第287節 成り立ちと集会、選択肢
[ようこそとは少し遅れて
しまったが、歓迎しよう。
僕がサンクル領主である
クライト・ヴェンゼン・
サンクルだ。]
目の前に立つ、金髪で少し高圧的な瞳をしているクライト領主は、手を差しのべてきたので、こちらも手を差し出し握手を交わす。
[旅のお方、我が町の
危機について聞かれた
そうだね。 本来ならば
旅のお方の手を
煩わすような形は
とらないのですが、
今は一大事ゆえ、
何卒力添えをして
いただきたく思う。]
同じ人種だからだろうか? やけに自分に対して寛容になっている。 ゲームの進行の都合なのは分かるが、ここまで部外者に自分の町の話をしてしまって大丈夫なのかと逆に不安になってくる。 今まで同盟に各国を回ったが、それでも信用のある場所からの、信頼出来る理由があったから、成立するような事なのだが。
「いえ、この町の事情を知ってしまったので、自分も協力できることは致します。」
こう言わざるを得ないのはゲームだから、自分がセンチメンタルになったからなのか。 まあゲームの進行の都合上、仕方のないことではあると割り切らなければいけないが。
[そうか。 ありがとう。]
そう言ってクライト領主は、付き添いにいた人になにか耳打ちをしたあとに、その付き添いの人が、俺たちから離れる。
「さて、これからの方針なのだが・・・」
そう言うとクライト領主が急に話し始めた。 だがウインドウが出ないと言うことは、これは定型文で無いことを示している。
ゲームのNPCではあるが、こうしてゲームに左右されずに喋るのは、この世界の女神、ダージリンに続いて3人目になる。
「どうなされた? 旅のお方。」
「いえ、なんでも。 それとその呼び方ではなく、是非とも「ヒソラ」とお呼びください。 クライト領主様。」
「うむ、お主がよいのならそう呼ばせてもらおう。 ヒソラ殿にはまず、この町が陥っている問題について説明をまずは説明せねばなりませんな。」
そう言うとクライト領主は語り始めた。 かなり長く説明をされたので簡潔に纏めてみることにした。
まず、この町の発端はかなり突発的なもので、この町が発達する前の土地にて、たまたま生まれた異種族、海も近かった事から下半身がタコの足の人がいたそうだ。(今ではその種はダゴン種と呼ばれている。)
そのダゴン種の所にたまたま通りかかったクライトの大祖先は恐れることなく、ダゴン種と会話を繰り返した。 その後、ダゴン種だけでなく、色んな海洋系異種族と触れ合う機会が増え、小さな村を作った。 領土を買い、開拓していき、お偉いさんにも認められて、発展をし続けて、今に至るというわけだ。
「その間に、今回みたいなことは無かったのですか?」
「無かった、言えば嘘になる。 そもそも最初は異種族同士で争ってもいた。 海洋系が多く住む村に陸育ちのものが来るなとね。 最初は戦争をも勃発しそうな勢いだったらしいが、我々も領主として、双方の意見を取り入れれるような町作りをした。 それから本当に様々な種族が来て、今の町がある。 ということさ。」
この町が出来たのも、本当にこの領主達が頑張ったからなんだな。
「けど、その平穏が脅かされている。」
「この町はあの魔王の復活の一端に少なからず関わっている。 私はここの民を見捨てない。 だがそれは私たち人族の考えだ。 他の・・・異種族は元々はあちらの世界の住人。 そして魔族とは本来人間を恐怖で支配する種族ともいえる。彼らが暴走を起こしていないのは、彼らに魔の心が無いからだ。 しかし、少しでも悪しき心が入ってしまえば、すぐに向こうに寝返ってしまうだろう。」
そこまで話して頭を抱えるクライト領主。 この町を捨てる。 それがこの領主にとってどれだけ苦渋の選択なのかは表情を見て分かることだ。
「・・・一度人族を集めて、今後の方針の意見を募ってみてはいかがでしょうか? それで議決した上で、この町の民に聞いてもらう。 それでは駄目でしょうか?」
俺は話を聞いた上で、独断で決めるのは良くないと悟らせる。 運命共同体だと知ってもらうためにも集めるのは悪いことではない。
「ヒソラ殿・・・ 分かった。 ここに住むすべての人族を一度集めよう。 人の・・・いや、生物学において人とは「考える葦」である。 私たちは屈することなく、立ち向かうことも出来ようぞ。」
自暴自棄に走らなくて何よりだ。 多分集めるのは領主の仕事だろうし、俺はまた町の散策でもしているか。
町の人たち(色んな種族がいたが、纏めて「人」と見ることにした。)と適当な会話を進めていると、クライト領主から声がかかる。 どうやら集めてくれたようだ。
[聞いてくれ、サンクルに
住まう人族の民達よ。
皆も知っての通り、今
世界から魔王の手下と
なりえんもの達が現れた。
我々は異種族関係なく
暮らしている。 だがもし、
彼らが魔の手に堕ちた時、
我々の命の存亡に関わる
問題になってくる。 私は
この町から君たち人族を
切り離すことも視野に入れている。
そこで今一度問いたい!
我々はここに住まう異種族の
民達の為に彼らを拒絶するか!
それとも我々の命に変えても
彼らを信じきるか! 意見は
いくらでも受け付けよう!]
そこまで話したところで、演説を聞いた人達は「ザワザワ」とし始める。 どうやら自分達もどうするべきなのかを親身に受け止めきれておらず、困惑を辿っていた。 だが、俺にとってはこれでいいと思ってる。 領主の独断だけで町の人間が動かせれるとは思っていないし、下手に動けば混乱を極めるしか無いのだから。
ザワつきが鳴りやまない演説台。 そんなときに、魔方陣が展開される。 俺は展開されている範囲から外れたので良かったが、他の人は中に入ってしまい、更に困惑を招いてしまった。
[なっ・・・!
なんだこれは!]
「動くな!」
クライト領主が魔方陣の外に手を伸ばそうとしたので、俺が一喝して鎮める。 俺は投げナイフを魔方陣に向かって投げると、投げナイフは「バチバチバチ」という音ともに弾き返されてしまった。 恐らく魔方陣を展開している場所には目に見えない壁があり、その壁に電流が流れているのだろう。 俺は現実世界でも似たような体験をしているので、ナイフに触っても問題はないが、恐らく他の人には触れないほどの電圧が流れているだろう。
[ひゃっひゃっひゃっ!
こんなところに人間どもが
固まっているとは
幸運だぜ!]
上空から声がしたので見上げるとそこには剣を持ち、悪魔のような羽が生えた鳥のような嘴のある魔物が空を飛んでいた。 ガーゴイルってやつか。
だが奴ではこの魔方陣の展開に必要な魔法能力がないのはRPGゲームではお馴染みだ。 そう思い周りを見ると、魔方陣を囲むように魔法使いのようなローブを来た魔物が何体もいた。 どうやらこいつらが魔方陣を形成しているようだ。
[丁度いい。 ここの
同胞達にやらせよう。
おい。 あれを使って
ここに同胞達を導け。]
そうガーゴイルの隊長のような奴が部下であるガーゴイルに指示を出す。 すると部下のガーゴイルはなにかの歌のようなものを歌っていた。
するとここの異種族達が集まってくる。 オークを始め、ハーピィ、獣人、ミノタウロス、ケンタウロス、悪魔、オーガまで来る。 この魔方陣に入っている人間の人数よりも明らかに多い。 恐らく5倍ほどの数だろう。
[歌を止めろ。]
その歌を止めると住人たちは正気に戻り、現状を確認する。 これは一体どういうことなのだろうかと。
[おい! なにをさせる気だ!]
ここで普通に喋れないと言うことはストーリーの進行上必要な台詞だったのだろう。 元々言おうとしていたので、助かってはいるが。
[魔方陣に入っていない
人間がいたか。 まあいい。]
そういうとガーゴイルの隊長は剣を魔方陣の中にいる人たちに向ける。
[同胞諸君よ! 君達は
この人間達に支配されて
来たのだろう。 だが
そんな醜い生活ももう
終わりだ! ここですべての
人間を殺せば、君達は
晴れて自由の身になれる!
我々はその手助けをしてやろう!
だが人間ども、貴様らにも
慈悲をやろう。 我々の
魔王の崇拝者になれば
命は助けてやる。 さあ
生きるか死ぬか、選んで
もらおうか!]
ちっ! そういう選択をするか! 殺されなくても崇拝者になれば、いずれは生け贄になる。 それじゃあ、結局は死んでるのと同じことだ!
[→諦めて殺される
魔王に崇拝する]
[待て! 私はこの町の領主だ!
ここの者達のためなら我が
命をやろう! だがここの
民達に争いはさせないと
約束しろ!]
第3の選択肢[領主の命を引き換えに]か。 だがその選択肢はしたくはない。 何故ならばそれは領主の命が潰えた後に、純粋に守られる保証など一切ないからだ。
[→諦めて殺される
魔王に崇拝する
領主を掲げる]
[はははははは! 面白いな!
人間! なるほど、それも
面白いな!]
そう言ってガーゴイルは領主に近付く。 だけど、そうじゃないだろ。 なんでわざわざ俺が魔方陣から出たと思ってるんだよ。 選択肢なんてあるようで無いものなんだよ。
[諦めて殺される
魔王に崇拝する
領主を掲げる
→ ]
空欄の[第4の選択肢]。
これが俺の、いや、ここにいる人族の答えだ!
[諦めて殺される
魔王に崇拝する
領主を掲げる
→魔王の手下に攻撃する]
飛空自身がゲームの主人公と化しているので、無茶なこともしています。 実際には本当に出来ませんよね。
こういう展開はゲームでもアニメでも割と好きだったりします。




