第52節 見破りと新たな特性、勝負の行方
「えっと、何を言ってるんですか? 私は」
「君を偽物だと思った理由がいくつかある。
一つ目はその言動、本物の白羽は言っちゃあなんだけど、どこかごもるようなしゃべり方をするんだ。 そんな饒舌じゃあない。
二つ目は性格に起因するところかな。 そんななにも着けてない状態で男である俺はおろか人前にも姿をそんなふうに見せないと思う。 これはあくまでも俺の客観的な意見かもしれないけれど、少なくとも普通の女子ならもっと羞恥心を出すんじゃないか?」
白羽の偽物はいつの間にか両手を下ろしている。 恥部は隠していないが偽物だとわかった以上はあまり気にならない。 と言うよりも保健体育でしか知らない知識だが、本来その部分にある女性のソレが無いのもまたおかしな話だ。
「そして三つ目、これは君が言った言葉からだな。 ここはバーチャル空間だぜ? 溶けるって表現はおかしいんじゃないかな? まあこんな戦場で武器の一つも構えていない時点で怪しかったけどね。」
そういうと、白羽の姿をしたなにかは「ニヤリ」と口角を上げた。
「へぇ。 よく見てるんだね。 チームメイトの事。」
「知り合ってまだ1ヶ月半位しか経ってないけど、それ位なら分かる範囲の仲でね。」
「そういう仲になれる男子、私も欲しいなぁ。」
そう言ってる間に白羽を象った何かがドロドロに溶け始める。 同時に体も溶け始める。 知り合いの顔でそれをやられると流石に気分は良くない。
「それとも私の「スワンプマン」の練度が足りないのかな?」
「スワンプマン」、確か沼に人を引きずり込んで、本人になりすますっていうゲームストーリーに登場する現象、だったかな? でも女子が使うなら「スワンプウーマン」にならないか? あれ?そもそもスワンプマンって性別あったっけ?
「姐さんの言ってた、あんたは今までの人とは違うって意味がハッキリ分かったよ。」
そんなドロドロだったものからかなり髪をバッサリと切った女子が現れた。 やっぱり軟瑠の人か。
「話から察するに姐さんってのは翁さんの事かい?」
「うん。 1年だけどあの人は成績優秀だし、誰にでも優しいから「姐さん」で親しまれているんだよ。 本人はあまり乗り気じゃないけどね。」
「慕われてるのはいい事だと思うぜ。 それよりもあんたの名前を聞いてなかったな。」
「そっか、初対面だもんね。 私は土雲 舞彩軟瑠女子高校1年よ。」
「ありがとう。 俺の事は翁さんか青坂さん辺りに聞いたかな? とりあえずここで仕留めさせてもらおうかな。」
「そうはさせないわよ!?」
そういって土雲は武器を切り替えて、こちらに向かって放ってくる。 出てきたのは洗顔用クリームのような、細かい泡だった。
「っと、下手に触れない方が得策だな。 しかしこれでこちらも距離が取れる。」
バックステップしながらそういうと、後ろから風が吹き荒れた。 振り返ると青坂の使っていた武器の円盤 (そういえば名前を聞いていなかったな。)が、滞空していた。 辺りを見渡すともちろん青坂がそこにはいた。
「やあ、青坂さん。その武器の特性はもう掴んだよ。」
「知っています・・・・ならこれは・・・・どうですか?」
もう一つの円盤を投げた。 しかしこちらにではなく元々滞空していた円盤に重なるように投げていた。 そしてその上空を丸まった状態の青坂がいた。
・・・・・・・! マズい!! あの体制から導き出される答えは・・・・!
考えるが早いかすぐに距離を取ろうとした。 が、青坂は行動を止めない。 体を伸ばして、円盤めがけて真下に向かって空を手で押し出し、全体重と共に足で重なった二つの円盤を踏む。 すると、荒々しかった突風がさらに強くなり、衝撃波のような風が俺の体を襲う。
「うお・・・・あ・・・・!!」
体に痛みはないもののダメージはあるようで、体力がガリガリ削られていた。
「ぐっ・・・・・俺じゃこの突風は止めれない・・・・なら!」
踏ん張っていた足を軽くし、その場で軽く飛ぶ。 すると体は突風と一緒に後ろに持っていかれた。 文字通り風に身を任せる感じた。
「う・・・おわぁーーー!!」
だけどこの方法、欠点を挙げるなら止まる方法がないという事だ。 近くに柱や捕まるものがないかキョロキョロしていると、何かにぶつかって、地面に落ちた。
「ひ、飛空さん!? あ、あの、大丈夫、ですか?」
そこにいたのは白羽だった。 彼女に当たって止まったようだ。 ぶつかった本人に心配されるとはな。
「大丈夫だよ。 白羽・・・・」
じーーーーーーーーーーーーッ・・・
「あの、飛空、さん?」
かなり間近で、しかも体をくまなく見られている白羽にとってはあまり気分のいいものではないかもしれないが、こちらもそれどころでは無いんでね。 で、一通り見た後。
「・・・・・うん、本人って事で間違いなさそうかな?」
「本人? えっと、どういう意味、ですか?」
「いやなに、さっき敵で白羽に化けててさ。 ちょっと不安になったんだよ。」
「そう、だったんです、か。 でもよく偽物だって、分かりました、ね?」
「喋り方が今の白羽と違ったし、なにより、あー、その・・・」
言い淀んでいる俺に白羽が「?」マークが出そうな感じで首を捻る。
「・・・・・・・・・・裸、だったんだよね。 その、化けてた白羽が。」
そう聞くや否や、白羽は肌という肌が真っ赤になっていった。
「・・・・は、はだ・・・・え? 裸? え? え?」
身をよじるように体を動かす白羽に、あぁ、やっぱり本物だわと安堵を覚えた。
「と、とにかくそうやって相手に化けてくる人もいるから、注意をしてくれるかな? 白羽?」
「・・・・・・・・・分かり、ました・・・・・・」
あー、しっかり茹でダコになってしまった。 いやしかし共有をしなければ俺と同じ目に遭うかもしれないからな。 そこは分かってくれ。
そんなこともあったが試合は終盤戦に差し掛かろうとしていた。
現在の状況はこちらが少々圧されている状態だ。 相手の特殊な武器にかなり翻弄される形になっているが、なんとかこちらも食らいつき、どちらのチームも後1人落とせば勝ちになる状況になっている。 しかしこの後1人が難しいのがこのゲームである。 体力の低いものは根性値が乗って、攻めも守りも強固のものになるためなかなかその背を捕えられないのだ。
前に2人、翁と青坂が現れる。 相手はかなり疲弊してるようで、体力がかなり少なくなっていた。 しかしそれはこちらも同じで誰が倒されてもおかしくないこの状況で二対一はキツイな。
「飛空! 助けに来たで!」
近くにいた輝己がこちらに来てくれたので、これで状況はイーブンになった。後はどちらが、先に相手の隙を付くかなんだよな。
「私から・・・・・いきます・・・・・!!」
青坂の手から例の武器が左腕から放たれる。
「うお! またこれか。 芸当のないのう。」
「だが気をつけろ。 あの円盤は上から圧がかかると、さらに鋭い風が起こされるからな。」
「なるほどのぉ。 円盤状にも意味はあったって事かいな。 しかし、この星球武器があればさっきみたいに破壊は出来るで!」
輝己・・・・・お前・・・・・フラグ立てやがったな・・・・。
「ならこれならどう?」
翁が呪符電流を放つ。 しかし最初に食らった時とは違い、呪符の挙動がおかしくなった。
「これは・・・・風を利用して呪符をあちこちに飛ばしているのか!」
「その通り・・・・です。・・・・・そして・・・・」
青坂が右腕の武器を放つ。しかし横に放つのではなく、縦に放った。 すると今度は大型扇風機に立ってるような感覚が襲ってくる。 元々強かった突風がさらに強力なものになった。 それに紛れてくる呪符はまるで花吹雪のように舞ってこちらに飛んでくる。 避けようのなかった呪符が更に避けられなくなり、体のあちこちに呪符が貼った状態になってしまった。 この状況は非常にマズい。
「これで、私たちの」
ドドドドドドドドドドドドッ!
翁が指を鳴らそうとした瞬間、青いビームが翁、そして青坂を巻き込む。そして
「YOU ARE WINNER!」
どうやらギリギリのタイミングで決着を紅梨が着けてくれたみたいだ。
ミーティングルームに戻されて、現実世界へと帰るドアを開ける。 相手も丁度同じタイミングで出てきたので、ステージの真ん中まで行って翁と握手をする。
「最後の最後で油断したわ。 私たちの負けよ。」
「あれが無かったら俺達の方が負けてたよ。 ほんとに運が良かっただけさ。」
「運も実力のうちよ。 決勝頑張ってね。」
「応援、ありがとう。」
そういって軟瑠女子高校のメンバーがステージから降りるのを手を振りながら見送る。
その後に左肩に手が置かれた。 俺ではない第三者の手がやたらと力が強いのだ。 恐る恐る後ろを振り返ると、
「飛空? 話があるって言ったわよね? 逃がさないわよ?」
その声色と一見笑顔に見える顔に顔が引き攣った。 その後脇越しに腕を掴まれて紅梨に引きずられる。 ちょっ! 待って! 逃げないから! 引きずるのは止めてくれ!
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「ええんか? 止めないで。 あれ多分ちゃんと言わんと解放させて貰えないと思うで?」
「大丈夫ですよ。 紅梨ちゃんは、そこまで、鬼じゃないので、ちゃんと分かってくれます、よ。 今回は、タイミングが悪かった、だけです。」
「あれ? あんさんも試合が始まる前、凄い剣幕とちゃうんかった?」
「私はあの子と戦って、それは分かって、いますから。」
「ほな、わいはなにも言わんわ。 助けを求めとるみたいやけど、何も出来ないからそのまま正直に言うしかないで? 飛空。」
「でも、紅梨ちゃんも、程々に、ね?」
最後は紅梨に連れ去られる飛空を見ての会話としています。




