第291節 経緯説明と戦闘力、渓谷
『はぁ・・・しかしそんなことになっとるとはなぁ。 さすがにそれは予想出来んわ。』
サンクルからアンスラーに戻っている道中でこれまでの経緯を空間の向こうのみんなに説明していた。 輝己曰く、やはり最初のところで、ダージリンに敗北として街の人に助けられなかったのは、ストーリーとしてはタブーだったようだ。 とは言えあそこで本当に死んでしまったら本末転倒だ。 幸か不幸かといった具合だろう。
『でもこれでまだこのゲームが従属神の手に落ちてないって事が分かったのはよかったんじゃないかな?』
海呂が言うこともあながち間違いではない。 そうでなければ俺は即デッドエンドまっしぐらだっただろう。 あいつの力が弱くって本当に助かった。
『それに強力な仲間も手に入ったんだし、今は順調、なんじゃないかな? 輝己の持っている攻略本を見させてもらったけれど、竜人族は仲間には出来るらしいけれど、色々と条件が厳しいみたい。 しかも話も後半の方じゃないと、会うことも出来ないみたい。』
啓人がそう説明を入れてくる。 イサリヤに関してはこちらとしても想定外だったので、こっちの女神にも感謝しないとなと感じた。
因みに戦闘面だが、まだ最初のレベルだったので、最初は俺がある程度倒して、経験値を分けていくスタイルで戦っていた。 鞭系統の新たな特技「薙ぎ払い」も覚えて、大抵の敵は撃退、もしくは瀕死状態にまで持っていけるようになっていた。
そんな見学状態が続き、イサリヤレベルが上がるとスキルを覚えるようになり、自らも戦闘に出れるようになっていた。
[イサリヤの「フレイムクロー」
単眼虎に26のダメージ!
単眼虎は倒れた。]
戦力として十分主力になってきている。 だがまだまだレベルが低いのは仕方のないことだと割りきっている。 当初は素手のままで爪攻撃していたので、いくら元が竜とは言え、見ているこっちが痛々しく思えたので、前に駐在所で不良品の中から出てきた鉤爪の装飾品を着けさせた。
「私には不要なものですが・・・」
「竜人族がどこまで広がっているか分からない以上は、一般人として振る舞ってくれ。 呼び方に関してはべつに変えなくてもいいけど。」
これは確信できる事ではないが、この世界の人達にとっては人のようならば気にはしないだろう。 だが一度でもイサリヤから竜の片鱗が見えたとき、人々は恐怖をしてしまい、俺は魔王退治など出来はしないだろう。 どう転んでも今はおかしくないんだ。 安全策で行くのは決して悪いことではない。 少なくともそう思った。
[すみませんねぇ。
もし戻ってきたときには
お礼をしますので、
何卒、孫をよろしく
お願いいたします。]
アンスラーに着いて、夕刻になろうとしている時に、前回憚れてしまったおばあさんの元に行って、クエストを貰ってきた。 イサリヤの事は気にかけてはいないようだ。 それとも見えなかったのかもしれない。
「どうやら道標は入口とは逆方向に伸びているようですね。」
イサリヤも見えているようで、明らかにここの街並みとは無縁の薄暗さが物語っている。 多分下手をすれば2日は街には帰ってこれない。 そう判断させられるような暗さであった。
『どうするの? このまま行くの?』
『いや、そのまま行くにしても、明らかに準備不足だ。 それに今回からイサリヤもいる。 アイテムを温存している余裕はなくなるかもしれないよ。』
『なら、やることはひとつだね。』
みんなの意見を聞こうと空間の向こうを見たら、どうやら考えていることは一緒のようだった。 段々分かってきたのかな? 俺の考えが。 それとも慣れか?
「とりあえずは道具屋にいくぞ。」
道具屋に行き、「明日からの生活どうするの?」レベルでお金を消費したが、安心してほしい。 ここはゲームの世界、最低限衣服を着ていればどうにかなる世界なのだ・・・とはいうものの、やはり食べ物は必要だ。 寝る場所は最悪薪をしたり、交代制で見張れば問題はないが、食だけはやっぱり外せなかった。
『基本的には気にせんでいいとは思うがな。 こっちの世界との時差を考えたりすると分からんが。』
「まあ、こればっかりは俺のわがままでもあったりするがな。 さてと一応詳しい場所だけでも知っておく必要はあるかもな。」
そう思い、飛行呪文「フライト」で上空に飛ぼうと思ったが、少し気になることがあったので、イサリヤに声をかける。
「イサリヤ、なにか飛行スキルみたいなのは所持していないか?」
「申し訳ありません。 経験が足りないゆえ、そのようなスキルを所持しておりません。 お役に立てないことをお許し下さい。」
「いや、気にするな。 場所の把握が目的だから、飛べないことに否定はしないさ。」
そう言って頭のなかで「フライト」を唱える。 すると足元から感覚がなくなる。 下を見ると確かに浮いていた。 但し数センチ程度だったが。 その後に上に向かって飛ぶようにすると、舞い上がり始めた。 そしてある程度の高さになったところで止まる。 風が冷たいな。
「道標の方は・・・岩肌が多いな。」
『そこから先は上からの視界が悪くなってのぉ。 最終目標がいるのは、奥の洞窟や。 敵も出てくるやろうが、今のお前さんなら訳ないレベルの敵やから、多少強引にでも行けるやろ。』
「ああ、俺はいいんだ。 俺はな。」
『俺は?』
『今回からはイサリヤがいるんだよ鮎。 迂闊に突き進む訳にはいかないよ。』
リョウが説明をしてくれるのはありがたい。 感謝しながら、ゆっくりと下降して、イサリヤの元に戻る。
「お帰りなさいませ。 主様。 状況はいかがなさいますか?」
「正直ゲームだから、システム上、死んでいることはないだろうけど、人の命がかかってるからね。 早く行くことには越したことはないさ。 行こう。 夜明けを待つ理由はない。」
「かしこまりました、主様。 私もお供致します。」
その会話を交わしつつ、俺とイサリヤは陽の沈みかけた渓谷へと、足を運ぶのだった。
「んあっあー。 しかし丁度いいところに横穴があって良かったよ。 これでとりあえずは安心できる。」
渓谷に入ってからというもの、夜だからなのか魔物の群れがわんさかと出てきて、連戦に次ぐ連戦で心身ともに疲労が限界だった。 そんなときに見つけたこの空洞にイサリヤと2人、疲れを癒すために休憩所として利用することとした。 2人が寝転がっても余裕のあるスペースで、月明かりが照らすほどに入り口も近い。 見つからないために集めた石で入り口をある程度塞いでいるため、完全に見えるわけではないが。
「主様。 どうぞこれを。」
火を作っていたイサリヤがこちらにコップを渡してきた。 因みにこのコップは、回りにあった石で俺が「加工」のスキルを使って作ったものだ。 鉄よりも熱を通しにくく、土よりも丈夫だ。
「サンキュ。 ・・・ん。 上手い。 よくこれだけの材料があったものだね。」
俺が貰ったコップの中には、スープが入っていた。 醤油ベースの体が温まるスープだが、そもそもゲームの世界で食事をすることがあまりないのにも関わらず、ここまでのスープが出来るのは少々謎だ。
「中に入っている具材は、主様が旅の道中で見つけてきてくれた採取物から取ったものです。 食用キノコの生えた苗もあったので、それも利用させて貰いました。あくまでも食べられそうなものを厳選しただけですので、お口に合うかどうかは分からないです。 調味料類は女神が用意してくれたものです。」
食事をすることを前提で渡したのか? とんだエスパーだな。 あの女神も。
『2人とも、大分強くなったんじゃない?』
『そうですね、イサリヤも、ここの敵なら、問題ない、んじゃないかな?』
桃野姉妹が言うように、イサリヤも戦闘を積み重ねて、経験値を重ねているので、もはやこの渓谷を攻略するのに苦では全くないほどに成長した。 敵がどんなであれ、油断する気はないがな。
「けど、ここで休息をとろうと思う。 やっぱり夜になると、敵が活発化しやがるから連戦続きで疲れたぜ。」
「どうぞお休みになられてください。 主様。 先はまだ長いのですから。」
イサリヤに言われて、そこらで見つけた、頭を支えるための硬い石で枕を作り、そのまま目を瞑り、明日の朝を迎えることにした。




