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別世界で俺は体感バーチャルTPSの才能がとてもあるらしい。  作者: 風祭 風利
第5章 始まりは唐突に
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第30節 取り戻した記憶と提案、卒業アルバム

 この世界にも少し慣れ始めた頃。 みんながまだ寝てる中、1人目が覚めてしまった俺は、せっかくと思って外の空気を吸いに行った。 寮の玄関を開けて、思いっ切り背伸びをする。 その勢いで深呼吸もする。 うーん、空気が美味しい。


 左を見ると、イバラが花壇の手入れをしていた。 相変わらず楽しそうになるなぁ。


「あ、飛空。」


 こちらの存在に気付いたのか、手入れを中断して、こっちに駆け寄ってくる。


「おはようイバラ、朝から頑張るね。」

「これくらいしか、やれることがないから。」


 うーん、それはそれで寂しいな。


「そうだ飛空、私記憶が少し思い出せたの。」

「え?ほんとか? どんな記憶を思い出しんだ!?」


 かなり食い気味に聞いてしまったのでイバラが驚いてしまった。 冷静さを取り戻して、再度確認をする。


「それで、どんな記憶が戻ったんだ?」

「前に私はここの生徒じゃないって言ったでしょ?」


 それは聞いた。 その後寮母の明石さんが来て、イバラが目の前で消えたから実感はものすごくあったんだよな。


「だけど正確には私はここの生徒だった。 十数年前の話だけれど。」


 十数年前はここの生徒だったって事は今目の前にいるイバラはもしも生きていたら20歳後半位になる訳か。


「でもなんでそんな姿になってまで残っているのかまでは分からないままか。」

「うん。そこまでは分からなかった。」

「でもこれがヒントになるかもな。 明石さんに聞けばなにか分かるかも。」


「ごめん飛空、私の為に・・・・」

「気にするな。 これも何かの縁だ。 絶対に思い出させてやるからな。」

「うん。 ありがとう、飛空。」

「おっとそろそろみんな起きる時間だ。 それじゃぁな。」

「またね。」


 そう言ってイバラと別れた。 ここの生徒だった。それだけでもなにか繋がるかもしれない。 しかしこのタイミングでイバラの記憶が戻ったって事になると今日は何か起きそうな予感が勝手によぎった。



「学校間交流会よ!」


 イバラの記憶が戻った日の夕方の生徒会室の一室でそう志摩川先輩が叫んだ。 どうやら朝の予感は的中してしまったようだ。


「学校間交流会はいいですが、具体的には?」

「まずは我々と同じ体感バーチャルを学業に取り入れている「円商電信専門学園」(えんしょうでんしんせんもんがくえん)との交流よ。」


 この世界に来た時に聞いた1、2を争う先進校のひとつだろうと直感した。


「交流会って言っても最初は私達生徒会メンバー同士で話し合いをしてから全体交流にするつもりよ。」

「ぜ、全体的に交流するのは、あ、後なんですね。」

「あっちもいきなりは難しいだろうし、具体的な事は向こうと話し合ってって所かしら。」

「先程からなにを書類に書いているのかと思ったらそういう事か。 しかしお前にしてはいい案だな。 交流会として相手と友好関係を結ぶのは悪くない。 お互いそれぞれで悪事を監視できるかもしれない。」

「そこまでは強くしないけどその通り。 これまでずっと並行線のように並んでいたけど交わってより良い電脳世界を作れたらって思ったの。 そのためには先進校との交流は必須なのよ。」


 そう自信満々に語る志摩川先輩。 この学校内だけに技術を留まらせずに、多くの視野を取り入れる。 志摩川先輩の行動力あってこその考えだろう。 「井の中の蛙大海を知らず」。 今はまさにその状態なのだと志摩川先輩は思ったのだろう。


「私はこの後、この書類を先生に見せるけど、私の力だけじゃダメだわ。 みんなの力が必要なの!」


 つまり署名をして欲しいという事だ。 生徒会一同が賛成するならば、先生も少しは考えてくれるだろう。


「俺は珍しくお前の案に乗ろう。 他人を知るのに越した事はないからな。」

「俺も賛成ですぜ。 どんなやつが待ってるのか正直ワクワクするぜ!!」

「僕も同じく賛成です。 突発的な考えですが、それでもその交流から色々と学べるかも知れませんし。」

「わ、私はあまりこういうのは、の、乗り気じゃないですが、が、学校としては、やはり大いに交流するのは、よ、良い事だと思います。」

「私もぉ、賛成ですぅ。 色ぉんな人とお話できるのはぁ、とてもいい事だと思いますぅ。」


 若干1人意見が違うような気がしたが賛成なのには変わらないようだ。


「新人2人はどうかしら?」


 こちらにも話が飛んできた。 だが思いは一緒だ。


「俺は賛成です。 交流を深めるのはこれからの事を考えてもいい案だと俺も思います。」

「私も賛成です。 色んな人の武器が見れるのはこちらとしても利点になると思います。」


 俺も夭沙も反対はしなかった。 こんな機会、逃す方がおかしいというものだ。


「よし! みんなの了承が得られたから早速カチコミに行くわよ! 先生にあっと言わせてやるわ!」

「俺もついて行こう。 お前1人の説明じゃお粗末になりかねん。」

「信頼無いわねぇ。 まあいいわ。 会長と副会長が言えば先生も黙って見逃さないでしょ。」


 そういって志摩川先輩と幸坂先輩は生徒会室を後にする。


「・・・・・先輩、俺たちどうします?」

「そうだなぁ。 志摩川先輩と幸坂先輩がいないんじゃ生徒会として成立しないし、解散でいいんじゃね?」

「まあ、それでいいだろうね。 あの様子だと生徒会室には帰ってこなさそうだ。」


 どうやら解散の流れになったようだ。 あっ、でもその前に。


「志狼先輩。 この学校の卒業アルバムみたいなのってどこかにありますか?」

「多分この学校の図書館に保管されていると思うけど・・・・・なにかに使うのかい?」

「えぇ、少し気になる事がありまして。」

「・・・・・・今は深くは詮索しないけれど、もし君だけの力じゃどうにも出来なくなったら相談はするんだよ?」

「ありがとうございます。 志狼先輩。」


 生徒会室を出て、早速学校の図書館へと向かう。 卒業アルバムは図書館のかなり奥の方にあったが、見つけることが出来た。 イバラが思い出した記憶によれば、この学校にいたのは十数年前。 つまり今から20、少し大まかに25年前だと思い、その辺りまでの卒業アルバムの卒業生の顔写真にイバラと顔を合わせる。


 見ていて思ったのは、最近のアルバムはもちろんカラーだが、15年前となると、やはり白黒だった。それに白黒だった時代の卒業生は基本的に黒髪だということ。あとはその時代はまだ「曜務高校」、つまり体感バーチャル世界が学業として取り入れられる前の時代だったという事だ。


「この辺りが境目かもな・・・・」


 ここまでみて一つの可能性としては、イバラは何らかの実験体として使われた。 そして、体の記憶をそのままに残存粒子として、ここに残ったということなのだろうか? だがそうなると、イバラが記憶を取り戻した時、かなりのトラウマを呼び起こす事になる。 俺の見立てが間違いであって欲しいが、もしそうだったとしたら、彼女は・・・・


「ふー・・・・ やっぱり卒業生という説は無いのかなぁ。」


 25年前の卒業アルバムまで遡ってみたが、イバラらしい人物はいなかった。 それっぽい人物は何人か当てはめてみたが、やはりどこかイバラとは違っていたので、除外した。


「これだけやっても見つからないかぁ。 どうしたものか・・・・」


 イバラの戻った記憶を辿ってもたどり着けないか。 うーん。 卒業アルバムに載らない理由をいくつか考えると、中退か事故かになるが、事故はともかく中退をするような事をするような子には見えなかった。それに中退ならあんな状態にはならないはずだ。


「・・・・・・どんな理由であれ、3年間通わなかったら卒業アルバムに載らない・・・・いや、載れなかった?」


 なにも卒業アルバムは卒業生だけを載せるものでは無い。 今までの思い出があってこそのアルバムだ。


 考えをシフトして、今度は入学から卒業までの流れに注目して読み返しを始めた。

 そう思いながら読み返していくと、


「・・・・・・・・・・いた。 間違いない。 イバラだ!」


 16年前の卒業アルバムの集合写真の中に、瓜二つとまではいかなくても、今までの中でイバラにそっくりな少女を見つけた。 髪は黒髪なのだろう。 白黒の時代のアルバムなので、詳しくは分からないが。


「・・・さてイバラが卒業生じゃないのは分かったが、問題は本名は何なのかって所だな。」


 イバラの本当の名前が分かれば何があったかの近道にはなるはずだ。 が、これにも問題がいくつかある。


 まずはこの時代のイバラを知る人物についてだ。 この時点で卒業生しているということは明らかに成人、しかも身なりも変わっている。 全員に当たる理由にも行かない。


 次に話してくれない可能性。 俺は信じていないが、もしイバラがなにか危険な事に巻き込まれてた場合、口を聞きたがらないかもしれない。


 最後にそもそもいない事にされている可能性。 これは低いと考えてる。 何故ならここに証拠があるからだ。 ではなぜあんな不安定な存在になってしまったのか。 そこの疑問に限る。


「まずは知ってそうな大人に聞くのが一番だな。」


 今日は遅くなってしまったため、俺が聞こうと思ってる人物には会えないが、聞ける人物は1人じゃない。


 俺はアルバムを図書館から借りて (ここでも電子手帳による認証システムだった。 期間は1週間と言われた。)図書館から寮へと戻ることにした。

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