第243節 OBと警官、事情聴取
「久しぶりね! 曜務学園! みんな!」
翌日、この数日間は文化祭の準備に集中するために授業は特に設けられていない。 そのためみんな朝から必死こいて準備に取り組んでいる。 そんな中響いてきた、声高々でどこか懐かしい叫びが、朝の曜務学園に届いてきた。
たまたまそこにいた俺はその声の主に声をかける。
「どうしたんですか志摩川先輩。 この学校に、そんな格好で?」
そう、声の主とは半年前までここの生徒で元生徒会長だった、志摩川 円香が警官姿でこの学校に訪問をしていたのだ。
「あら、津雲君。 最初にあなたに会えたのは幸先がいいわね。 せっかくだし今の生徒会のところに連れていってよ。」
「その前に教員にくらい挨拶と訪問理由を説明しに行け。 お前の役目だぞ本来なら。」
そういって後ろ側から現れたのは、こちらも元副生徒会長を務めていた、幸坂 務だった。 こちらも警官姿である。
「そんなものは後でも出来るわよ。 今は久しぶりの学舎くらい見させてよ。」
「優先順位を考えろ。 それと一応立場の事も弁えるんだ。 志摩川巡査部長。」
「巡査部長?」
幸坂先輩が聞き慣れない言葉に首をかしげた。
「はいはい、分かってますわよ、幸坂警部補。」
「警部補?」
こちらも聞き慣れない言葉を発して、また首をかしげた。
「あら、警官の階級位は知ってるでしょ?」
「一応俺がこいつの上司になってはいるが、あまり関係はないな。 こいつがただ単純に試験を受けなかっただけなんだ。」
「ってことは電脳犯罪対策課に入れたんですね。」
電脳犯罪対策課。 現在の曜務は電脳世界に関してはかなり先進国としてなっている。 しかしそれは逆を言ってしまえば、それだけ裏での犯罪の温床とも言える。 それを阻止するために作られた警察内での新たな特務課が設立されたのだ。
「正確に言えば、俺達が入ったから作られた。 とも言えるがな。」
「入ったから?」
「私達はここの卒業生でしょ? それも兼ね備えて私達は電脳世界に置ける基礎知識は他の人よりもあるって事でね。 私達が最年少ではあるけれど、階級は高いってところかしら? 基本的に構成されているのは若い人たちだけなんだけどね。」
そこまではなんとなく分かった。 というか俺が知りたいのは正直そこではない。
「そんな2人がなぜ曜務学園に?」
「あなたも知ってるんじゃないかしら? 例の動画。」
志摩川先輩の言葉に、来た理由をすぐに察することが出来た。 例の動画、つまり昨日見た電脳世界の武器を使った乱闘の動画の事だ。
「もちろん俺達が抜けたことによる秩序の乱れなど微塵とは考えてはいない。 それにお前もあの動画を見てすぐに分かったと思うが、あれは曜務学園の生徒ではない。 他の警官は信用させれるが、卒業生である俺達の前では無力だ。 事実俺と志摩川が問い詰めたら速攻でボロを吐いた。 やつらは曜務学園の受験生だったのだが、それが叶わず別の電脳関連の学校に行っていた。」
「曜務学園に対する嫌がらせ・・・ですか?」
「まぁ端的に言えばそうだろう。 評判が落ちるのは今の現状を見れば電脳関連に関わっている人間ならば一目瞭然だ。」
「全く、手間を取らせてくれるわね。 仕事を増やすなっての。」
「・・・そのわりには随分と楽しそうですね? 志摩川先輩。」
「久しぶりの大事件に衝動が抑えられんだけだ。 こういうやつだと言うのは知っているだろう?」
まあそれはもう。 目の前で何回と突拍子のないことで驚かされたか。
「それじゃあ、俺も生徒会の催しの準備があるので、これで。」
「ええ。 生徒会にも後で顔を見せるわ。」
「ってな感じで今2人が来ていたって訳です。」
そんな朝の一連を倉俣先輩に説明をした。 かなり大きい荷物を2人で持っているが、重量自体はそんなにないので、なんなく進める。
「そうだったのか。 お二人さん元気そうでなによりだ。」
「今は倉俣先輩が生徒会長ですから、2人も安心できたんじゃないですか?」
「馬鹿を言うな津雲。 あの2人あってこその今の俺だ。 それは昔から変わってないさ。」
そういって少し寂しげに言う倉俣先輩。 そんなに謙遜しなくてもとは思うが、倉俣先輩だけではここまでの秩序は守れていないかもしれないと、少しでも思ってしまった自分を戒めたい気分になった。
「そういえばもう一人の卒業生のお話は聞かれなかったのですか?」
質問をしてきたのは塚沼だった。 もうひとり、朝塚 志狼先輩のことを指しているのだろう。
複雑な話だが、塚沼と朝塚先輩との間に接点はない。 無いのだが、「ブラッド」事件の時、俺に「ブラッド」の抑制に拍車をかけたのは朝塚先輩だ。 ここの繋がりがなければ「ブラッド」を更正させることは出来なかっただろうし、塚沼自身もこの場にはいなかっただろう。
しかも塚沼自身は朝塚先輩とは、今はこの学校の教員として再出発を果たした彼の父親が残していたモールス信号の手がかり役として1度か2度会った程度である。 そんな2人の間に関係は確かに無いはずなのだが、志狼先輩自体はどこで知り得たのだろうか?
「志狼君は別の仕事をしているわ。」
「主に情報関連企業に勤めているのだそうだ。 こちらにも情報を提供して貰っている身だから非常に助かっている。」
後ろから声がかかったのでそちらを見ると、志摩川先輩と幸坂先輩の姿があった。 こうして並ばれると志摩川先輩は巡査部長には全く見えない。
「お、お久しぶりです! お二方!」
「あら、随分と堅くなっちゃったじゃない倉俣君。 昔の陽気さはどこに行ったのよ?」
「全員が全員お前のように気楽に生徒会長をやっていたんじゃないんだ。 少しくらい察してやれ。」
倉俣先輩の堅い挨拶に志摩川先輩は軽快に、幸坂先輩は事情を分かっているかのように会話に入っていく。
「凄いですね。 ああして元生徒会長と副生徒会長が現生徒会長と会話してますよ。 なんだか感動です。」
「俺はあの人たちのやりとりは去年から知ってるからなぁ。 新鮮味は少し薄いかな。」
そんな光景を俺と塚沼は後ろから見て、それぞれ別々の感想を述べた。
「ほら、あんたたちもそんなところで突っ立ってないで、会話に入る入る。」
「い、いいんですかね? 僕らもあの中に入ってしまって?」
「志摩川先輩を敵に回すと怖いぞ? その場にいるだけでもいいんだよ。」
そう塚沼と一緒に志摩川先輩達のもとへ行く。
「ところで倉俣君。 今回の事件でなにか思い当たる節はある?」
志摩川先輩の一言で空気が変わる。 先輩と後輩、OBと現役生徒の会話ではなく、警官が行う事情聴取の空気へと変わった。
「俺が生徒会長になってからそのような動きをしていた人物も、怪しい会話の聞き耳もありません。」
「学校の意見箱の方はどうだ?」
「こちらもお変わりなく、ただ最近は同じ様な不満がどうしても増えてる始末です。」
「俺も確認しましたが、事件との関連性は見えませんでした。」
「そう。 設置後に確認をしている2人が言うなら問題はあまりないわね。」
「元々他校の人間だったんだ。 この学校の生徒との繋がりはない限りはその線は薄いだろう。」
俺達4人を会話をただただ聞いている塚沼は唖然としていた。 これくらいで驚いていては気が持たないぞ。
「全く、津雲君だって頑張って星を巻き込んで団結を強めようとしてる最中にこんなことはやめて欲しいものね。」
「本当にその通り・・・って志摩川先輩。 俺は卒業式の時に言ったっきり話してないんですけど、なぜそこまで・・・」
「愚問だな津雲。 先程も言っただろう? 朝塚は情報関連企業にいると。」
「あ、言いたいことは分かりました。」
要は志狼先輩のネットワークで俺の情報を横流ししてもらってるのね。 それこそ情報漏洩では?
「私達も応援してるのよ? このままこの星にある国が全部結束の力をつければ、何者も敵に回すことが出来なくなるのだからね。」
「それぞれのネットワークも管理され、戦争が起きたら徹底交戦の構え。 生半可な革命なぞすぐに潰えるだろうな。」
そこまでのお墨付きをもらえるとは思ってはなかったが、この2人が言うのだから、それは真実なのだろうなとこの2人の背中をなんだかんだ見てきた俺はすぐに直感した。
「そういえば、もうすぐ文化祭よね!? 今年はなにをする予定なのかしら?」
「それはこの・・・」
「倉俣会長。 頼まれた備品を持って・・・ん? なぜ警察の方が?」
倉俣先輩が説明をしようとしたそのタイミングで滋賀凪が帰ってきた。 1人状況が理解出来ていないのでポカンとしている。
「倉俣君、津雲君。 この頭の弱そうな彼も生徒会のメンバーなの?」
志摩川先輩、そんなバッサリと言わなくてもいいんじゃないですかね・・・




