいえまだミーティングルームにいる俺たちだが、その声援がこちらまで届いてきた。
すぐにドアを開けようと思ったのだがドアに着く前に膝をついてしまった。
「大丈夫、ですか? 飛空さん?」
「飛空さん、立てますか?」
後ろから見ていた白羽と夭沙がそう肩を貸そうとする。
「大丈夫。 それに優勝者がこんなフラフラじゃ締まらないからね。」
そういって体制を立て直して、ミーティングルームから出る。 すると、向こうも丁度出てきた様で、了平と顔合わせになる。
俺と了平はステージ中央にいき、
「優勝おめでとう。 今回は完敗だよ。」
「何言ってんだよ。 こっちこそ、いい試合だったぜ。」
そういって俺たちは拳をぶつける。
「ではこのまま表彰式に入ろうと思います。 飛空さん申し訳ないのですが、このまま壇上に・・・」
「ちょぉぉぉっと待ちなぁ!!」
なんだなんだとざわつき始める会場に1人声を荒らげる男子生徒が席を立っていた。 制服やガタイの良さから湾健高校の男子だと分かった。
「試合を最後まで見てたが、なんだあの試合は? そんなので勝ったような口振りされると、こっちが腹が立ってしょうがないんだよ! チマチマチマチマしやがって! 舐めてんじゃねぇぞ!」
そういって男子がステージに降りてくる。 つーかあの高さから飛んで来るかね?普通。 バーチャル世界じゃないんだぞ?
「そうだ! 全員が全員、納得してる訳じゃないんだぞ!」
ごく少数の人間ではあったが、批判の声が聞こえた。 少数と言っても、8校の中での一部なのでそれでもかなりの人数になる。
「ふん。 お前のような軟弱者が軽々しくバーチャル世界の戦いに入ってくるんじゃない! 貴様のようなやつが増えるから最近の奴らが調子に乗り始めるんだ。」
「なんだと・・・・グッ!」
さっきの試合と目の前の大声で頭に影響が出ているようだ。 頭痛が酷くなってしまったようだ。
「見ろ。 慣れんことをするから体を壊すのだ。 こんなものは無効だ。 とっとと家に帰れ。」
「ほう。 ではその軟弱者が貴様を叩きのめせば、納得してくれるんだな?」
そういって前に出たのは幸坂先輩だった。
「ああ、そういうことだ。 最もその体では無理そうだがな。」
「高花、拡声器はあるか。」
「え? ええ、こちらに。」
そういって拡声器を幸坂先輩が持つと
「今回の試合に納得の言っていないものは全員出てこい! 今回は交流会であって対抗戦ではないと考えていたのだがこれでは台無しだ! その性根を叩き直してやる!」
幸坂先輩が拡声器で観客席に向かってそう言っている。 「やってやろうじゃねぇか!」とチラホラと観客席から降りてくる。 ざっと見ても大体300人程度だろうか。
「あの、先輩・・・?」
「我々の目的は交流会の筈だ。 本来の目的を忘れられては困るのでな。 それに」
そういって幸坂先輩が俺を見る。
「お前を軟弱者と言ったことに個人的に腹が立っているだけだ!」
もう既に電脳世界に入っているので、先輩のでかい剣で前方集団を薙ぎ払う。
「そういうこと。 今回は交流会、勝敗を競う場ではないわ。 それに貴方には新たな仲間もいるんだし。」
その言葉と共に曜務学園で一緒に戦った仲間に加えて、今日会ったばかりで部屋が一緒になったメンバーや話し合った先輩達が俺の前で大群衆を前に戦っていた。
「みんな、どうして?」
「君の熱意にあてられたんだよ。」
志狼先輩からそう告げられた。
「君はとてもいい人だ。 だからみんな君について行きたがるんだ。 そういう人なんだ、君は。」
みんなが戦っている背中を俺は眺めていた。 この世界に来て一ヶ月半近く。 どうやら俺はこの世界に認められたようだ。
「口が笑ってるよ飛空。」
隣で一緒に座っていた了平にそう指摘された。いつの間にか笑っていたようだ。
「悪いんだけど、ちょっと手を貸してくれないか?」
了平にそうお願いする。 手を借りて立ち上がり、みんなの背中とともにブーメランチェイサーを持つ。
「もう大丈夫ですか?」
増本さんが俺に向かってそう質問する。
「ありがとうございます。 もう大丈夫です。」
「飛空君。とっとと終わらせて帰るわよ。」
志摩川先輩の先陣と共に俺の周りの人たちが一斉に動く。
「恵まれたものだよ。 ねぇ、女神様。」
聞こえていないであろうヘッドホンに向かってそう言い、集団に向かってブーメランチェイサーを放つ。
そのあとはまあ暴徒を沈静化して、表彰式(とは言っても表彰を貰っただけなんだけど)を貰って学校へと帰る。 今回3日間ぶっ通しで学校にいなかったので学校権限ではないが、その次の日はどの学校も休みになっている。 ちなみに俺はそれにさらに2日間 どこかで休みをくれる特典を貰った。
帰ってきてからみんな完全に疲労が溜まっていたようで、寮に帰ってきた大半の人は夕飯を食べて、お風呂に入り、眠ってしまった。 え?なんで分かるかって? その第一人者が俺だからだよ。もうね、ベットに寝転んで目を閉じた時点ですぐに落ちたみたいで、目を開けた時には朝日が昇ってたよ。
あ、そうそう。 今回あったメンバーなんだけど、連絡先を取り合って会話出来るようにした。
みんな今日は昨日のことで話題にしていたけれど、それでも大半は近状報告が多い。 例えば
「筋力トレーニングの後の飲む牛乳は最高だね。」(堂本)と連絡が来れば、
「トレーニングの後って筋力増強剤とかじゃないんだな。」(宮巻)
「純粋に筋肉つけるならそういうの要らないんじゃない?」(楽満)
「超回復というものがあるから下手に刺激しない方がいいんですの。 それにカルシウムも取れているので強固な骨も作れますよ。」(横井)
と、色んな回答が返ってくる。 そのやり取りを見てるだけでもやはり楽しくなるものだ。
ちゃんとイバラの事も気にかけている。 流石にほかの人に見えない存在とはいえ、蔑ろにするのは良くない。
「楽しそうだね。 飛空。」
「あぁ、新たな友人も出来たし、戦いもできたしで大満足だぜ。 」
花に水をやるイバラとそんな会話をする。 交流会の次の日の休みということで、平日の為人は多いが、イバラは一部の人間にしか見えないのでほとんど気にすることもない。
「とは言え、流石にやることが無さすぎるのも、なんかつまらないな。 ミッションでも行こうかな?」
「飛空、体を休めるのも重要。 動きっぱなしも体を壊す。」
電脳体に言われてもと思ったが言わぬが花だ。
「でも確かに向こうでぶっ倒れちまったからな。 体調管理が出来てない証拠だな。 今日はゆっくりして、明日に繋げるか。」
「うん。それがいい。」
イバラとそんなやり取りを終えて部屋に戻り、折角なので前に買ってきた小説を読んでいることにした。
「うーん、なかなかに面白い内容だ。 これ続編ってあるのかな?」
読み終えた頃にはもう陽も沈みかけていた。 時刻は6時になろうとしていた。
「ふいー、帰ったで飛空。」
「おかえり輝己、どこに行ってたんだ?」
「スポーツセンターや。 湾健高校のやつら見ててな、わいも現実世界で鍛えなおさんとと思ってな。 そのためにほれ。 ダンベルや重り付きリストバンドとか買ってきたんや。多めに買ってきたでお前さんにもやるわ。」
別に俺は必要無いなと思っているが、なにかのいい機会だと思って貰っておく。
「ふう。平日だから割と楽に買えたよ。」
「その分色々と悩んじゃったけどね。」
またドアが開かれると、今度は別の袋を持った海呂と啓人が帰ってきた。
「あんさんたち何買いに行ったんねん?」
「常備薬だよ。 なんだかんだ言ってミッションに行くことが多いじゃないか、僕達」
「後はお菓子類だよ。 甘い物、必要でしょ?」
俺が休んでる間に色々と揃えておいてくれたようだ。
「俺も行けば良かったかなぁ。 みんなにだけ買わせるのも・・・」
「なに言っているのさ。 こういう時くらい休まないと。」
「そうやで、英雄も仕事人も休みは必要やで。」
「今回の交流会で大活躍だったからね。 だから休んでもらおうと敢えて誘わなかったんだよ。」
そうか、みんな心配してくれてたんだな。
「それにな、聞いたで?2日目の時飯食った後ぶっ倒れたようやないかい。 働きすぎも良くないで。」
イバラと同じ事を言われてしまった。 どうも俺はマグロみたいな習性かと思っていたが違ったようだ。
「悪かったよ。 なら、まあ今夜はゆっくりとしましょうかね。」
「そうしようよ。 明日からもまた普通に学校があるんだし。」
「でもええよなぁ。 飛空は褒美として2日間休んでもええんやろ? 羨ましいわぁ。」
「褒美なんだから貰えるかも分かんなかったんだぞ? この2日間は大切に使わさせて貰います。」
その俺の一言でみんな笑った。 そうこれでいいのだ。 なにも不思議なことは無いのだ。 その後夕飯と風呂を済ませて、雑談をした後そのまま床についた。
こういうのも悪くないなと思って眠りについた。
これにて交流会編は終了です。 今回名前の挙がったキャラは今後の話で出していこうと思っています。 どのようなキャラが出るかはまた想像してみて下さい。




