第226節 お誘いと玉砕、謎言動
寺崎が来て、というよりは二学期が始まって3日程過ぎても、寺崎の周りには女子が多くいた。 初日程ではないにしろその人気はまだ衰えない。 他の周りの男子は嫉妬の目が出てきているが、喧嘩を売りに行けるほどの度胸が無いのか、取り巻きが邪魔なのか全く寺崎に接触出来ないでいる。 あんなに囲まれてたらなにもさせてくれないよな。 仕方ない。
かくいう俺もあの状況を見て、少々鬱陶しく思えてくる。 いくら人数が減ったとはいえ寺崎の周囲には女子が黄色い声をあげているのだ。 飽きずによくやると感心する程だ。
「まあ、俺がそれを言えた義理じゃないと思うけどもな。」
俺も夭沙達と一緒にいるときに感じる視線はあんな感じなのだろうと、同じ境遇が近くにあるだけで分かった。
それでも広く使える夕方の食堂をみんなと過ごしている。
「しかしそうやって改めて見ると、なんだか違和感を感じるな。 流石に分かりやすくするためだもんな。 どうだ? 人生で初めて履いた気分は?」
「なんというか落ち着かないよ。 やっぱり僕はズボンの方がしっくりくるよ。」
その言葉に「だろうね」とみんな納得する。
そう、俺達がクェスタラから帰ってくるときに一緒についてきたリョウも転校生として曜務学園に入学したのだ。 もちろん性別上女子なので制服はブレザーにスカート姿である。 ボーイッシュな見た目から、女子からはそれなりに人気があるのだそうだ。 ちなみにフルネームは「風見 凉」となっている。
そんな経緯もあってか、リョウもすんなりと学園生活に馴染み、こうして俺たちの共に席に座っているということだ。
「そんなにあれなら下に体操ズボンを仕込めばいいのよ。 少しは和らぐと思うわ。」
「ありがとう鮎。 だけど、もう少しはこのままにするよ。 あんまり女の子らしくないと言われてもちょっと今の僕だとショックを受けちゃうかも。」
「でもあれだよね。 これだけ食堂が広いと言っても、僕たちと彼らで占領しちゃってるように感じると、申し訳なくなってくるね。」
啓人の言い分も一理ある。 俺達は隅を、寺崎は前の方を大人数で使っているので、食堂も狭く感じてしまう。
そんな思いを知って知らずか、寺崎の方からこちらに歩み寄ってきた。 もちろん取り巻きの女子もいるので、かなりの大所帯になってはいるが。
「そちらもそちらで楽しそうじゃないか、津雲君。」
「お前程じゃないけどな。 そんなに大人数でこられても困る。」
俺はそんな風に自分の状況を伝えた上でそんな言葉を紡ぐ。 その言葉を聞いてか、なぜか寺崎ではなく、取り巻きの女子の一人が俺の前に現れる。
「調子のいいこと言わないで。 寺崎君の魅力も知らないくせに。」
「知らないね。 俺はあいにく男だ。 俺が本当に寺崎の魅力を知ったらドン引きだろ?」
「まあ、彼女なりの思いやりだと思ってさ。」
俺とその女子との間に入って言い争いに制止をかける寺崎。 こうやってる分には優男なんだけどなぁ。
「それよりも彼女達ともお話をさせてくれないかな? 僕の記憶だとまだお話をしてないと思ったからね。 もし良かったらこっちに・・・」
「別にいいわ。 もう少し落ち着いたらにして?」
「私達は、大丈夫、ですので。」
呼び込もうとした寺崎の誘いを最初に断ったのは紅梨と白羽だ。 紅梨はバッサリ、白羽はやんわりと流した。 するとその反応を癪に感じたのか、先程とは別の女子が前に出る。
「なによあんたたち? せっかくの寺崎君のお誘いを良く断れたわね? もう誘われないかも知れないことを後悔することになるわよ?」
「気にすることじゃないさ。 気分じゃないのだろう。 そっちの彼女たちはどうだい?」
そう言って今度は鮎と夭沙にターゲットを変える。 一回でも断られたらすぐ別の女子にする時点で気にしてんじゃねぇの?
「私もパス。 居心地悪そうだし。」
「私も今回はお断りします。 また別の機会にしてください。」
そんな二人も誘いを断る。 今度は寺崎自身が「ピクッ」と動いた。 やっぱ気にしてんじゃん。
「そもそもなんでそない女子がいるのに更に求めるんや。 そこな女子達と話せばええやんか。」
「僕らは僕らなりに話があるんだ。 入ってきてもいいけど、ついてこれないかもよ?」
「君もこの学園に慣れてきたら分かるさ。 こういう場の本当の意味がね。」
輝己、海呂、啓人がそれぞれの主張をする。 もう厄介払いの言葉にしか聞こえない。 いや、そもそもそういう意味で言ってるのかもしれない。 寺崎は笑顔を崩さないようにしているが、眉が痙攣してるあたり耐えれてないのだろう。
「なるほど。 津雲君といるほうが君たちはいいようだね。 だけど残念なんだが、彼はそこまでお人好しじゃないのだよ。」
いきなりなにを言い出すのかと思えば、今度は俺が不利になるような証言をするか。 面白い。 なにが飛び出すか聞いてみようじゃないか。
そう思っていると寺崎は、まずはエレアに矛先を向けた
「例えばそこな彼女。 聞けば一国の王女だと。 そして年齢も13歳だそうじゃないか。 こんな幼い子と一緒にいて、玉の輿を狙っているかのように彼女に毒牙を与えているらしいじゃないか。 そんな卑劣な行為を行っているのだぞ彼は。」
「お主はなにを言っておるのじゃ? 飛空はそのようなことをしておらんし、何より婚約者として選んだのはわらわじゃ。 お父様の承認も出ておる。 勝手なことを申すでない。」
純粋無垢なエレアの回答にただただ開いた口が塞がらなくなってしまった寺崎。 一応婚約の件はまだ公にはしないで欲しかったな。
「で、ではそこにいるお手伝いアンドロイドはどうだ? 彼女はここのお手伝いだろう? 一人の生徒を贔屓させるなんて、可笑しいと思わないのかい?」
「みんなには平等にお手伝いしてるし、私にとって飛空は特別。 ただそれだけ。」
寺崎の言い分にイバラが淡々と返す。 いい加減寺崎の顔にもショックの表情が出てきた。
「そ、そこにいる君は「ブラッド」の事件の被害者なんだろう? しかも「ブラッド」はこの学園の生徒会にいるそうじゃないか? 津雲君だって生徒会の筈なのに、「ブラッド」張本人を生徒会に入れるとは、狂っていると思わないのかい?」
「私は「ブラッド」の一件があったからこうして飛空君と一緒にいるの。 それにその「ブラッド」、塚沼君は今は生徒会で罪滅ぼしの為に頑張ってるって夭沙ちゃんから聞いてるわ。 人の過去を踏みにじらないで。」
文香の真っ直ぐな答えに、いよいよ寺崎の表情が崩れ始めた。 なんだろう、この道化を見ている感じ。
「そ、そこの君! 君は無理矢理彼にその格好を強要されているのだろう? 僕の方に来ればすぐに元に戻してあげるさ。」
「・・・さっき気にしないって言ったばかりだけど、こうストレートに来られたら流石にムカつくね。」
凉を女子だと分かっていなかった辺りでもう寺崎の駒は完全に無くなった。 俺から彼女らを奪おうと必死こいていたようだが、お前の人気なんかが、俺達がコツコツと積み上げてきた信頼を勝れると思うなよ?
「どうした? 手駒は使いきったか? そもそもそんな情報どこで仕入れたんだよ。 どうせ風の噂かデマだろう? そんなのを信じてる辺り、お前も歪んでるよな。」
こいつ自身まだこの世界にきて1週間と経っていないのだ。 そんな人間が一年以上苦楽を共にしてきた俺達がそんな意味のない語り部で覆る訳がないだろう? こうやって見ると転生者って言うのも対したことがないんじゃないかと感じる。 いや、そもそも転生したのがあの従属神の限られた力ならそれこそある意味お笑いものだ。
そんな当の寺崎は、先程から拒否に拒否を重ねられて色々と限界になっているようだ。 顔が赤いが多分怒りではなく羞恥からのものだろう。 あんだけ「僕ならこんな子達すぐに手中に入るさ」とでも思って喋りかけたら、某アニメで有名な社長の三段活用の如く拒否をし続けられたのだからな。 取り巻きの女子たちも心配そうに寺崎を見ている。
でだ、この手の輩の、こうなったときの対処法というか、次なる行動は・・・
「つ、津雲 飛空! この僕との決闘を所望しろ! このままでは僕の面子は丸つぶれだ!」
自分の失態を決闘の勝利というもので埋め合わせしようとするよな。 あまりにもお決まり展開過ぎてため息が出た。




