第307節 次なる地にと呼称、検証
「終わったんだな・・・ これで良かったんだよな・・・」
見えるわけではないが天に昇っていったと思えるユナの父親の魂を見送ったが、少しやるせない気持ちになる。
『飛空さん・・・』
おそらく、なんて声をかけていいのか分からないのだろう、外の世界と繋がっている窓から夭沙の声がした。 その声すら今は虚しく感じた。
『随分と酷な事をしてくれるよね、従属神も。』
『これがあいつの狙いだとするなら、感情移入しやすい飛空には辛いのかもな。』
『仲間が増えたところで、やるせないわね。』
みんながそんなことを言ってくるが、今更気にしてはいけないと感じる。 これはゲームの世界とはいえ、死は体感的にやってくる。 割り切らなければ死ぬ。 それだけのことなのだ。
「お兄さん・・・」
そんな俺を心配してか、ユナが俺に声をかけてきた。 自分の父親が憑き物に憑かれ、自分自身で倒したので、一番辛いのは彼女なはずだ。 だが、自分の事よりも相手の事を気にする優しいこの少女に心配させるのは、主として失格だな。 そう思ったので、ユナの頭を撫でる。
「ごめんな、ユナ。 本当はユナが一番苦しい筈なのに俺がこんなんじゃ、主として面目がたたないよな。」
そういうとユナは撫でられている頭を横に振った。
「お兄さんは私のためにお父さんを助けようとしてくれた。 お兄さんも優しい人。 だから私は吸血鬼となって、お兄さんの眷族として契約したの。」
そう言ってくれると嬉しいね。 そういって先程よりも頭を強く、だけど優しく撫でてあげた。
「主様。 今後はどのように動きましょうか。」
そんな様子を遠くから見ていたイサリヤが次について聞いてきた。
「確かにそうだな。 輝己、この先はどうすればいい。」
『おう、話は逸れたが、このまま続くのなら、おそらくは樹木園に行くことになるな。』
「樹木園?」
『そこの樹は全て稀少だという設定の場所でな。 そこでしか採れないアイテムもあるんや。』
「じゃあ目指す場所はそこってことか。」
『いや、目的地はそこやが、その前に寄らねばいかん場所がある。 これがないと樹木園には入れんからなぁ。』
樹木園に入るためのなにかがいるということだろうか? とにかく行ってみるしかないか。
「輝己、その場所までの道案内を頼む。」
『任しとき。 しかしまあそんな濃厚に話が進むもんやなぁ。 こっちの世界でまだ1日半分しか経っとらんのやで?』
「こっちとしてはもう1ヶ月以上はいるんだけどな。」
『飛空がこちらの世界に戻ってきたときに、大人になってたりしないのかの?』
「それは大丈夫じゃないか? エレア。 一応ゲームの中での時間経過だから、実際は体としての年齢は止まってると思うし、それに大人になって現れたら、それこそそっちが困るだろ?」
『わらわは飛空という存在が変わらなければなにも問題はないの。 飛空は飛空のままでよいのじゃ。』
そういってくれるとありがたい。 目的地も決まったことなので早速向かうことにしますか。
「よし、それじゃあ行くぞ。 イサリヤ、ユナ。」
「畏まりました、主様。」
「はい、お兄様。」
確認が取れたところで出発しようと足を一歩踏み出したところで・・・止まる。 今イサリヤとユナが同時に言ったこともあってか、ほとんど違和感を感じないようになっていたが、決して聞き間違いでないことは分かっていた。 そしてその場で振り返りユナに質問をする。
「・・・お兄様?」
「はい。 私はお兄様に忠誠を誓った身。 そして私のために悲しんでくれる私の慕う人。 なので誠意を込めてお兄様と呼ばせていただきたいと存じます。」
そこまで言ってスカートの裾を摘まんで、脚をクロスさせて頭を下げる。 本当にこの子は吸血鬼になる前まで病弱だったのだろうか? そう錯覚するくらいに自分という存在を押し出していた。
「まあ、呼び方は人それぞれだしなぁ。 ユナがそう呼びたいなら構わないぞ。」
まあ、事実目の前に俺の事を「主様」と呼んでいる竜人族のメイドがいるし、変な呼称で呼ばれなければいいか。
「てはこれから改めて、ユナをよろしくお願い致します。 お兄様。」
そう頭をあげて見せた彼女の笑顔は、病弱でも吸血鬼でもない、普通の女の子の笑顔だった。
「さてとここからか。 2人とも、準備はいいな?」
「大丈夫であります。」
「私もいいよ。」
そういって俺達は一歩踏み出す。 そしてこのゲームの世界で何日か振りの太陽の光を浴びることになった。
当然いきなり浴びて支障が出る可能性を否定できなかったので、俺とイサリヤは目の保護のためにサングラスを。 ユナは吸血鬼になったことで太陽の光を浴びることが出来ないので全身にローブを羽織らせている。 日光が苦手という条件がどこまでのものなのかまだ見極めがついていないので、まずは全身を覆うところから始めたのだ。
「ユナ、今太陽は真上にある。 指先だけでいい。 肌を出してくれないか?」
「分かった。」
ユナはローブから右指の数本を出す。 すると「シューシュー」という音ともに肌が焼けているような音が聞こえてくる。
「っ!」
「ありがとう、しまってくれ。 まだ痛むか?」
「いえ、隠していれば問題はありません。 お兄様。」
「そうか。 やはり日光は簡単には遮断出来んか。 慣れる前にユナの体が焼けちまう。」
「申し訳ありません、主様。 私が「プロテクション」のような魔法を覚えていれば、ユナをこのような姿で歩かせることも無かったでしょうに。」
「無い物ねだりをするなイサリヤ。 まだユナは吸血鬼になりたてだし、まだ先は長いと考える。 責める気はないさ。」
ユナの今を知ることが出来ただけでも今は良いだろう。 俺は歩みを進めることにした。
輝己が指示した場所は先程まで場所からかなり離れている。 そういうときはやはり乗り物が欲しいと考えてしまう。 舗道や村のような場所もない。 しばらくは野宿をすることを覚悟してもらわなければならない。 まぁ、そんなことで落ち込むような2人でないことは知ってはいるが。
[ユナのサモン!
ボーンナイト!]
[ボーンナイトの「闇切り」!
サイクローに41のダメージ!]
しばらくは目的地に着くまでに様々な戦闘をユナにさせた。 当然だがユナ自身は吸血鬼になったが、まだ戦闘経験としては未熟である。 なのでこうして地道に敵と遭遇しては戦うの繰り返しになるのだ。
[サイクローの「ひっかき」!
ボーンナイトに21のダメージ!]
そして「サモン」についても色々と分かったことがある。
まずこの「サモン」は召喚「魔法」扱いになるのでMPは消費される。 そして消費したMPの量によって召喚したモンスターの強さが違うようだ。 これは同じモンスターでも与えたMPによって強化、もしくは進化するというものだ。 実例で言えばバットーにMPを少しだけ余分に与えたら進化して「バットナー」として黒っぽいコウモリからから青っぽい色のコウモリになっていた。 もちろん進化しただけあって強くなっているところは強くなっていたので、余裕が出来るようになったら戦略に組み込むのも悪くないか。
そして「サモン」で呼ばれたモンスターはユナの付属品のような扱いになるのだが、ダメージは共有しない。 つまりあまり良くない言い方になるのだが、「攻撃の出来る盾」という認識になるのだろう。 折角召喚したモンスターをそのような扱いにしてもいいのかと考えてもいるが、ゲームのシステム様には勝てないわけで。
そんなことを思いながら耽っていると、戦闘が終わったようだ。 一応俺達も戦闘には参加しているが、あくまでもユナの強化というわけで、余程の時が無いときは介入しないようにしている。 こうしてユナのレベルは着々と上がっていった。
「主様。 そろそろ次の場所に行く頃合いかと。」
「そうだな。 どうせまだ長い道中でも敵は現れるしな。 それにそろそろ場所に着かないと向こうからの情報がなくなっちまうからな。」
ユナのレベルアップに勤しんでいたのだが、その地点で3日程経過がしていた。 もちろん疲れたときは野宿はしたが、それでも向こうの時間で少なくとも2時間。 夜を迎えるので、みんなの両親のことを考えると長く拘束しているわけにはいかないのだ。
「よしユナ。 特訓はこの辺りにしよう。 あとは次の場所に向かう間にやってもらうぞ。」
「分かりました、お兄様。」
そういってユナが近付いてくると、なにやらモジモジし始めた。
「どうした? ユナ。」
「主様。 ユナは褒めて欲しいのですよ。 自分一人の力で敵を倒せたことに。」
ユナに答えを聞こうとしたとき、囁くようにイサリヤからそう言われた。 元々そういった関係の話に疎いので、ここは素直に頭を撫でてあげた。
「・・・えへへ。」
どうやらお気に召したようで、照れながらもはにかんでくれた。 なんだか妹が出来たようで、こちらとしても元のみんなの複合体と考えると、少しだけ複雑な気分になるのだった。 いいんだけどさ。




