第195節 革製とレンガ造り、下着姿
「勘違いしないで下さい。」
そう言って検問の女性は俺のベルト。 正確にはベルトのバックルを指さした。
「我々の国は金属類を持ち運べない。 それは衣服にも関係しているのです。 安心して下さい、代わりのものは既に用意してあります。」
そう言われて納得する。 なるほどね、これくらいでもダメなのか。 念を押されては仕方が無いので、ベルトを外す。 俺ズボンのサイズ、どのくらいにしてたっけ?
「ではこちらを。」
渡されたのは革製のベルトだった。 バックル部分には金属装飾が施されていたが、俺がしていたものよりも小さめに作られていた。 質や量で使える金属が変わるのかな?
そんな訳で慣れない革製品のベルトを装着していざ出陣しようと思い瑛奈の方を振り返るとなんだか簡素な服を身につけて、先程まで履いていたはずのスカートも今はショートパンツスタイルになっていた。 なんというか身ぐるみ剥がされてる感じがしてしょうがなく感じた。
「私の・・・着ていた服・・・だと・・・どうしても・・・影響を受けて・・・しまうと・・・言われて・・・しまったので。」
「うん? そんなに大きな金属装飾なんてしてたっけ?」
「全部そんなに・・・大きくは・・・ないんですけど・・・その・・・数が多いと・・・言われて・・・。」
そう言うと瑛奈は縮こまってしまった。 別に瑛奈が悪い訳じゃないって。 となるとやっぱり質量に依存する所がありそうだな。
「お待たせしました。 それでは「重力変動地 グラジオス」へとお入りください。」
なんだかアトラクションに乗る前のアナウンスのように流されてしまった。 まあ入れたのなら文句はないが。
「それとこちらを所持して下さい。」
そう言われ渡されたのは透明の薄いガラスケースに、これまた薄い鉄だろうか? そんなようなものが入った容器だった。
「これにより、磁場がどの方向に向いているかがハッキリと分かるようになっています。 もしこの国での金属類を使用したものを欲するのならば、この鉄が下にある所でないと讓渡できません。」
この国で金属類が持ち運べないと聞いていたが、どうやら完全に金属類を使えないのでは無く、場所が限られているだけの話だったようだ。 必ずしも金属類を使えないんじゃ、機械が無いのと同じだ。 金属探知機があったので、そういう訳じゃないというのは分かったけどな。
木製の門をくぐり抜けると、そこはどこか懐かしさすら感じる田園風景が広がっていた。
「重力変動地 グラジオス 磁場がかなり不安定ですから、近未来的なものはほとんどありませんが、それでも人々は生きていけます。 機械に頼ること無く、知恵を出し合い、人々がみな支え合っているからこそ、この国は機械がなくとも成り立っているのです。」
その言葉を聞いて思い出すのは、前の世界で俺が生きていた時代よりも昔の時代。
人々は機械なんかに頼らなくても生きていた時代。 便利と不便は表裏一体。 使い方次第では薬にも毒にもなる。 時代は俺にもどのような時代だったのかは分からない。 だけど今のこのグラジオスの町 (村か?)を見て、機械があるかないかなど、ほんの些細なきっかけだと感じる。
「本日はこの地を治める者、メルシア王妃との対談をご所望だと伺っております。 話は通されておりますので、ご案内致します。」
そう言って検問の人と共にグラジオスの町を歩き出す。
この地の事を知る為にあちこちを見ているが、田んぼが存在し、耕している人がいて、作物と畜産物を物々交換している。 その光景が目に見えるとなんというか、この地だけ隔離されているような錯覚にも陥る。 いや城壁やら天井やらがあるから余計にそう感じるのかも。 天候だって上を見て分かった事だが、空が見えるのかと思いきや、空とここまでの間に耐衝撃パネルが見えた。 あれなら空からの日光を受けれるし、雨は入ってこない。 雨の日とかどうしてるんだろ?
「ここまでくると、コロニーみたいでなんか住み心地がなぁ・・・」
悪くは無いんだろうけど、良くもないって雰囲気だな。
「着きましたよ。 メルシア王妃の住むお家になります。」
上を見上げていた俺は、その目線を目の前にすると、何の変哲もない、周りに見える家より少し大きい位の家が存在していた。 レンガの玄関にレンガの壁、屋根までもレンガ造りで、どこかの国の家かと思うくらいのものだった。
「・・・えっと・・・?」
「ああ、聞き間違いではありませんよ? メルシア王妃はここに住まわれています。」
「でも・・・メルシア王妃・・・って・・・。」
「誰も「国の王妃」とは言ってはおりませんので。」
屁理屈かよとも思ったが、よくよく考えるとここは重力変動地。 国なんて一言も言ってもないし、書いてあった訳でも無い。 今まで感じたことは無かったが旗も無いもんな。 他の国もそうだったけど。
そんな風に思いながら、レンガ造りの家に入り、ドアに備え付けてあるベルを鳴らした。
「メルシア王妃、曜務からの使者を連れてまいりました。」
そう申した数秒後ドアが開かれ、中から淡い緑色で長髪の女性が現れた。 目元がつり上がっているので高圧的ではあるが、どちらかと言えばオカン的な高圧さだと感じた。
「連れてきてくれてありがとう。 あなたが津雲君ね。 思っていたよりもずっと若いじゃない。」
女性にしては声が低かったが、何故だか落ち着くような声だった。
「ここで立っているのもなんだからほら、入った入った。 あなた達は引き続き検問をお願いするわ。」
そう言って検問の人達を下げて、俺と瑛奈を家の中へと案内する。 入ってすぐに見えたのは薪を入れるスタイルの暖炉だった。 上に穴が伸びているため煙突が上にあるのだろう。 完全に北国スタイルだ。
そして俺達はメルシア王妃に誘われて、用意されている椅子に座る。 椅子用マットもあり、かなり座り心地がいい。
「改めて自己紹介するわね。 私はメルシア・ステフト。 この地を統括する者、と言えば分かってもらえるかしら?」
「国として成り立たせてはいかないのですか?」
「ここは国として成り立たせるよりも、こうして縛られることなく、伸び伸びとしていた方がいいと私が感じたのです。」
「同盟として・・・組むのは・・・難しい・・・ですか?」
「そんな事はないわ。 同盟国では無いけれど、あなた達の国と協力関係は築けるわ。」
そちらさんがそれでいいのだが・・・
「それではこちらの・・・」
そう言って例の電子端末を渡そうと思ったのだが、よくよく考えてみたら検問の時点で取られているのを思い出して、渡そうと思っても渡せないじゃんと勝手に自虐した。
「どうかなされまして?」
「いえ、本当は持ってきた荷物の中に同盟関係が結べた証を渡そうかと思っていたのですが、それが機械的なものゆえ、最初から検問所に置いてきたんですよね。」
「そうだったのですか。 では検問所に戻ってそれをお取りになってきて下さいな。 大丈夫。 持ってきたものが機械的なものでも入れ物が金属類でなければ持ち運びは出来ますので。」
あ、そうなんだ。 あくまでも運搬が困難なだけで、できない訳では無いのな。
「なら、回収してきますよ。 ここまで来てお使いも出来ないのは悲しいですからね。」
「えぇ、それではよろしく・・・」
「ねぇお母さん。 あたしの服って洗濯に出しちゃった?」
そんな声が天井から聞こえてきたと思いきや、近くにあった階段から1人の女子、歳は俺らと同じくらいで母であるメルシア王妃と同じ緑色の髪をしていて、セミロングでストレート髪で目を引いたが、それよりも目を引いたのがその格好。 スレンダーでありながら出るところは出ているが、それも容姿のバランスを崩さない程度である彼女が身にまとっているのはなんと上下共に下着のみ。 髪と同じ緑色の星柄のブラとパンツが、なお隠しきれていない彼女の身体に装着されていた。
「はしたないですよレラ。 もうお昼ですし、お客様も来ているのよ。」
「別に休日だからいいじゃない。 この国でやることなんて農作業だけでしょ? あ、ほんとにお客さんだ。 珍しい事もあるもんだね。」
「レラ、お客様がいるから、とりあえず着替えてきなさい。 みっともないし、目のやり場に困っているではないですか。」
「はーい。 私の裸見て照れてるなんて、初心なお客。」
そう言ってレラと呼ばれた少女は階段を上がっていった。
「・・・やっぱり・・・大きい方が・・・いいん・・・ですか?」
そんな様子を見ていた瑛奈が涙目で俺に訴えかけてきた。
その言葉と表情に俺は首を横に振ることしか出来なかった。




