第32節 コンビナートと攻略法、ログアウト前に
今回のミッションで選ばれるステージはコンビナートの様な場所。 クレーンで動くコンテナも利用しながら相手を翻弄しつつ戦うステージだ。
そんなステージの端に俺と雪定は降り立った。
「コンビナートか・・・・・角が死角になりやすいからコンテナの近くを通る時は気を付けないとな。」
「それに、ここだけの話、ステージによって隠しギミックがあるらしいんだけど、上級生でもなかなか見つけることが出来ないんだって。 毎回入る事にギミックの設置場所が変わるらしいから。」
なら狙ってギミックを見つけに行く必要はないな。
「さてと、相手さんのお出ましだよ。」
そういって出てきた赤の人型をしたダミーはまるでボディビルダーのようなガタイをしていた。 なるほど、あれだけガタイがあれば、スーパーアーマー持ちも納得出来る。
「STARTING OF THE MISSION」
久々に聞くクーリエの声とともにお互い動き始める。
俺と雪定が左右に動いたほんの後に、さっきまで立っていた場所が爆発を起こした。 どうやら敵は爆発物持ちらしい。
「「ならやることは1つ。」」
俺達は即座に相手の懐に入るようにコンテナ間をジグザグに走る。 コンテナの左右を使ったり、上を飛び、中に入ったりと、動きがあまり早くないダミー達に距離を徐々に徐々に狭めていく。
そして一定の距離まで行ったところで俺達は止まった。
「飛空も分かるかい?」
「元々用心深い人間なんでな。」
相手が装備していたのはガトリング砲。 しかもそのガトリング砲持ちは高台にいる。 これから考えられる答えは、「射程に入った敵を蜂の巣にする」というプログラムだろう。
「あいつか? 倒せないのは?」
「あいつもその1人。 あいつは僕のマシンガンでどうにか引きずり下ろせる。 問題は」
そう雪定が答えようとした時に通信が途絶えた。 ミニマップを見ると、先ほどいたところから、大分離れた所に雪定を示すアイコンがあった。
「こっちの素早い方なんだよね。」
あのガタイでその機敏たる動きや否や。 やはり常識はある程度捨てなければ行けないようだ。
「一旦こっちに来てくれるか? その素早い方は俺が相手する。」
「気をつけてよ。 あれは2丁ともマグナムだからさ。」
一度雪定と合流して、場所をスイッチする。 あの高台の奴は雪定に任せて、こっちはこっちで相手を・・・・・・ うおっ! チラッとしか見えなかったけど、なかなかに素早いな。 あの速さだと俺の武器でも捕えれるか分からんぞ。 しかしアイツをどうにかしないとクリアは難しそうだ。 それにアイツ以外にも敵はいる、なら長期戦は望めないな。
雪定は高台の奴の死角に入ったようだ。 ならばと、近くのコンテナを思いっきり叩く。 すると高台の奴はこちらの方に気を取られ、雪定の弾丸の雨あられをモロにくらい、高台から引きずり下ろされる。
よし! これなら高台から蜂の巣にされることはとりあえずはないだろう。 そして近くで爆発音が聞こえた。 おうおうコンテナ事俺らを吹き飛ばそうって腹か。
「悪いけれど、近づけさせないよ。」
いつの間にいたのだろうか、隣の雪定が「スティングニードル」を持ってコンテナに刺す。 そして浸透したのを見計らってその場を後にして、素早いやつを警戒しながら、ミニマップを確認するという芸当を雪定はしていた。
そしてそのコンテナの前に敵アイコンが近づいた時に、
「そこだ!」
「スティングニードル」によるトラップが発動して敵は怯んだ様だ。
「最初からこうすれば良かったんだね。 ずっと床に打ってたから、敵が打ち上がっちゃってそこからは逃げるしかなくなってたんだよね。」
そらご苦労なこって。 ん。 少しずつだけど、素早い奴を目で捕らえることが出来るようになってきたぞ。 と言うよりはあいつが遅くなってんのか? 常に動き回っていたらそらスタミナ切れも起こすわな。
「あれなら俺がなんとかするぜ。 雪定は爆弾もちとガトリング砲持ちを頼む。」
「了解!」
その後はまあ早かったのなんのって。
俺が素早い方のダミーをスタミナが回復する前に、スパークガンやロープリングで拘束しつつ、ブーメランチェイサーや格闘攻撃でほぼ一方的に数の暴力を繰り出して、雪定もガタイがいいということは利点はスーパーアーマー持ちだが、欠点は大きい故に的になってしまうというところだ。 なので、ハンドガンやマシンガンで、弾丸の雨あられを食らわせ続けてた。
そんな訳で、最後のダミーを倒してミッションクリアだ。
「Thats excellent!」
ミッションを終えて報酬として、4000Pとネックレスがプレゼントされた。 ちなみに俺はクラブで、雪定はスペードだった。
「うん。 やっぱり美しいよ。このペンダント。」
「・・・・・・・・・もしかして、このペンダントが欲しかったから俺に協力させた訳じゃないよな?」
「クリア出来なかったのはホントだよ。 まあ報酬目当てってのも半分はあってるかな?」
俺、利用されただけなんじゃね? 疑問は残るが、終わったしそれでよしとするか。
「今日はありがとうね。 またミッション行こうよ。」
「今度は俺から誘ってやるよ。」
お互いに拳を合わせて部屋を出て別れる。
さて俺もプライベートルームから出て・・・・・・ん?
部屋を出ようとした時に見慣れた名前の書かれたルームがあったので、中を覗いてみる。
「お姉ちゃん。 そいつで最後だよ。」
「OK、 これで止めよ!」
そういって鮎はレーザーブレードで相手のダミーを倒した。
「ふぅ。 なかなかに強敵だったわね。」
「うん。 でもなんとか倒せたね。」
「2人ともお疲れ様。」
そういって2人、山本姉妹に声を掛ける。
「あら。 飛空君。 見てたの?」
「たまたまだよ。 2人はいつもここで?」
「うん。ミッションの一部は定期的に変わるから、それも含めて報酬目当てで、ね。」
なるほど。 定期的に変わるのか。 こりゃちょこちょこかおを出さないとな。
「そういう飛空さんは?」
「俺もミッションだよ。 まあ、付き合わされたって感じだったけどな。」
「お互い苦労するわね。」
「2人程じゃないよ。」
これは本音だ。 まだ雪定を信頼しきれていない。 それに比べ、2人はコンビネーションがしっかりとある。 急増チームとは勝手が違う。
「生徒会の仕事も大変なのによく付き合えるわね。」
「そんなに言うほどやってないっていうのが現状だけどね。 ね?飛空さん。」
「まだ下っ端だからなのか、仕事が回ってこないんだよ。 基本、どっちかが動けれればそれでいいんだし。」
「あ、そう言えば交流会の件、どうなったんだろうね?」
「ま、なんとかしてくれてるだろ。 俺達は待つしか無いって。」
「ちょっと! 私をおいてけぼりにしないでよ。」
俺と夭沙の間に鮎が入る。 おっと生徒会の話をしてしまったので、会話にならなかったようだ。
「もう。 あんた達いくら生徒会で一緒だからって、そんなに近づくこと無いでしょ?」
え? そうか? そう思い、夭沙を見ると、意外と距離が近く、ちょっと下がってしまった。
「はぁー 怖い怖い。 無自覚ってほんとに怖いわ。 お互いに気づいてないのも尚タチが悪い。」
「なんの話だよ。 俺は夭沙と生徒会での話をしていただけで・・・・」
「私のいない所でやりなさいよ。 私は話についていけないんだから。」
むむぅ。 そこまで言うなら仕方ない。 生徒会の仕事は生徒会室で話そう。
「ま、まあ? 飛空君の事を信用してないわけじゃないけど、夭沙とちゃんと話をしているか分かんないから? いてあげることもやぶさかではないというか。」
あれ? さっき私のいない所で話せって言ってたような?
「あ、そろそろ時間だよ。」
「おっと、忘れる所だった。」
このプライベートルームは時間になると入ることが出来なくなる。 つまり強制シャットダウン状態になるので、脳に相当の負担がかかるのだ。
「それじゃあね。 飛空さん。」
「あぁ。おやすみ、鮎、夭沙。」
「うん。 また明日ね。」
鮎の場合は明日会えるか分かんないけれど、とりあえずそういうことにしておこう。
ログアウトをして、装置を外し、部屋のみんなと寝る前に会話をして、頭痛薬を飲んで眠りについた。
「ふふ、いいご友人達に恵まれましたね。」
外したはずのヘッドホンから、女神様の声が聞こえたような気がしたが、その後眠りについてしまったので、良く聞こえなかった。




