第234節 キザ男と決闘申請、騎士の戦い
茶色に近い金髪で、固めているのか重力に逆らうように髪が逆立ちしていて、少したれ目だが顔立ちは悪くない。 一種のギザな男といった風貌だ。
「いや、あの、急にそんなことを言われても・・・」
「あぁ、君も戸惑っているんだね。 こうして運命の人と会えた事に。 だが心配することはもうない。 俺といればもう怖いものはなにもなくなるんだ。 さぁ、その身を俺に捧げてくれないか?」
妄想か頭の中が暴走してるのか、文香の困惑を無視するかのようにその男は言葉を紡ぐ。 というかそろそろ俺割り込んでいいよな? まず真面目に話をさせろや。
そんなことを俺が考えていると、文香はその男の手を払って、俺の後ろに回り込んで、体を隠してしまった。
「おやおや、隠れてしまって。 そんなところに隠れてないで、もっとよく顔を見せてくれないかい?」
「いい加減困ってるって事に気がつけよ。 いつまでやってんだ。」
なんか茶番を見てるようでバカらしくなってきたので、声を出す。 するとその男は驚いたように俺の顔を見た。 なんだよ。
「これは失敬。 こんなところに木が立っているのかと思いましたよ。 ところであなたはどちら様で? 父親にしては若すぎるし、兄妹にしては似ていない。」
こいつの物言いにイラついてきたので、文香を抱き寄せる。
「ひゃっ!」
「残念が文香は俺の恋人なんだ。 余計なちょっかいを出すんじゃねぇよ。」
とりあえず事実を言うだけ言った。 しかしそいつはなにが面白いのか、大笑いし始めた。 忘れかけてたけど、ここってこの国にとっての神聖な場所なんだよな?
「いやいや、ご冗談はよしてくださいよ。 彼女は俺の運命の人なんだ。 他の男が寄り添う訳がない。 それともなにかね? 俺達の恋路を邪魔しようと言うのか。 立場を弁えてもらいたいものだ。」
人の話を聞かないどころか勝手な解釈まで始まったぞ。 どうすりゃいいんだ。
「すまない津雲殿。 少々待たせてしまった・・・ラキザ、その髪型はなんだ?」
「これはこれはヨハネス大隊長。 こんなところでお会いできるとは。 この髪型と言われましても、自分は今は休暇中の身。 どのような身だしなみでどこを歩こうが自分の勝手だと存じ上げますが?」
「・・・そのことはまあいい。 それでこれはどういう状況だ?」
「そうだ! 聞いてください大隊長! 彼が私の運命の人を奪っているのです。 これはとても許しがたい事だとは思いませんか?」
そうラキザと呼ばれた男がヨハネスさんに抗議をする。 当のヨハネスさんは俺の方を見た後ため息をついた。
「ラキザ。 お前さんにはいよいよ失望をするよ。 いくら貴族の生まれだからと言っても、最早お前を弁護する理由はない。 騎士王も新しくなったからな。 もう前の騎士王のようにはならないぞ。」
「なにを仰いますか! 貴族の生まれだからこそ、運命の人と婚約の申し出をすることのなにが間違いだと言うのです! この男はその行為の障害になっているのです! その男から彼女を救い出して下さい!」
俺殴っていいよな? そろそろ怒りの臨界点突破するぞ?
「ラキザ。 まずお前はしてはいけないことをしていることに気付いてはくれないか? 休暇中だから騎士ではないなんて言わないよな?」
「大隊長・・・ 分かりました。 騎士なら騎士らしく、けじめを付けようと思います。」
お? ヨハネスさんの想いが届いたか? とりあえず経緯の説明をだな・・・
「そこの者よ! その娘を賭けて私は決闘を申し込む!」
あ、ダメだこいつ。 話マジで通じてねぇわ。 ヨハネスさんも顔を手で覆っちゃってるし。 どうしてそんな結論になるんだよ?
「すみませんでした。 津雲殿。 どうやらこちらの不届きがあったようで。」
先ほど起きたことをアンクル騎士王に話したら向こうから謝罪してきた。 おおう、なんかそんな態度でこられるとこっちが悪者みたいじゃないか。
「わが父、先代騎士王はそのような事態にも目を見張ってはいたのですが、いかんせん騎士道を重んじるあまり、咎めることが出来なかったのです。」
アンクルがシュンとした様子で縮こまってしまう。 うーん前騎士王も現騎士王も悪い訳じゃないんだけどなぁ。
「ラキザは貴族の生まれ故に少々調子に乗っていたのは重々承知していた。 だが咎める前にラキザ自身でうやむやにしていたのだが、今回ばかりは外交関係にヒビが生じそうだった決闘を申し込ませてしまった。 津雲殿には失礼を重ねることを深くお詫びしたい。」
ヨハネスさんも頭を下げる。 うーん、跳ね橋で検問をしていた騎士には「失礼の無いように」って注意されたのに、そっちが失礼を被ってるのはどうなんだろうか?
「しかし本当に良かったのでしょうか? いくらあちらから仕掛けてきたとはいえ、他国の使者と決闘など・・・」
「そのような心配はご無用でありますぞ騎士王。」
ヨハネスさんがアンクル騎士王にそう声をかけた。 ん? なんかあんの?
「今回の決闘場所はこの城の大広間、つまり騎士王が見ていらっしゃるこの場で執り行われるようにラキザにも言っておきました。 後これは少々申し上げにくいことなのですが・・・」
そういってヨハネスさんは俺を見る。
「ラキザは、津雲殿にはどのような手段を使っても勝てないと言えます。」
「ヨハネスよ。 それはそなたの「勘」から生じたものか?」
「いえ、これは長年の経験と言うものです。 伊達に20年も騎士をやっておりませぬ故、相手の力量は分かりようでございます。 おそらく我々の部隊が束になって挑んでも、勝敗は五分五分かと。」
そんなこと言っちゃっていいのか? 騎士隊大隊長。 贔屓してるわけじゃないのは分かったけれど、自分の部隊だろ? そこまで卑下することか?
「我が部隊に限ったことではないのだが、どうも最近騎士道精神を間違えている者が多くてな。 まあその大半は貴族上がりが多いのだが。」
俺の顔の様子を伺ったのか、そんな風に返してくるヨハネスさん。 なるほど、貴族上がりなら歪んだ騎士道精神を持っていてもしょうがないか。 だが、これで俺も遠慮なく相手の出鼻を挫いてもいいわけだ。 あいつ、どんな面持ちで来るんだろうか。 ある意味楽しみになってきたわ。
「ふふふ。 よくぞ逃げもせずにこの場に来れたものだ。」
なんか前にも同じ台詞を聞いた気がする。デジャブ?
「新たな騎士王の前で映えある栄光を手にし、貴族としての名誉に名を掲げようではないか。」
なんだろう。 この聞いてるだけで痛々しい感じはギザ男もここまで来るともうただの痛い人だ。 あぁ、ワーライド王子、元気にしてっかな?
一応大広間と言うことと城内警備にあたっていた騎士達がいるので騎士王であるアンクルと大隊長のヨハネスさんも含めてもかなりの人数がギャラリーに来ている。 これ本来なら俺の方がアウェーの立場だよな?
「騎士として武器無しの相手とも合間見える気はない。 この木刀を使いたまえ。」
そういってラキザは俺の前に木刀をそっとおく。 別に俺にとっては関係なかったが、向こうからルールを決めたんだから折角なので乗ってあげようじゃないか。 そういって木刀を持つ。
・・・・・・・・・・ん?
「持ったようだな。 それでは騎士としての決闘をするために剣を構えよ。」
そういってラキザは自分の胸辺りに鞘が来るように持っている。 俺もゆっくりとその構えになる。
「ふっ、この決闘に入る前に改めて言っておこう。 彼女、名前をアヤカと言ったか。 彼女は私の運命の人なのだ。 これは変えられない事実だと思うのだが、何故そんな我々に君という人間が介入しているのか理解が出来ない。 彼女を縛り付けるなにかがあるならば今すぐそれを取り払い、即刻に彼女の前から姿を消したらどうだ?」
さっきから訳の分からない事をペラペラと喋るやつだな。 そもそもお互いにあったのは昨日の一回だけだろうが。 なーにが運命の人だ。 そんなもんで本当に巡り会えると思ってんのか。 そんなことを思いながら俺はため息を一つついた。
「ご託はいいからさっさと勝敗を決めるぞ。」
「・・・ほぉ、私に挑発をするというのか。 いいだろう。 お望み通り勝敗を決しようじゃないか。 君の敗北という形でね!」
ラキザは構えていた剣をおもいっきり上段の大振りで俺に襲いかかる。 襲いかかるって言ってもこっちから見たらもうそれは遅いの遅いの。 こんなのを避けるのすら恥ずべき行為だと思うなぁ。
そう思い俺は腰の重心を落とし、少しの間突きの構えをした後に、素早くラキザの心臓めがけて剣先を突き出し、当たるすんでのところで止める。 当のラキザはまだ振り下ろされない刀を持ちながら硬直している。
「決着! 勝者 津雲 飛空!」
ヨハネスさんの叫びが大広間に広がった。




