第33節 承認とイバラを知る人物、悲痛な語り
「来たわ! 来たわよ! 交流会の話が!」
交流会の申請を出して2日後、校長からの承認があったようで、とても上機嫌な志摩川先輩が、そこにはいた。
「もっと先の話になると思っていたのですが、かなり早かったですね。」
志狼先輩がそう質問する。 正直後1週間は多く見積もってはいたがこんなに早くに話がまとまってしまうとは。
「校長の承認なら誰も文句は言えまい。 これも教育の一環だ。」
「そうそう。 それで、まずは私達から円商電信の方に挨拶をしに行くの。 生徒会メンバーとしてね。」
「それっていつ行くんです?」
倉俣先輩が質問をする。 かなり乗り気な感じだったので、決まった事が嬉しい様だった。
「今から3日後の朝にあちらの生徒代表と話をするつもり。 もちろんみんなも生徒会メンバーとして、ついてきてもらうわよ。」
おおう。生徒会入って初めての大きな仕事だ。 気が抜けないぞ。
「ちなみにその円商電信専門高校ってここからどのくらいの場所にあるのですか?」
「ここから約2、3時間程の所にあるわ。」
うーん。 それはまた遠いような近いような場所にあるなぁ。
「ちなみにどうやってその場所に行くおつもりで?」
夭沙が志摩川先輩にそう質問した。 そういえば、ここでの公共交通機関って何なんだろうか?
「そんなもの、歩きで行くのよ。」
志摩川先輩の予想外過ぎる答えになにも声が出なかった。 隣の幸坂先輩は呆れたように頭を抱えていた。
「いくらお前でもあそこまで、歩くのは不可能だろ。 すまないみんな。こいつの言うことはなしにしてやってくれ。 ちゃんと交通機関はある。 しかしそれでもあそこまで行くには難しくてな。 少々手を考え直している。」
「それなら心配には及ばんよ。」
声の方を向くとそこには始業式以来の、この学校の校長 稲畑 竜先生だったからだ。
「これは校長先生。 心配に及ばないとは?」
校長だというのに態度をほとんど変えない幸坂先輩が、話を聞く。
「今回の交流会の対話について、わしも直接動こうと思うての。 わしと錦戸殿が、車両を用意しよう。」
「マジすか!? どうしたんですか!? 急に!?」
驚きを隠せない様子で倉俣先輩が校長先生に質問する。
「なに。 わしも学校内の向上の為だよ。 技術は盗む為のもの。 そしてそれを使っていかに自分達に取り入れるかが必要なのだよ。」
「ぬ、盗むって表現に、あ、あまり関心が持てません。」
「まあ、ようは相手を知ることがなにが悪いのかという事だよ。 この技術はひとつじゃない。 様々な可能性の塊なのだよ。 君たちの戦術もな。」
「今回の交流会、成功させないといけませんね。」
夭沙が校長先生にそう心に決めたことを言った。
「ほっほっほっ。 そうじゃの。 ではわしはこれで失礼するぞ。 まだまだ生徒会の仕事が残っておるじゃろ?」
そういって校長先生は生徒会室を退室していった。
「元気な人だなぁ。」
校長先生が去っていった後でそうポツリと呟いた。
「さぁ、せっかく許可も出たわけだし。 週末の会議に向けて、案を出し合っていくわよ!」
そこからあれやこれやと意見を出し合った。 やれ、パーティだの、親睦を深めるゲームだの、色々と出たわけだが、やはり皆答えは「交流戦」が多く挙がった。
「やはり考えることは皆一緒か。 では交流戦という流れにして、週末の為に、調整を怠る事のないように。 今日の所はこれにて解散だ。」
「あー! それ私のセリフなのに!」
別に誰が言っても変わらないですよ。 そう思いながら生徒会室を出て、寮の部屋へと戻る。
「おかえり飛空。 お風呂終わったら、みんなでミッションに行こうと思うんだけど、どうかな?」
「いいぜ。 どんなミッションなんだ?」
「僕が見てきた内容だとこんな感じ。 今回はハンティングタイプのミッションを選んできたよ。」
「どこかに潜むターゲットを狙っていく奴やな。 こういう場合、どう動くのが得策やと思う?」
そんな話を風呂上がりまでずっと話し合っていた。 そして風呂を上がってさあ行こうと思った時に、寮母室の明石さんに手招きをされた。 戻ってくるまで別のミッションをしていてくれと、伝えて俺は寮母室に入る。
「どうしたんですか? 呼び出して。」
「例の彼女の事を知る人物に会わせたくてね。」
例の彼女、つまりイバラ生存時を知る人物の事を言っているのだろう。 そしてその人物は目の前にいる、栗色の目をしている彼女のことだろう。
「紹介するわ。 彼女は須藤 真理恵、彼女のここの卒業生なの。 君の知りたがっている彼女のいた時代、15年前のね。」
15年前の卒業生。 有力な情報を得られるのは絶対的だと確信した。
「なにを理由にあの子の事を知りたいのか分からないけれど、私で良かったら彼女の事、教えてあげるわ。」
「・・・・・・お願いします。」
「まずは彼女の名前ね。 彼女の名は弦舞 蜜音、彼女はよく植物の手入れをしていたわ。 教室にあった、花も、花壇の花もね。」
弦舞 蜜音、それがイバラの本名。 彼女が花壇にいる理由は自然と納得がいった。 植物好きなら手入れをしていてもおかしくはないのか。
「そんな彼女の身になにが、あったんですか?」
「あまり表沙汰には言いたくないのだけれども、この学校がこうやって体感バーチャルの学業を出来るのは蜜音のおかげだと私は思うの。」
イバラのおかげ? そういった彼女の目は涙で潤んでいた。
「彼女は、みんなの代わりに、体感バーチャルの世界に入るっていう、大きな、大きな役目を担ったの。」
「貢献する事だけで悲しくなることはありませんよね?」
「ええ、本当の理由は、ここから。 今のバーチャルのように脳の電磁波を使って電脳世界へと入るシステムではなくて、蜜音が担ったのは「肉体ごと電脳世界へと入る」システムの開発だったの。」
肉体ごと・・・・・その言葉を聞いて彼女の末路が分かってきた。
「・・・・・・・身体が量子化して、元の世界に戻れなかったんですね?」
「それだけじゃない。 彼女の肉体は、電脳世界にも行くことが出来なかった。 それを目の当たりにした研究者たちは、すぐさま彼女の肉体の修繕と、「肉体ごと電脳世界に入るのは不可能だ。」ということを学会に余すこと無く説明をした。 だから電脳世界に入るのは装置がいるし、脳にも負担がかかる。 代わりに電脳世界で完全に肉体が消えないように、再生構築プログラムの開発が物凄い勢いで、行われたわ。 でも・・・・・・」
そこで須藤さんの声が途絶え、代わりにすすり泣くような声が聞こえてきた。 俺のわがままで思い出したくない過去を語ったのだ。 辛いのが手に取るように分かる。
「あの事件の事は私たちの世代なら絶対に忘れられない事なの。 でも時が経てば風化するのは必然だった。 だけど、もう一度、あの子の想いを忘れてない子がいるなんてね。」
ホントは違う理由なのだが、細かいことはどうでもよくなった。 イバラは今の世界を作るために体を張ったのだ。それに関して誰が罵倒や中傷をしようか。
「・・・・・・須藤さん。 来て欲しい場所があるんです。」
そういって俺は須藤さんと明石さんを連れて、正面玄関の花壇に連れていく。
「津雲君?」
「明石さんには冗談半分で聞いてもらったんですけれど、今その蜜音さんはここにいます。 俺にしか見えない所がネックですけれど、今あなたの想いを伝えればもしかしたら届くんじゃないかなと思いまして。 強要はしません。」
隣にはいつの間にかイバラがいた。 イバラは驚いている様子で須藤さんを見ていた。
「蜜音? 覚えてる? 私、須藤よ。 あなたが実験体になって、機械から一切戻らなくなった時、私、ううん、あの場にいた全員があなたが帰ってこなかったことに涙を流していたわ。」
多分聞こえていないだろうが、想いをぶつける想いで須藤さんは語り続ける。
「あなたは気づいていないでしょうけど、誰に言われるでもなく花の手入れをしている姿、みんな見てくれていたのよ? 目立たなかった子かもしれないけれど、みんなあなたが実験体になるとき、成功するようにみんなで祈りを捧げたの。 だから、もし未練としてここにいるのなら、もう残らなくていいのよ?」
須藤さんの目には涙が出ていたが、それ以上に力強い決意の言葉を言った。
「・・・・・・・・・真理恵・・・・」
声を上げたイバラが須藤さんの名前を呼ぶ。 16年ぶりに友人に会えたのだ。 嬉しいやら悲しいやらという、表情をイバラはしていた。
須藤さんの方を向き直ると、目を見開いていた。 まるで、幽霊でも見ているかのように。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蜜音?」
イバラの本名を呼ぶので、須藤さんの焦点を合わせてみる。 するとイバラの方をハッキリと見ていた。 これってもしかして・・・・・
「・・・・・・見えているんですか? イバ・・・・・・蜜音さんの姿が。」
「ええ、ツナギなんて着ちゃって、ほんとに花壇を触る人みたい。」
須藤さんが顔を歪めながらも不器用に笑いを見せていた。
「須藤さん。 あなたが見ているのは間違いなく蜜音さんです。 彼女は幻の存在になってしまいましたが、間違いなく存在しているのです。」
「・・・・真理恵、なのね?」
「・・・・!! 蜜音!!」
ハグをしようと須藤さんは飛び乗ったが、今のイバラは触れられないので空振ってしまった。 でもとても嬉しそうな顔を須藤さんはしていた。
「飛空君 飛空君。 私にも見えてるんだけど、幽霊じゃないのよね?」
明石さんがそんな事を俺に言ってきた。 あ、もう一人増えた。




