第201節 目の当たりと観察、作戦会議
俺が帰ってきた夕方の食堂。 春元が言っていたことを直ぐに目の当たりにすることとなった。
まずはじめに驚いたのは海呂達が周りにいない事であった。 確かに常に見れる状況ではないのは百も承知だったし、なによりも集まる理由も少ない事もあってか、時間帯がてんでバラバラだった。
俺は敢えてみんなと会う前に夭沙と夕飯を取り、みんなの様子を食堂の奥の奥で確認していたが、
「桃野さん。 僕達は今回、爆弾の着弾における爆風の強化について議題にしていこうと思っているのですが、もし良かったら参加してくれませんか?」
「ああ、白羽さん。 もしあなたが宜しければ、一度医療法について語り合いたいのです。 今度一緒にお茶でもいかがでしょう?」
「鮎先輩! もっと鮎先輩みたいに、武器を自由に振り回せるように訓練がしたいです! ご指導お願い出来ますか?」
「エレアちゃん。 今度一緒に買い物しに行かない? ほら、最近出来たあそことかさ。」
「長楽さんはもっと明るくてもいいと思うんだ。 でも僕は今の君も好きだけどね。」
それぞれのみんなに三者三様の男子達が寄ってたかって話をしている。 話を聞く限りでは男女間での会話にも聞こえるが、他のみんなの表情を見ているとそうとも言えないような感じだ。 困っているというか断っても再度試しに来ているとかで、多分面倒くさいと感じ始めているのだろう。
「というかなんであんなに他の奴らは必死なんだ? 他にも相手はいると思うんだけど。」
「そこまでは流石に分かりかねますが、海呂さん達がいないタイミングをよくご存知らしいようで、必ずいない時に色々と言ってくるのです。」
一緒に人間観察をしていた夭沙が説明してくれた。 何それ。 そんなに必死になってんの? しかもどうも人気があるのは後輩だけでなく、同級生にも最近人気になってきているようなのだ。 去年までそんな所見向きもしてなかったのになんで急にそんなふうになるかね?
ある程度人が食堂からはけた所で最後に残っていた桃野姉妹に声をかける。
「紅梨、白羽。」
「なによ、話なら聞かない・・・飛空!? 戻ってきてたの!?」
紅梨がうんざりした様子で顔を上げて、俺を見るなり驚いていた。 なんだろう。 今までのそれがあるせいなのか、紅梨自身も驚きっぱなしの顔になってる。
「おかえりなさい、です。 飛空さん。 ほら、紅梨ちゃんも。」
「わ、分かってるわよ。 おかえり、飛空。」
逆に白羽は落ち着いた様子だった。 いや、正確には紅梨が先に取り乱したおかげて直ぐに対応出来たとも取れるが。
「ただいま。 とりあえず暫くはここにいるつもりだけど・・・一応夭沙から事情は聞いてるけどあれはなんだ?」
そう聞くやいなや、紅梨がため息混じりに説明し始めた。
「あんたが定期的にここにいない時に、声をかけられるようになったのよ。 最初のうちは後輩の子達が来るんだけど、そのうちに同級生の奴らまで声をかけるようになってきてね。 しかも面倒な事に、どうも私達に彼氏がいないと思ってる様なのよ。 嫌になっちゃう。」
「最近は、その頻度と、人数も、増えてきて、なんというか、ほかの方に、失礼というか、申し訳ないと言うか。」
俺のいない所で彼女達も戦っていたということか。 そりゃ辛いだろうなぁ。
「まあでも、飛空が帰ってきたならそれも解決出来るかも。 もうここまで来たら見せつけてやるくらいの勢いで行ってやるわ!」
紅梨がそのまま立ち上がると、俺の胸に飛び込んできた。 そう言えばこうして紅梨が飛び込んできたのって最初の試合以来になるのか? まああの時もボウガンが思いっきり刺さってる状態で飛んできたんだけどな。
でも今の俺は電波状態で・・・まあいいか。 こういうのも悪くは無いし、なにより彼女たちを好きな事には一切変わらないんだ。 そう思いながら、紅梨をそっと抱き締める。
「ちょっ! 飛空・・・」
「あ、すまん。 苦しかったか?」
「そ、そうじゃないけど・・・出来れば、もっと強く抱き締めて・・・」
紅梨らしくない小声だったが、その声に答えるべく、しっかりと抱き寄せる。
「ひ、飛空さん・・・その・・・後で、私にも・・・」
頬を赤く染めながらも白羽がそう言ってくる。 分かってますよ。 隣にいる夭沙もニコリと笑っていた。 やってあげてって事ね。
まあやるに越したことはないし、今の状態ならむしろやった方がいいな。
紅梨を優しく離してその後、白羽に向かって手を広げる。
「おいで、白羽。」
「あ、は、はい。 行かせて、もらいます・・・」
恥ずかしそうに白羽はゆっくりと俺の胸に入ってくる。 紅梨もそうだが、大きすぎず、小さすぎないその体を、そっと抱き締め、その温もりを共有する。 考えてみると今までこんな風にやった事ってあまり無かったなと思える程だ。
そう感じているとどこからか、殺気混じりの視線を感じた。 そっと前方の方を見ると、先程食堂の入口に、出たはずの男子の何人かがこちらを見ていた。 どうやら一度帰る前に待っていたようだ。
「白羽ごめん。 一度離すよ?」
「え? あ、はい。 いいです、けど・・・?」
小声で白羽にそう伝えて、俺は入口に向かって睨みつける。 するとそこにいた男子は「うっ」と後ずさりした後にそのまま食堂から離れていった。
「・・・行ったかな?」
「あの、飛空、さん?」
「・・・なるほどね。 まだ私たちの事を見てたのが居たって事ね。」
どうやら声をかけるだけならまだしも、ストーカー行為にまで陥っていたようだ。
「こりゃ本格的にどうにかしないといけないな。 多分あの手の輩は仮に彼氏がいたとしても諦めないだろうしな。」
「そうですね。 しかしここだと作戦会議もままなりません。 ここは一度プライベートルームの方でどうでしょうか?」
「それはいいけれど、今って使えるのか?」
ある時期からかなり使用制限をかけられていたはずなのだが。 どうなんだ?
「ポイズンノイズは対応出来るようになっているので、簡単な敵なら倒せるようになってます。 なのでプライベートルームは普通に使用が出来ます。」
なら大丈夫か。 少しばかり状況を確認した上でやっぱりどうにかしないとな。 俺はまだ何回か飛ばなきゃいけなくなるし、それを皮切りに色んなやつに声をかけられるのもなんだか見てられないからな。
「この話を少しあいつらにも話をきておかないといけないしな。」
海呂や輝己達も俺がいない間に悟られないようにやってくれてると思う。 そこで勘違いされてるのもちょっと微妙だけれど。
「ああ、僕らがいない時にそんな事になってたことはあったね。 でもお手洗いにいってる数分の間だよ?」
風呂上がりに久しぶりに海呂達と話して、その後にプライベートルームで集まる事にした。
ちなみに今いるのはイバラ、瑛奈を抜いた彼女6人に、この状況を知っている、海呂、輝己、啓人、雪定そして文化祭の時に教えた仲町の大所帯である。
「君が彼氏だと知らないとはいえ、やっぱり過剰過ぎる時もあるんだよね。 授業の時とかは特にね。」
「それによく分からない理由でも話しかけてくる人とかもいるのよね。」
「どんだけこっちが一緒にいても、それの合間を縫って話しかけてるようやで?」
みんなの報告を聞いている限りではまだ話しかけてる程度で留まっているかと思いきや、デートのお誘いをした奴もいるようだった。 丁重にお断りしたらしいが。
「ここ急激にそう声をかけられるようになったわよね。 しかも同級生の人がやたらと多かったのよね。」
紅梨が疑問のように答える。 急激に、っていうのが分からないんだよな。 迷惑はかけてないようだがそれも時間の問題のように感じる。
「とりあえずは俺が帰ってきたから、諦める人間は多いんじゃないか?」
「そうですね。 先程のような方々なら簡単に諦めてくれるでしょう。」
「問題は諦めきれない人だよね。」
そう、執着心の強い人間は、たかが彼氏がいる程度では諦めない。 その人たちをどうするかが、俺たちの課題になるだろう。
「まあ、まずはやるだけやってみるのが一番だな。」
「そうだの。 でもこれで飛空にいっぱい甘える事も出来るということでもあるの! 飛空、頭を撫でて欲しいのじゃ!」
そう言ってエレアは俺に飛びついてくる。 その行動を止める理由もないのでそのまま頭を撫でてやる。
「まあ、今はエレアに渡しましょ。」
「そうです、ね。 明日からも、飛空さんは、いるようです、し。」
そんな事を聞きながら、こっちでも大変だなと改めて感じるのであった。




