第261節 お出迎えと添い寝宣言、帰省
「お帰りじゃ! 飛空!」
すっかり日が落ちてしまったが、クレマに到着して宮殿に入るなり、エレアがおもいっきり飛び込んできた。 もちろん受け流すわけにはいかないので倒れないようにしっかりと受け止める。 腹部にかかる負担がスゴくて、ちょっと痛い。
「お帰りなさい飛空さん。 その様子ですとうまく行ったようですね。」
そのすぐ後ろから夭沙が現れる。 ちょっとだけ不機嫌そうに見えるのは気のせいではないはずだ。
「あぁ、なんとかな。 ところでコレン公爵はいる・・・というか起きてるか?」
帰ってきた時刻がかなり遅くなってしまったので、もしかしたらもう寝てしまっているのでないかと思い、そういう言い方をする。
「お父様はいつもの部屋で書類とにらめっこしておるぞ? 多分今日はもう誰とも会えないと思うぞ?」
エレアがそう答える。 うーん、なら明日朝一で会わせるか。
「というか今起きてるのはエレアと夭沙だけなのかい?」
俺の後ろから海呂がそう疑問をする。 確かに出迎えてくれたのはエレアと夭沙だけで、他のメンバーはいない。 こうして思うと少し寂しい。
「えぇ。 みなさん色々と準備をしていたので、お疲れだったようです。 イバラさんも今はアンドロイドから出て寝てしまってます。」
それならしょうがない。 本格的な話は明日ということにしよう。
「じゃあ、外で待たせてるサーレンにちょっと報告して・・・・・・ふぁぁ。 俺たちももう寝てしまうか。 正直睡眠が足りないと感じていたんだよなぁ。」
「飛空は朝から頑張りすぎなんだよ。 少しくらい息抜きしなきゃ。」
欠伸をする俺の肩を優しく叩く啓人 ここに帰ってくるまでもサーレンと今後の事を徹底的に話し合っていた。 そのせいか頭を使いすぎて本当に眠たいのだ。
「飛空! ならばわらわと一緒に寝ようではないか!」
「おっとエレア? いくら眠たくなって頭が回らないからって言って、そんなことをいっても駄目だぞ?」
「わらわは本気だぞ?」
さも当然のようにエレアは返してくる。 そう言うことじゃないんだけどなぁ・・・・・・
「飛空さん。 エレアと一緒に寝るのは不安ですか?」
「え? うーん、そういうこと、なのかな?」
「ならば私も一緒に寝れば問題はないですね?」
「ちょっと待った。 何でそういうことになるの?」
見張り役みたいに言ってはいるが、解決どころかむしろ悪化してない? 俺の判断能力が低下しているのをいいことになんか滅茶苦茶な事を言ってないかい?
「ええんとちゃう? 彼女と一緒に寝るのは彼氏としては普通やろ?」
「おーい、早く寝たいからって話を流そうとするな輝己。 俺がなんか悪い男みたいに見えるだろうが。」
そんなことないのは分かっているが、倫理的に駄目なのではないかと思える。
「大丈夫ですよ。 飛空さんがなにもしないのは分かっていますし、そこは信頼してるんですよ?」
そういう夭沙の声はどこか威圧的な感じがした。 これはもしかして拒否権というものはないのでは? そう思ったので、俺は諦めたようにため息をひとつした。
「一緒に寝るのはいいけど、誰かがその光景を見たとき、ちゃんと説明をしてよ? 俺よりも女子の言葉の方が信じられると思うし。」
「うむ!」
「はい!」
そう言って喜ぶ2人。 こちらとしては凄く複雑な気分ではあったりする。 確かに彼女たちは付き合っている身ではあるし、エレアに至っては婚約者だ。 しかしそれでも「一線」を越えそうな状況になったときに果たして耐えれるのだろうか? いや、何回かそういう境遇にはあったが、それでも理性は保てていた。 だが今はある意味で憚るものはない。 正直誘惑なぞされたらどうなるか自分でも分かったものではない。
「良かったね飛空。 君は誠実ともに男になるときが来たんだよ。」
「それは理性を保つって意味でだよな? お前が唆すんじゃないよ海呂。」
海呂ってもしかしてその手の話を知りたがる人間なのか? 海呂のイメージがここに来て崩壊するのか?
「大丈夫だよ飛空。 別に彼女たちだって「そういうこと」をするために寝るわけじゃないんだ。 後は君の気の持ちようだよ。」
そうは言っている啓人もそれなりに興味はありそうだ。 明日のこともあるので本当に寝たいのは確かなので、何事もなく寝かしてくれるだろう。
「やったの夭沙。 なかなか一緒になれる機会が少なかったから、こう言うところで差をつけようと言う夭沙の作戦は成功だの。」
「飛空さんだって気持ちは同じな筈です。 ならば無理に刺激せずに、自然体で行動をするのが得策なんですよ。」
・・・多分。
翌日
「いやぁ、飛空。 昨日は随分とお楽しみやったそうやないか。」
「訳の分からないことを言ってんじゃねぇよ。 普通に寝ただけだっつの。」
「つれないなぁ。 そういうノリも大事やで?」
「そのノリに乗っかって信用を失ったら元も子もないだろうが。」
みんなで朝食を取っているときに、輝己がそんなことを言い出したので、冷静に返す。 確かに朝起きたとき、エレアと夭沙の両方に抱き付かれていたが、それだけの事で、それ以上のことは一切していない。 断言だって出来る。
「私までこのような場所にいてよいのだろうか?」
「気にするなサーレン。 どうせあんたはコレン公爵に会うんだ。 ずっと外で立ちっぱなしってのもおかしな話だったし。 ま、邪険に扱うことはないから、ほら一緒に食おうぜ。」
この場の誰よりも場違いな感じになってしまっているサーレンだが、例え攻めてきた国の大将だろうが、俺たちには関係ない。 話がしたいのならその場所を提供するだけだ。
「なんというか、本当に至れり尽くせりで、私がやったことが本当に馬鹿馬鹿しくなってきた。」
「そんなもんだと思うぜ? とにかく今後のことはまたコレン公爵と話し合いなよ。」
「君たちはどうするんだ?」
「俺達は朝食を取ったら自分の国に帰るぜ。 これでも学生なんでな。 まあ、冬休みはまだ続いてるが。」
そろそろ3学期が再開されることを見越して、一度自分達の家に帰るという話になったのだ。 ちなみにエレアはここが自分の家なのでもう一日こちらにいることになる。
「そうなのか。 少し名残惜しい気もするな。」
「また何かあったら連絡くれればそれでいいさ。 とりあえず座った座った。」
こうしてサーレンも含めて、賑やかな朝食を過ごしたのだった。
「本当に済まなかったね。 次に来るときはちゃんとしたお出迎えをしよう。」
「大丈夫ですよ。 これも時の運ということで、別にコレン公爵が謝ることなんてないですから。」
相変わらず頭を下げてくるコレン公爵。 本当にトップの人格なのだろうかと疑ってしまう程だ。
「飛空さん。 エレアはまだまだおてんばですが、どうかこの子の面倒を見てやってくださいね?」
アレス王妃に別の意味で頭を下げられる。 こちらは親としての心配のようだ。
「では、俺達はこれで。 エレア、また学校でな。」
「うむ! 3学期も楽しみにしておるぞ!」
そう言って「テレポーター」をくぐり曜務の国会議事堂につく。 大臣と軽く挨拶を交わし、国会議事堂前でみんなと別れる。
ここからそう遠くない自分の家に到着する。 ここを利用する事はほとんどないだけに、これが自分の家なのだと、未だに疑問に思ってしまうほどだ。
しかし表札に「津雲」と書かれている以上は自分の家として、玄関を開けることが出来る。
「ただいま。」
今は誰もいないのだろうか、木霊だけが家のなかに響いている。 持っていたスーツケースを自分の部屋におきにいって、リビングで適当にテレビをつける。 新年を迎えたということで、正月用の特別番組がやっていた。 こっちの世界でもそういうのあるんだな。 そんなことを考えながらテレビを見ていたら、
「おや。 だれかがいるようだ。 珍し・・・・・・くはないな。」
その声と共にリビングに入ってきたスリームさんと目があった。
「ここを借りるようになってからずっと一人だったからどう言えばいいものか・・・・・・ まあ、とりあえずは、お帰り。」
「うん。 ただいま。」
本当になにもしてないのか? と思う人に敢えて補足を
飛空は寝てる間に一度エレアを抱き枕にして寝て、その反動でエレアが起きて、その声で夭沙が起きて一度飛空を話した後に朝の状態に至るというわけです。
あったことはそれだけです。




