第196節 紐付きカバンと娘、クレーター
検問所に戻って説明したところあっさりと了承が得られたので、早速持っていく事にした。 持って行くカバン自体にも制約があり、まずチャックが使えないため両端から引っ張って口を縛るタイプのカバンを使用し、それでもなお飛び出る恐れがあるため、上からプラスチックの様なものでコーティングをしてから外に持ち運ぶ事となった。
「カバンがリュックが紐式なのは分かるんですけど、ここまでコーティングしますか?」
「ここまでしなければいけない理由はすぐに分かります。」
そう言われて検問所から出る。 するとちょっと歩いた所で持っていたカバンがクッと右方向へと動いたが、すぐに元に戻った。 どうやら磁場的には右方向に向いているようだ。
「確かに磁場の影響が強すぎるのはいただけないのかもな。」
「不安定と・・・言っても・・・機械を・・・持ち運ぶ時だけ・・・なんですね。」
俺がカバンの中に入れているのは電子端末が6つ、これを持ち運ぼうと思っただけでもこれだ。 重力変動地と言われても不思議ではない。 服についてる装飾品の金属で引っ張られてしまったら、磁場の影響がない所まで、どこまでも行ってしまう訳だ。 考えただけでも恐ろしい現象だな。
そんな訳で何回かカバンが別方向に引っ張られながらも、メルシア王妃のいるレンガ造りの家に戻ってこれた。 ドアをノックして改めて入れさせて貰うとそこには椅子に座ったメルシア王妃と、シャツが大きくないのか、くびれがすごく綺麗なお腹を出し、ショートスカートにニーソックスという、めちゃくちゃ現代的な格好をしたレラが立っていた。 前の世界で絶滅したんじゃないかと思うくらいの格好だった。
「レラ。 改めて挨拶をしなさい。」
「はーい。 レラ・ステフト。 一応この地の次期統率者になるんだけど、実感が湧かないわ。」
そう言って肩を竦めるレラ。 そりゃこんなおてんば娘が統率者としてやっていけるのか正直不安でしかない。
「レラ。 これからあなたがこの人達を案内するというのに、その格好は似つかわしくないわよ?」
「えー? 私と同じくらいの歳なんだからいいじゃない。 作業服で案内とか、ツアーコンダクターじゃないのよ? 私。」
事情が複雑なのか自分勝手なのか。 王妃の言葉に耳を傾けない次期王妃。 どう発展していくのか、彼女の命運にかかってると考えると、どうなのだろうなと、やはり考えてしまう。
「まあいいわ。 最初だしあの場所からかしら? 着いてきて、連れて行ってあげる。」
「ありがとうレラ。 俺は津雲 飛空、どっちで呼んでくれても構わない。」
「わ、私は・・・青坂 瑛奈・・・です。 よろしく・・・お願いします・・・レラさん。」
「そっちが名前で呼んでるなら私も名前で呼ばせてもらうわ。 さあ、行きましょ。」
そう言ってそそくさと家を出ていくレラ。 一体なにを見せに行かされるのだろうか?
「あの子、迷惑かけるとも思うけれど、多めに見てあげて下さいね。」
去り際にメルシア王妃にそう注意喚起されて、家を出ていく。
「ここに来るまでに分かっているとは思うけれどこの地は金属類を持ち歩こうと思っても磁場のせいでまともに歩くことすら出来ないの。 そしてそれのせいでこの地は他よりも劣ってる。 私はそう思うわ。」
レラがズカズカと歩きながらこの地についての感想を言う。
「なんだかんだみんな不自由なく住めてると感じるが?」
「だからこそとも言えるわ。 我々では自然には勝てない。 この地は城跡や天井が存在してるけど、自然はそんなものを関係なしに襲ってくる。 その時の対処方法がこの地にはないの。」
かなり大雑把な性格かと思ったが、この地のことを彼女なりに考えていたようだ。
「・・・この地以外の・・・国を・・・見たいと・・・思わないの・・・でしょうか?」
「私は平和ボケしてるだけだと思ってる。 少なくとも隣のアスベルガルドには行ってるわけだしね。」
「今回の同盟についてはどう考えてるんだ?」
「またとないチャンスだと思ってる。 異文化を知らなければ進展しないわ、この地は。」
異文化を知ることに躊躇いはない、か。 メルシア王妃も同じ考えなのだろうか? 娘は活発だが、あの王妃様はあまり乗り気じゃないのかもしれない。 改めて話を持ちかけてみてもいいかもしれない。
「ん。 この辺りからだったっけ?」
メルシア王妃との話し合いの事を考えているとレラが呟いた。 何がだろうと思った瞬間、
「うわっ! ちょっ!」
思わず反射的に目を逸らす。 だって目の前で女子のショートスカートの裾が風もないのに上に舞い上がったんだもん! 唐突だったのと見てはいけないという罪の意識ですぐに反応は出来たが、チラチラ見ても直ってる気配もなければ、さも当然かのようにレラは動じずに仁王立ちしている。
「うーん、この数と量でもダメなのか・・・ いっその事素材自体変えるしかないのかしら?」
それどころか平然としていた。 どういう感覚で今の状況を確認しているのだろうか?
「レ、レラさん! スカートが! は、早く直してください!」
いつになく声を荒らげた瑛奈。 そりゃそうだ。 目の前で起こっているのはある意味羞恥を晒している事なのだ。
「なによ? 確認がてら自分の好きな服着てるのよ。 だから直す理由もないわ。 それに私の下着を見ても別になんとも思わないでしょ? 実際に1回見てるんだし。」
それに対してレラは至って冷静に喋っている。 なんだろうか、男らしさと言えばいいのか、それとも恥ずかしいと感じないのか、とにかく辞める気は毛頭ないらしい。
しかし俺としては目のやり場に困る。 スカートの裾は上がりきってるし、シャツも裾から上に上がろうとしているが、胸に邪魔されてる為上がらない。
しかしそれがむしろ胸を押し上げる形になっており、胸の大きさと形を強調してしまっている。 それもそれで目のやり場が無い。
「こんな所で立ち止まってる場合じゃないわ。 行くわよ。」
そう言ってレラは何事も無かったかのように歩いていく。 え? まじでその格好のままで行くの? 誰かに見られたら面倒じゃないか?
「なにキョロキョロしてるのよ。 大丈夫よ、この辺りは町から少し離れてるし、私くらいの男共は私のこの姿見ても興味を示さないわ。」
非日常が日常になってしまえばそんなものは些細な問題。 行ってしまえばそうかもしれないが、俺や瑛奈からしてみたらそれは「非日常」であり、俺たちの感覚では有り得ない事だ。
しかしレラは気にすること無く歩いていく。 「郷に入っては郷に従え」って言葉もあるし、これはこっちが慣れるしかないのか?
「ジロジロ・・・見るのは・・・ダメ・・・ですからね?」
瑛奈から涙目で訴えられた。 うん。 あれは「非日常」の範疇に納めなきゃいかんな。
メルシア王妃宅から出て30分位経った頃だろうか? レラからもう少しで「見せたいもの」があると言う場所に着くと言われた。 周りを見ると、この辺りだけ土地開拓に失敗したかのように、草木も生えない枯れ果てた風景になっていた。 先程までの田園風景とは打って変わってるようにも見える。
「どうしてこの辺りはこんなに枯れてるんだ?」
「それはここで人間が住むことが困難だとみんなが判断したからよ。 それにあなた達にも感じている筈よ。 この気分が悪くなるような空気の流れを。」
確かにこの辺りに来てから、頭痛を感じるようになった。 さっきまで普通だったのに、だ。 瑛奈も気分がよろしくないようだ。
「それもこれも、元々はあれのせいなんだけどね。 着いたわよ。 これがあんた達に見せたかったものよ。」
そう言ってレラが立っている場所に行くと、そこにはこの場所に合わないほどの大きな穴、クレーターが出来ていて、その中心になにか、黒くて丸い物体が鎮座していた。 肉眼で見えるということは大きさもかなりのものだろう。
「あれのせいでこの辺りは金属類を使えなくなったのよ。」




