第43節 奇襲と超芸当、敗北
「あの了平にダメージを与えたか・・・・」
顛末は分からないが、了平の体力が減っているのを見て、驚いていた。
なにしろ今までの戦いの中で、了平があそこまでのダメージをこの短期間で奪われるのは滅多に無かったからだ。 あったとしても、それは火力任せの奴らばっかりだったからな。
あの津雲ってやつ、ほんとに凄いやつだな。
「余所見してる場合じゃないんじゃない?」
おっとそうだった。 今は目の前のこいつの相手もしなきゃいかんかった。 お互いに武装が似たり寄ったりだから相手がどう動くかまでのルーティンまで分かる。 こりゃ化かした方が有利取れるかな。 あいつの言う通り、気合い入れ直すか!
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「さて両者共に激しいで戦いを繰り広げております。 いやぁこの状況はいかがでしょう? 弧ノ一さん。」
「一年とは言え双方実力が認められてる者同士ですし、なによりお互いに相手の強みを引き出そうとしています。 響月君と津雲君はまだまだここからお互いを鼓舞しあうでしょうし、小戸田君と味波君も武装が似てるだけに、思考パターンは常に読み合わなければなりません。 これは結果が楽しみですよ。」
「解説ありがとうございます。 さて観客席を見てみますと、バトルに行っていた生徒も今はこの試合に釘付けです。 どうなってもおかしくないこの試合。 最後までしっかりとお送りいたします。」
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彼は僕に攻撃をした後、先に行ってしまった。 多分味方の援護にいこうとしてるのだろう。 でも僕だってまだ負けてないからね。 本当に楽しいんだ。
この戦い、ただ終わらすのはもったいないよね。 そんな彼の背中を非対人ライフルのスコープを見ながら思う。 そんな背中を撃ち抜こうとした時、彼は顔をこちらに振り向かせて、今度は体ごとこちらに向けた。そんな彼の顔はなんというか、笑っていた。 そしてこちらに向かって走ってきた。 僕は躊躇わず撃つ。 彼は左に避けたが、左腕に当たり、そのまま横に倒れる。
僕は降りて彼のところに早足で向かう。 すると彼は横に飛んで、僕と同じ軸に並ぶ。
「お前がそのライフルを持ってるのが見えた時、下手に背は向けれないなって思ってよ。」
「そのまま相方の元へ向かえば良かったんじゃないの?」
「あっちはあっちで戦ってるし、それに」
そういって彼は僕の方を向き直った。
「折角ライバル認定されてんだ。 ここは一つサシでどっちが上か決めようと思ってな。」
しばらく驚いていると、
「・・・・ふふ、やっぱり君は面白いよ。」
何度目かのその言葉を放っていた。
「まだまだ付き合って貰うぜ! 響月!」
飛空はさっきと同じように前に進む。
「望むところだよ! 津雲!」
僕も後を追うように、マグナムを放ちながら津雲を追いかける。
津雲はそれを避けながら三日月型の刃を飛ばしてくる。 だけどこの武器の対策法は分かってる。
こちらに当たる直前に避ければそれ以上の誘導はかからない。 そんな事を僕と津雲は繰り返しているからかなりジグザグ走行になっている。
そう思っていると津雲は建物の高さが低いからか1度屋根上から降りた。 その時アラートがなった。 チラリと画面を見ると将生の体力がかなりギリギリになっているのが見えた。
「将生!?」
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ミニマップを見て響月が逆方向、つまり海呂と戦ってる方を向いた。 これはチャンスだ!
これ以上ブーストが残っていなかったが、そんな事を言ってる場合じゃない。 通常ブーストゲージは両足を付いた状態で、コンマ秒待たなければ回復はしない。
回復を待っていたら多分この機会はもう一度は訪れないかもしれない。 俺は着地させた左足を左に曲げてつま先で地を思っきり蹴った。 屋根上は低いのですぐに屋根上に到着する。 響月は真逆を向いている。 つまり今は死角になっている。 俺はスパークガンを頭と右足に向かって放った。
「・・・・・なっ・・・・・!」
その時不思議な事が起きた。 先程も言ったが、響月は俺とは逆方向を向いている。 つまりこちらの現状をチラリとも見えていないのだ。 そんな中で響月は腰の刀を抜き、それを頭の後ろにやり、頭の弾丸に刃を当てて、左腕を少しあげて、右足に当たるであったスパークガンの弾を刀の先端に当てて、それを回避する。 この一連の動作に使用された時間は僅かに一秒。 すると響月はこちらに向く勢いで刀を横に振るう。 このまま行くと刀の錆にされてしまうので、俺も腰の刀を出して、相手の刀に当てる。 そして鍔迫り合いを始めた。
「まさかあの状況下で返し刀をするとは思っても見なかったよ。」
「こっちもまさかあの一瞬を逃さないとはね。」
このまま1度引き下がろうとする。が、
「もうブーストはないんだろ?」
そう言うが早いか、響月は刀を持っていないもう片方の手でショットガンを持ち、それを俺の顔面に当てる。
かなり鈍い音と共に俺は後方へと飛ばされた。
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「ああっと! 津雲選手の会心の奇襲も、カウンターという形で、躱されてしまった!!」
「津雲選手、これはかなり痛いものを貰ってしまいましたね。 体力がゴッソリと持ってかれてしまいました。」
「しかしこれで津雲選手はイーブンか劣勢に持ち込まれてしまったでしょう。これはものすごく痛手になってしまったのでは無いでしょうか?」
「確かに。 肉体的にも精神的にも辛いものが出来てしまうでしょう。」
「あっと、どうやら味波選手と小戸田選手の方も決着が着いたようです。」
「最初は小戸田選手が押していましたが、読み違いが発生したようで、最終的には味波選手のペースになってしまったようですね。」
「ここで先に小戸田選手は退場・・・・おっと。 ここで、響月選手が到着したようで、そのまま味波選手の残り体力を削りきって味波選手も退場となります。」
「優勢とはいえ、体力はかなり減っていた様でしたので、そのまま付け込まれてしまったのでしょう。」
「さあ! 再度一騎打ちとなります津雲選手と響月選手! 勝っても負けてもここが大一番!! どんな結末が待っているのか!」
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ショットガンを頭にモロ食らってしまったので、まだ頭がガンガンするが、中距離組が2人揃ってリタイアしてしまったので、これ以上長くはないだろう。 ここが正念場であり、クライマックスである。
「やっぱり君との戦いに邪魔は要らないと思ってね。」
「まあ折角のこういう機会に2対1はないわなぁ。」
「ここからは駆け引きの勝負だね。」
「やってやるぜ。」
この試合対面3回目はもはや撃ち合いだったと言える。
まずは俺がロープリングで拘束を謀るが、すぐに右に避けられ、響月はマグナムを発射するが避けながら撃ったせいか照準が微妙に定まっておらず、こちらも左に避ける。 そうなった状態でも響月は撃つことを止めず、体制を立て直す前に2発ほど当たってしまった。
一度俺は距離を取ったがすぐに追いつこうとしていた響月が見えたため、即座にスパークガンを構えて、迎撃体制に入る。 俺がスパークガンを2発程撃ち、響月は回避行動を取ったが、その隙を逃すまいと俺はすぐさまブーメランチェイサーに武器を持ち替えて、刃を飛ばす。 回避に専念していた響月は反応が遅れ、ブーメランチェイサーを5発程当たっていたが、ここで火力の無さにネックを感じるのが身に染みる。 当てた回数は多いものの、ダメージ量は俺の方が少ない。 そんな攻防戦をお互いに繰り返していた。 遠くにいる時は撃ち合いをして、近くに来た時は刃を交えた。
「やっぱり君との戦いは素晴らしいよ!」
「お褒めにお預かり、どうも!」
俺もここまでの戦いは初めてだし胸が躍る。
しかし戦いの終止符というのは必ずあるもの。お互いに激しい攻防戦を繰り返していくうちに、消耗戦になっていく。
「・・・・・っつッ・・・・・・フッ!」
「はぁ・・・・・・ハッ!」
全身全霊をかけての戦いは、もう気を緩めたら終わるまでの体力になっていた。
しかしそこで、俺は、
「フッ・・・・ハァ・・・・ !? ァッ!?」
俺は建物の淵に来ていたらしく、足を踏み外した。
「・・・・フッ・・・・フッ・・・・ 今回は僕の・・・・勝ちだね。」
そういって、響月は俺にマグナムの弾丸を1発当てて、ゲームセットとなった。
「YOU ARE LOSER・・・・」
そんなクーリエの悲しい声を聞きながら、俺はブリーフィングルームに寝転がっていた。
「・・・・・・負けた、か・・・・」
今回は初めての敗北を味わった。
「でも、笑ってるよ。口角が上がってる。」
そう、今回の敗北はどこか清々しい気持ちなのだ。 負けるビジョンは何度も考えた。 けれど、それを差し押さえるかのように勝利に渇望していたのかもしれない。
「次は・・・・・勝ちにいくぜ・・・響月!」
腕を上にあげて、拳を握り、そう誓った。




