第25節 呼び出しとイバラとの朝、実験台
昨日の買い物から一夜明け朝は6時半、昨日と同じようにイバラの所へ行こうと思った時、携帯がいきなり鳴った。目覚ましのアラームではなく、メールの着信音だった。 まだメールの方は誰も教えてないはずなのだが、誰からだろう? 迷惑メールか?
『おはよう飛空君、円香よ。 驚いたでしょ? 急で申し訳ないんだけれど、私の訓練に付き合ってくれないかしら。 場所はプライベートルームに行けばわかるから、9時に来てくれるかしら? よろしくね。』
まさかの生徒会長からの朝のお付き合いですか。 訓練って何するんだろ? っていうかここの世界の人間は朝元気だな。
まあ、アイツら帰ってくるまで部屋でボーッとするのもなんかアレだったので誘いに乗ろうと思う。 生徒会長の訓練ってのも気になるし。
まずはイバラの所に行こう。 前みたいに電子生徒手帳は忘れずに持っていく。
玄関を開けると、そこには昨日あげた麦わら帽子を被り、大きくなったジョウロで植物に水をかけるイバラの姿があった。 おお、絵になるなぁ。
「あ、飛空」
声をかけられてちょっと驚いてしまった。 見惚れていたみたいだ。なかなかに幻想的だったからかな?
「随分気に入ってくれたみたいだね。」
「うん、植物達も凄く喜んでるのが分かる。」
そう言ってもらえると買ってきたかいがあるってものだ。
「それでどうだ? 昨日の今日だけど、なにか思い出せたか?」
「・・・・ううん、まだなにも。」
「・・・・・・そうか・・・・・」
イバラがションボリしてしまってこっちまでションボリしてしまった。 昨日知り合ったばかりだが、少なくとも悪い子では無いと直感的に感じたので、こうなったらとことんまでやってやろうと思ってはいるのだが、やはりこういうのは自分で思い出してもらうのが一番なんじゃないかって思う。
「でも飛空がジョウロやスコップを買ってきてくれたおかげで、水やりが一段と楽しいの。」
こちらの心情を知ったのか寂しそうだけれど優しい笑顔を向けてくれた。 そうだ。自分でも言ったじゃないか、昨日の今日だと、一喜一憂で治らないのは知っているんだ。
「ありがとう。俺は記憶が戻るまではイバラの味方だからな。」
「うん。 私も飛空を信じてる。」
その後も少し他愛の無い会話をして寮に戻る。
朝食を食べ、時間に遅れるのは悪いので早いが先に電脳世界に入る。 ルームが作られていないとなにも存在しない空間なのだが、一つだけドアが存在していた。 可能性は1つしかない。 そんな訳でほとんど躊躇いもなくドアを開ける。 すると準備運動をしていた志摩川先輩が中央にいた。
「お、来てくれたね。私は嬉しいよ。ちょっと待ってね。もうちょっとで終わるから。」
そういって先輩は伸脚を始めた。 今の(というより電脳世界内での)志摩川先輩の格好はアンダースーツのような格好で身体にピッタリとフィットしている。 レスリングする選手は男女問わずあのような格好をするらしい。 志摩川先輩はどっちかっていうとスレンダーというか華奢というか、とにかく女性の身体的特徴があるかないか位の感じなので、意外と似合っているかもしれない。
「お待たせ。 ん?どうかした?」
「前に生徒会に入るための試験の時は普通に制服でしたがいつも戦う時はその服装で?」
「違うよ。 戦う時はまた別の服、これは少しでも動きやすいようにしただけの格好よ。」
運動用とバトル用で分けているのか。 まとめるよりはそっちの方が分かりやすいか?
「あ、じゃあ俺もジャージを買って・・・・・」
「いえ、大丈夫よ。 貴方には特別メニューにしたから。」
「特別メニュー?」
「そ、普段は私のショートスタイル、ドライビングフォースとキックブースターを使った応用的な戦い方の試運転をするのだけど、今回の事で他の武器にちょっと見直しをかけてみようと思って。」
なんか命の危険にサラッと巻き込もうとしてなかった? そっちじゃなくて良かったかも。
「それで見直すとは?」
「私のセミロングスタイル、コンフュージョングレネードの効果に付いて改めて考え直そうと思って。前の君の戦いを観てね。」
「前の戦いって幸坂先輩のですか?」
「いいえ、新入生のレクリエーションの時の方ね。」
そうなのか。 なんか色々と観られているんだなって改めて思った。
「ちなみに具体的にどうするか考えていますか?」
「まずはこのコンフュージョングレネードについてなんだけれど、武器としては爆発した後に混乱の煙を撒いて吸ったら自分のやる事の反対の行動をするの。」
「ようはその「反対の行動」というのにどこまでが範囲なのかを知りたいって事ですか?」
「よく分かっているじゃない。 というよりもよく分かったわね。」
何となくね、コンフュージョングレネードだし、言いたいことは分かっていたしね。
「どうします? 多分目隠しした方がよく分かりますよね?」
「そうね。どこまでが「反対の行動」なのか私も知りたいしね。」
なら話は早い。目隠し用の布を目に巻いて、念には念をと思い、目隠しした目も瞑る。両腕も伸ばしてある。
「それじゃあ早速実験開始よ。 分かりやすくする為にダメージ0、3回行動したら混乱が溶けるように武器調整したわ。」
先輩の声が聞こえる。 前にいるんだよな? 目が完全に見えない為距離感が分からない。
床に「カラン」という音が聞こえた。実験開始か。 「ボシュウウ」という音と共に鼻に凄い刺激のある匂いが来た。
っ! これはスグにでも逃げないとと思う気持ちを抑えてなくなり次第自分の思うままに行動来てみた。
1回・・・2回・・・・3回・・・・これで終わりかな。
「お疲れ様。一旦目隠し外してみて。」
目隠しを外すと眩しい位の光が目に来たので目を瞑って目を慣らす。 少しすると光になれて、目を普通に開けれるようになった。
「じゃあ聞こうかしら。 貴方が行動をしようとした手順を。」
「1回目は右手を挙げようとしました。 2回目は左腕を使って拳を出す、つまり殴ろうとしたんです。 で、最後は後ろにバク転を利用して跳びました。」
もちろん結果としては大いに間違っているのは目で見えなくても体の感覚で分かる。
「そうね。 では結果を教えるわ。 まずは1回目、貴方は左手を下げていたわ。 2回目は右脚を後ろに向かって出していた。 つまり後ろに向かって蹴っていたと判断するわ。 そして最後、貴方はバク転をしたと言ったけれど、実際には、前に向かって跳んでいたわ。しっかりと回転しながらね。」
やっぱりか。 最後に至っては三半規管の感じ方がおかしかったので、少なくとも後ろには行ってはないとは思ってはいた。 さて分かったことがいくつかある。
「まずは上下左右は対照的に反対のことが出来る。 次は手足に関しては手でやろうとしたことは足に、足でやろうとしたことは手に反映される。 最後は前後でも反対にすることは出来るけど「跳ぶ」ということに反対が存在しないため、跳ぶ事だけは同じだった。ということですね。」
つまり対義語が存在しないものは基本的に反対の行動ならないと言うことだ。 それが認識出来ただけでも儲けものだろう。
「今まではこの武器を使ったら相手はパニックになって自滅するものだったんだけど、こうして改めて見直してみると不思議な発見があるものね。」
「対策とかはされなかったんですか?」
「当たった時の対策はされてないわね。 当たらないようにする対策はされたけれど。」
なるほど、当たらなければどうということはないってやつだな。
「まあ当たったら相手が気づく前に重力矢の餌食にして、その後はキックって言うのが私スタイルだからね。 対策もなにもないんじゃないかしら?」
「夭沙にやったあの技ですね。」
「そうそう。 やられる前にやれってね。」
ま、それはどんな武器を使っても同じことが言えるだろうな。
「うん。なかなか勉強になったわ。 私基本的に武器は見ないんだけど、こうやって見る機会が出来ると分からなかった事も分かってくるものね。」
「・・・・・あの、それってもしかしなくても、俺また実験台にされる感じですか?」
「あら、あなたのトレーニングにも付き合ってあげるわよ? お互いの武器の特性もしれて特訓も出来て一石二鳥じゃない?」
そう感じなくはないが、それにしたってなぁ・・・・
「今日はありがとうね。 こんな先輩のワガママ聞いてくれて。」
「まあ、付き合いは長くなりそうなんで、またなにかあったら呼んでください。 あ、あんまり過度なのは勘弁ですよ?」
「あら残念、私のトレーニングに付き合ってもらおうと思ったのだけれど。」
なんか地獄を見そうだったので先に断っておいて正解だった。
そんな訳で志摩川先輩と電脳世界にて別れる。 現実世界に戻ってきて時間をみると、1時間ほど経っていた。 しかし動こうとすると頭痛が走ったので、一旦横になって時間を過ごした。 電脳世界は疲れるなぁ・・・




