第247節 連絡とフィナーレ、怪しい人物
「そっか。 そっちは特に何も無かったわけだね。」
『はい・・・こちらには・・・そのような・・・ことは・・・ありません・・・でした。』
電話の相手は軟瑠女子に在学中の瑛奈である。 電脳関係だとあまり関係は少ないと思ってはいたのだが、こちらの事で公になる前に心配事を避けておけと言う了平なりの警告を聞いて、電話をしていた。
恋愛に対して無頓着そうな了平からそんな言葉が出てくるとは思ってはいなかったので面は食らっているが、もしかしたら芥川となにかあったのかもしれない。
『あの・・・飛空さんの・・・学園では・・・今文化祭中・・・なのです・・・よね? ・・・あの・・・そちらの方は・・・大丈夫・・・なのです・・・か?』
瑛奈に言われて改めて事を確認してみる。 今曜務学園は絶賛文化祭の真っ盛り。 屋上の下ではあれだけの機材トラブルがあったにも関わらず、みな盛り上がりを見せていた。
陽も沈み始め、文化祭もいよいよクライマックスになろうとしているこの現状。 いくら実行犯を捕まえたところで元凶はまだいる。 そんな状況の中で、果たして元凶は無事にこの文化祭を終わらさせてくれるだろうか? 答えは否だ。 むしろここからが本領発揮の可能性だってある。
『・・・さ・・・ 飛空さん?』
携帯からの声に我に返る。 今は瑛奈との会話中だった。 今はそれを考えている時ではない。
「ごめん。 そろそろフィナーレだから、一旦切る。 またなんかあったら連絡をしてくれ。」
『はい。 飛空さんも・・・お気を付けて。』
自分よりも他人の心配か。 優しい瑛奈らしいな。
「どう? あっちは大丈夫そうだった?」
「ええ。 多分狙われているのは電脳関係を本格的に使ってるところが主のようだと推測します。」
そんな風に屋上に一緒にいる志摩川先輩に答えると携帯が鳴った。 開いてみると先ほど了平に連絡を入れてくれと言った学校からのメールだった。
まあメールの内容は主にここの文化祭の心配ばっかりだったけどな! 君達少しは自分達の学校のことも考えなさい!
「ん? ・・・ぷっ。 ぷははははは!」
後ろから俺の携帯を覗き込んだ志摩川先輩が、メールの内容を見て大爆笑していた。
「笑い事じゃないですよ志摩川先輩。 これじゃあ心配してた俺が馬鹿みたいじゃないですか。」
「ははははは。 やぁごめんごめん。 でもこれで心置きなく探せるって訳でしょ? とっちめてやらなきゃね。 こんな茶番に巻き込んでくれた奴を。」
そういうことで怒った訳じゃ・・・ まあいいか、文化祭を華々しく終わらせるためにも、それを壊そうとしている奴を見つけなければいけないな。 そう思うが先か、急いで屋上を下った。
「さぁて! 今年の文化祭の最後を飾るのは! ステージのワンマンショーだーー! 今年の為に一生懸命頑張って練習してきたようなので、皆さん楽しんでいってください! それでは早速参りましょう!」
設営されたステージの上で高花先輩が盛り上げている。 そんな人混みの中を、目を凝らしながら歩く。 ステージには様々な機器がある。 あれが一瞬でも動かなくなれば、盛り上がりは無くなり、電気トラブルになればパニックになるだろう。
それを避けるためにも絶対に見つけなければならない。 実行犯を動かしていた奴を。
今この観客ブースの中では、俺を含めた生徒会ほぼ全員が徘徊をしている。 生徒会長である倉俣先輩と倉俣先輩の言葉は聞く滋賀凪は、ステージ裏で万が一に備え待機している。 犯人が後ろに潜むとは思ってはいないが、機材トラブルになったときに倉俣先輩はそちらの対処で頑張ってもらいたい。
そんなことを考えていると、人混みの隙間から夭沙が俺と目を合わせてきた。 そして何かを言っていたが、この喧騒の中では聞き取ることは出来ない。 しかしそれは一般的にの話だ。
夭沙だってこんな熱狂の中で声が届くとは到底思っていない。 ならばなぜ口を動かしているのか。 それは俺の「慧眼」を使っての読唇術が出来ることを知っているからである。
『怪しい人物、3人。 望遠鏡持ち、一眼レフ、首からパソコンを持ち歩いてる人。』
夭沙はこう言っていた。 実際に聞こえていたわけでは無いのだが、おおむね間違ってないだろう。
「分かった。 少しでも怪しい素振りを見せたら声かけて。 俺が一番近いのはどいつ?」
こちらも喧騒の中、夭沙に向かって喋る。 夭沙は「地獄耳」持ちなので、これぐらいの喧騒でも俺の声は聞こえるのだそうだ。
そして夭沙から返ってきた返事はピースサインの後に場所を示すように人差し指をステージ側に向ける。 どうやら2番目に言った一眼レフ持ちが前の方にいるようだ。 俺は丸サインだけ指で作って前方へと向かった。
また少しの間キョロキョロしていると、その人物がいた。 白髪でポニーテールの他校の制服を着た女子が一眼レフを構えようとしている様子があった。 今ステージで行われているのは2人組の男子が漫才をしている所だった。 この日のために練習を積み重ねていたのだろう。 お客さんの笑いはしっかりと掴んでいた。
「さぁこの文化祭の為に何度も試行錯誤したと聞いた漫才の出来はいかがだったでしょうか? そんな余韻を残しつつ、次の出し物行くぞ! 次はこいつらだ!」
高花先輩のコールと共にディスプレイで演出された火柱で登場したなにかのバンドグループだろうか、ベースギターやらエレキギターやらを持った男子が現れた。
「即興で作られたこのグループ、だがその実力は本物のようだ! 今回でその実力を存分に発揮してもらいましょう! レッツロックンロール!」
そのコールからすぐにドラムがけたたましく鳴り響き、音楽が始まる。 その瞬間にその目星を付けていた女子が一眼レフを構えた。 俺はその仕草を見て・・・
『そちらの方はどうでしたか?』
熱狂が鳴り止まぬそんな状況の中で、再び夭沙と目があったので、状況確認をする。
「こっちは大丈夫。 多分他校の代理人で写真撮影していただけだった。 撮影可能の腕章もしてたから間違いない。」
その一眼レフ持ちの子はどうやら今回の曜務学園の文化祭の様子を撮影しに来たようで、刺客とかでもなんでもなかった。 撮影可能の腕章してて、「なんで撮影してるの?」とも聞くのはおかしいと思ったので、そのまま楽しんでもらっていた。
『こっちのパソコンを持っていた人も大丈夫でした。 でも少々邪魔になってしまうと言うことで、パソコンは閉まってもらいました。』
そう夭沙からの報告を受けた。 ならあちらも心配はなさそうだ。
「となると、残るは望遠鏡持ちだけだが・・・」
その近くを行こうと思った時、
「ボンッ」
という音が響き渡る。 そしてその後に響いてくるのは
「キィィィィィ!!!!」
そんなけたたましいハウリング音だった。 周りにいた人間はそのハウリング音に耳を塞ぐしか方法が無かった。 俺もその一人で、地面に耳を塞ぎながら突っ伏すしかなかった。
「っ! くそ! これが・・・犯人の・・・狙いだったのか・・・」
機械が発する不快な音、それを大観衆の中で出すこと。 それこそが犯人の狙いだった。 ペンのプラズマ現象やオーブンレンジの発熱、そしてこの学校のサーバーのアクセス。 これら全てをまとめあげた結果がこれだったのだ。 耳を塞いでいてもハウリング音は鳴りやまない。
終わることのないかと思った矢先、フッと忽然と音が消えた。 ステージを見ると、そこには新たに機器を設備していた倉俣先輩と滋賀凪の姿があった。
「皆さん。 ご不快な思いをさせて本当にすみませんでした。 こちらの機材トラブルにより、ただいま新しい機器を設置しましたので、少しの間お待ちください。」
さすがは生徒会長。 やっぱり志摩川先輩の跡をしっかりと継げてますよ。 頭を振りなおし、再度立とうとしたその時、この蹲っている人々がいるなかでただ一人立っていた人物、その人物の持っていた物に手が伸びていた。 そしてその腕を右手で掴み、左手でリモコンのような機器を取り上げた。
「これがあの機械を壊したと仮定するなら、なんでこんなことを説明してくれるか? 少年。」
立っていたのは一人の少年。 しかも明らかに中学生の風貌をした少年の姿だった。




