第53節 モヤモヤとシュミレート、食事
あれから紅梨にこってり絞られた。 最初の青坂との朝の一連もそうだけど、まさかあの時の白羽との会話を途切れ途切れとは言え聞いていたらしく、妹の危機に立ち上がった。 そんなところだろうか。
経緯と理由を話したら納得はしてくれたが、
「あんたってそういう事平然とやるのね。 呆れてものも言えないわ。」
と、なんかすこし蔑まれた。
その後に今回の戦いのこと、最後のトドメのことのお礼を言ったら、
「・・・・・ほんと、そういう事平然とやるから女たらしみたいになるのよ・・・・この鈍感。」
と、顔を赤くしながらそう言われた。 鈍感と言われても、試合の時は感覚を研ぎ澄ませて・・・・・あれ? なんかイバラにも同じ事を言われた気が・・・・・。
そんな、なんとなくモヤモヤしながら、二日目の日程が終わった。 今朝泊まっていたホテルに戻り、今回は先に風呂が用意されていた。 バーチャルの世界で戦っていたとはいえサッパリはしたいからな。 自分の部屋に戻って、昨日は用意されていなかった、ホテル用の着替えを持って、風呂場に行く。 そこにはかなりの生徒がいたが、それでも総生徒の半数の半数位しかいなかった。多分ここにいない人はフリーバトルをしてない人なんだろう。
「やあ、飛空。 疲れてるようだね。」
上着を脱いでいるところに声を掛けられ、振り返るとすでに入浴準備万端の了平がそこにいた。
「ああ、なかなかに骨のある相手だったからね。 そっちはそんなに疲れてるようには見えないな。」
「そうかな? これでも結構ヒヤヒヤした場面もあって気疲れはあるんだけどな。 矢萩高校や浅巻高校の武器にはかなり驚かされたしね。 ほんとにびっくり箱のような武器ばかりだったよ。 戦ってない夢在学園も面白いものばっかりだったけどね。」
なんか羨ましいなそれ。 こっちも奇想天外な武器がそこそこあったが、なにが彼をそうさせるのか、俺もそっちの試合を見てみたかった。
服を脱ぎ終えて浴場に入ると、湯気なのか男子特有の熱気なのか、とにかく視界がほとんど奪われていた。隣にいる了平とすれ違う生徒位しか見えないくらいだ。 そんな中で女子の悲鳴が浴室に響き渡っている。
「この湯けむりの中、よう懲りずにやるわ。」
「ある種男のロマンだからね。 女湯の覗きなんて。」
「・・・・・・・・やろうとするんじゃないぞ? その時はお前を友人として見ないからな?」
「そんなことをする人間に見える?」
分かりきった事を聞いてくるので、笑って首を振る。
体を洗い、浴槽に入浴する。 あーー・・・やっぱり湯船につかれるっていいわぁ。
「明日が楽しみだよ。 もう1度君と戦えるのがね。」
「次は俺達が勝つからな。」
「僕らも負けるわけにはいかないよ。」
男が裸で友情を分かち合うって傍からみたら大分暑苦しいものだろうな。 まだ懲りてないで登っている輩の悲鳴が聞こえてその仕切り側をみると、同じように女子の何人かが死角になるような位置から俺らのやり取りを見てなんか目をやたら輝かせているように見えた。 え?
そんな落ち着くことの出来なかった風呂も上がり、夕飯まで少し時間があるとのことだったので、部屋で置いてあったボードゲームを使って明日の試合のシュミレートをしてみる。
メンバーとしてはもう決まっている。 しかし相手はどう来るか分からない以上は頭の中のシュミレートは無限に広がる。
まずは向こうのメンバーがどのように来るかからスタートしていこう。 今回の事で向こうにも状況は知られている。 こちらもそうだが、果たして俺と了平のタイマン勝負が何回できるか。 最初の一撃は避けられてるのを考えると、撃ってくる可能性は低くなるが、そういう時に撃ってくるかもしれない。 次に編成だ。 俺の戦い方を知っている以上は、俺を表に引きずり出すような形で味方を配置するだろう。 ならある程度火力のあるやつ、いや手数のパターンもあるか。 その事も考えながらこっちも味方を配置しなきゃいけないし、どちらにしても最後の戦いは単独行動は基本避けるようにしなければならないな。 俺だと基本的に一対多は圧倒的に不利だから、常に誰かと・・・・いやそれだとその1人が負担になる。 一番いいのは臨機応変な対応だが、あちらもそれは絶対にしてくるから、一方通行的な戦いには絶対にならない。 ならせないためにも
「・・・・・も・・おい・・・・津雲 飛空!!」
いきなり肩を思いっきり叩かられて、それに対して慌てて振り返ると、そこにはここの部屋の全員が俺に対して視線を集めている所だった。
「なにをさっきから1人でやってんだよ? そんなおもちゃガチャガチャと。」
さっきまで自分のやっていた事を振り返ると同時に頭に猛烈な痛みが走った。
「痛っつっ・・・・!」
額を抑えると、嫌な汗に触れた。 呼吸も荒くなってくる。
「ちょっ! 大丈夫!?」
柊に心配されるも、水を飲んで深く深呼吸すると、調子が元に戻ってくる。 紅梨の言っていたように考えすぎも良くないってのが今体に実感されたようだ。
「ふぅ、少し落ち着いた。 大丈夫。」
これ以上は考えないでおこう。 多分ここで負荷をかけると、明日に支障が出かねない。
「これから夕飯だから、せっかくだしゆっくりしながら考えればいいんじゃないかな?」
堂本がそう提案する。 もちろんそうさせてもらう。 煮詰まっても明日だからどのみち対策法も限られるだろうし。まだ体はふらつくが、歩けない程度ではないのでみんなについて行くことにした。
昨日ほどではないが大きなテーブルがあり、そこに料理が乗っている。 昨日と同じく、ビュッフェ式で料理をとり、食べ歩いていく。 頭の血行を良くするような料理ないかな?
「あぁ、津雲君。」
声のした方に顔を向けると翁がそこにはいた。 だからなんでこんな大人数の中からピンポイントで俺だって分かるんすかね?
「翁さん。 他の人とは一緒じゃないの? 」
「これだけ行動的なのは私くらいものよ。」
「でも、青坂さんと俺は一緒に来たぜ? 翁さんだけが、そんなに行動的だって訳じゃないでしょ?」
軟瑠女子高校がそんなに消極的だとも思えなかったがな。
「みんな疲れちゃってね。 フリーバトルをした人はみんなグロッキーになっていたわ。」
そう笑っていたが、翁も実際は二試合したとはいえ疲労は溜まっているだろう。
「後は私も1人になりたかったところだったしね。」
疲弊してんなぁ。 しかしそこは概ね同意だったので翁とも別れて俺も空気になる。 こうやって改まって全体を見てみると交流会としては成功しているようにみえるな。実際に色々なところで他校の生徒同士で交流を深めている。バトルの話もチラホラと聞こえてくるので嬉しいと思えてくるな。
そう考えながら歩いていると何人かの知り合いを見かけたが今回ばかりは1人になりたかったのでちょっと離れることにした。 さっきの事もあるので、今は食事に集中したい。 昨日は海の幸を食べたので、今回は山の幸を食べよう。 何事もバランスが大事だ。
何気なく取ったこのキノコ?の香草炒めが苦いのだが癖になるのだ。
「あれ? そのクァンタラとアルーナソースの炒め物食べてるの?」
声色から察するに質問の対象は俺だろう。振り返ると波根がいた。 そこそこ驚いていた様子で俺を見ていた。
「うん。食ってるけど、なんかおかしいか?」
「夢在学園近くの山で取れる山菜として近くの名産品として食べられるクァンタラなんだけど、若者が食べる苦さじゃないってこっちの地域では有名なんだ。 ・・・・・恐れ知らずと言うかなんというか。とにかくそんなに残ってることに疑問を思わなかったことにまずはビックリな訳で・・・・」
そうなのか、俺は癖になる苦さだと思うんだけどな。 ちなみにクァンタラとはこのキノコモドキのことを言うらしい。
野菜も取ったし次はタンパク質が取りたくなってきた。 なんかいいものないかな?
「なにキョロキョロしてるのよ?」
そこにはお皿いっぱいに食べ物を乗せて歩いていた紅梨と遭遇した。 紅梨って結構食う方なんだな。 多分エネルギー消費が激しいんだろうな。
「あぁ、紅梨。 丁度いいや。いいタンパク質が取れるの無かった?」
「タンパク質? ああそれならあっちにコントラっていう動物の燻製があったわよ。 結構厚めに切ってあったし。」
「もしかして、皿に乗ってるそれ?」
「あ、そうそう。 なんなら1切れあげるわ。」
「そう? じゃあ遠慮なく。」
箸に取ってみると明らかにこれはベーコンの類だなと思った。 口に含むと口いっぱいに脂が広がった。 んー。久しくこういうの食べた記憶が無かったから丁度いいかも。
本日も夕飯をしっかり食べたので、満腹の状態で部屋に戻る。部屋には数名いたので、他愛ない話をしようと・・・・・ あれ? 視界がボヤける・・・・なんか足取りまで悪くなってる・・・・・・?
「・・・・い!・・・したん・・・・・もぉ! フラフラ・・・!」
「これは・・・あ、丁度・・・」
宮巻や横井が声をあげているが全く耳に入らない。 あれ?どうしちゃったんだろ? 俺? やばい、なんか力も入らなくなって・・・・・とても大きな音とともに俺は倒れたのだと認識して・・・・・・
意識がなくなった。




