第204節 武器変更と立体駐車場、思う気持ち
「・・・あれ?」
「おや? これは私の武器では内容ですね?」
「どうなってるんだ? 誰も武器が交換されてないみたいだけど・・・?」
周りの3人もどうやら同じ現象が起こっているようだ。 いきなり武器がすり替わるなんて事が起こり得るのだろうか? いや、いくらバグ現象が起きてるとはいえ、ここまでのことは今まで無かった。 となると考えられるのはただ1つ。
「・・・これが向こうからの干渉か・・・」
どうやら間接的にこちらに干渉するタイプだったようだ。 しかしこのままでは埒が明かない。
「よし、こうなったら作戦は白紙にしよう。 改めて考え直す。 時間はないが、最初だけでも作り替える。」
「え? でも・・・」
「時間はまだある、ある程度なら出来るだろ。」
「なるほど。 では私から。 私は小木曽 幸弥 17才。 武器はダブルスタイルにグレネードボムが2丁、セミロングスタイルがバトルライフル、ロングスタイルがマグマポンプだ。 このマグマポンプは撃つと空中で液体のように噴出し、地面に撒くと、しばらくその一帯は溶岩地帯になる。 これを使い、相手の動きを制限しつつ、バトルライフルで狙っていくのがこの武装のスタイルだ。 基本的には直接狙うような事は出来ないので、援護を要請する事が多いが、そこの辺りもよろしく頼む。」
名前まではやらなくても良かったんだけど・・・まあいいか。 その方が意識が改まるし。
「次は僕がいきます! 佐原 正典 16才。 武器はダブルスタイルが右にビームマシンピストル、左に小型展開防御盾。 セミロングスタイルはビームマシンガン、ロングスタイルにビームガトリングガンが搭載されています。 ビーム兵装なので、撃ちながらのリロードが可能ですが、弾数は多くありません。 弾数管理は怠らないようにします。」
ここまでのビーム兵装はうちの中では初めてかもしれないな。
「じゃあ次は僕だね。 仲町 秋羅 ダブルスタイルはワイヤーガン、セミロングスタイルはショットガン、ロングスタイルは滑空砲だよ。 近距離と遠距離が極端だから場面場面で色々と迷惑かけるかもしれないけれど、その時はよろしくね?」
近距離迎撃と遠距離からのスナイプまがいの事をするのか。 管理が難しそうだし、何より距離感を間違えた時点で1発でアウトだ。 連携は必須だ。
「最後に俺だな。 津雲 飛空 ダブルスタイルは片手雷針が2丁、セミロングスタイルは対人バリスタ、ロングスタイルは長距離用雷針だ。 雷針はそのまま使うこともできるが、こいつの特徴はチャージにある。 3段階のチャージが出来て、チャージをするとなんと射程がぐんと伸びるんだ。 ただし、中にある弾数分使うから、チャージをしたものを撃った後は溜まるまでしばらくは使えない。 そのクールタイム中の立ち回りがこの武器の肝となる。 もちろん当たった敵はスタン状態に陥るから、追撃も可能だ。 もしかしたら追撃を頼むことになるかもしれないから、その時は誰か頼むぜ。」
さてと、一通り武装を確認し直したのはいいが、問題が2つある。
1つ目は自分たちも使った事の無いような武装が今回のバトルで使う事だ。 分かりにくいが、みんなの表情は険しくなっている。 見慣れない武器だということと同時にどう使えばいいのか分からないものもある。
そして2つ目は手に武器が馴染まないのだ。 自分の武器でないにしろ、多少は手にしっくりくるような作りをしているはずなのだが、重量、形、照準の合わせ方まで全くの別物なのだ。 そんな状況下でぶっつけ本番をさせられるのだ、険しくもなる。
しかしどうやって奴らと戦う? 相手は普通に自分たちにあった武器を使ってくる。 そうなってくると相手の一方的な試合にもなりかねないが、そんなことはさせたくはない。 ならばこの武器達で戦い、その中で馴染ませるしかない。 そんな簡単なことではないのは百も承知だ。 だが慣れるまでにも時間が・・・
「津雲先輩?」
佐原の声に我を取り戻す。 この試合は負けられないが、なによりも他のみんなにも注意を払わなければならないのだ。
「すまない、ちょっと作戦を考えていたんでな。 とりあえず最初は固まって動こう。 急な対応でも、少しは楽になるはずだ。」
「こんな卑怯な戦法を使ってくる相手には、それ相応の罰を与えよう。 ・・・時間のようだ。」
ブリーフィングルームから変わった景色は、港にあるような立体駐車場だった。 外の開放感とは裏腹に、上下の移動がかなり制限されるような造りのステージだ。 更にいえば柱はともかくとして、車という大きな遮蔽物も少ない。 多すぎても困るが。
「俺たちは2階、敵は6階か。」
合流するだけでも一苦労なこのステージ、敵を見つけるのも至難の業である。
「上からの攻撃が必ずしも優位じゃない! 外からの攻撃を警戒しつつ、上階へと向かう。 敵を見つけたらまずは牽制する。」
「「「了解!」」」
俺たち4人は車で登るための通路を歩き、ミニマップを見ながら、敵の出現位置を確認する。 1階分登った辺りで、上階から降りてくる影が見えた。 武器の射程距離に合わせて、みんなを柱や車の影に移動させる。 相手はこちらが来ているのを知ってか知らずが降りて、こちらに向かってくる。 俺は使い慣れもしない長距離用雷針をチャージした状態で、いつでも撃てるように準備する。 確実な射程距離まで近づいた。
「とりあえずまずは、」
「先制と行こうかね。」
歩いてくる敵に気を取られていたせいで、後ろからの反応に遅れた。 その人物は宙吊りになっていて、目の前でハンドガンを構えていて、まさに引き金を引くか引かないかのタイミングで、
「津雲先輩!」
佐原がビームガトリングガンをやたらめったらに撃つ。
「っ・・・」
その敵は雨あられに撃たれまいと距離を取り、柱の影に隠れる。 そして俺はその柱に向かって長距離用雷針を構え直す。 後ろから発砲音が聞こえるので向こうも銃撃戦が始まったようだ。
「そんな簡単に後ろを取られるようじゃぁ何も守れない・・・ やっぱり僕が1番鮎を守れる人なんだ・・・ 君じゃあ役不足なんだよ・・・ へへっ へへへっ。」
声と喋り方で妄想野郎なのは分かった。 しかし奴がどうやって現れたのかまではまだ分からない。 上から来たということは分かるが、爆発音はおろか、風切り音すら聞こえずに、どうやって背後に回り込んだのか。 自分の武器を知りつつ、敵を知る。 2つのことを一気にやらなきゃいけないのか。
「ふふっ・・・君じゃあ僕のこの武器は理解できないさ。 精々無様に散っていきな。」
なんだろうな。 1年の交流会の時に戦った菫に似ているような気がする。 あっちは傲慢さから来るものだったが、こっちはこっちで面倒な考え方があるんだろうな。
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「みんなにひとつ聞きたいんやけど。」
飛空が急に戦うことになって、観客席で見てて欲しいと言われて来たのだが、意味の無い試合をしないのが飛空だから何かと思ったら、最近私も含めてみんなに付きまとうように引っ付いていた人達が集まって戦いに望んでいたので、多分ふっかけたかふっかけられたかで試合に発展したのだろう。 そんな風に試合の様子を見ていたら輝己から声がかかった。
「あいつらってみんなの事を狙ってた奴らやん? 聞いても意味の無い事やのは知っとるが、あいつらのことどう思とる?」
どう、と聞かれても答えなんて決まってる。
「どうとも思ってないわ。 鬱陶しいって思ってるし、気持ちなんて変わらないわよ。」
「守って貰おうとは思ってないし、自分の事は自分で守るわ。 それに飛空君は守ってるなんて感じてない。 ただ当たり前のようにやってるだけよ。」
「ああいう人は何を考えているか分かりません。 それなら飛空さんのように正直な人の方が私は好きです。」
「暗いのは好きじゃないのよねぇ。 こっちまで暗くなっちゃう。」
私も含めて文香、夭沙、鮎はそれぞれの思いを輝己にぶつけた。 輝己も「やろなぁ。」と納得している。
相手の想いは私たちには届かない。 それを飛空は分かっていても、彼らにケジメを付けるために奮闘するだろう。 だからこそ私も妹の白羽も飛空が好きになったのだ。 その想いは例えどんな手で相手が勝っても決して揺るがない。
どんな時でも飛空の味方でいる。 そう彼を想った時に決めた事だから。
今回の武器の急な変更はかなり前の段階で書こうと思っていたネタなのですが、機会を諸々逃していたのでこういった形で書くことにしました。
なんとなく分かってる人もいると思いますが、最後は紅梨の視点です。




