第208節 説教と甘え、見たことのある人物
どうも津雲 飛空です。 なんで唐突にこんな始まり方するのかって?
つい1分程前に今目の前で怒ってらっしゃる夭沙のバーチャルな狐の尻尾におもいっきり飛び付いたまではいいんだけど、その後反射的だったんでしょうね。 夭沙がビンタしてきたんですよ。 もう最早パンチの威力でしたよ、ええ。
そんなわけで俺は今絶賛正座中で説教をされている訳であります。 ビンタされた左頬がジンジン痛みますわ。
「た、確かに、飛空さんのやりたいことは分かります。 ですが、こちらの心の準備が出来てないうちに触るのは流石にデリカシーがないと思うのです。」
そう説教している夭沙なのだが、顔が真っ赤になっているのは怒りからではなく、羞恥から来るものらしい。 どうやら尻尾があることで、触られることに敏感になっているようなのである。
しかも夭沙の表情を見るに、多分性感帯に近い部分になっているらしく、余計にそう感じてしまうようだ。
「全く、飛空さんがそんなエッチな人だとは思いませんでした。」
すみません、ここ最近自分の中のリミッターを外されたせいで半分くらい本能的になってるようです。
「しかも私は「触っていい」と許可も出してないのに触って・・・ 急なことで驚いたんですからね?」
それに関してはホントに反省しなければいけないな。 でも許可を貰えば触ってもいいと
「飛空さん?」
はい、すみません、調子こいたこと考えてました。
説教されつつもこの現状について少々考察する。
電脳のものでありながら触れることができて、相手はそれを実感出来る。 これって今の環境の中ではかなり最先端なんじゃないかな? 電脳世界以外での装飾品としてもしかしたら対応できるかもしれないな。
「飛空さん、聞いてます?」
夭沙がこちらに顔を向けてくる。 たぶんまだ説教の最中だったのだろう。 こっちが聞いてないと思ったのだろう。 まあでも聞いてなかったのは確かだったし、そこは素直に謝っておこう。
「ごめん、ちょっと考え事をしてた。」
「全く・・・その癖はまだ治ってないのですね。 もう少し自分の事以外のことも考えてくださいよ?」
そこから更に30分程説教を受けて、やっと解放された。 うーん正座してたから足が痺れて来たぜ。 俺のスパークガンを受けた時の痺れってこんな感じなのかね?
「しかしまさかこんなものが作られてるとは思ってもみなかったけどな。 やっぱり国が違えば考えも違うってやつだろうな。」
「そうですね。 みなさん商魂逞しいです。」
商売道具ではないとは思うけどなこのカチューシャは。 でも他の国にいけば物珍しさに買ってくれるかもな。 輸入の件は前回の「サモンコール」で立証済みだしな。 今曜務で密かなブームが起こってる位だしな。
「まあ、今日は早いけどこのまま寝るか。 もっとこの国の事を知りたいしね。」
そう言って俺はカチューシャを外す。 すると先程まで残っていた耳や羽は跡形もなく消えた。 やっぱりつけてる間だけの効力みたいだな。
そう思いながら夭沙の方を見て、同じようにカチューシャを外して、耳も尻尾も無くなった普通の夭沙を見る。 確かに寝るときは邪魔だけど、なんかちょっと勿体無いと感じるというか、まだ触っていたかったというか。
「・・・なんですか? その物欲しそうな顔は?」
うん、バリバリ夭沙に伝わってますね。 やっぱり感覚が研ぎ澄まされるのかね? いやあれは同じことが無いように警戒してるだけだ。 残念。
ほんとに寝てしまおうかと思ったときに夭沙はカチューシャをつけ直して、
「こ、今度は、や、優しく触って、下さい。」
顔を真っ赤にしながら、尻尾を差し出してきた。 あれだけの事をしたのに触らせてくれるとは。 俺も甘やかされてるな。 そんな事を思いながら今度は言われた通りふわりと触る。
こうやって改めて触ると本物に近い感触なんだなと技術の高さに感動する。
その後5分程じっくりと堪能した。 ふぅ、満足。
「あ、見てください飛空さん。 これコードレスの散歩ヒモだそうですよ?」
翌日、この国の事を知るために、昨日に引き続き町並みを散策していた。 基本的にするのは出店の状況や野生に近いような動物達の暮らしを観るためだ。 空を舞う鳥達を見ていると、夭沙からそんな出店の商品を指差していた。
「おぉ、ほんとだ。 ってほんとにコードレスなんじゃなくて、ヒモの部分が電脳帯なだけか。」
出店の商品説明を見て納得した。 簡単に言えば首輪の部分と飼い主が持つ部分がレーザーポインターで繋がっていて (繋がっているという表現もおかしいのかもしれないが)それによって繋がっていないような感覚でペットと散歩が出来るという代物らしい。 これなら通行の妨げにならないし、距離も特に指定されないので、かなり便利な物だと感覚で分かる。
「案外この国の方が最先端行ってるなって感じちゃうぜ。」
「電脳世界には入れないので、そこからが課題なのかもしれないですね。」
いやここまで機械に適合してるなら、電脳世界に入る必要も無いんじゃね?
「この国なりに進化してるならそれでいいんじゃないかな? それじゃあ次の所に・・・ん?」
別の店の様子を見に行こうとした時に、路地裏にどこかで見覚えのある人物がこちらを見た後にそのまま路地裏に入っていった。
「飛空さん? どうかなさいました?」
「ごめん夭沙、あれだったら先に店に行っていてくれないか?」
「え? あ、飛空さん!」
俺は引き留めようとする夭沙の声を振り切り、先程の路地裏に入る。
路地裏と言うには長いわけではなく、建物と建物の間に出来た空間のような感じだった。 路地裏と言うことで、陽射しを避けてきたかのように野良猫達がたむろしてした。
「見間違いか? それとも向こうの街道に出ちまったか?」
「どちらも不正解。 見間違いなんかじゃないし、私はここで君を待っていたよ。」
上から声がしたので見上げると、その人物は壁に出来たでっぱりにバランスよく座っていた。 そして俺の後ろに着地をする。
陽が差していないので暗いはずなのだが、その人物のことははっきりと分かる。 誰を隠そう夢の管理者、獏の擬人化した姿のスリームさんである。 この世界にしては奇抜な格好だったので、すぐに目に留まった。
「スリームさん、夢の世界から出られたんですね。」
「まあね。 現実世界で獏がいるくらいだ。 私自身の認識の在り方を替えれば、こうして夢の世界ではなく、現実世界で存在できるって事さ。」
認識の在り方か。 それがあれば神様でも現世でいられるって理論なんだろうか?
「君の身近にもいるじゃないか。 そうやってこの世界に滞在してる神様がさ。」
そう言われて納得する。 確かに戦神と治療の神は、名前が付けられたから俺の両親としていられるって訳なんだしな。
「ん? それじゃあスリームさんは俺とどんな関係としてこな現実世界にきたんですか?」
「ああ、それは・・・」
「飛空さん。」
声がしたのでそっちに目をやると、夭沙がそこに立っていた。
「ああ、ごめん夭沙、用件が終わったら戻ろうと思ってたんだけど。」
「それは構わないんですけど・・・ええっと飛空さんのお知り合いの方・・・ですか?」
そう言って頭を傾げる夭沙。 うーん人物としてなら説明できるが、関係についてはどうしようか?
「ええっと夭沙、この人は・・・」
「初めまして、私はスリーム。 飛空君とは従姉妹の関係になるかな?」
「従姉妹さん・・・ですか?」
「そうそう。 君達の事は飛空君から聞いているよ。 君が夭沙ちゃんだったね。 なるほど、話には聞いていたけど、なかなかに賢そうな娘じゃないか。」
「あ、ありがとうございます。」
そう言って頭を下げる夭沙。 そのやり取りを見て、俺は疑問に思う。 スリームさん、随分と微妙な関係にしたね。 それでいいの?




