第273節 新作とメイキング、引きずり
冬の季節も終わり、そろそろ暖かく感じて来た頃。 学校の授業を終えて寮の部屋に戻ると、輝己が椅子に座ったまま震えていた。 だが「ガタガタ」震えているというよりは「ソワソワ」と言った感じだった。 実際輝己はなにかを期待するような眼差しだったし。
「おーい輝己。 どうしたんだ? そんなに誕生日を待っているかのような落ち着きの無さで。」
「なんつー的確な例えをするんや。 ふっふっふっ。 だがそう思われるのも無理はない。 なぜなら!」
そう言って1つのチラシ、もといゲームショップの広告パンフレットを見せてくる。
「これやこれ! このゲームの最新作が出るんやで!」
そう言って輝己が指差すゲームの名前は・・・
「モンタージュストーリー2?」
どうやら見る限りはRPGゲームのようだ。 しかし内容が全く理解できない。
そもそもこっちの世界に入ってもまともにゲームをすることがなかったから、前の世界のように、ゲーム予測が出来なくなっているのだ。 悲しいなぁ、時代の流れというのは。
「それで、これの新作のために待機してるのか?」
「お前さん、こんな名作を・・・知るわけなかったわ。 お前が来はったのが、新入生の時なら、それよりも2年も前に発売されたこれの事なんか知らんわ。」
言い方に悪意が無いのは分かるが流石に腹が立ってくる。
「ええか? このゲームを作った会社はまず・・・」
そこからかなり熱く語られたので、自分の欲しい情報をまとめてみる。
「モンタージュストーリー」
主人公は成人を迎えた少年で、世界は神々によって造られている、という教えを少年の住んでいる村では言い伝えられていて、その神々に自分が成人になったことを報告するために教会へと向かう。
しかし魔王の進行が今の現状で神々の間で確認が取られたため、本来の未来とは別の分岐の未来へと導くために、神々は世界を換えようと動いた。
だが逆にそこにつけこまれ、魔王が世界を支配する未来へと書き換えられてしまった。 そしてそんな世界を救えるのはその主人公しかいないと、神々の加護を貰いながら魔王へと挑んでいくという、王道RPGである。
「・・・・・・てなゲームなんや。」
「・・・それ簡略化して説明できなかったのか?」
かれこれ1時間近くは語られた。 もうすぐ春休みで、ゲームの発売はその春休み中にあるのでかなりテンションが上がっているようだ。 それはいいのだが流石にそこまで語られると鬱陶しくも思えてきてしまった。 心底げんなりしてしまった。
「とはいえ百聞は一見にしかずや。 それ。」
そう言って輝己が取り出したのはひとつの携帯ゲーム機、画面は一つ、十字キーと4つのボタンのある、ごく普通の携帯ゲーム機だ。
「それのなかに「モンタージュストーリー」の初代が入っとる。 クリアしたら返してくれて構わへんで。」
「え? いいのか? これ貸したら、新しいのが出来ないんじゃないのか?」
「最新作は対応機種が違うんや。 やからお前さんが持っとっても問題はないっちゅう訳や。」
なるほど、それなら春休みはこれに熱中しますかね。 そんな感じで春休み前の最後のやり取りを終えて、家へと帰っていった。
「さてと、まずはキャラメイキングからだな。」
家に帰って早速借りた「モンタージュストーリー」を始める。 一度クリアしてあるゲームの初期化って正直気が引けるんだよね。 なんか今までのそれを壊すようでさ。 まあ最近は一回クリアしただけじゃ全貌が掴めないからと、強くてニューゲームの2周制度が当たり前らしいが。 長く楽しんでもらうための策略なのだろうが、達成感を一度味わうと作業のようになってしまわないか? と考えるのは俺だけじゃないはず。
「えーっと性別は男、髪の色や目はっと・・・・・・」
「珍しいね。 君がそんなものをやるなんて」
家の居候さんのスリームさんも興味深そうにゲームを見ている。
「輝己が貸してくれたんだ。 俺もあんまりこういうのはやったことないから、まあ楽しみと言えば楽しみだね。 っとこんな感じかな?」
「随分と君に似せたね。 こういうのは自分とは違う姿にして遊ぶのが醍醐味だったりしないかい?」
そうかもしれないが、俺は自分と照らし合わせることでより親近感が湧くと思ってたりするんだよね。
「名前も自分と同じ・・・いや、少し変えようかな? 「ヒドラ」・・・っと」
『おいおい、そこで俺の名前を使うのか? なんかややこしくならねぇか?』
名前の入力をしたあとに俺の耳に名前の張本人、飛怒羅が声をあげる。 声をあげると言っても俺の脳内の中での話だが。
「んー。 やっぱりダメ?」
『ダメというか、お前捻りのない事をするんだな。』
「そんな事を捻ってどうするんだよ。 まああまり名前の変更に意味はないか。 「ヒソラ」にしておくよ。」
名前を再度変更をした後、また別の項目が現れた。 今度は職業を選べるようだ。
「職業かぁ。 えーっと? 「剣士」、「魔術師」、「拳闘士」、「弓士」・・・」
微妙にパッとしない職業欄のリストにちょっとどうしようか迷っていると
「・・・・・・お? これいいんじゃないか?」
そう言って選んだのは「シーフ」。 たしか盗賊とかって意味らしいが、投擲スキルや探知能力が高いとゲームの資料で見たことがある。 罠解除とかも出来るらしいから、自分でなにか作れたりするのかね? そう思ったので職業は「シーフ」にした。
キャラメイキングもこれにて終了。 後はゲームの始まりを観るのみだ。
「お、ようやく始まるのかい?」
「あぁ。 スリームさんも見る?」
「せっかくだし、拝見させて貰おう。」
そう言って画面を覗き込む。 そこには1人の女性が現れる。
「キャラメイキングお疲れ様。 あなたにはこれから起こる摩訶不思議な世界を、今作った主人公と共に追体験をしていくこととなります。」
なんだか遊園地のアトラクション見たいな始まり方だな。 まあ、こういったナレーションも、購入者の気を惹くための演出だろう。
「それではこれから「モンタージュストーリー」の世界へ・・・」
その言葉を言った瞬間、笑顔ではなく悪魔のような微笑みへと代わり、そして・・・
「お前を引きずりこんでやる! 津雲 飛空!」
「なっ・・・・・・! その声は・・・!」
そして画面の向こうから腕が伸びてきて、俺の頭を掴み、そして画面の中へと入れようとする。 抵抗はしているが、少しづつ画面は近づいてくる。
そしてあの声は忘れもしない! この世界を造り上げた従属神の声だった! どうやってこのゲームに干渉したのかは知らないが、俺は抗うので手一杯だった。
「飛空!」
「スリームさん・・・あいつらを・・・呼んでくれ・・・特に輝己には・・・なにがなんでも・・・来てもらいたい・・・話はそこからです!」
からだの中にバチバチと電流が流れる。 そして俺は画面の中に入っていってしまった。
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画面の中に入っていった飛空を助けることは出来なかった。 いや、正確にはしなかった。 あのまま飛空に触れれば同じように私も画面の向こう側に行ってしまっていたかも知れないからだ。 飛空もそれは承知の上で、私に助けを求めなかった。
他人の危険は人一倍察知するくせに、自分の危機には疎い。 いや、彼は自分の危機は自分だけで背負う気で生きている。 電脳世界での戦いにおいてもそれは同じだった。 だからこそ私にも分かる。 彼は従属神なんかには決して負けないと。 今空の上で見ている神達にすら愛されている彼が、そんな訳の分からない終わり方はしないと。
「私も行動に出よう。」
従属神は言った。 「ゲームの世界に引きずり込む」と。 それならばあの画面の向こう。 今までの電脳世界にいるときと同じ様に、ゲームの中で生きていると。 ならばまずは彼の信頼できる人間を集めるのだ。
私は本来夢の管理人。 夢での移動は自由だ。 だがここは現実世界。 情報や移動は足で行くしかない。 それを知った上で私は家を飛び出す。 彼らに、飛空を中心に歩み寄ってきた者達に、飛空を救いだす手立てを一緒に見つけてもらうために。
次回でこの小説も3周年目を迎えます。
伸びの悪さに心臓を締め付けられる想いで書いていますが、ここまで書いてこられたのも読んでくれている人がいるからだと思っています。
自分のモチベーションの維持のためにも、これからも頑張っていきますので、これからも応援よろしくお願いします!




