第207節 観察眼と抱える問題、幸せ
動物王国 ケレット。 そこの街並みは今まで見てきたものとは当たり前ではあるが、見たこともない光景が広がっていた。
まず何よりも目に飛び込んできたのは、今の俺たちと同じように、動物の耳が生えている人たちがあちこちにいたのだ。
犬耳、猫耳、ロップイヤー、イタチやカワウソの耳なんてのもあったぞ。
「こちらのカチューシャには立体映像システムに加え、触感認知機能もありまして、それによりこうして見て触れてが出来るというわけです。」
ここも電脳世界との統合を上手いこと利用してるなぁ。
「ここに集うものはみな、動物たちに対して愛情があるものたちです。 なのでこのように放し飼いにしていても安全と言えるわけです。」
そういって近くによってきた子犬を撫でながらこの国について説明してくれる。
「ってことは最近知り合った高校の技術をこちら側に持ってくることも出来るな。」
次の取引の材料の事を思いながら、周りを見渡す。
動物と人間の共存。簡単そうに語られるが、実際にこうして見てみると、色々な葛藤があるなかでのバランスなのだろうなと改めて思った。
「・・・ふむ、そうか。 わかった。 伝えておこう。」
なにやら門番の人が近くに来た人から耳打ちをされていた。 そしてその後にこちらに向き直り、
「飛空とやら、どうやら国王が準備が出来たそうなので、すぐに来てほしいとの事だ。」
王からの呼び出しがかかったようだ。 それならばとすぐに向かわせてくれるよう案内を頼んだ。 視界に写った、なにかを訴えるかのように俺を見ていたひとつの動物の視線を感じながらも。
「なるほど、それが我が国と同盟になるためにそちらが提示する条件か。」
そう言っているのは目の前の玉座に座る、くせっ毛のある黒髪で猫目の俺らと同じくらいの歳なんじゃないかと思う位若い風貌をしたアスメルダ・ケレット王子だった。 あれで歳は25なんだとか。
「はい。 この国を少し散策をしていたのですが、どこにも動物病院が見当たらなく、もしかしたらと思い、このような提案をいたしました。 不快な想いをさせてしまったら謝ります。」
王子に会うために王宮に向かう間に街並みを視ていたのだが、不思議な位に病院のような施設が無かったのだ。 これだけ動物愛のある国なのに自分の飼ってるペットに対しての体調の変化には鈍いのかなと思い、「テレポーター」の設備と共に動物医療の知識の提供を提示した。
「いや、お主の観察眼には恐れ入る所がある。 実のところを言えば、この国には動物を愛す者は多くても、自分達が飼っているペットはもちろん、街を闊歩している動物に危害を加えようと思うものはいないのだ。 例えそれが医療行為だと分かっていても。」
動物愛護もここまで来ると意味合いが変わってくるのか。 過保護って言い方は間違ってるかもしれないが、愛が強いゆえに壊したくないという気持ちなんだろうか。
「しかし、衰弱していくペットをただただ見ているだけというのも、辛いとは思うのですが。」
「ああ、我が国では飼育環境にあった動物は我々人間と同じように供養を行う。 その姿を見ると、そのペットがその家庭でどれだけの愛を注いでくれたのかが、手に取るように分かるのだ。」
生き物には寿命がある。 その寿命の間でどれだけの事をして来たのか、それが生きざまになる。
「病気や事故で亡くなったとしても、しっかりと供養をしてあげる。 それが我が国の方針でもあるからな。」
「少しでも長くいたいと想うのは人と同じだと思います。」
その言葉にアスメルダ王子は心苦しそうな表情をした。 動物は人よりも寿命が短い場合が多い、アスメルダ王子も何度か愛していた動物との別れをしてきたのだろう。 それは決して慣れることはない、いや、慣れてはいけない人としての性だから。
「では早速その「テレポーター」の設備を開始しよう。 どのようにすればいいか、なにか説明書のようなものはないか?」
そう言われて俺は手元の大臣直々の書類をファイルごと渡す。
「こちらに製作方法と使用方法が丸ごと載っております。 参考にするには十分かと。」
今回、と言うよりも今回以降に渡す資料は今までの経緯を統合して作られている。
例えば「テレポーター」の製作方法や、使用方法、注意点も全て載っている。 これひとつで一からでもテレポーターを製作可能にしている。 本当の意味での取り扱い説明書だ。 もちろん文字が共通している訳ではないが、そこは世界に振り撒かれた電脳の出番。 通訳は勝手にしてくれる。 こんな風にして電脳世界と現実世界の結合関係が作られていると考えると、なんだか複雑な気分だ。
「では技術者を呼んで、早急に造ろうと思う。 出来上がり次第、使いを送ろう。 それまではゆっくりと街を散策してくれ。 ここの動物たちはその姿を見て、歓迎しておるようだからな。」
そういって王子と別れたのはいいが、はてさてなにをしようやら。
「おや? そこの人、もしかして観光客の方ですか?」
そう声を掛けられて、その声の方を向くと、なにやら笛の様なものが陳列されていた。
「これ・・・もしかして動物用の?」
「動物用、ですか?」
「お兄さん目利きがいいねー! そう、これは動物にしか聞こえない音を発する笛なんだ。 もちろん動物用だから人間には聞こえないんだけどね。」
要は犬笛の類いなんだろうなというのはこの国の事から考えていたが、他の動物用はあまり見たことがないな。
「どうだい? ひとつ。」
「うーん、面白そうではありますが、またの機会にさせていただきます。」
「そうかい。 またよろしくね。」
そう言って笛屋さん? と別れ、別の場所を散策する。
「しかしなんというか、色んな動物があちこちいるけど、首輪とかしてないから、基本的には飼ってないのかな?」
「もしくは外から来た、という事も考えられるのではないのですか?」
なるほど、外から来たなら、飼う飼わない以前の問題だわな。
「こんだけ動物がいると、流石に騒がしいな。」
俺達は街をゆっくり散策して、色んな動物達が群がってきたり、飼い犬などに懐かれたりでなかなかゆったりと出来ないまま日が暮れ、今は王子が用意してくれた宿でやっとの思いと言わんばかりに体を休めている。
「でも無駄な殺生が無いことはいいことだと思いますよ?」
ピコピコ
夭沙はこの国の在り方を見ていたようだ。 確かにむやみやたらに殺生してないところは評価に値するかもしれない。
「後はここの国に誰を連れてこようかって話なんだよな。 いや前にあった動物介護学校の人でいいんだけどさ。」
「そうですよね。 ああ言ってしまった以上はこちらからの人材も確保しなければいけませんよね。」
ピコピコ
うずっ
「ま、まあこういう動物になれる擬似体験も出来るって考えたら、技術は進歩してると思うけどね。」
「そうですね。 ふふ、みんなだったらどんな風になるんだろうって想像しちゃいますね。」
フリフリ
うずうずっ
さっきから夭沙がなにかを言う度に狐耳や尻尾が動いているので気が散って仕方がない。 でもあれはバーチャルだから触れないだろうなぁ・・・ あ、でも自分のは触れたな。 もしかしたら他人の着けてるのでも触れるのかな?
「飛空さん? どうかされましたか?」
夭沙がこちらに向かって放ってくる愛くるしい表情を見て、俺の中のなにかが弾けた。
「夭沙、ごめん!」
「へっ? ひぁ!」
俺はまともに夭沙の返答を待たずに、目の前の尻尾に飛び付いた。
おお・・・フワフワの感触でありながら、毛並みはサラサラしてて、それでいて手に馴染むように尻尾が吸い付くようで・・・
まさに楽園とも言えるこの暖かさ・・・ 今までで味わったことのない幸せがここにある・・・ ああ、電脳世界のものとは思えない出来にも感動している。 幸せ・・・




