第279節 下準備と装備、負けイベント
[ここがトリナの街か・・・
話だけでも聞いてくれるかな?]
かなり消極的な喋り方をしているが、ここまで単身で来ているので、喋りは少なく行動は大胆。 みたいな性格のようだ。
「さてと、自警団に行く前にこっちも下準備しないと。」
『なんかすぐに行こうとしないのは、あんたらしいといえばあんたらしいけれども。』
紅梨が上から何か言っているが、俺は気にしない。 俺なりに進ませてもらうだけだ。
まずはトリノの街の道具屋に行くことにした。 道標とは別の方向に向かっているが、こればっかりは準備しないと今後が困るのだ。
「まずは投げナイフだな。 なんだかんだで序盤にはお世話になるんだよな。 複数戦闘とかには特にな。」
そう言って俺は投げナイフを選択して、所持金の1/4程をつぎ込む。 さらに薬草を買う。 まだそれ以外のアイテムは無いがそれなりに揃う。 そのうちに調合で色々と作れるようになるだろうし、薬草は確実に残しておきたい。
そして次に行くのは防具屋である。
[おや、いらっしゃい。]
ここで防具屋の店主からお声がかかる。 こうして声を掛けられるのは最初の街の神官以来になるかもな。
今装備しているのはグローブ、ニット帽、スカーフなのでまずは体の方に装備を着けたい。 鎧では邪魔になるのでチョッキ程度に納めておきたい所だ。
『飛空。 防具が欲しいなら最初はこいつがええで。』
そう言って選ばれたのはローブだった。 上下が揃っていて色も水色に染められていた。
『こいつなんだがな。 「速さのローブ」言うてな。 「シーフ」のステータスにはお似合いやろ?』
[胸 胴 腰同時装着
速さのローブ
防+5 素+20]
なるほど、素早さが上がるから戦闘の先制にはなるのか。 これで魔物の群れだったら、投げナイフと両利きのコンボである程度は削れる算段か。
『最初の敵は大抵はそんなに早ないからな。 最初の攻撃で粗方片付くやろ。』
「気に入ったぜ。 サンキュー輝己。」
『ええってことよ。 お前さんが戦闘してお金を作ってくれとったおかげで、わざわざ戦闘に戻らんでも、武器も新しく出来そうや。』
それはありがたい。 包丁なんて格好がつかないからな。 お金を払い、防具屋を後にし、今度は武器屋、雰囲気的には鍛冶屋の場所についた。
[なにかお探しかい?]
そう言って手に取った武器が気になったのでステータスを見ることにした。
[ダガーナイフ
攻+30]
[フォールディングナイフ
攻+15
二回攻撃が可能]
火力で押すか、手数で押すかか。 迷うところだな・・・・・・
今回はフォールディングナイフの方にしよう。 スキル「逆手」を使えばもしかしたら3、4回攻撃も出来るかもしれない。 それは淡い期待ではあるが。
さて改めて現在のステータスを見てみるか。
[ヒソラ 職業 シーフ
攻46 防21 素70
H70 M18 運22
武器 フォールディングナイフ
頭 ニット帽
顔 スカーフ
胸 速さのローブ
手 手袋
胴 速さのローブ
腰 速さのローブ
足 スニーカー]
うん。 改めてみても放浪人にしか見えない。 まあ、その方が自警団としては取り入ってもらえるかもしれないな。
武器屋を後にしていよいよ自警団の所に話を持ちかける部分になる。
「話は聞いてくれなくても、とりあえず案は聞いてくれるだろう。 自警団だって今の状況を考えてない訳じゃないだろうし。」
『しかしゲームの世界だからの。 どこまでその魔王というのが伝承なりで伝わっておるかは分からんぞ?』
エレアの言う通りだ。 こちらが危機だと言ってもこの世界はあくまでもゲームのストーリーの方が基盤になっている。 俺がどれだけ先に行動をしようと、結局はゲームのシステムの壁は越えられない。 それができてしまったら最早バグになりかねない。 だからこそ向こうの言い分を確実に尊重しなければ、この世界では生きていけないのだ。
「とりあえず着いたが・・・」
[待て。]
そうウインドウが表示される。 どうやらここが自警団の領域みたいだ。
[自警団になんのようだ?]
[い、今魔物が降りてきている
のは知っていますよね?]
[あぁ、なので我々もそれの
対応をしようと作戦会議を
しているところだ。
君が考えるような事ではない。]
ここの自警団はそれなりに考えれる上層部がいて助かった。 それならこっちからはあんまり動かなくてもいいかもな。
そう言っていると後方からかなり多くの兵と馬車を連れてきた。 その前を歩く、明らかに上級クラスの人が剣を掲げた。
[我々白刃の騎士団は
これから被害の大きいであろう
マーライアの街へと進行
する。 これは上層部の
決定である!]
そう言って進行をする騎士団だったが、そこで別の集団が行く手を阻む。
[トリナの騎士団は
我々のような平民を守るよりも
魔物討伐を優先するのか!]
どうやら先程の宣言に不満を感じた街の人が立ち上がったようだ。
[どきたまえ。 我々は
すぐにでも出発をしたいのだ。]
[あんたはこの街の騎士団長だろ?
なんで他国の街に出向くのさ?
この街を守ってくれないのかい?]
[状況と言うものがあるのだ。
たとえ街の騎士だとしても、
他の街を守らないと言う
理由にはならない。
それにこの街にだって
騎士団は残しておく。
決して見殺しにはしない。]
[そんなに魔物討伐がしたい
のかよ! ダージリン
・アイリッシュ!]
街の人の不満は募るばかりだ。 独裁政治ではないが、上層部の考えが必ずしも平民に伝わることは少ないし、なにより納得してもらえるような内容でないのはどこの世界でも同じなんだろうな。
そんなことを遠くから見ていたら、ダージリンと呼ばれた騎士団長は掲げていた剣を前に振り下ろす。
[我々もなにも考え無しに
他の街に行くと思うのか!]
その上からの威圧に平民たちは怯んでしまう。 すると騎士の1人が前に立つ。
[我が騎士団長に楯突いた!
お前は我々の考えに反逆した
として、ここでお縄にかかれ!]
そう言って手に持っている枷の様なものをつけようとする。 それは流石に許さないと足が勝手に動いたようで、俺は騎士と平民の間に割って入る。
[なんだ貴様は? 余所者が
入っていい場所ではない。]
そんなのは知っているし、騎士団の言い分だって当然の事だ。 だが簡単に人を拘束するようなことはしてはいけないだろう。 それは騎士団としてもおかしいことだろう。
[お前がその平民を庇う
道理などないだろう?
さっさと退いて・・・]
[いや、我々も配慮が足りなかった
かもしれない。 だが
進行上に入ったのは君だ。
その行動に対し、私が
直々に制裁を下さなければ
ならない。]
そう言ってダージリンと呼ばれた人物がこちらに2、3歩近付いてきて、そして
[騎士団長 ダージリンが
戦闘を仕掛けてきた。]
[ダージリンの先制攻撃!]
[ヒソラに15ダメージ!]
[ヒソラはどうする?]
こちらの行動に入る。 もちろんダメージを入れられたのでこのまま戦いに入りたいが、それ以前にこの状況についての説明が必要だ。 戦闘中はこちらが行動をしない限りは動かない仕様になっている。 その辺りはターン制の特権だ、
「輝己。 この戦闘はどうなんだ?」
『この戦闘は戦っても無駄やで。 その目の前の敵は今の主人公のレベルに5つほど上乗せしたステータスや。 序盤にしてはどんな状況でもまず勝てん。』
なるほど、つまりは負けイベントか。 それなら戦闘をまともにしても・・・・・・
「なあ輝己。 この戦闘の負ける状況ってなんだ?」
『もう攻撃ばかりするしかないな。 2、3回攻撃をした辺りで会話が入るが、その後にダージリンからの攻撃でHPは無くなるからな。 下手に耐えるよりは流れに任せた方がええで?』
「・・・・・・輝己、それはもう抗えないんだな?」
『攻略本にもそう書いてあるからなぁ。 その後は庇った平民に連れられて、介護を受けて・・・』
確定しているイベントに俺は、最悪の事態になってしまっている事に、俺は久しぶりに。 それこそ従属神の奴が訳の分からない信仰心で人を集めたとき以来の憤りを感じていた。




