第241節 気まずさと純粋さ、案内依頼
みんなの表情が今までと違うのは一目瞭然だった。 というかこの数時間でこんな表情になるような事を教えてもらったの?
「い、いや・・・それは確かにそうなのかもしれないけど・・・でも・・・」
「はぅぅ・・・わ、私には・・・出来る・・・気が・・・しませんよ・・・」
「は・・・ははは。 ち、知識としては知ってたんだけど・・・やっぱり・・・うーん・・・」
「そ、それを飛空さんが望んでいるのかと考えると・・・でも・・・」
「い、今の私はアンドロイドだから、出来る体じゃない。 出来る体じゃないの。 でも、もし出来るなら・・・」
「そ、それを好きとしてやる訳じゃないけれど・・・ふぅ・・・」
「ぼ、僕にはまだ早いよ・・・飛空は尊敬はしてるけど、そういうことじゃないし、でも・・・いや、でもじゃなくて・・・」
みんながみんな、それぞれに想いを口に出している。 なんだかこっちにまでその羞恥が伝わってくるようだ。 瑛奈とエレアは多分頭の中でオーバーヒートを起こしたのだろう。 机に突っ伏してしまっている。
こ、声かけづらいなぁ・・・ こう言うときはそっとしておきたいのだけれども・・・
「あーっと・・・みんなお疲れ様・・・」
どう声をかけたらいいのか分からなくなったので、取り敢えず発して見ると、皆が「バッ」と俺の方を見た。 全員深みは違えど肌が赤くなっていた。 その状況に俺はたじろいてしまった。 というか皆さん? なんか若干焦点が下に行ってるんですけど?
「あの・・・一体なにを教えてたんです? こんな状態になるって・・・」
「あら、別に普通の事を教えてただけどすえ? みんな初心やて、教えがいがあったってもんやで。」
「なんかみんなの状態があまり普通に見えないんですが?」
「まあ、多少実践的にやったりもしたしのぉ。 仕方ないどすえ。」
その言葉を聞いて、白羽、文香、エレアの肩が「ビクッ」と動いた。 あ、あの辺りが犠牲者ですか。
「なんやったら汝にも教えて差し上げましょうか? 色々と教えられますえ?」
「イエ、エンリョシテオキマス。」
多分ここで肯定をしてしまったら、下手すれば搾り取られる可能性がある。 しばらくはみんなとまともな会話が出来ないだろうなぁ・・・
「少しほとぼりが冷めるまで、わっち達は家族水入らずで話をするやさかい。 少々席を外すえ?」
「え、ええ。 どうぞ。」
そう言ってユリカ女王含めた家族一同はドアの前から消えた。
「ぶはっ! な、なんなのあの人! あ、あんな話をいきなりされるなんて思ってもみなかったんだけど!?」
空気が変わったのかすぐに鮎が俺に突っかかってきた。 それもそのはずだ。 集まって教えたものが「契り」についてなのだ。 俺や紅梨は事前に知らされていただけに反応に困っていた。
「あ、あの方も凄いですよね。 なんというか・・・そ、そんなことまで知っているなんて・・・女性としてなかなかない経験をされてきたのだと分かります。」
「まぁ、そりゃ元娼婦なら俺らの知識以上の事を知っていてもおかしくはないとは思うけどね。」
夭沙のユリカ女王に対する尊敬の念を送る中、そんな風にユリカ女王の事を返すと、やはりみんないい印象を持ってはいないようで、俺と同じように複雑な心境になっていた。
「う、うぅん・・・」
そんな会話をしていると、今まで気絶していた瑛奈が目を覚ました。
「あ、おはよう瑛奈。 気分はどう?」
あまり刺激しないように優しく声をかけながら瑛奈をみる。 眠気眼だった瑛奈の瞳が徐々に光を取り戻し、俺と瞳が合ったと思った瞬間に、爆発的に顔を真っ赤にして退かれてしまった。 今までそんなことが無かっただけに若干ショックだ。
「あ! ち、違うんです! 違うんですけど・・・なんていうか・・・その・・・今は・・・飛空さんと・・・目を・・・合わせにくくて・・・」
しどろもどろになりながらも言葉を紡ぐ瑛奈。 言いたいことは分かる。 「そういうこと」の話をされた後に彼氏の顔なんかまともに見れる訳がない。 ましてや自分の想いを相手には余計に・・・だ。
「あーいやー、うん。 分かってるから大丈夫。 気にしてない、気にしてない。」
多分その言葉がトドメになってしまったのだろう。 瑛奈は椅子に座りながら「はぅぅ」と唸りながら縮こまってしまった。 うーん、最近一言多くなってきている気がするんだよなぁ。 言葉選びには気を付けてるはずなんだけどなぁ。
「むぅ・・・頭がボヤボヤするぞ飛空。 わらわはどうしてしまったのじゃ?」
同じように気絶から目覚めたエレアは起き上がってすぐにそんな言葉を口にした。 頭がボヤけるって・・・それ本当に大丈夫なんだろうな? 今更ながら心配になってきたぞ?
「どうにもなってないぞ。 エレアはエレアだ。 俺がちゃんと保証してやる。」
歳的には少々キツい話の内容だったのだろう。 しかしそれでも好奇心が勝ったのだろうか。 ちゃんと教習は受けてはいたようだ。 今は分からなくてもそのうち分かってくるだろう。 そう信じておこう。
「そうかの・・・。 えへへ・・・飛空に言われるのならば何も心配をすることはないの。 考え事などわらわらしくないことをしてしまったの。」
そう言ってエレアは柔らかい笑顔を見せてくれた。 エレアはそうでなくてはなと、こちらも少しほっこりしてしまう。 エレアの笑顔には力強さと自信がある。 それはどんな状況下でも決して揺るがないものだと思っている。 そこの部分に俺はエレアの魅力があると感じている。
「ところで飛空よ。」
「どうした? エレア。」
「やはり飛空もそういうことを思っていても我慢しとるのかの?」
エレアのその唐突に突きつけられた純粋な問いに俺は固まってしまった。 まさかそんなことをこの健気な年下に言われることとなるとは到底思っていなかったからだ。 やばい、なんて返せばいいの?
「おやおや、そちらの話はすんだかえ?」
なんて絶妙なタイミングで入ってきてくれたんだユリカ女王! ありがとうと同時にこんなことになったのは半分この人のせいだと思い当たったのでプラスよりの相殺にしておいた。
「そうお怒りになりなさんな。 汝にお願いをしようと思っておるのにそのような表情では頼みにくいでありんす。」
「頼み事?」
正直これ以上面倒事はごめんだぜ? そんなことを考えていたが思惑は外れたようだ。
「難しい話ではないどす。 ユヅキとユヅルをそちらの国に行かせようと先ほど決めたのでの。 もしよろしよすなら案内をしてもらいたいんどす。」
「俺が言うのもなんだが、こいつらはまだ外の世界をあまり知らないんでな。 いい機会だから連れていってくれって話だよ。 悪くはねぇだろ?」
ユタカさんもその思いは一緒のようだ。 しかしなんか案内できる場所あったかな? そもそも俺自身もあまり自分の国の方は見てないしなぁ。 そんな風に唸っていると、誰かに肩を叩かれる。 振り返ると夭沙がそこにはいた。
「飛空さん。 私達の学校を紹介すればいいのではないでしょうか?」
「え?」
「丁度時期が時期ですので、楽しんでもらえるかと。」
「時期・・・ああ、そうか。」
「忙しすぎて忘れてましたね?」
しょうがないじゃん。 こっちだって外交関係の事で頭がいっぱいなんだよ。
「決まりましたかえ?」
「分かりました。 案内しましょう。 滞在期間はどのように定めになってますか?」
「俺がいるから管理区の管理は心配ねぇ。 半月くらいなら問題ないぜ。」
「そうですか。 それなら大丈夫そうだな。」
「ん? なにがだ?」
「いえ、こちらの話です。 では時間も惜しいので、このまま行ってしまいましょうか。」
「そうだね。 早いに越したことは無いからね。」
そう言ってユヅキ、ユヅルペアと共に皆で帰る・・・まではいいのだが・・・
「えっと・・・すごく動きづらいんですけど? 皆さん?」
そう、後ろで俺の服の裾を持っているユヅキさんは分かるんだ。 初めてのテレポーターの使用で実際はどうなるか分からないのだから怖さ半分があるのだろう。 それだけならいい。 問題は・・・
他のみんなも服のどこかしらを持っていると言うことだ。 リョウまで持っちゃってるし。 エレアに至っては俺の右手掴んじゃってるし。
「いや、確かに何回か通ってるし、大丈夫なのは知ってるのよ? でも、なんか、ねぇ?」
鮎がバツの悪い返事をしてくる。 しょうがないので別の誰かで・・・と思ったらみんな同じような反応をされた。 なんだこの空間。
「とにかく帰るよ。」
そう言って俺は曜務に向けてテレポーターをくぐった。




