第311節 強行手段と見込みの甘さ、満身創痍
眼前に広がる禍々しい程の景色。 そしてそこにそびえ立つのは1つの不釣り合いな城。 その上にはおよそこの世のものとは思えないほどの化け物達がうじゃうじゃと飛んでいた。
「主様。 ここは・・・」
「お兄様・・・」
イサリヤは自分達が先程までと全く違うところにいることに疑問を持ち、ユナはこの禍々しさに畏縮して俺にしがみついている。
「これがあいつなりの強行手段って奴か? いくらなんでも無理矢理過ぎねぇか?」
とはいっても状況が最悪以下なのは言うまでもない。 俺達の現段階でのレベルを合計しても100に届くか届かないかと言ったところ。 そんななかでもユナはまだ実戦経験が乏し過ぎる。 城までの距離がどのくらいか目視では全く検討がつかない。 だがこの現状下で帰る方法がない以上は進むしかない。 そもそも退路があったところで奴の性格、いややり方を考えれば帰そうとしないのは目に見えている。
「お兄様! あれ!」
ユナが叫んで指を指した方向。 そこには飛行船の変わり果てた姿だった。 どうやらダージリン率いる近衛兵達もここの魔物の洗礼を浴びつつもこの場には着いたようだ。 そして周りに誰一人としていないということは全員してあの城に乗り込んだということだ。
「行くぞ、イサリヤ、ユナ。 あいつらに個人的な貸し借りはないけど戦力として戦うのならば今程有効な状況はないだろうぜ。」
お互いに利益になるかどうかはさておいても目的は同じ。 ならば共同戦線を申し込んでも簡単には拒否しないだろう。 そう思いながら俺達も、奴らの城へと近付くのだった。
しかしそれはあまりにも残酷に打ち砕かれる想いだったことを実際に実感する。 当然ながら城へと行くまでに行く手を阻んでくる魔物達。 今まで戦ってきたのが生ぬるいと感じるほどの猛攻。 そして装甲の固さに、城の入り口になんとか着いた頃には満身創痍状態だった。 俺もイサリヤも立っている事がやっとの状態だし、ユナはもう歩く気力すらないので、2人がかりで運んでいるような位にボロボロになっていた。
最終決戦前というのは知っていたし、敵もかなり強化されていることを念頭には入れていたが、見込みが甘かったようだ。
「主・・・様・・・館の中に・・・入られますか・・・。」
隣にいるイサリヤも息が絶え絶えだ。 しかし敵陣の真っ只中で休める場所などあるかが不安だ。 しかしここで止まっていても格好の餌食。 久しぶりだぜ、こんなに選択肢を迫られるのはよう。
「お兄・・・様・・・」
「ユナ、まだ休んでろ。 「サモン」を使いすぎてお前の魔力が枯渇している。 下手に動くと倒れるぞ。」
「お兄・・・様の・・・血を・・・少しだけ・・・貰って・・・中に・・・偵察を・・・させる・・・モンスターを・・・「サモン」で・・・呼びたい・・・」
顔色もあまり良くないユナにそこまでしてもらう事はないのだが、正直やむを得ない事態だと頭が判断し、首筋を見せる。 そしてそのままユナは俺を噛んだ。 ドクドクと血がユナの体内に入っていくのが俺にも伝わってくる。 文献とかによれば牙を突かれた人間は眷属になったり、吸血鬼化をするとよく載っているが、ただの血液採取ならばあまりそう言ったのは気にならないようだ。 ここて俺が吸血鬼なんかになったら、元の世界に戻る時、すげぇ面倒臭い事になりそうだしな。
「プハッ。 ありがとう、お兄様。 「サモン スモークゴースト」。」
そう唱えると、目の前に魔方陣が現れて、白いボンヤリとした、まるで煙のようなものが現れる。
「中を・・・見てきて・・・ 休めそうな・・・場所だけで・・・いいから・・・見つけたら・・・戻ってきて・・・。」
そのモンスターを出して再度グッタリするユナ。 それでも今は下手に動くことも出来ない。 目の前にはうようよと飛び交っているモンスターがいる。 少なくともこちらが3人がかりでも敵は1体に絞らなければ、返り討ちにあってしまうほどだ。 敵が強い分経験値はかなり貰えるが、正直代償の方が大きすぎる。 要は戦闘の報酬などが釣り合わないのだ。 何度死にかけたかもう数えたくもない。
少しでも体を休めるためにドアに凭れかかっていると、先ほど偵察に入った「スモークゴースト」が館から出てきた。 どうやら偵察は終わったようだ。
「うん・・・うん・・・。 ありがとう・・・。」
俺には言っていることが分からないので、ユナに通訳をして貰うことにしている。
「館を入って・・・右から・・・2番目の部屋・・・。 そこなら・・・休めれるって・・・。」
どうやら入っても大丈夫なようだ。 それならばもうその場所に一直線に向かおう。 肉体的にも疲れているが、何よりも精神的に休息が欲しい。 どちらにしても休まなければ気が狂ってしまう。 そう思いながら俺は館の扉を開けた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ユナを下ろした後俺はその場に崩れ落ちるように寝転がる。 どうやら相当疲労が溜まっていたようだ。 いや、溜まっていたというよりも、急な事ばかりで体が全く追い付いていなかったのだろう。 今やほとんど体が動かない。
「大丈夫・・・ですか・・・主様・・・。」
「お前も休めイサリヤ。 敵陣の真っ只中だが、体をまともに動かせないと、敵とも戦えないぞ。」
そう俺はイサリヤに言っているが、これは俺に対しても言っていることだ。 もはや自分に言い聞かせるように話している。
「くそっ、いよいよ焼きが回ってきたか?」
思えばかなり無理難題な戦闘を強いられることも少なくはなかったし、休むこともほとんど無かった。 それだけこのゲームに置ける「死」という概念を作り出したということだ。
「ゲーム世界とは言え、流石に死ねねぇぞ。 だがこのまま奴の術中に嵌まりたくはないしよぉ。 どうすりゃいい。 どうすれば今の状況から少しでも楽になる?」
「主様・・・。」
イサリヤの声が鮮明に聞こえる。 なにかを言いたそうだ。
「なんだ? イサリヤ。」
「主様。 なにもこのレベルで行かなくても良いのです。 ここまで強い相手、経験値稼ぎにはもってこいでは無いでしょうか?」
息も絶え絶えに言っているが、正しくその通りだ。 なにも奴のやり方に乗っかる必要はない。 俺達には俺達なりのやり方がある。 そうだ。 経験が足りないなら詰めばいい。 幸いここが休息ポイントだと判明したのならば、ここを拠点として、まずは死なない程度にレベルを上げていけばいい。 ゲームのシステムを考えれば、レベルアップすればステータスを完全回復することだって出来る。 ならば下手に動くこともないだろう。
「・・・イサリヤ、どのくらい回復出来た?」
「まだ頭痛は致しますが、立てないほどではありません。」
「ユナ、動けるか?」
「少し眠ったので、大丈夫です。 お兄様。」
「よし、二人とも、少しばかり辛くなるが、付いてきてくれるか?」
「主様にお仕えすることがイサリヤとしての務め。 主様の命と共に参ります。」
「お兄様は私のご主人様でもあるの。 お兄様が引き下がらないのなら、私も付いていきます。」
それが聞ければ十分だ。 そう思いながら俺達は1つしかない扉を開けた。
どのくらい時間が経っただろうか? 休息ポイントが現状1つしか見つかっていないので、戦っては休み、戦っては休みを繰り返し、時間の感覚すら分からなくなってきた。 だがそれのお陰か、俺達は恐らく推奨レベルにまで到達した。
正直に言ってしまえば、現在のステータスなど、もはや意味が無いと感じる程だが、ある程度は戦える。 それだけで今は十分だ。
[ヒソラ LV65
攻 96 防 74 素180
H 155 M61 運44]
[イサリヤ LV64
攻136 防49 素162
H200 M111 運33]
[ユナ LV60
攻55 防56 素84
H122 M186 運42]
後は定期的に俺の「加工」によって、敵の落とし物を武器や防具に変更している。 これが出来るのと出来ないのとで、今の現状が大きく変化することを、身に染みて実感している。
「ここから先も同じような場面が続きます。」
「そうだな。 まずはここの部屋と同じような場所を探してからにしよう。 もしくはここの番人らしき奴にあったら作戦を考え直せばいい。」
こうなったらこっちだって徹底抗戦の構えだ。 お前の思惑通りになんか動かないぜ? 従属神。 どうせ俺の性格から読み取ったんだろうが、そうは問屋が卸さないぜ。 お前の成長はよく見れた。 今度は俺がお前に成長した所を見せる番だ。
自分でもよく分からない想いのままではあったが、もう後に引くことは出来ないのは百も承知。 俺は次に進むために、扉を開くのだった。
ステータスがかなり簡略化されていますが、内容が増えすぎると(今の自分では)処理出来なくなってきてしまったので、簡略化しました。
私情で申し訳ありませんがご了承下さい。




