第38節 初夏と次期武装模索、遠隔武器
学校対抗戦が決まってから2週間が経った。
ここで、俺がこの世界に来てから1ヶ月という扱いになる。 夏に近づいているのだろう、照りつける太陽が眩しい。 午前の座学が暑くて苦痛になるぐらいだ。 この世界、冷却する機械はあるのだが、基本的にはコンピュータの冷却が優先されるので、教室などの密閉空間には扇風機の大きい版の送風機があるのだが、たまに熱風を伴うこともあるので、あてにはしてない。
「暑っつい。 早く午後になって電脳室に入りたいわ。」
「はしたないよ、紅梨ちゃん。 でもその気持ちは分かる。」
青シャツを着て胸元をはだけてる紅梨と、対照的に黄色のノースリーブの白羽がそんなやり取りをしている。
電脳室は機械やコンピュータを大量に扱うためオーバーヒートを起こしやすい。 そのため必然的に冷却装置が必要になってくるため、異様に涼しいのだ。 でもあれ冬はむしろ凍えるんじゃね?
そう考えていたら、チャイムがなった。 これにて午前の授業は終わりか。
「では次は午後の実践練習なのだが、次の武器支給の為に今日から1週間は自分の武器以外の武器に慣れてもらおうと思ってる。 その中で、気に入ったものや体にあったものは支給申請を登録してもらうこととなる。 次の武器と今の武器を併用や差別化できるようにしっかりと選ぶように。」
次は適正で選ぶ訳では無いのか。 ふーむ、迷いどころかもな。
次回の学校対抗戦の話は、決まり次第発表することとなっているのだが、主催校の方の準備がなかなか整わない為、公にはされていないが、一部内容公開という感じで関係者の何人かには知られているのだ。
「次はどんな武器にしようかな? 啓人みたいにスナイパーもやってみたいけれど、ガトリングみたいに弾幕を張るのも捨てがたいんだよね。」
まあ、そんな事を知らない隣の海呂を始めとした一般生徒は次の武器の事で頭がいっぱいのようで。 もちろん支給されるよりも前に、対抗戦が開かれるのでそもそも無理なのだが。
「ねぇ、飛空はどんなの考えてる? 新しい武装。」
「そうだなぁ。 次はそれこそ火力の出る武器にしようかな。 今の武器が嫌いじゃないんだけど、あんまり自分から行かないのももどかしくてな。」
この答えは実質本音だ。 俺だって新しい武装が支給されることにワクワクしているのだ。 今までにない可能性があるかもしれない。
「後は自分の武器にしっくりくるかって所かな。」
「そうよね。 自分の体に合わなきゃ武器じゃないものね。」
「飛空さんにもきっといい武器見つかりますよ。」
いつの間にか桃野姉妹がこちらに来ていた。 俺たち4人を含め、大体のクラスメイトは気の合うものや最初のパーティメンバーで固まる事が多くなった。それでもごく稀に、
「白羽さん。 俺達と一緒に武器構築考えませんか?」
「ねぇねぇ津雲君、あたしたちこんな武器にしようと思うんだけど、どう思う?」
こうやってお近づきになりたい輩や好感度上げの為にやって来る輩もいる。
「ごめんなさい。 わたしもう予定があるので。」
「なかなか悪くないと思うよ。 後は自分たちの体に合うかだね。」
俺達も鬼ではないので、余程俺達が嫌うか嫌うような事をしていなければ、こうやって適当にいなしたり意見を述べたりする。 ま、男子の方は明らかに好意を持っているように見えたが予定があると言われて落ち込んでいる。 相方に宥めてもらってる所を見るとそういう事なのだろう。 一方女子の方は話を出来たことに嬉しがっていたようだ。
「あんた達は大変ねぇ。 ああいうのまで相手にしなきゃいけないんだから。」
「余程の悪人じゃなきゃ会話くらいはするさ。」
「人づきあいは大変だね。」
他人事みたいに言うなよ海呂。
その後、昼食を食べ終わり、いよいよ自分の新たな武器の模索を始めていく。
電脳室と予備として用意されている準備室は一クラス分の生徒が入れるくらいは広いので、問題なく入れる。 ちなみに電脳室はなにも一つではない。 至る所とまではいかないが、狭いながらも2チームが戦える位の設備はある教室が多い。 集団的なものはここの電脳室が主になる。
さて、電脳世界に入ってから目の前の武器のサンプルが表示されている。もちろんスタイルに合わせて武器も変わっている。
まずはショートスタイルから見ていく。 まずは自分に火力武器が合うか、というところからだ。 そう思い、手に取ったのは何の変哲もないマグナムからだ。 試しにダミーに打つと、狙っていた部位からかなり上に弾があたり、腕がその反動に耐えられずにビリビリしているのが伝わってくる。 どうやら一撃必殺のような武器は向かないようだ。
続いて手に取ったのは連射可能なハンドガトリングにした。 これも試し打ちしてみると、弾幕は張れるがかなり照準がぶれてしまうようで、文字通りダミーは蜂の巣になったが、あまり意味は無い。相手は動くしな。
うーん 遠距離主体は向かないかな? 今度はカードリッジ式のハンドガンを二丁持って試してみる。 二丁持ってるだけに安定はするが、指が痛くなる。 こっちはこっちで別の意味で疲れてしまうようだ。
その後も色々と試し打ちをしてみるが、微妙にしっくりこない。 一番良くてもビームライフルになった。 ビーム系統は装弾数は少ないものの、武器の反動も少なく、常に弾が1発ずつリロードされていく。 これを利用して不意をつけないか、というのがショートスタイルでの今の現状の考えだ。
周りを見渡すとやはりと言っていいのか、どれにしようか苦難している生徒が大半だった。 使い慣れている武器を一度離れるというだけでこうも癖が残ってしまうものなのか。 元々自分の体に合った武装構築が最初の武装なので、いきなり変えるのも難しいだろう。
「どう? 飛空。 なににするか決まった?」
振り返るとそこにはかなり大きめの武器を持った海呂がいた。
「これと言っていいのがなかなか見つからなくてな。 ところで海呂、その武器なんだよ?」
「あぁこれ? これは「バックシールド」って呼ばれる武器でね。 これを持ったまま攻撃も出来る武器なんだって。」
「でもその大きさだとロングスタイルだろ? スタイルを1つ潰してまで防御に回らなくても・・・・」
「違うよ飛空、このシールド「自体」が武器なんだよ。見てて。」
そう言ってシールドを構えてダミーに向かって内側に付けられているトリガーの様なものに手もかける。 そして引き金を引くとダミーに向かって「ストトトトッ」という音がした。 何が起きたのかダミーを確認しに行くと、長めの針の様なものがいくつも突き刺さってた。
「このトリガーを引くと、見えにくい発射口から針が飛ぶんだよ。 さらにここのトリガーを引くと、」
トリガーを引いたあと今度はシールド自体が前に出る。 よく見ると前に出たシールドからは先程とは違う針が出ていた。
「こうやって近づかれても対応できる武器なんだってさ。」
へぇー 意外な武器だな。 海呂曰くシールドなだけにやはり耐久値はあるらしく、破壊されると、性能が落ちるんだそうだ。
海呂と別れた後ああいうのも面白いよなと思い、改めて武器を見直す。 というよりも、他のスタイルも見たくなったのだ。 ずっとショートスタイルばかりみていてもしょうがないと思ったし。
そこで今度はセミロングスタイルを見てみることにする。 するとなにやら小型の装置の様なものを見つけた。 これもセミロングスタイルの武器のようだが、一体どう使うのだろうか?
試しに使用出来るように設定してみると、手元にあったはずの装置が消えていた。 どこに行ったのかと思った時、背中に重量を感じた。どうやら背中に背負うタイプの武器だったらしい。 後は使い方なのだが、ダミーに目を合わせた時に、なんかあるバトル漫画で使っていた敵の戦闘力を図るような装置が背中の機械の一部から現れて右目に合わせられる。 その部分から見えたのは標準カーソルと「TARGET LOCK」の文字だった。
背中の装置に一緒になっていたであろう腰のトリガーを引くとダミーに向かって3、4つの小型の機械が現れて、ダミーに向かってマシンガンが何発か撃たれた。 どうやらこの武器は狙った相手を追尾してその後に攻撃する武器のようだ。 ちなみにこいつには左にもトリガーがあってこっちを引くとかなり小さい口径のマシンガンが撃てるようだ。 なかなか面白い武器だ。 セミロングスタイルの武器はこれにするか。
「えっと武器名は・・・・・遠隔機関銃か。」
追尾武器にして、相手に照準を合わせる優れ武器だ。 近づかれても小型マシンガンで対応できる。 なかなかにいい武器に出会えたな。
この調子で次の武器をと思ったがチャイムが鳴ってしまった。どうやら今日はここまでのようだ。 こんな調子で1週間いないに武装が完成するのか? と自分でも疑問に思ったがあまり考えているとまた、余計なことを浮かべそうだったので考えるのをやめた。
また明日から自分の武器探しだな。うん 今週も飽きを感じない1週間になりそうだ。




