第54節倒れた理由と3日目の朝、決勝の場
「飛空さん。 お久しぶりですね。 大丈夫ですか?」
目を開けると、そこは何度も来た事がある。 夢の世界、女神様の世界である。 ・・・・・・あれ? 俺どうなったんだ?
「あなたは夕飯から部屋に戻られた後倒れられたのですよ。 なので意識だけこちらに来れる、この夢の世界にお連れしたのです。」
倒れたのは分かったが、そうか。 気を失ったのか。
「死ぬわけでも無ければ起きないわけでもないので、大丈夫ですよ。 これも部屋の皆さんのおかげですね。 後は夕飯が栄養価の高いものも摂取したので、明日の朝には元気バリバリになってると思いますよ。」
へぇ、やっぱり良薬口に苦しってものか。
しかし目を開けた先が夢の世界でよかった。 異世界転移してその先でまた異世界転生みたいなことになったら目も当てられない。
「ところで、女神様に呼ばれたってことはまたなにか御用ですか?」
「いえ、今回は訳も分からずに意識を手放されてしまった飛空さんの為にどうなったのかを説明しに参上しました。」
ああ、そういう事。 俺自身も倒れた事までは覚えているが、その後までは分からなかったからな。
「しかし、こちらの世界に大分順応出来ているのではないですか?」
「そうだね。 前までの世界にはないものが沢山あって、まだワクワクが止まらないよ。」
「それは良かったです。 そんな順応出来た飛空さんなので私の役割は終わりになります。」
「え? もう会えないの?」
「そういう訳ではありません。 最初に渡したヘッドホンが普通のヘッドホンになる程度です。 それに私たちには近いうちに会うことになると思いますよ。」
「・・・・・・・私たち?」
「あ、そろそろお目覚めの時間です。 それでは、私たちは飛空さんの事をこれからも見守っていきますからね。」
疑問の残るように夢から現実に引き戻された。 あんなに痛かった頭痛も今はむしろスッキリしている。
「・・・・あ、起きた? みんな! 飛空君が目を覚ましたよ!」
堂本が声をあげると、みんな寝ていたのだろう。 ベッドから上体を起こしていた。
「あ、起きたんだね! 良かった! 調子は大丈夫?」
「いきなり倒れるから心配したぜ! でもその様子なら大丈夫そうだな!」
「今水を持ってくるね。 喉カラカラじゃない?」
楽満、宮巻、柊と次々に心配の声が上がる。 上体を起こすと頭からタオルが落ちてきた。 湿っているが、水か汗かが分からない。
「凄く汗をかいていたから色々と施させてもらったよ。」
上から波根が声をかける。 そっか、そこまで・・・・
「みんな。 迷惑をかけて、すまなかった。 もう俺は大丈夫だぜ。」
「今回の大目玉だからな! 曜務学校と円商学校の戦いだし、主役が体調不良なんて後味悪すぎんよ!」
そんなに期待していたのか。 全く、寝てる場合じゃないな。
「それにしても夕飯を食べた後に倒れるなんて。あなた、なにを食べたのよ。」
そう横井が声をかけてくる。
「えっと、クァンタラとアルーナの炒め物とコントラの燻製かな? 主に食べたのは。」
「ほらやっぱりクァンタラなんて食べるからだよ。 それで体調を崩して・・・・」
「いえ、そうじゃないわ。 今の彼はものすごく調子が良さそうなのよ。 その食べ合わせなら納得がいくわ。」
横井が1人納得していたが、食べ合わせなんて考えずに食べていたので、あまりピンときていない。
「まずはアルーナなんだけれど、これには脳機能の促進があるの。 次にコントラは血流の活性化がある。 そしてクァンタラには知られてないことなんだけれど、食べ合わせに寄って睡眠効果が発生するの。 つまり寝てる間に肉体的にも精神的にも回復と同時に体内機能が促進されるのよ。」
そんな事になっていたのか。 逆に食べ合わせが悪ければ体調を崩していたってことなのか。
「でも納得したぜ。 これで了平と遺憾無く戦えるぜ。」
体調崩して負けましたなんて訳の分からない理由で終わりたくはないな。
「とりあえず行こうか。」
朝食だけでもありつこう。 動こうとしたらなんか動きにくいなと思ったら青坂が服の袖を持っていた。
「あっと・・・・青坂さん? あの、動きにくいんだけど・・・・?」
そうは言うが青坂さんは離そうとしない。
「その子、あなたが倒れたって知ってからあなたを看病していたのよ。」
「また・・・・・倒れられても・・・・困るので・・・・・・」
気遣いは嬉しいのだが、過剰すぎないか?と思ったが、今回の事で自分には危険を知らせるリミッターがないんじゃないかと思ったので、とりあえずはなにも言わないことにする。
朝食もそれなりに栄養価の高そうなものを選んでいく。目測だけどな。 米と卵とけんちん汁と葉野菜のソテーを選んで、立って食べるのもあれなので席を見つけてゆっくりと食べることにした。
「隣いいかしら?」
翁がそう質問してきた。 断る理由もないので、席に座るのを促す。
「ありがとう。 しかしまさか瑛奈がそんなに積極的にねぇ。 こりゃあの噂通りになるのも・・・」
「噂?」
「軟瑠女子高校のある噂でね。 在学中に意中の男子を見つけることが出来れば、結婚まで出来るって噂。 実例も何回かあるからもしかしたらと思ってね。」
女子の多い学校ならではの噂だろうか。 必ずしもそうなるとは限らんわけで。 そう思いながら青坂の方をみると、パンをモソモソしながら俯いていた。 よく見えないが、顔もほんのり赤みがかっているように見えた。
「まあ、女子高内の噂だし、あんま気にしないで。」
それでも知りたいと思ってしまうのは性だろうか?
そんな会話の中朝飯を終えて、一度部屋に戻り今回のメンバーに連絡を入れる。 恐らくだが自分が共闘できる相手の中で最強のメンバーだと思っている。
支度を済ませ、最後の戦いの場の集まりである、最初に集まった総合会場に着いた。 相手と戦うための準備は整ってる。 今日の召集メンバーも来ていた。
「やあ、飛空。 調子はどうだい?」
「万事良好だぜ。 海呂」
「倒れたと、聞いたので、心配、しましたよ。」
「悪かったな白羽、でももう大丈夫だぜ。」
「この一戦、後悔のないように戦いましょう。」
「もちろんだぜ夭沙 この為に勝ち残って来たんだ。 負ける気はないぜ!」
今回のパーティはかなりバランスの取れていると思っている。 弾幕火力の海呂、遠距離から支援も攻撃も出来る夭沙、回復に加えて、追加ダメージの期待できる白羽、そして誘導武器と妨害の得意な俺。 正直にどんなパーティでも臨機応変に対応出来るようにパーティを考えてきた。
「やあ、準備の方は万全かい?飛空。」
逆側から了平が現れた。 向こうもやる気満々の様子だ。
「あぁ、今日はすこぶる調子がいいんだ。」
「それは良かったよ。 僕も徹夜して研究した甲斐があった。」
あっちも怠ること無く俺を知り尽くしているようだな。 対抗の熱が高まるぜ。
「おうおうこっちは盛り上がっとるなぁ。」
「小戸田君、嬉しそうだね。」
「そりゃあな。 あの了平がここまで相手の事を見てるのは俺の時でも無かったからな。 それが嬉しくてな。」
「それはほんとに良かったね。」
「おっと、俺だってお前に負けないようにしっかり対策してきたんだからな! 次は遅れを取らないぜ?」
「あれ? 僕にも矛先が・・・・でも今度も負けないよ!」
俺と了平とは別に海呂と小戸田もいいライバル関係になったようだ。
「了平、私たちを置いていかないで。」
「芥川さん。 やっぱり了平がでるから呼ばれてると思ったよ。」
「翔凪でいいですよ。 やはり私の目に狂いは・・・っとと、どうしたんですか? 夭沙さん。」
会話をしていると、突如夭沙が間に入ってきた。
「わたしはあなたを許している訳ではありませんので。」
「ちょっとした会話もさせてはくれないのですか? やれやれです。」
まああんなことをした後じゃ警戒されるのもおかしくはないんじゃないかと。
「夭沙ちゃん、仲良く、しようよ。」
「あらあら、随分とモテますのね。」
その声の主はどこか面白がって見ていた。
「というか今回は横井さんが参戦するのか。」
「あら?おかしかったかしら?」
「いや? 呼ばれてる以上はとは思ってるけど、了平が呼ぶような人材かなって思ってさ。」
「深江は私が呼びました。 あと1人どうしても見つからなったので穴埋めと考えてください。」
「あら? 酷いじゃない。 これでも私、それなりに実力はありましてよ?」
確かにそんなおっとりした状態じゃなにを言ってもギャップにしかならない。
「さあ! この試合を待ちわびた生徒も多いのではないのでしょうか! 決勝戦は曜務学校対円商学校の戦いだぁー! 曜務学校はリベンジが果たせるのか!? それとも円商学校がこのまま勝ち逃げするのか! 今回はそんな再度相見えた双方の代表にインタビューしてみましょう。」
そういってこちらに高花先輩が歩いてくる。
「では我等が曜務学校代表の津雲 飛空君。 この試合をどう思っていますか?」
「そうですね。 この一戦のために勝ち進んできたと言っても過言ではありません。 もちろん他の二つの学校も強敵でした。 なので、こうして戦いの場がもう1度あるというのは個人的に嬉しいです。」
「コメントありがとうございます! さあ対して円商学校の響月 了平君はどう思っていますか?」
「一昨日の戦いでは勝ちましたが、それは運が良かったからと思っています。 彼の実力は折り紙付きだ。 今回の試合も勝つための対策は怠ってきていません。」
「ありがとうございます。 両者思う所は違えど、泣いても笑ってもこの戦いでこの交流会の〆となります。 思う存分戦ってきて貰いましょう!! それでは両チームスタンバイお願いします!!」




