第45節 ホテル部屋と同部屋の仲間、研究
・・・・・ちょっと食いすぎたかな・・・・・?
いや、なかなか雪崩が収まんなくてね。 あ、いや、出口への雪崩がね。 押すな押すなのてんやわんやの感じだったんだよ。 だからなるべく追いついたタイミングで、行こうと思ってその間ちょくちょく気の合いそうなやつと会話しながら食ってたわけ。
収まり始めたかなって思った時にはそこそこ時間が経ってたからまあ、胃袋がね。
そんなことはもういいや。 とりあえず指定された部屋へと移動しよ。
エレベーターに乗って棟と棟を繋ぐ渡り廊下を渡りついで3列棟の602に着いた。
電子生徒手帳をかざすと『津雲 飛空様と認知しました。』という声と共に扉が開く。
部屋はそこそこ広い作りになっていた。 ソファに小型の丸椅子、ダイニングテーブルにテレビと前の世界のホテルとなんら変わらなかったが、ベッドや布団が見当たらない。どうやって寝るんだろ?
「あ!君も同じ部屋なんだね! 良かったぁ、知り合いと一緒になれて。」
そう声をかけられたのは矢萩高校の柊 佳玲奈だった。 知り合いもなにもまだ1回しか話してない気がするが・・・・
「僕はエキシビションマッチの人と同じ部屋なんだ。 これは光栄だな。 あ、初めまして。 僕は湾健高校の堂本 銀郎っていうんだ。 よろしくね。」
「津雲 飛空だ。 よろしくな。」
そういって銀髪で背の高い青年と握手を交わす。 するとさほど体格の変わらないのに凄い握力で握られた。 肌も白い方だし、細マッチョってやつなのか。
「あ、ずるいわよ抜け駆けなんて。」
そういうが早いか薄い赤髪のロングな女子が手を差し伸べる。
「あちしは浅巻高校の楽満 碧那っていうの。 ほら、握手握手。」
そういって俺が手を差し伸べること無く勝手に掴まれて、腕を上下に振る。
「つ、津雲 飛空だ。 これからよろしく。」
明るい感じなのは分かるが、正直もう少し抑えてほしい。 後腕痛え。
「ふぅ やっと着くことが出来たよ。 本当に大人数なんだから。今回のイベントは。」
そういって開いたドアから背の低いTシャツに恐竜の絵が書かれている服を着た男子が入ってきた。
「あんたもこの部屋?」
「うん。 僕は夢在学院の波根 明夜って言います。 あれ? もしかして津雲君かい?」
俺を見るなりとても嬉しそうな声を挙げた。
「ああ。 俺が津雲 飛空だけど。」
「わぁ! 凄い! 僕有名人と同じ部屋なんて! ねぇねぇ! 後でサインくれない?」
「べ、別に良いけど。」
さっきまでの大人しい感じとは裏腹に、そこそこ興奮気味に俺に声をかけてきた。
「あれぇ。 俺がトイレ行ってる間になんかめちゃくちゃ人口増えてる。」
トイレのドアが開いたと思ったらそこから茶髪セミロングの男子が出てきた。
「おう、紹介がまだだったな。俺は宮巻 日馬、出身校は級頼学院だぜ。」
「よろしくねぇ。 私は柊 佳玲奈。 矢萩高校出身よ。」
そういって柊と宮巻が握手をしあっている。
「ふぅ。 やっと着いたよ。 ここは本当に迷いやすいな。」
入口のドアが開いて、やたら艶かしい金髪ウェーブの女子が入ってきた。
「私が最後かしら? 私は円商高校の横井 深江。 みんなよろしくね。」
「津雲 飛空だ。 よろし・・・」
前に出て握手をしようと思ったら、横井さんは背が低いのと、Yシャツを着ているのも相まって、なんというかその・・・・ そこそこ発達したお胸の谷間が見えてしまい、慌てて目を背けてしまった。
「あら、意外とお茶目さんなのね。 ふふ、そういうの好きよ?」
言い方まで艶かしい感じに語ってくる。 あんたほんとに高一か?そう思わせる言い方だった。
「ズルいぞ津雲! 俺もあやかるぅ! 初めまして横井さん。 俺は宮巻 日馬っていいます。」
「うふふ、こちらこそよろしくね。 宮巻さん」
愛想振りまいてるなぁ。 そう思っていたが、横井さんの「最後」という言葉に引っ掛かりを覚えた。 ここまで自己紹介したのは7人、あと1人足りなく無いか? と思ったら窓の方に人影があり、そこに紫髪の丸眼鏡を掛けた女子が体操座りをして蹲っていた。
「君、名前は?」
目線を合わせるためにしゃがんで名前を聞いてみたらその女子は肩を「ビクッ」とさせた後
「青坂・・・・・瑛奈・・・・ 軟瑠・・・・女子高・・・・・」
しどろもどろながらも答えてくれた。 っていうか俺恐れられてる?
「違っ!・・・・・・そうじゃ・・・・なくて・・・私・・・・人見知りが・・・・・・激しくて・・・」
うーん、ならここは男子の俺でなく女子の皆様に力を借りましょう。 そういって女子を青坂の所で話し相手になってもらって、男子陣は男子陣で集まる。
「いやぁ、しかしああやって見るとなかなかに花があるなぁ。 そう思わんか? 堂本。」
「うちは男子高だし、あまり女子とは関わらないからああいうのを見ていると微笑ましく思うよ。」
「でもまさか男女4人ずつで一部屋とは思わなかったよ。」
「波根ぇ、そこは運営にも考えがあるってことやで。 こうやって男女仲も深めるいい機会って事やん。 ま、深すぎる仲にならないように監視する意味も備わってはいるだろうがな。」
ここまできてそんなことするような輩は要らないからな。こういう世界には。
そんなことを思っていると女子達もそれなりに会話が弾むようになっていた。
「やっぱりなにか体型を維持する秘訣ってあるの?」
「秘訣なんてものは無いわよ柊さん。 自分の今やっていることを継続して続ける事も体型維持に大事なことよ。」
「大丈夫よ。 ここには優しい人しかいないから、もう少し勇気を出してみて。 そうすれば世界は開けるわ!」
「私・・・頑張る・・・ありがとう・・・・横井さん。」
向こうもそれなりに仲良くなったみたいだ。
「おっとそうだ。 明日の級頼学院の戦い方を見ておかないと。」
「お、そう言えばうちの学院と戦うんやな。」
早速備え付けのビデオレコーダーにセットして、級頼学院の生徒の戦い方を見てみる。 最初こそ隣で見ていた宮巻だったが、急に怪訝な顔になった。
「ああ、こいつらと戦うのか。飛空、今回のお前の相手は分が悪いかもしれんぜ。」
そう宮巻が意見した。 同じ学校なんだ。 なにかヒントが掴めるかもしれない。
「分が悪いってのはどういう意味だ?」
「あいつらの武器はなんの変哲のないハンドガンやライフルなんだ。 しかも本人達も実際に強いわけじゃなかった。 入学当初はな。」
「入学当初は?」
なんだか怪しいニュアンスを含んでいたので、どこまで聞けるか分からないが聞いてみることにした。
「半月くらい経った頃かな? 授業の一環で武器の改造、及び性能検査をしてたんだよ。 でな、今写ってるメガネのやつ。 菫 霊矢なんだが、奴の撃った弾がまるで吸い寄せられるかの様に敵に当たるもんで、まあ飛躍的進歩だなんて言われていたが、その試合をみて分かるように、パッと見でも変わった様子の無いやつだ。 勝手ながらなにか裏があるんじゃないかと、俺は思ってる。」
「ちなみに不正だと分かった場合はどうなる?」
「最低でも退学、1番大きい罪は永久追放だね。」
その話を聞いて、波根が答える。 永久追放、つまりこの世界で生きるのは不可能に近い事になる。そうなったヤツの末路は知らないが、居心地のよいものではないだろうな。 末代までもって。
「でも吸い寄せられるかの様にって話しなら彼も同じじゃない? ほらブーメランの武器がそうだったし。」
突っ込まれないと思っていた事を楽満が言ってきた。
「俺の武器には元々追尾性能が付いているんだよ。 じゃなかったらあの武器での運用は無理だって。」
「なら・・・・実弾で追尾性能がついてるなんて・・・・初めて聞きます・・・・。」
青坂が言葉が繋がらないながらも話してくる。 吸い寄せられるようにということは実弾の方になにかタネがあるのかもしれない。
「なあ宮巻、他になにか変わったことは無かったか? 些細な事でもなんでもいいんだ。」
「そう言われてもなぁ・・・・あいつらそんなにで戦いに出なくなっちまったから、分からんぜ。 あ、でも」
と、なにかを思い出したかのように宮巻は左の人差し指を立てる。
「最近戦ったのを見たんだが、あいつら手動リロードになっとったな。 あんまりメリット無いのになんであんな事しとるんやろ?」
手動リロード・・・・ あの電脳世界での戦いに置いてリロードは基本的に自動リロードだ。 実弾の場合、一定時間経てば弾がない状態でもリロードがされれば全弾帰ってくる。 それを敢えて行わない理由・・・か。
「なにか難しく考えてるみたいだね。」
「それもそうよ。 相手のことを知ったところで実際にしてくるか分からないんだから。」
「明日が楽しみではあるけど、こうやって考えてる姿を見ると、あんまりいい感じはしないね。」
堂本、横井、波根の声がそう意見する。 考えすぎると、今度は相手の予想外の戦略にハマりかねない。 これ以上深く考えるのは得策ではないか。
「とりあえず最初の対戦で組む相手は決めたし、後はなるがまま、かな。」
「その・・・・勝てそう・・・・ですか?」
「勝てるかはやってみないと分からないけれど、一方的な負け方はないと思う。」
「私・・・・応援・・・・します・・・・津雲さんを・・・。」
「ありがとう、青坂さん。」
そういってちょっとした笑い顔で青坂さんに返す。
「ほんなら今日はもう寝よか! 明日に備えて。 俺達もフリーバトルで戦いまくってやるわ。」
「そうね。 もう頃合の時間になるし。」
そういって柊が壁に手を当てるとそこからまるでタンスのように外側に出されて、毛布が入っていた。 どうやらここでそのまま寝るらしい。 寝てる時に引っ込まないかと疑問に思ったが、柊曰く
「人が入ってる時は引っ込むなんてことは無いわ。 センサーに反応するタイプだから。」
なら大丈夫なのか。 それなら下手に考えずに寝れるな。
「それじゃあ、寝ようかな。 下から2段目貰ってもいいかな?」
「じゃあ体格的に僕が下の方がいいかな?」
「気にはしないが堂本がいいならそれでいいぜ? なら俺は逆に1番上、貰うぜ?」
「階段がそこにある理由がそれだったとは。」
なんだかんだでみんな寝る場所は決まったからそのまま床につく。 さぁ、寝るぞ。




